お泊り。
デザートを食べ、紅茶を飲みながら、皆でまったりとした時間を過ごす。
トリアの話に聞き入っているエンガを置いて、私は一人で食器を片付けに行く。
男子だけで話したいこともあるかもしれないから、なるべくゆっくりと片づけを済ませる。
洗い物なんかが全て終わった後に、今回の話のメインである回復薬を持って席に戻る。
あと、あれとこれとそれも。
エンガとトリアの楽しそうな声が響いている。
良いなぁ、こういうの。
若奥さんやってる感じでなんだかドキドキするし、何よりエンガが楽しそうで嬉しい。
ドアを開けたところで、ちょうど話が終わったらしい。
「ヤエ!トリアの話面白れぇぞ!旅の話も色々聞けたからな!次に森に行く時に参考にしようぜ!初めて聞く花の名前とかも教えてもらったから探してみような!」
と、トリアから聞いたことを纏めたらしき紙を握りしめてウキウキなエンガと、得意げなトリアが可愛い。
本当に、この獣人コンビは可愛い。
全世界に自慢したいレベルだ。
まあ、他の女どもに目を付けられるのは嫌なのでしないけども。
必要なものを机に置いて、私もエンガの隣に座る。
「うん♪また今度、外に行く時に一緒に探そうね!楽しみだね!トリア、色々教えてくれてありがとうね。あ、そうだ、トリア。話が変わって申し訳ないんだけど、回復薬はどれくらい必要?金額はこの表を見て、お財布と相談して決めてね。」
と、エンガに笑顔で答えつつ、トリアに《もしゃもしゃ草》の回復薬の料金表を渡す。
トリアは魔法が使えるので、体力の回復薬と魔力の回復薬の両方の料金表を用意した。
「た、旅の話くらい、べ、別に構わねーよ、冒険者の常識っつー奴だからな!教えてんの!特別なことじゃねーぞ!その辺、モゴモゴ・・・・。」
と、私がお礼を述べたとたん、顔を赤く染めてモゴモゴと話し、料金表で顔を隠すトリア。
おうおう、未だに照れると少しツンとするのね。
エンガはそれを見てニッコニコだし、いいねー、この空間。
癒される。
「・・・ってかよ、さっきも見たけどよ、安いな。冒険者ギルドで売ってんのなんてコレの2割は高いぞ?しかも、客相手によってはもっと高値にしてくるしな・・・。俺ら獣人とかな。2倍くらいで売られてるからな。今まで一回も買ったことなかった《魔力回復薬》まで買えるなんて・・・。夢みたいだ・・・。本当に良いのか?この値段で店潰れねーの?」
と、不安そうにしながらも財布を取り出して、銀貨を数えていくトリア。
確かに、普通の人が時間をかけて造っているであろう回復薬は高値だろう。
時間かかるだろうし、原材料とかもかかるだろうし、量産は難しいはず。
しかし、私は魔法というか異世界のチートを使っているので、庭で育てている適当な草で製作が可能であり、元手は瓶代くらいだ。
ちゃんと【お前は回復薬だ~!回復薬になるのだ~!!】という強い想いを込めなければならないので、その辺りは面倒だが、その気になれば一日中製作可能だ。
なので量産可能。そんなに大金取らなくても大丈夫なのよね。
だから、
「この値段で問題ないよ。仕入れは秘密だけど、無理はしてないし、他の人にも同じ値段だから気にしないで買って。店が開いてない時でも、いつでも声かけてね。あ、そうだ!中身が無くなった瓶を持ってきてくれたら割引して中身だけ詰め替えしてあげるよ。・・・新しい瓶買いに行くの正直面倒だし。」
トリアが選んだ回復薬の瓶をトリアの前に並べて、お金を受け取る。
一応、枚数を数えます。
多く貰ってたりしたら困るからね。
「詰め替え?割引?良いのか? そりゃ、冒険者ギルドで瓶の回収してるがビタ銭にもなんねーしな。中身入れ替えてもらって値段安いんなら、そっちの方が助かるわ。次から持ってくるから、割引頼む。今回はこのままでいい。他の瓶持ってねーから。」
と、嬉しそうに大事に大事に回復薬を鞄にしまうトリア。
「あ、それともう一つ話があるの。エンガと二人で相談したんだけど、トリアに頼みたいなぁと思ってて。ちょっとお話聞いてくれる?」
と、巾着を取り出すとエンガが説明を始めた。
「そうだ!それ!新商品をな【実際に冒険者が持ち歩いたらどんな感じなのか】を調べたくてな。トリアに依頼しようと思ってたんだ!!」
と、エンガは自分が説明する気満々。
