肉屋のご夫婦
目を開けたら知らない天井でした。
なんてお約束な表現ですが、マジでそんな感じでした。
異世界に来たのは本当だったんだ。
と改めて実感中。
ぐぅーキュルルルル
そして夢であって欲しかった、物体Xの件も改めて実感中。
お腹すいた・・・。
よし!
ここの上級者用のメニューじゃなくて、一般的な食事をするために屋台へ行こうじゃないか!
ついでに回復薬の値段の調査と、販売されている食品の調査。
芋とか米とか野菜とか調味料とか気になるもんね。
宿屋のオッサンに鍵を預けてレッツゴー!!!!
なんて気合いを入れていた時期もありました。
私の目の前に広がるのは絶望。
そう。
物体Xが勢揃い。
どの店も似たり寄ったり
黒焦げに近いガリガリの真っ黒パン
刺激臭を放つ焦げor半生肉
茹でただけの異臭を放つ真っ白な肉
ベチャベチャな葉物野菜
腐りかけ?いや、腐ってますな果物。
干からびてしわっしわの根菜。
何なの?
ガチで異世界だなおい。
私に餓死しろってか?
みんな平気なの?
私ならお腹壊して食中毒でじわじわ死ぬよね?
どうなってるの?
頭が可笑しくなりそう。
今後、自分で作った食事しか食べられないの?
どゆこと。
人生イージーモードのつけがここに来たの?
人生イージーモード。
人生イージーモード。
あ、チートあんじゃん。
そうでした。忘れてました。
私、神様並みのチート持ちです。
取り敢えず、腐りかけの野菜や雑穀、果物を購入して、後でその種なんかを使用して家庭菜園をすれば良いのですよ!
良かった。本当に良かった。
後の問題は家庭菜園をする場所と、肉。
そう。お肉です。
何を隠そう。私はお肉大好き人間。
だがしかし、肉屋の肉は腐ってる。
ならば答えは簡単。
昨日仕留めたオークさん。
いただきましょう。
そうと決まればお肉屋go!
お肉屋さんには恰幅のよいおば様がいらっしゃいました。
少し赤い染みが付いたエプロンと包丁が良くお似合いで、ガクブルです。
「いらっしゃい!何のお肉をお求めだい?うちは肉もだけど惣菜も扱ってるからね、細っこいアンタはいっぱい買っていっぱい食いな!」
ああ。うん。
おば様に比べればその辺の小娘は全てガリ子だろう。
今はそれどころじゃない。
私の肉生活がかかってるんだ
「あの、持ち込みでこのオークの解体をしていただきたいのですが可能ですか?」
一応、現物確認のために拡張鞄からオークを出して聞いてみる。
1度に沢山出すと怪しまれるから一匹だけ。
「解体かい?別に構わないが冒険者ギルドでも解体はしてるはずだよ?オークが仕留められるなら冒険者なんだろう?皮も魔石もその場で売れるし、解体料も安いはずだよ?」
「いえ、私は商業ギルドですし、冒険者ギルドは怖いので、ご迷惑でなければおば様にお願いしたいんです。勿論、解体料はお支払いします。」
「まぁ、アンタが良いなら引き受けるよ。30分後には終わるからその辺の店でも見てな」
と包丁片手に笑顔のおば様。
オソロシヤ。
拡張鞄が割りとポピュラーな物らしいのは確認済みだけど、時間を止めたり、冷却・保温効果の持続鞄は無いみたいだから気をつけないとね。
変なやつに目をつけられないようにしないと。
それと、今後
この世界での食事が期待出来ないのなら、定期的にオーク何かの魔物を狩りに行かないと。
命に関わる。ガチで。
近くの店を冷やかしてたら、調味料専門店的なものを発見した。
過度な期待は抱かないでおこう。
と思ったのだが、何かまともなんだけど。
何で?何でこんなまともな調味料を使ってあの刺激臭を生み出してるの皆さん。
謎過ぎる。
パッと見た感じ、油も塩も醤油もどきも味噌もどきも臭いや値段はまともだった。ただし
育てるのに手間がかかるスパイスやハーブはどうしても高くなるらしい。特に砂糖は超希少なので超高級品。
高い。凄く高い。けど、頑張れば買える。悩むなぁ。
そんな砂糖をじっと見つめていると優しげな店員が話しかけてきた
「お砂糖が気になりますか?どこに行っても希少品ですからね~。ここでも出来るだけ頑張った値段なんですがね。いやはや。もし宜しければ砂糖の木を購入してみますか?値段が高い上に育てるのが難しくて、枯れても当店では責任を負えないので売れ残っていましてね。」
とな?
な ん で す と !?
「買います!!!!!!!!売ってくださ!ぁい!まし!ぇ!」
ちょ、興奮し過ぎて噛んだ
しかも店員さんドン引き・・・。
しかしそこは接客業、微笑みを貼り付け
「ご購入有り難うございます。今お持ちします。他の商品もお包みしますので少々お待ちください。」
と流石の対応でございます。
調味料と砂糖の木で大金貨12枚(120万)近くかかったけど、安いもんだろ。
何しろ私にはチートがある。
砂糖の木を枯らすなんてあり得ない。
直ぐに元が取れるはず。
しかもまだまだお金に余裕がある。
人生三回は遊んで暮らせんじゃね?的な。
まぁ、その場合は餓死が待ってるけどね。
店員さんの話によると、この世界では様々な物が木になるらしい。
例えば、塩やスパイス、砂糖や酵母、石鹸なんかも出来るらしい。
ガチで異世界だよね。
只し、育てる事が出来る人間は限られてる上に、人によって質が変わるらしい。
枯らすことも多いし、苗木は高いから大博打らしい。
だがしかし、私にはチートがある。
問題ない。
商品は全て拡張鞄に詰め込み、ルンルンでお店を出た私。
周りを見て回復薬の料金も大体分かった。
暴利だった。
けど、命かかってるし当然かね?
