お見送り。
お久しぶりです。
書いて消しての繰り返し&時間をおいてから続きを執筆した結果、まとまりが無い文になりました。
取り敢えず、髪紐屋さんとのお茶に進めたかったので、更新で。
次回、髪紐屋さんとのお茶の予定です。
トリアを客間に泊めた翌日。
昨日はいつもより早く就寝したので、今日は早起きです。
今日からしばらく仕事のトリアの負担になるのは嫌だったから早寝にしました。
にしても、本当に就寝直前までお喋りしてましたよ、あの二人。
私は翌日のご飯の用意や《もしゃもしゃ草》の仕込みや今日の売り上げのまとめをしたので途中で離脱しました。
エンガは滅多にない、男二人での親友トークを堪能出来たんじゃないかと思っています。
ウキウキしながら戻ってきたから。
エンガが幸せそうで何よりです。
「ヤエ!おはよう!」
朝からご機嫌でドアを開けたのはエンガさん。
「おはよう。今日は一段とご機嫌だね。トリアもそろそろ起きてくるだろうし、ご飯作るの手伝ってくれる?」
「おう!トリアが泊まってるんだもんな!朝飯も一緒でウキウキする!もちろん、一緒に作るぞ!」
と、エプロンを着けるエンガが可愛くてしょうがない。
トリアが仕事中にお腹を壊しても嫌なので、いつもと同じようなメニューばかりだけど、今日のオムレツはトウモロコシを沢山入れたやつにしようと思います。
鳥さんって穀物系大好きなイメージがあるので・・・。勝手に・・・。
勿論、お肉も多めに。残ったら残ったで、お昼にアレンジすれば良し。
なので、今日もテーブル一杯に山盛りの料理が並んでます。
少ないよりは多い方が良いものね。
あ、それと
今日は、髪紐屋さんのタルグさんとのお茶の日なので、そのお茶菓子にエンガと2人でサクホロな【スコーン】を作りました。
先日のリンゴジャムと、新作のイチゴジャムにマーマレードも一緒に持っていこうと思います。
更に!!なんと!!スコーンに欠かせない、あのクロテッドクリームが手に入っちゃったのです!!牛乳の木に念じてみたら出来たので、私、大歓喜!!
私の思い込み力、念じ力?ってすごい!!自画自賛しちゃう!!
ちなみに、コレは申し訳ないんだけど、トリアはお預け。
お腹壊したら困るから。また今度の機会に。
なので、作った分をそのまま鞄にIN!
エンガが「味見しねぇの?ちっとばかしでも・・・?」と、首を傾げながらの抜群な破壊力で聞いてきたけども、【スコーン】は下手したら止まらなくなるから。
3つくらい、ペロッと食べちゃうから!私が!!
好物なんだよ!ごめんね!後で食べようね!んで、トリアにはもっと改良したの作ってお出迎えしようね!ほんと、ごめんね!
と、話がズレたけど、色々と作業をしながら横を向くと、
鼻歌を歌いながら お皿にお肉を盛り付けているエンガの可愛い後ろ姿が。
少し調子っぱずれの鼻歌に合わせて、尻尾が動くのも可愛い。
どうです?
ウチのお婿さん、最高でしょ?
「盛り付け終わったぞ!飲み物も用意するかっ!?他には??」
と、得意げな顔で聞いてくるの、可愛いでしょ?羨ましいでしょ?