「んあ?依頼?・・・友達としての《お願い》か?それとも、冒険者のトリアに対する《依頼》か?どっちだ?《依頼》なら一応、冒険者ギルドを通して金取るぞ。」
と、一応、話を聞いてくれる様子のトリア。
そんなトリアに向き合うエンガも真剣に。
「《依頼》の方だな。感想とか途中結果とかも知りてぇからよ、ちゃんとした書類で提出してほしいんだ。トリアは文字書けるよな?ん、なら大丈夫だ!んとな、依頼内容は【ヤエの店で出す商品を実際に持ち運びした時の変化の報告】だ。今までの商品もなんだけどよ、新作もあってな・・・。拡張袋を渡すから、少しづつ持って行って食って欲しい。その感想、状態を報告してほしいんだ。まず、コレが新作の《フランスパン》って言ってな、今までヤエが作ってくれてたパンと違って硬ぇパンなんだ。でも、トリアの持ってる黒パンよりもやわらけぇっつーか、もちもちしてる。外側バリバリで中がモチモチ?みてぇな感じのパンなんだ。ふわふわのと違って入ってるもんが少ねぇから、悪くなりにくいんだと。それと、こっちはイチゴのジャム。この前のはリンゴだったろ?こっちはイチゴ。《フランスパン》に塗って食うと美味いからな。後はコレ。《ミートパイ》と《アップルパイ》。さっき俺も食ったけどよ、コレすげぇ美味かった!!それに、俺も切ったり伸ばしたり混ぜたり包んだり、頑張ったんだぜ!」
と、途中からどんな風に作ったのか、どんな感じに美味しいのかと伝え始めたエンガ。
「袋に小さいのを3袋ずつ入れておくから、明日のお昼ごはんに食べてほしいのと、帰る中間で一回、帰り際に一度、で、味の変化とか匂いが気になるとかあったら教えてほしいの。食べれなくなったと感じたら食べないでね。一応、お腹壊した時の為に回復薬3本付けておくけど、トリアの勘で【食べるの危険】って思ったら止めてね。これが依頼なんだけどどうでしょう?」
と、回復薬3本と拡張袋の小さいのを3つ、一つの拡張袋に入れて目の前に置く。
一応、持ち歩きは3日程度だし、腐った牛乳や卵を生で食えるこの世界の人間なら余裕だと思うんだけど、回復薬も渡しておきます。
「ん~、んな依頼受けたことねーから分かんねーんだけど、とりあえず、食えそうなら食って感想書けばいいって事か?報告書みてーに?この食べる商品の代金はどっち持ちだ?回復薬は?後で回収するのか?それともそれ込みでの依頼か?依頼料は回復薬2本で十分なんだけど、代金で払うか?」
と、どんどんと質問を投げてくるトリア。
冒険者としてのトリアの真剣な眼差しにエンガはたじたじである。
「流石冒険者、そこまできっちり決めるんだね。えっとね、商品の代金はこちら持ちだからトリアは一切お金を払う必要はなし。回復薬が依頼料になるんだったら、それでお願いしたいかな。渡した分の回復薬は一度回収して、報告書と引き換えに依頼料金として回復薬を3本支払うから、使っても使わなくても最終的に3本は必ずトリアの手に渡るよ。だから、お腹に違和感があるのに使わないとかは無しね。あと、帰ってきた後で良いから、それぞれの商品の感想『依頼中に食べにくかった、匂いがきつかった』とかそういう欠点なんかを報告してほしいから、1つの商品について、最低でもこの1枚いっぱいに報告書を書いてほしい。品数も多いし文章量も多いと思うから、依頼料は回復薬3本でどうかな?」
と、お願いしてみると
「良いけどよ・・・。オレ以外の奴にそんな依頼すんなよ?回復薬は全部使ったとか嘘の報告して6本取られることもあるんだからな?ちゃんと考えねーとダメだぞ?回復薬もお前らが思うよりも貴重品だからな?」
と、心配してくれるトリア。
その言葉にエンガは
「分かってる。大丈夫だぞ。もし、トリアが無理そうなら俺達で行くか、正規の値段払ってギチギチに規約で固めて別の冒険者に依頼するからな。回復薬は渡さずに、依頼料の《金》だけで。トリアの事は信じてるからな、出来ればトリアにお願いしてぇんだ。」
と、ドヤ顔で報告のエンガさん。
「そ、そうか。ま、まあ、オレも結構冒険者歴なげーしな、ルールは守るしな、エンガ達は友達だしな、引き受けてやっても、その、良いかな。」
と、嬉しさが隠し切れない様子でこちらをチラチラとみるトリア。
