異世界から来た青年の元にどうやら僕っ娘がくるようです。2
〈あぁー、あちぃ真夏かよってレベルだわ。でも光合成には最適だね。うん。〉
「そりゃそうだよ。だって木なんだから」
〈・・・・。今現実を突きつけられた気がするよ。ちょっと忘れかけてたのに。〉
もと人間(童貞)、今は木(広葉樹)な俺です。名前?あれは名前じゃねぇよ。ティルさんのティルさんによるティルさんのための俺への嫌みだよ。
ってか、おい、今まで敢えてツッコまなかったが、カッコの中見えってっからな。丸見えだからな。
…。悪いかよ、やってなくて…。
いいし、俺異世界これたし、魔法使えると信じてるし、ハーレム創ってやるし。
…。おい、1ついいか?
毎回毎回俺が開き直ろうとしてる台詞とか、カッコイイ台詞とか、兎に角、俺の台詞の中に勝手にカッコつけんなよ。
それだけでだいぶ俺、カッコ悪くなってんだよ、だいぶガラスのハートが割られてんだよ、()だけにカッコ悪いってか?フハハハハハハッ・・・・・・・って笑えねぇよ。
「何一人でそんなこと思っちゃってんの?プッ、はっ、ずっかし〜(笑笑)」
〈何人の心ん中覗いてるんだよ。止めろよ、俺、一応だけど男子なんだよ。健全なんだよ。あんなことやそんなこと、考えてんだよ?(そして、何故笑、2つつけた?)〉
「どうしよう、木がしゃべってる?!(だって…プッ)」
〈オイコラ、なに言ってんだよ。今の今までの俺の心ん中覗いてた奴がいきなり何手のひら返してんだよ(何吹いてんだよ)〉
「おかーさーん、木が、木がしゃべってるよ〜(だって、健全とか、マジあり得ない。ただの変態な『木』じゃん)」
何故かはわからないがカッコの中でも外でも会話をしている。
「もうそろそろ止めようか。れ・・・れべ・・・れ・・・れ・れ____」
〈早く俺の名前言えよ!〉
「あれ?私のつけたあの名前は、名前じゃないんでしょ?呼べるわけないじゃん」
〈・・・。負けました〉
というか名前のこと根に持ってたんだ。
「持ってないし」
〈だから勝手に心ん中読むなよ。〉
ティルはそっぽを向き、レベスは…風が吹き、葉がゆらゆらと揺れるだけであった。
因みに、レベスとは決してカッコイイ名前などではない。ただの経験不足の変態だから、と言う意味だ。もう一度言っておこう。レベスとは_____
〈オイィィィィ!何勝手に言ってんだよ!!確かに、ありのままの意味はそうらしいけどさ、言わなきゃ「あぁ、地味にカッコイイかもしれないわ、この名前」なんだよ!!〉
ヒューと冷たい風が吹き、夏という季節には似合わない枯れ葉がその風に乗せられやって来た。
「あぁ、寒っ。少しどころじゃないくらい寒いわ。」
「もう少しオブラートにしていただきたいんデスが・・・」
ティルの言葉を聞いて自分の言ってきた言葉に恥ずかしくなったのか、木の周りからほのかに蒸気が出る。
「さてと、じゃあ本題にはいるね」
〈今までのは何だったの?!〉
この会話のやり取りはティル曰く「ただの前置きだよ。あれが本題とか、笑えるよ」だそうで、ティルは本題だと思っていたレベスに対してプッ、と笑い、馬鹿にしていた。
「ってことで、今からレベスの事とか、この世界の事とか、まぁ、色々話すよ」
〈お…おう〉
ティルが右手の人差し指をたてて【画面カモ〜ン】と言うと、電子画面がレベスの前に現れた。
「じゃあ、まずはこの世界について話しまーす!」
ティルがそう言うと、レベスの前に現れていた電子画面に『ティルちゃんの異世界一簡単な異世界講座』というものが映り、音楽が鳴り出した。タイトルの可愛さからはかけ離れた大人の、それも落ち着いた雰囲気のジャズだ。
「まず、今いる人界には5つの大陸がありまーす!1番大きな大陸を中心として、東西南北に他の4つの大陸があるって感じ。ここまでオーケー?」
ティルは首をかしげレベスに聞いた。
〈あぁ〉
「じゃあ、次いきまーす!さっき言ったように人界は全部合わせて5つ大陸があるけど、それはあくまでも人界の話だからね!ではレベス君、気付いたことを言いたまえ」
ティルは、レベスに近づくと、何処かの偉い教授のように言った。
何処からか、いつ出したかわからない黒いチョビヒゲを付け、白衣を纏っていた。
〈え〜と、つまり、俺のいる世界はあくまでも人界であって、それは、幾つかの世界のうちの1つ、ってことだろ?〉
「大体そんな感じ。レベスの癖にやるね」
ティルの言葉の後、レベスは「俺の癖にって何だよ!」と言っていたが、ティルはその言葉を無視し、次の画面に切り換えると「じゃあ、次はレベスについてね」と説明を続けた。
「とりあえず、結論から言いますと・・・・。」
ティルの口調と、声の高さが変わり、レベスは唾をゴクリと飲んだ。
「レベスは人型になれまーす!」
先程までの雰囲気が嘘のようにティルは軽いノリで話始めた。
画面には『おめでとースケベ君』と書いてあり、クラッカーがパンパンッと鳴っている。
〈人型になれることはとても嬉しいよ。お花、摘みに行けるから。でもさ、名前、よく見てよ。俺の名前決めたのってティルさんですよね?何でレベス、じゃなくて『スケベ』なのォォォ!!〉