「ありがとう、エンガ。ここはもう大丈夫だから、トリアを起こしてくれないかな?」
「おう!任せろ!」
と、客間の方に向かったエンガ。
こちらの家にトリアは入れないので、トリアを起こして、トリアの泊まってくれてる客間にご飯を運ばねばならない。
エンガが客間の扉を叩いて声をかけると
「んむあよぉ~。」
という、間の抜けた声を出しながら、目をこするトリアが出てきた。
大変個性的な髪形をしてらっしゃる。
「おはよう、トリア。ご飯そっちに運んでも良い?」
「っ!?ごはん!!朝ごはん!!」
と、一気に覚醒したトリアはスグに机の上を片付けて、私とエンガを手招きした。
「トリア、飯は俺達が運ぶから、顔洗ってきたらどうだ?」
そう言いながら、エンガはトリアの寝癖を直すかのように頭を撫でている。
本当に母性があふれてるな、エンガさん。
トリアは《顔を洗ったらご飯!》だとばかりに洗面所にすっ飛んでいった。
寝間着姿で寝癖もあるトリアはいつもより少し幼い姿の《少年》の様で微笑ましい気分になる。
トリアって、友達でもあるんだけど、育てたい気分になるから不思議・・・。
エンガ、良いお父さんになりそうだしね・・・。
なんて考えていたら、戻ってきたトリアから睨まれた。
「おい、ヤエ。そのニヨニヨした顔でオレを見んなよ。ぜってー碌でもねー事考えてるだろ?」
「いやいや、まさか。さあっご飯ご飯ー!温かいうちに食べよう!」
トリアって鋭いのよね。気を付けないと。
全員で座っていただきます。
「今日もこんなにいっぱい・・・。温かい飯・・・。ヤバい・・・。」
と、トリアはパンをハムハムと齧りながら喋る。
「んむ?あー、確かにな。俺もヤエと会うまでは野菜のクズとかだったからな・・・。温かい飯、腹いっぱい食えるの、嬉しいよなぁ・・・。」
って、しんみりしちゃったエンガ。
「待て待て待て。流石にそんなヘビーな思い出には同感できねーよ。朝から微妙な空気にすんなよ。まったく。まあ、オレが言い出しっぺだけどさ。いつもは残り物のパンだけだったからな。固いし美味くねーし、朝抜くことも多かったし。嬉しいよ、温かい飯、お前らと食えて。今回の依頼は上手くいく気がする。モグモグ。」
しんみりしたエンガを励ます為か、嬉しいことを言ってくれるトリア。
「お、俺も!トリアと飯食えて嬉しいぞ!昨日もいっぱい喋れたしな!依頼終わったら、すぐに家に来いよ?また飯とお泊りしようぜ!?な??ヤエ、良いよな??」
と、次の約束を取り付けるエンガ。
「もちろん、良いよ。報告書が書き終わらなくても良いから、帰ったら早い段階で顔見せに来て。プロの冒険者だろうと何だろうと、友達を心配することには変わらないからさ。ちゃんと顔を見せて私たちを安心させてね。」
「...ん。ネリーとコーザにも同じこと言われてる。帰ったら、来る。飯、食う。泊まる。」
と、笑いそうになる顔を我慢しているかの様なトリア。
きっと心配されることに慣れてなくて、でも嬉しくて笑顔になりそうなのを我慢してるんだろう。
中々に面白い顔になっている。
エンガもそれに気づいたのか嬉しそうな顔をした。
でも、何も言わなかった。つつくとへそを曲げそうだもんね。
暫く、会話のないまま食事を続けたが、嫌な感じじゃない。
お互いがまだ気恥ずかしく感じる瞬間がある、少しずつ確実に友達の絆が深まっている、この感じが私は好きだ。
と、まったりとしていたら、トリアが突然動いた。
「ピョっ!!」
と、フォークを咥えたままのトリアの眼が輝いた。
普段は細めの睨んだような目が限界まで開かれ、キラキラウルウルとエフェクトでもかかってんのかってくらいに輝いている。
「えーっと、どうかした?トリア?」
トリアは目の前に置かれたお皿を指さした。
「コーンのオムレツ気に入ったの?」
壊れた玩具の様に上下するトリアの頭。
そんなにか・・・。
と、呆気に取られていると
「コレ気に入ったのか?そうか。コレ、一人一つだかんな。俺のやるよ。まだ食ってねぇから。たくさん食べて体力付けて行ってくれよ!」
と、本当に面倒見の良いエンガさん。
「良いのか?食いてーけど、エンガの分が....あ、エンガにはヤエの分をやるのな。分かった。遠慮なく貰うわ。オレ、コレ、すげー好き!一番!!」
と、むぐむぐと頬っぺいっぱいにコーンたっぷりなオムレツを頬張るトリア。
その様子を眺めながら、私のオムレツをエンガのお皿にスライドさせる。
サラダには手を付けたので、形崩れちゃうけどオムレツだけスライドで。
うちのコーンは新鮮だし、甘いし、卵も新鮮で半熟で美味しいけど、ここまで喜ぶと思わなかった。
次来た時も作ってあげよう。
そう思っていると、
「んあっ!忘れてた!!」
というエンガの声と共に、頭にふんわりとした重みが乗ってきた。
そして、そのまま『ゴロゴロ~♪』と、聞き覚えのある音が・・・。
突然の事に頭が真っ白で動けない私はそのままトリアと見つめ合うことに・・・。
「・・・んぶっふっ!」
変な笑い声とともに私から目を逸らすトリア。
トリアさん。笑ってるのバレバレだよ、肩揺れてるよ。
ねぇ、コレ、どういう事?