「おう!トリアに任せれば間違いねぇな!頼むぞ!あ、詳しい話は明日の朝、ヤエに冒険者ギルドで依頼出してもらうからよ、少し早めに冒険者ギルドに行ってもらっても良いか?なんか、指名料とか入るんだろ?」
と、トリアに聞いてみるエンガ。
「まあ、そうだな。指名料も少し上乗せになるし【こいつじゃなきゃ駄目だ】っつー信頼の証っつーか、他の奴らに対しても【こいつは頼む価値ありだぞ】って宣伝するって感じか?けどよ、指名するとプラスでギルドに金も取られるぞ?それでも良いのか?」
と、申し訳なさそうなトリア。
「あ、それは問題ない。お金はあるし、トリアに任せて安心を買いたい。」
そう告げると
「・・・そっか。あのよ、オークを狩るのと同時進行だけどよ、オレ、ちゃんとやるからな。あっちでは書けねーだろうから、こっちに戻ってからだとは思うけどよ、オレに出来る1番の出来で提出してみせるからよ、期待しててくれ。」
そう宣言したトリアの顔は、何かを決意したかのような顔をしていた。
「おう!頼んだ!」
と、エンガと固く握手を交わし、照れくさそうに、どうしたら良いのか分からなくて挙動不審なトリア。
そんな二人を見つめながら微笑ましく思っていると、
「そういやよ、トリアってどこに住んでんだ?結構遅くなっちまったけどよ、今から一人で歩いて帰れるか?大丈夫か?」
と、なぜか父性を溢れさせたエンガ。
毎回思うんだけど、エンガの父性、母性スイッチが謎です。
確かに暗くなってきたけど、冒険者に対して心配する問題ではない。
トリアの年齢的にも全然、平気な時間のはず。
なんで?
・・・・あ、もしかして、鳥目だと思ってるとか?
でも、冒険者よ?トリア。夜道でも問題ないはず。
そんな私の疑問と同じくトリアも疑問に思ったらしい。
「・・・エンガ、オレ、冒険者だから夜も平気で出歩くからな?お前、時々、オレの事ガキと間違えてねーか?お前のとこに菓子買いに行くガキとは違うんだぞ?・・・まあ、心配してんの分かるから怒る気にもなんねーけどさ。一応、冒険者ギルドが推奨してるとこに、毎日泊まって・・・。って!?ヤベー!!!宿取らずにそのまま来ちまってる!!オレ、回復薬買ってすぐ帰るつもりだったから!!もう宿ねーかも!?」
と、バタバタと立ち上がり、外套を羽織るトリア。
あれま。
連泊じゃなくて毎日宿取るタイプなのかな?
まあ、冒険者なら予定も未定だろうしそれも有りか。
なんて呑気に考えてる私とは反対に
「な、なんだっ!?って!?宿ないのか!?どーすんだ!?ごめん、俺が引き留めたせいか!?」
と、パニックになったエンガ。
トリアもパニックだからか、いつまでも外套が着れない。
手を突っ込んでるところ、袖じゃなくてフードよ、トリア君。
2人ともパニックだから、とりあえず落ち着いてもらわないと。
「トリアー。落ち着いて。もし、宿がなかったらどうするの?」
これ、一番大事。
フードに腕を突っ込んだままのトリアは情けない顔で振り向いて
「あ、う。の、野宿。獣人、大丈夫な宿、少なくて、ほか、高いから、オレ、あそこだけで・・・。うあー、依頼前に野宿かー、はぁー・・・・。あ、いや、大丈夫だ!オレ、冒険者だし、野宿慣れてっから!気にすんな!エンガ!オレ、宿よりも、美味い飯をお前らと食えた方がずっと嬉しいから!な?な?・・・だから、だからさ、また、また、誘ってくれよぉ・・・。」
と、トリアは一度は頭を抱えたが、エンガの顔を見て、突然笑顔を作り、また切なそうな顔に戻った。
トリアの急な表情の変化に私もついていけないんだけど、おそらく・・・。
明日から私達とネリーの依頼をこなさなきゃだから、しっかりと眠りたかったはず。
だから、獣人であるトリアが泊まれる唯一の安宿に泊まりたかった。
でも、私やエンガに誘われて、宿の事を忘れ、ご飯に惹かれて長居してしまって・・・。
野宿するしかない。
あー。野宿かー。正直、野宿嫌だなー。
そんなニュアンスの言葉を口にしてから気づいた。
そんなことを言えば、トリアを引き留めた私やエンガが傷つくんじゃないかって。
特にエンガは自分を責めるタイプだから、【自分たちが引き留めたせいでトリアを野宿させてしまった】と落ち込むんじゃないかと考えて、大丈夫だと言い直した。
責めるつもりなんてない!全然大丈夫だから!
