異世界から来た青年の元にどうやら僕っ娘がくるようです。1
ねぇ、知ってる?
妖精さんは本当にいるんだよ。
__あぁ、よく知っている。
ねぇ、知ってる?
悪魔って、本当にいるんだよ。
__あぁ、よく知っている。
ねぇ、知ってる?
魔法って、本当にあるんだよ。
__あぁ、よくわかっている。
ねぇ、知ってる?
異世界って、本当にあるんだよ。
__あぁ、そのようだ。
ねぇ、行きたい?
たとえどんな代償を払ったとしても?
________あぁ、よく知っている。
何もない真っ白な空間で人間は意味ありげに呟いた。
※ ※ ※
話す動物、飛び交う妖精、空を飛んでいる人間。
俺はついに来たんだ。
魔法のあるファンタジーな世界へッ!
ピチピチピチ
あぁ、可愛い鳥さんのさえずりが聞こえる、俺の真上から・・。
・・・・・・・。
どうしてコウナッタ?
少年・・いや、青年だった者は自らの手に小さな黄色い小鳥が乗っており、脚は大地を絡め取り、自らの大きな体を支えるように立っている。樹齢100年はありそうな太い幹。そう、青年だった者は『木』になったのだ。
「主人公は最強だけど『木』っていう枷が付いてた方が面白じゃん」
小人の様な大きさの少女が主人公である少年の顔の横にひょっこり現れた。
特徴的な薄緑のツインテール。白っぽい羽。手に持っている星の杖。異世界を思わせる妖精の登場だ。
〈まてまてまてまてまてィッ。お前か?お前がやったのか?〉
「もち!」
様子は親指を立て、ぐ~のポーズをし、二カッと笑う。
〈何でだよッ!何でもありのチート主人公とまでは言わない。主人公がしたいとも言わない。
サブキャラでいいとも言わない。もういっそこんなファンタジックな世界にこれたんだ。敵に3秒くらいで倒されちゃう魔法士1でも村人A=モブキャラでもいい。なのに・・・・何で『木』なの!?動けないじゃん、どうやってお花摘みに行くんだよッ!せめて人間で止まっておいてくれよ!この年で漏らすのとか本気で笑えないやつだから。そのまま恥ずか死するだけだから。人生終わっちゃうやつだから!!〉
青年だった者の悲痛な叫びも届かず、妖精はきょとんとし、首をこてんと横に傾ける。
「いや、だから、面白そうだから?フフフフッ」
「面白そうだから、じゃないからね?!大問題だからね??!!」
妖精はクスクス笑い、木の周りをくるくると飛び回る。
「あっ、そうだった!」
そう言って妖精は青年だった者の言葉をスルーし、小さなポケットから縦1mm、横2mmほどの紙を出した後、【大きくなぁ~れ】と唱えながら手に持っている星の杖で紙にちょんと当てると縦5cm、横8cm程の大きさになった。
「はい、どーぞ」
紙は宙に浮いていて持つ必要がなかった。ちょうど木が枝分かれしているところに来る。浮いている紙の中心部には『ティル』という名、下部には『七大妖精総督兼全妖精抑制委員会第1皇帝有能な部族長ティル・カーベン』と盛大に書かれた職種が、上部には『雫早男殿』と書いてある。薄いピンクをしている紙だ。紙が良い質の物なのか手触りがよく、ざらざらとしていない。そして、ほのかに花の香りがする。
〈この雫早男って俺の事?何かかっこいい!いいセンスしてるね~〉
その名前が気に入ったのか木は風が吹いているわけでもないのにガサガサと青々しい葉を揺らす。そのせいで小さな黄色い小鳥達は驚き、空へ、別の木へと飛んでいってしまった。
「し、ずく、はや・・お?誰それ」
〈えっ、だって此処に『雫早男殿』って書いてあるじゃん〉
今更ではあるが、ティルと青年だった者は話してはいない。いや、木である以上話せないと言うのが正しい。一方的にティルが木に向かって話しているように見えるがティルもまた七大妖精総督だ。よほどの魔法士でなければその容姿を見ることも、その透き通る声を聞くこともできない。ただし、それはあくまでも人型魔法士や、人間のみであるため今、『木』である青年には関係のない事だった。さらに、ティルは話している者の思考や感情はもちろん、過去や未来も見ようと思えば見えるらしいのだがティル自身はそれをあまり好まないようだ。1度だけ使ったことがあるらしいが・・・。
「それ、しずくはやおって読むの?」
〈違うの?〉
「もち!」
〈じゃあ何て読むのさ?〉
「言っていいの?後悔するよ」