私が赤面してるのは分かる。
自分の事だから。分かる。全身の血液が顔面に集中してるのが分かる。
でも、上の、その、ゴロゴロ、ああ、なんかグリグリまで加わった。
頭上から軽く押される形でグリグリされてる。しかも、真上からゴロゴロとその振動が聞こえる。
あの、コレ、あご乗ってる感じですかね?
なんで?なんで急にゴロゴロ?しかも、ぐりぐり?
可愛いの極みなんですけど・・・。
お出かけ前のマーキングは分かる、でも、なんで、今、トリアがいる前でぐりぐり・・・?
「んぶっは!流石エンガ!!このタイミングでやるか、ふつー!?せめて、オレがいない時にしろよ!ヤエ真っ赤だぞ!見てるこっちが・・・面白い!!」
と爆笑のトリア君。
「んあ?でも、昨日トリアが教えてくれただろ?ヤエにありがとうって言いてぇ時にはこうすると良いって・・・。」
と、不思議そうなエンガさん。
「言った。確かに言った。けどな、それはあれだ。オレがいない時、夜二人っきりの時とかにすると良いんだよ。あれだ。獣人が番にやる愛情表現なんだからよ、こうムードが必要なんだよ。」
と、説明するトリアに
「ムード?夜限定か?二人の時にすればいいのか?・・・だとしたら、俺、間違えちまったな・・・。や、ヤエ?すまん、嫌だったか?」
なんて困惑顔で覗きこまれたけど、【獣人が番にやる愛情表現】なんて単語を聞いた後に返せる言葉はこれだけ。
「二人、控えめ、お願いします...。」
「おう!二人の時に、もう少し弱めにする!」
って、控えめは強弱の問題じゃないんだけど、言葉が出ないので、ここで終了。
言葉よりも鼻血が出そう。
そんな私を置いてけぼりにして
「昨日、トリアから色々な話聞いたから、ヤエも楽しみにしとけよ!きっと喜んでもらえるから!!」
って嬉しそうなエンガを前に、《もしかしたら、ノイズのオッサンよりもトリアの方が危ない遊び教える要注意人物かも・・・。その前に、私、鼻血で死ぬんじゃないか?》なんて不安に駆られたヤエさんでした。
そんなこんなでご飯も終わり、冒険者ギルドへGO!
トリアが先陣を切り、私とエンガが手を繋いで後ろをついていく感じ。
家にいた時とは違い、やっぱり冒険者の顔つきをしているトリアは少し厳しめの顔。
周囲が冒険者っぽい人であふれてるからか、ほぼ喋らず。
無事にギルドに到着。
「ここで待ってろ。用紙持ってくる。」
と、トリアがとって来てくれた用紙に記入していく。
分からないところなんかはトリアに聞いて、エンガにもちゃんと書き方を見ててもらいながら、進めていくいく。後は提出なんだけど・・・。
と、長蛇の列を見回すと、受付嬢の服装じゃない女の人がすっ飛んできた。
この前お世話になった、若干ヘッポコの、人を見る目は抜群の受付嬢さん。
「おはうぇいございます!!こちらにどうぞ!!個室を予約なさってますので、だいじょうぶでさ!!」
と、相変わらずな様子で挙動不審な受付嬢さん。
個室を予約なんてしてないんだけど、何か理由があるのかもしれないし、とりあえずついていくことに。
トリアは警戒してるのか剣から手を離さない。
個室の扉を開けて、中に入ると
「本日はどのような内容でっしょうか!?」
と、凄い勢いで質問されたのだが、
「待て。なんでオレ達がこんな個室に通される?予約?んなわけねぇだろ?ヤエもエンガも今日、オレを連れてくる予定なんて無かったんだからな。何考えてやがる?」