宿よりも私達との時間の方が良いんだ!!
だから、また誘って。
【時間無いだろ?次からは無しな?】なんて言わないで、次も誘って。
オレ、嬉しかったんだよ?本当だよ?
だから、だから・・・。
仲間外れにしないで・・・・。
そう言ってるように聞こえた。
外套を着ることなんて忘れて、今にも泣きそうなトリアは、まるで絶縁状を叩きつけられたかのよう。
エンガはチンプンカンプンな顔してる。
【野宿する、けど、大丈夫で?飯が嬉しくて、また一緒にご飯。】って呟いてるもん。
まだ人との触れ合いが少ないからか、沢山の情報が入ると脳内パニックなんだろうね。
エンガも訳わかんなくて情けない顔してる。
その顔を見て、トリアもさらに泣きそうな顔。
なので、間に入らせていただきます。
お節介だとは思うし、エンガに相談もなく言っていいかも分からないけど、トリアを泣かせるのはエンガ的には絶対ダメだろうし、エンガに相談する時間も惜しい。なので、同時進行で。
「エンガとトリア。よく聞いてね?まず、トリア。ご飯に誘ったのは喜んでもらえたんだよね?」
トリアは黙って頷く。おそらく、言葉を出せば泣きそうなんだろう。
私もそのタイプだから分かる。
「で、宿が取れなかったかもしれなくて、野宿しなきゃいけないのも本当だね?」
下を向いたまま頷くトリア。
「明日から暫く、ネリーと私の依頼をこなさなきゃだから、正直に言うと野宿じゃなくて宿に泊まりたかったんだよね?で、宿に泊まれなくて落ち込んだんだよね?」
と聞くと、戸惑ったかのように少し間をおいて、小さく頷くトリア。
エンガも一緒に《なるほど》と頷いてる。
「あと、私たちが、《野宿になったのは【自分達がご飯に誘ったせい】だ。今後は誘わない方が良い》って考えて、誘ってくれなくなったら嫌だな。って思ったんだよね?」
そう聞くと、ビクッと肩を揺らしてから小さく頷くトリア。
このやり取りに驚いたのはエンガである。
「え!?誘うぞ!?確かに、今回は申し訳ねぇと思う。先に予定聞きゃあ良かったもんな。でも、次は宿の時間も考えて飯にすりゃ良いだろ?俺、トリアと飯食うのも話するのも好きだからな!これからは何時でも《キャクマ》に来て良いんだからな!一緒に飯くおうな!?」
と、トリアの両肩をつかんで揺するエンガ。
ヒートアップしてるとこ申し訳ないんだけど、話を進めましょう。
「で、ここで私から提案。エンガにも相談してないし、突然の事で二人とも驚くと思うんだけど、急ぎだから提案だけさせてもらうね。無理なら流して。エンガもよく聞いててね。」
というと、二人ともこちらを向いて首を傾げた。
獣人の小首をかしげる仕草、可愛いなぁ。
特にフルフェイスのトラさんが首傾げてるのめっさ可愛い。
「簡潔に言うと、トリアにはここに泊まってもらえばいいと思うの。客間だから一応、ベットも作ってあるし、トイレ(こちらに寄せてある作り)もお風呂もあるし、お泊り大丈夫だよ。それに、明日、朝一で冒険者ギルドに依頼するんだから、一緒に行った方が良いかなって。どう?まず、エンガ。このお部屋にトリアを泊めることに嫌な感じある?獣人の本能みたいなやつ。」
驚いた表情の二人を見ながら、エンガに問う。
もし、エンガが嫌だというのならば、最悪、庭に布団を出して、皆で夜空の下で雑魚寝も良いだろう。
ここは私のチートで害を寄せ付けないようになってるし、気温とかもある程度いじってあるので、その辺に野宿とか酒場でオールするよりも何倍もましだろう。
なんて次の計画を立てていると、エンガは即答した。
「んにゃ!俺達の家はあっちだからな。あっちは駄目だけど、この《キャクマ》なら全然良いぞ!!むしろ、泊まってってくれ!俺、友達が家に泊まるの、初めてだ!もう少し一緒に居られるし、朝飯も一緒に食えるよな? あ、トリアはどうだ?俺とヤエは泊まってって欲しいんだが・・・。」
と、初めての友達のお泊りにテンションアップ!!トリアの両肩をつかんで再び揺すってる。
トリアは無言である。
正直、お節介かなぁとも思うので、トリアの反応が気になる。
どうかなー。
冒険者だし、一人前の男だし、プライドが傷ついた!