ティルはプルプルと肩を震わせ低めの声で言った。
〈いいよ、どんと来いッ!〉
青年だった者はティルから何かを感じ取ったのか、バキバキバキと小さな自らの手を折り、絡まる葉を無理矢理はがし取り、ハグを待つようにして大きな両枝を少し内側に曲げる。
「あれ、雫早男だよ」
〈・・・・・。〉
ダサ男は黙る。
急にぽんっ、とワインのコルクを抜いたような軽快な音が響き、その音の根元を見ると、それは青年だった者である木の上にあった。
よく見てみると、何故かその木の上には“ださお”とふわふわとした可愛い文字で書いてある。
〈おいッ、その名前変えろ!!その表示も変えろ!!〉
「わかったよ、雫早男(仮)(嘲笑)」
〈(嘲笑)って何だよ!(仮)だけだったら其れでいこうかと思ってたのに。ほら、だってあれでしょ、ボーイだかガールだか知らないけどお友達(仮)ってあるじゃん。何俺自分の名前で笑われなきゃいけないのッ!だいたい「煩いなぁ。わかったよ・・・」
「俺の言葉を遮んな!」と言っていたがどうやらティルには聞こえていないようで、意外とうまい鼻歌を歌いだす。
フフフフフッと不気味に笑った後「これじぇ・・これでどうだ!」と噛みながら言う。
「雫早男(笑)(中二病乙)(お母さんあの人何してるの?見ちゃだめ)
〈オイィィィィィ、待てよ、どんどん悪化していくんだけど。ってか何?中二病乙って、まだ右手も右目も疼いてないからね、眼帯とかしてないからね。しかも最後のカッコ何?もう会話じゃん。子供が危ない人見てる時とかのお母さんと子供の会話じゃん!〉
「フフフフフ、貴様は笑われる運命にあるのだよ」
ティルが青年だった者に指を指して言う。しかもドヤ顔で。
〈はいそこ、乗らなくていいから。っていうかあえて(笑)何も言わなかったのに何気に台詞に登場しちゃってるし、ツッコミ入れて欲しかったのか?〉
「べ・・・別にツッコんで欲しいとかそういうわけじゃないんだからねっ!!」
ティルは顔を赤く染め、ふんっ、と外方を向く。
〈ツンデレは求めてませ〜ん。そんなのに騙されるか〉
「チッ」
ティルは舌打ちをし、木にその小さな拳を思いっ切り当てるが、木にとっては全く害をなさない事であったため、気づかれることなく、ただ、ティル自身の拳に痛みが走るだけであった。
〈っていうか全然話し進んでないだけど、俺の名前決めから全然進んでないんだけど〉
「テメェの所為だろうがバーカ」
先ほどまでとは性格ががらりと変わる。足を開き、どこから出したのか分からないバットを右手に持ち、肩に乗せる。眉間にしわを寄せ、煙草(っぽい飴)を吸い、ペッと唾を出す。格好を例えるなら負けフラグが立っている、下っ端の、それも調子に乗っているヤンキーだが下っ端ではなく幹部・・いやボス並みのオーラを出している。
〈こ・・・・怖くなんかないんだからねっ〉
汗をたらたら滝のように流し、怖さの所為か、裏声になり、口調がツンデレっぽくなっていた。
「ツンデレは求めてませ~ん。」
よっぽど、先ほど青年だった者が言った言葉が気に食わなかったのか、そのまま言葉を返した後、「フッ、ざまぁ」と言う。ティルの逆襲?は無事、成功を収めた
〈ティルさん、キャラを定めて〉
「無理」
ティルのコロコロと変わるその口調や態度に痺れを切らしてか、そろそろ定まってくれと願いを込めて強く思った青年だった者だったが、ティルは冷たく、しかも即、拒絶した。
〈わかった。もう俺が名前決めるから、口出しすんなよ?〉
「もち」
ティルはぐ~のポーズをした。
〈・・・・・。シュヴァイツ・リビー、これでどうよ〉
少しドヤ顔をした青年だった者が気に食わなかったのか、ティルは腹パンをかまし、アッパーをし、最後に右ストレートで決める。
「嫌だ。その名前はダメ、絶対」
「・・・・レベス。これでいいでしょ」
〈何でレベスなんだ?〉
「レベル(経験)が低いスケベだから」
〈・・・・・。何でそんなこと知ってんだよ。っていうか、俺まだスケベ発言とかしてないんですけどォォォ!!!!〉
こうして俺の名前が決まったのである。
何故名前を決めていたのかはわからないが・・・・。
ちゃんちゃん。
・・・・。
〈ちゃんちゃん。じゃねぇよ、俺まだ木じゃねぇかぁぁぁぁ〉
レベスの叫びは誰にも届かなかった。