「あっ、ごめ〜ん。レベスとスケベって似てたからさ、間違えちゃった!」
明らかに意味有りげな間違いをしたティルに対し、レベスは黙ることしかできなかった。
そよそよと心地よい風が吹く。このまま寝てしまいたい。レベスはそんな欲望にかられ、体もまた、動かない。
「じゃ、続きを話そうではないか!」
ティルの切り替えの早さが、何処かへ意識を置いてきたレベスを戻す。
「で、レベスは人型になれることはなれるけど、時間は限られているよ」
〈何時間位なんだ?〉
レベスの質問にティルは「は?」と間抜けた声を出す。
「何時間も何も、今のレベスなら人型になれる時間なんて何十秒かあれば良い方じゃない?」
レベスは何秒か固まる。そして、再び動き出した時の1言目は「は?」とティルと同じような顔をして言った。
続けてティルが何故か「ひ」と言い、それにノッたのか、レベスは「ふ」と、そしてまたティルが「へ」と言い、最後にレベスが「ほ」と言った後、2人はハイタッチしていた。
「何してんの?」
ティルはその行動に呆れて言った。勿論、レベスの、だが。
〈いや、先にノッてきたのってティルの方じゃ___〉
「うるさいって」
・・・。レベスの言葉はきっと、ティルに遮られる為にあるのだろう、と思ってしまうほど遮られている。そのためか、序盤でガラスのハートだ何だと言っていたレベスもそれに慣れ、今ではダイヤモンドくらいの硬さになっているだろう。まぁ、ダイヤモンドトンカチで叩けば割れてしまうのだが・・・・。
ゴホン、とティルがわざと咳き込み、話を戻す。
〈・・・・。で、俺は何十秒かしか人間になれないと?〉
「もち!」
ティルは右手の親指をたて、いつものグ〜のポーズをした。
〈因みに何十秒位?〉
「うーん、1回試してみればいいんじゃない?」
〈何て唱えるんだ?〉
「え〜とね・・・。【我此処に在り。未知の世界の狭間より、第1皇帝に呼ばれし者。『レベス』、その名のもとに我を我とし、世界の順応との切断を求めん】かな」
レベスは思った。
なげぇ、と。
〈何でそんなに長いんだよ。お前は何か【大きくなぁれ】とか【画面カモーン】とかふざけたような詠唱?だったじゃねーか!〉
「だって私だし・・・・。それに、こういう類のものはきちんと詠唱しなきゃ、ヤバいことになりかねないし。あと、めんどくさかった。創るの。」
皆さんお忘れのようだが、ティルは部族長であり、七代妖精総督謙全妖精抑制委員会。しかも、第1皇帝・・・・つまり、妖精の中でも1番位が高いと言ってもいい。
〈取り敢えずやってみるか〉
レベスはティルの言った通りの詠唱を、一言一句間違えずに唱えた。
すると、レベスは光に包まれ、その光が消えたときレベスの姿は木ではなく、人型を保っていた。
「すげー!俺今人だ!久しぶりッ、俺!!」
黒髪にジーパンとTシャツを着た青年__レベスが姿を現した。レベスは手をグーパーさせてみたり、その場で足踏みをしたりと楽しんでいた。
「なっ!?」
しかし、49秒後、レベスの身体から碧色のような気体が吹き出し、レベスは再び木になった。
「49秒もなれたんだ。おめでとー、凄いよ!」
ティルは嫌みまじりに棒読みで言ってくる。さらに、数字が何とも微妙だ。
〈何だよ、さっきの・・・。〉
「レベスはさ、詠唱、覚えてる?」
〈え〜と・・・・【我此処に在り。未知の世界の狭間より、第1皇帝に呼ばれし者。『レベス』、その名のもとに我を我とし、世界の順応との切断を求めん】だろ?〉
「そのとーり!ではそんなレベスに問題でーーーーーす!」
『です』伸ばしすぎたろ!!!
やたらと伸ばすティルには気がついていたレベスだが、言ってしまったらまた話が脱線するだろうと考え、そのツッコミは心の中に留めておいていた。
「ズバリ、その詠唱は、何をするためのものでしょう?」
〈?そんなの、俺が人間になるためのものだろう?〉
「ブッブー、残念」
ティルは手をクロスし、バツの形にした。
「正解はね、レベスが人間になるための詠唱じゃなくて、ティルを人間に戻す為の詠唱だよ。」
〈何が違うんだよ〉
ティルはレベスの質問に対してため息をついた。
「詠唱では何を求めるって言ったの?」
〈世界の順応との切断・・・あっ!〉
そう、ティルに教えてもらい、レベスが唱えた詠唱は『世界の順応との切断』。つまり、レベスをこの世界の住人としてではなく、元の世界の住人として扱うようにする詠唱なのだ。
〈だけど、何で俺の戸籍変わっただけで人間になれなくなるんだ?〉
「この世界はチョーッと変わっててね「わー!私、いつの間にか異世界に来ちゃった☆」っていうのを無くしたかったんだ。だって何かウザくない?」
確かに星マークが付いている辺りは少しムカッとするが、さらにそれをムカッとさせたのは紛れもなくティルの妙に甘ったるい声のせいだろう。
〈つまり、ティルが俺を木にした本人ってことだよな。お前さえ何もしなければ俺は、この世界に来たとしても人間だったと?〉
「そうじゃね?」
妙に軽く話すティルにレベスはムカついていた。