と、切れ気味のトリア。
それに対して、顔を青くし、俯く受付嬢さんはぼそぼそと
「え、エンガさんは、その、どうしても悪口の対象になりますので、個室に...。エンガさんに何かあったら、ヤエさんがその人の腕と足をもぎますし!!だから、その、両者にとって一番良い形かなぁ・・・と、思いまして。ヤエさんたちの滞在時間も最低限ですみますし・・・。」
と、受付嬢さんなりに色々と考えてくれたらしい。
おっちょこちょいではあるが、案外仕事は出来るタイプなのかもしれない。
寝間着姿でも急いで出てきてくれたところもポイント高いよ。
「もぐ?腕を?・・・ああ、エンガを馬鹿にするとヤエがもぐのか。分かった。理解した。...あんたも大変だな。」
なんて受付嬢さんに声かけてるトリア。
流石、我らが心の友よ、瞬時に理解してくれて嬉しいよ。
ではではちゃっちゃと依頼を終わらせましょう。
「この用紙に書いたままの内容でお願いしたいんですけど、大丈夫ですか?」
記入した用紙を受付嬢さんに渡すと
「指名依頼なので注意点があるのですが、お二人の様子からすると既にこちらの獣人さんから説明もあったかと思いますので、このまま受付とさせていただいて大丈夫ですよ。もし、分からないところがあれば、その、ヘッポコではありますが、説明を、何とか頑張ってみます!」
と、トリアの方向を向いていると割とまともに喋れるのに、私に対すると挙動不審になる受付嬢さん。
「...説明はしたからそれで大丈夫だ。処理頼む。....この人に何したんだよ、お前ら・・・・。」
と、少し呆れた様子のトリアに嘘の口笛を吹く私ときょとん顔のエンガ。
「まあ、どうでも良いけどよ。あんまり無理はすんなよ。」
と、軽くお小言を貰いながら、受理された依頼書を確認して、ギルドを出る。
町の入り口までトリアのお見送り。
「いや、ギルドまででいい。」とか「ここでいいから」なんて言うトリアを抑えながら、3人で町の境目に到着~♪
「気をつけてな!トリアが強ぇのは知ってるが、心配なのには変わらねぇからな!気を付けて、でも、楽しんで来い!」
なんて声をかけるエンガ。
「いってらっしゃーい!無理はせずに、頑張ってね!」
と送り出すと、顔を赤く染めながら【行ってくる】と一言だけを残し門を出て行ったトリア。
これは、今のトリアには恥ずかしかったかな?
トリア、オッサンぽかったり、思春期の青年ぽかったり、案外難しいな。
仲良くなってくると、いろんな一面が見れるね。
さてさて、トリアのお見送りも終わったし、未だに手を振ってるエンガを連れて、まだ早いけどエンガのお店に向かいます。
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エンガさんのお店に兄さんと向かうと、既にお店の準備が整っていた。
どうやら、今日は少し早めの開店らしい。
にしても、エンガさんとヤエさんがお店を始めてくれて本当に良かった。
二人のおかげで、こうして兄さんと二人で歩きながら色々とお喋り出来る時間が出来たんだ。
いつもは一緒に居られる時間が少ないから、本当に嬉しい!!
しかも、格安で買えるお菓子を家族が喜んでくれるし、良いことばっかり!!
今日も何か良いことないかな~?
なんて、普段は考えもしない期待を込めつつ、お店に到着!