何か既に金持ちウハウハな未来しか見えないんだけど。
ついでにその辺の店で周りの人に馴染めそうな服、ズボンを中心に下着なんかも数着購入。
靴やタオル何かも置いてあって助かりました。
あ、オークの肉忘れてた。
そこで肉屋に向かうと人だかりが。
「おい!オークの肉を仕入れたんだろ!売ってくれよ!」
「うちにも売って!珍しく新鮮なオークなんでしょう!?何時もの倍額で買うわ!」
「待ってよ!私も倍額で買うわよ!売って!」
あ、何か面倒事な予感。
「うるっさい!!これは人様の肉なんだって言ってるだろ!!いい加減に黙んな!!」
包丁片手に仁王立ちの般若様降臨でございます。
どうしよう。
なんて冷や汗を垂らした瞬間、般若様もとい、おば様と目があった。
ヤバい。面倒な展開だ
と思ったのに
「どこで道草くってたんだい!!休憩はもう終わりだよ!さっさと裏に回って手伝いなクソガキ!」
「ハイィィィ!!すみませんでした!今すぐに!」
と裏手に猛ダッシュ。
おば様、私がオークの持ち主だって分からないようにしてくれたんだ。
あんな風に皆から責める様に買い叩かれたりしないように。
いい人だなぁ。肝っ玉母ちゃんって感じで、素敵な人だ。
裏にまわると聞こえてきた小さな声
「おーい。君が注文主の細っこい女の子だね?」
「あ、はい。解体依頼の細っこい女の子です。」
とは言いつつも、貴方も相当細っこいですよね?
細っこい男性ですよね?
でも、この人も周りに聞こえない様に小さい声で、《オーク》の単語は出さない様にしてくれてる。
優しい 細っこい男性だ。
もっかい言うね。
優しげな細っこい男性だ。
肉屋なのにこんなに細っこくて大丈夫?
「いやぁ、こんなに新鮮なお肉は久しぶりでね。おじさん驚いちゃった。一応、部位に分けて油紙で包んでおいたからね。油紙は解体料に含まれてるから追加料金は要らないよ。後はこれが皮でこっちが魔石ね。冒険者が取ってくるお肉は日にちが経ってる物が多くてね。珍しいから下手に見つかると騒がれるからね。気を付けるんだよ?」
ここまで優しくしてもらって何もしないのは女が廃るだろう!
「はい。色々と有り難うございます。お肉なんですが、こんなに大量になるとは思わなくて。少し貰っていただけませんか?表で騒ぎに対応してくれてるおば様の優しさに恩返しがしたいんです。それに全部は鞄に入りませんし、一人で消費しきれないので、受け取っていただけると嬉しいです。食べるもよし!売るもよし!ですから。」
多いと遠慮されるだろうし、私の鞄は時間停止の拡張鞄なので肉は腐らない。
なので、全体の2割程度。一応、おば様達が食べても少しはお店に出せる様にデカイ塊肉2つだ。
「良いのかい?売れば高値が付くと思うんだけどなぁ。まぁ、確かに一人なら食べ終わる前に腐らせちゃうだろうからね。うん。分かった。
有り難く受け取らせてもらうね。
いやぁ、嬉しいなぁ♪新鮮なオークは久しぶりだからね。奥さんが喜ぶよ。奥さんはオークのお肉が大好きだからね~♪
それに
【あの細っこい女の子の為にこのオークは誰にも渡さん!!あの子はもっともっと食って太るべきだ!!】
って気合いが入ってたからね~
奥さんは君が気に入ったみたいだったし、また何か解体の依頼があれば直接裏手に持っておいで。大体僕が裏手にいるからね。」
ん?
奥さん?
オークのお肉が大好きな奥さん?
私を細っこい女の子と呼ぶ奥さん?
え?
まさか・・・。
「あの、表で騒ぎに対応してくださってるおば様が奥様でいらっしゃいますか?」
「うん♪彼女が僕の奥さんだよ♪」
頬を染めながら照れてる細っこい男性。
まさかの夫婦かよっ!?
え~。
私に細っこい女の子とか、もっと食うべきだ!!とか言う前に
だ ん な に く わ せ ろ
恰幅の良い般若様もとい、肝っ玉母ちゃんと優しげな細っこい細っこい男性。
しかも、細っこい男性の方がベタ惚れっぽい。
うん。いい夫婦じゃね?
見知らぬ女の子(私)に夫婦揃って優しくしてくれたんだもの。
この世界で初めて触れた優しさだもの。
この縁は大切にしたい。
「素敵なご夫婦で羨ましいです♪今後とも宜しくお願いします。」
《素敵なご夫婦》という言葉に照れっ照れの細っこい男性に会釈しながら去る私。
解体所決定!!
少しずつだけど、生活の基盤が出来てく感じがして嬉しいなぁ。
ぐぅキュルルルル
取りあえず宿に帰って、もとの世界から持ってきたお菓子を食べよう。
18年生きてきて今が一番腹減ってるわ。