「おお!アーベルにベルント!いらっしゃいませ!!」
って、エンガさんは今日も100点満点の笑顔だ。
フルフェイスだけど、慣れてる人にとっては接客業に向いてる顔だよね。
商売根性出てない顔というか、無害な感じの笑顔が出来るのはポイント高いんだよね、確か。
兄さんが昔そう言ってた気がするから間違いない。
「エンガさんヤエさん、おはようございます!もう準備出来てるんですか?お二人とも早起きなんですね!」
少しテンション高めに、子供らしく話しかける様に心がける。
昨日、兄さんが仕入れてきた情報で、エンガさんは子供好きな可能性が高いことが分かった。
ならば!と、エンガさんの前では子供らしくしようと兄さんと決めた。
兄さんは既にしっかりと営業してしまったので、今更、子供らしい対応はできない。
でも、僕はエンガさんの前で怯えたり、一緒にわたわたしてみたりと、いつもの僕に近かった。
だから、コレは僕だけにしか出来ない事なんだ。
兄さんに『いつも通りで良い。お前らしく。頼んだぞ。』って言われたからには、いつも通りの僕らしく【兄さんが世界で1番!】で頑張ろうと思う。
「おはよう、ござ、ます。」
兄さんはまだ眠そう&機嫌が悪そうだ。
兄さんは朝はテンションが上がらない。
特に、今日の様に寝ぼけている様な時は、少し走らないと完全に目が覚めないらしい。
なので、今日はあまり長居しないと決めた。
仕事があるのもそうだけど、兄さんの口が凄く悪いのがバレるのは避けたいから。
寝ぼけてる兄さんは二割増しで口と目つきが悪いから気を付けないと。
エンガさんに悪影響を与えそうな存在は弾かれるかもしれないからね。
『今日もラッキークッキーお願いします!』
兄さんと声を揃えてエンガさんにお金を渡す。
エンガさんはいつもの言葉と同時に籠をこっちに向けてくれる。
昨日はチップが少なかったし、今日はまだ仕事に出れてないから、お金が少ない。
一口ドーナッツは食べ応えもあって安くて良いんだけど、今日の仕事が少なかった時の事を考えると手が出ない。
今日もスープだけ食べに家に戻ろう。
そう考えながらクッキーを適当に選んだ。
兄さんはさっさと開けて「無し。」って言ってポケットにクッキーを突っ込んだ。
コレはまずい。
結構、機嫌悪い感じの寝ぼけ方だ。
僕も早くクッキーを・・・。
「あ!あったり~!!ベルント君、ついてるね!今日はラッキーな一日になるよ!多分!!」
後ろから覗き込んでいたヤエさんの声が響いた。
こんな時に限って当たっちゃったよ!?なんで!?
早くここを去りたいのに!?
エンガさんも拍手して喜んでくれちゃってるし。
と、とりあえず、早く選んでここを離れよう。うん、そうしよう。
そう思っていると
「良かったな、ベルント。お前、クジ運あんのかもな。んじゃ、とっとと交換して、とっとと食って、とっとと仕事行くぞ。遅くなって仕事取られちゃたまんねー。あのクソガキ共。てめぇの親の稼ぎで食っていけるくせに、こっちのシマ荒らしやがって。胴元のクソ爺もとっととくたばれよ、老害が。チップのピンハネ多くしやがって、そのうち暗殺者でも雇うぞ、コンチクショー・・・。」
って、兄さああああああああああん!!!
兄さんがどんどん悪態ついてくから、エンガさんとヤエさんが口開けて凝視してる!
マズい!!これはマズい!!
「すみません!兄さん、寝不足で!そう、寝不足なんです!だから、こんな、何というか・・・。あ!あの!ランルー鳥ください!兄さんと半分こ、半分こ、後でするんで!今日はこの辺で・・・!」
と必死に説明する横で未だに続く、新規の子供達や同じ業種の奴らに対する兄さんの罵詈雑言。
全然止まらないんだけど・・・。
これ、兄さん寝てない?
寝ぼけてるとかじゃなくて、寝てない?
立ったまま寝てるんじゃない?
ど、どうしよう・・・。
なんとかしなきゃ!!兄さんが困ることになる!!
と頭を必死に回転させていると
「アーベル君、凄いね!言葉の種類が多い!どんどん出てくるね!!よっっっっぽどストレス溜まってるんだね!!」
と、なんでか嬉しそうなヤエさん。
クッキーを折ってランルー鳥の串を紙に包んでよこしながら、少し興奮してるみたい。
エンガさんは・・・。
純粋な人だから、汚い言葉の数々に嫌な顔してるかも?
と、恐る恐る顔を見てみると
「ここまで淀みなく文句言いたくなるような状況の中、一生懸命働いてるんだなぁ。2人とも、本当に偉いな。良い子だ。」
って、僕と兄さんの頭を撫でてくれた。
母さん以外の人に頭を撫でられるなんて久しぶり過ぎて驚いた。
殴られることや蹴られることはあっても、撫でられるなんてない。
ここの住民、僕の知ってる大人にそんな優しい奴はいない。
驚きすぎて僕も兄さんも動けない。
これには兄さんも目が覚めたらしい。
僕にしか聞こえない程度の舌打ちをして
「すみません。寝ぼけるとこうなるんす。普段はちゃんと出来るんで・・・。」
と、ばつが悪そうな顔をしている兄さん。
「ん?口が悪いくらい気にしないよー。それよりも、ストレス凄そうだね。偶には息抜きした方が良いよ。心の病気になっちゃうから。美味しいもの食べて、リフレッシュ!!」
と、ヤエさんが言うと、エンガさんに目で合図した。
すると、ハッとしたようなエンガさんが
「おう!そうだ!美味いもんを食ってのイキヌキ?は大事だ!!っつー訳で、これをやる。」
と、エンガさんに差し出されたのは小さな瓶。
赤くてキラキラしてて、宝石みたいだ。
「・・・?これ、何ですか?初めて見る・・・。」
貰えるんなら貰っておこうと思って受け取ったけど、初めて見るものだ。
兄さんにも分からないらしい。
2人の言葉を待っている。
「それはな!俺とヤエで作った《イチゴジャム》だ!イチゴを砂糖で煮た甘い奴でな。こう、クッキーとかパンに付けても美味い!!」
と、エンガさんが教えてくれる。
イチゴ?と高い砂糖を煮たの?良く分からないんだけど・・・。
と、困惑していると
「こっちに開けたのあるから、味見していきなよ。ついでに、2人ともお茶飲んでいきなさいな。2人に指名で配達の依頼出すから、3分くらい良いでしょ?」
と、ヤエさんが手際よく拡張鞄からお皿やコップと筒を出した。
「俺達に指名依頼ですか?いやー、助かります。御馳走になります。」
って、急いでるはずなのに、兄さんには考えがあるのかエンガさんが用意してくれた席に着いた。
お皿に広げられたのは白い塊と、瓶から出された《イチゴジャム》とかいう謎の綺麗な物体。
困惑していると、エンガさんがまるで見本を見せるかのように、白い塊を半分に割って、イチゴジャムをべったりと大量に付けて口へ運んだ。
な!?
なんてもったいない!!!!!!
良く分からないけど、お砂糖いっぱい入ってるんでしょ??
あんな、大量に付けて、大きな一口で食べちゃうなんて!!
幸せそうな顔してるけど、理解できないよ・・・・。
あんな一瞬であんなに・・・・。
僕、エンガさんと仲良くなれないかも・・・。
そう思って隣の兄さんの様子を窺うと、やっぱり兄さんも口元を引きつらせていた。
だよね。そうなるよね。
そう思っていると、お茶をおいてくれたヤエさんも同じ方法で食べ始めた。
嘘でしょ!?
なんなの、この人達!?
「あー、初めてなんすけど、そうやって食うんすか?」
と、兄さんが何とか言葉にすると
「ん?ああ、これはうちの自家製パンなの。パン自体の味付けが薄いから、これを半分に割ってジャムをたっぷり付けて食べると美味しいの。」
って説明されたけど、実践する勇気は僕には無いよ・・・。
え!?兄さん!?それを手に取ったってことは、もしかして!?
「・・・こんな感じっすか?」
って、半分にした奴にジャムを付けて見せた。
未だに口元は引き攣ってるけど、今の兄さんの精一杯だろう。
かっこいい!!かっこいいよ兄さん!!
理解できない事でも、進んで理解しようとする姿、本当にかっこいい!
良し!僕も!!
と、気合を入れた瞬間。
「もっと塗った方が美味いぞ!」
って、兄さんのパンを取り上げ、ジャムを塗りたくるエンガさん・・・。
兄さんの精一杯の頑張りを何してくれちゃってんの!?
「ほら、食ってみ。美味いから。」
って、笑顔で畳みかけるのやめて!!
兄さんが遠い目してる!!
あっ!?
兄さんが食べた・・・。
「・・・・。ウマい。すんげぇ、美味いっす。なんつーか、贅沢の味・・・。」
目頭を押さえた兄さんがそう呟いた。
「うんうん。甘いものは贅沢の味って感じするよね~。分かる分かる。」
なんてヤエさんが頷いてるけど、違う、多分違う。
変わった人達だとは思ってたけど、ここまでだとは・・・。
《貧富の差》ってこういう事なんだろうな。
なんて少し寂しく思っていると
「ほら、ベルントも食え食え!食える時にめいっぱい食っといたほうが良いぞ?俺も、昔は甘いもんなんて果物の皮くれぇしか食った事なかったからなぁ。食えるタイミングがあるなら、がっつり食らいついて食いまくれ!!」
と、エンガさんがパンにジャムを塗りたくったものを僕の手に持たせてくれた。
そのパンは柔らかくて、凄くいい匂いがして、気づけば口に詰め込んでた。
「っ!!おいっしい!!」
気づけば、僕も兄さんも2個、3個とエンガさんが渡してくれる甘いジャムパンを頬張っていた。
お腹が膨れてきたころ、ヤエさんが
「お茶もどうぞ。気に入った?お店にも並んでる商品だから、良ければ今度買ってみてね。で、依頼ってどこでお願いすればいいの?」
と、本題を話はじめた。
危ない。依頼なんて忘れて食べてた。
「依頼はあっちの方に専用の小屋があるんで、そこで。案内するっす。」
と、一緒に行くことになった。
初めての人にはわかりにくいからね。
用紙の書き方とか。下手したら胴元が二重取りしたりするし。
お茶を飲み干して、もらったジャムの瓶をしまい込んでいると、目の前に冒険者が2人来てヤエさんから色々受け取ってた。
『今日は一日任せるね。これで全部だから宜しくお願いします。』
って話をして、胴元の元へ向かうことに。
エンガさんは子供たちが来るかもしれないから残るって言ってて少し驚いたのは内緒。
ヤエさんを案内しながら着いた、【運び屋】の小屋。
露店の店舗だから簡素な机と椅子と値段表があるだけ。
用紙が濡れたら困るから小屋の形はしてるけど。
ここの受付も中々に嫌なヤツだから気を付けないと。
せっかくのお客さんに逃げられちゃう。
「んだぁ?ベルベル兄弟じゃねーか。どーした?ここにお前らの仕事はねーぞ?っお!なんだ!女連れか?どっちのだ?ねーちゃん、こんな若いの捕まえて、いいねぇ~。」
なんてニヤニヤして、本当に嫌な大人。
「・・・初めて来たんだけど、本当にここで合ってるの?間違えたんじゃない?本部とか、本店的なのに行った方が良くない?私、全然歩けるから、別のとこで良いよ?」
って、遠回しにここが嫌ってヤエさんが言うけど、運び屋の小屋なんてどこも同じ。
お金に汚い、大人が仕切る場所だ。
「ねーちゃん、運び屋はこんな奴らの集まりだぜ~ひゃはははは!」
って何が楽しいんだよ、オッサン。
良いから黙って受付だけしてよ。ヤエさんに嫌われたらタルタ牧場の契約もなくなっちゃうかもしれないのに!
「うるせえよ、クソ爺。てめぇは受付だろ?ただ座って書類にハンコ押すくれぇまともにしろや。人の客に難癖付けてんじゃねぇよ。」
って、兄さんが応戦した。
オッサンは黙って専用の用紙をよこしたけど・・・。
「冒険者ギルドもここも、同レベルだね。まあ、依頼できればそれで良いんだけど。で、これ、どう書けばいいの?」
って、ヤエさんは気にしてないみたい。
良かった。
兄さんが書き方を教えて、どんどん書き込んでいくヤエさん。
「ヤエさん、僕と兄さんへの依頼って何?」
そういえば、依頼内容を聞いてなかった。どんなのだろう?
「ん~?ああ、ベルント君にはこの前と同じ。タルタ牧場にお手紙と手土産をお願いしたいの。アーベル君には、町の肉屋のネリーのところにこの手紙と小瓶を運んでほしいの。出来そう?」
思っていたのよりも簡単な内容だった。
タルタ牧場の配達はあっちからも最優先で頼まれてるし、お腹いっぱい食べれた今なら、往復もなんのその。余裕だ。
兄さんの方も簡単。ネリーおばさんのとこに運ぶだけ。
簡単なのに指名料も貰える。今日の大口案件一個GETだ。
ヤエさんは受付に用紙を提出して、指名料を払い、チップとオレンジをくれた。
チップは目の前で胴元がピンハネして、オレンジは僕たちのもの。
僕たちはヤエさんから、それぞれ手紙と布袋を受け取って出発することになった。
「今日はこの後予定があるから、お店は早めに閉めちゃうの。もし何かあったら、自宅の方に来て。じゃあ、宜しくお願いします。」
ヤエさんのその言葉で解散。
今日のお仕事、開始です!!!!