とかあるかもだし。
と、思ったのだが、反応は思っていたのとは違った。
「・・・?お泊り?ここに?オレがここに?今?今夜?え、確かに、そこにベットみたいなのあるし、トイレも風呂も場所教えてもらったけど・・・。オレ、オレ、獣人だぞ?羽根、落ちるぞ?獣人だぞ?」
って、困惑のトリア君。
いや、パニックなのは分かるんだけど、これにはウチのエンガさんが一言。
「トリア、俺も獣人だぞ?」
と。
そうですよね。
どっちかと言えば、トリアよりもエンガの方が獣人って感じよ?
「トリア、良く考えてみてくれ。俺も獣人だ。俺も毛が抜ける。けど、ヤエはそんな事で怒ったりしねぇし、獣人なことも気にしねぇぞ?勿論、俺も気にしねぇし、寧ろトリアが泊まってくれたら嬉しい。寝る時は俺達はあっちに行っちまうし、あっちに入られるのは嫌だから夜はこのキャクマに一人にしちまうけど、寝る直前まで一緒に話とか出来るしよ、明日の朝には一緒に飯が食える。しかも、俺にとって人生初の《友達のお泊り》だ。嬉しい事尽くしだぞ?なあ?ヤエもそう思うだろ?」
と、トリアに言い聞かせ、私の方を向くエンガ。
「もちろん。エンガと一緒に住んでるんだし、獣人とかは関係ないよね。毛が落ちようが羽根が落ちようが、毎日掃き掃除するんだから、気にしなくて大丈夫。それに、トリアが宿に泊まれたかどうかを心配してヤキモキするのは嫌だな~。明日の朝ごはんを皆で一緒に楽しく食べれるのが魅力的だよね。トリアともう少しお話出来て嬉しいし、エンガも喜ぶし、私的には大賛成。」
と賛成の意見を言ったら
「じゃ!じゃあ、ほ、本当に泊っても...。良いか?良いのか?そっちには入らねぇ!こっちで1人で大丈夫だ!朝飯も嬉しい!手伝う!掃除だってしてく!だから、と、泊まっても良いか?」
と、言葉では疑問形だが、顔面が喜びで満ち溢れているトリア。
『もちろん!』
私たちの声が揃った。
トリアはモジモジしながら
「じゃ、じゃあ、今日はお邪魔する...。い、嫌になったら言えよ?外でも寝れるからさ!」
と、返してきたけど
「その時は、皆で庭に寝ようか。敷物と掛物を持って3人で野宿みたいに交代で火の見張りもして。まあ、今日は依頼前だから絶対に客間に泊まってもらうつもりだけど、今度、そういうお泊りもしたいよね。外に敷物引いてさ、一緒にご飯作って外で食べて、星を見ながらみんなで寝転んで。楽しいと思うよ。徹夜で話し込んでも良いし、交代で寝てみたり。冒険中みたいに次はどんな魔獣が出るか予想合戦してみたりね。」
と、ここまで話したら、二人の眼が輝いた。
そんな楽しい事あるの!?
良いの!?
また今度お泊り!?
みたいな、喜びの感情一色。
獣人って素直な人が多いのかしら?
二人が特別なのかな?
可愛すぎるんだけど。
「とりあえず、トリアが今回の依頼から戻って来てからだね。それまでに色々と用意しとこうね、エンガ。じゃあ、今日はトリアのお泊り決定ということで!新しいお茶持ってくるね。まだ時間も早いし、もう少しお話ししよう。」
と、再び席を立って、温かいお茶の用意に行くと、後ろからハイタッチと嬉しそうな言葉の数々が聞こえてきた。
普段、大人ぶってるトリアでもこの話には我慢できなかったらしい。
エンガと一緒に少年の様にはしゃぐ声が聞こえる。
取り敢えず、今日は明日の依頼に影響が出ない程度に話をして、明日の朝には温かい食事を用意して、ギルドで依頼して、トリアを送り出そう。
エンガと二人でお見送りしたら、きっとトリアは喜ぶだろう。
別に良いのに。とか、わざわざ来なくても。とか言いながら、照れを隠すようにモゴモゴ言いながら、きっと喜ぶだろう。
その様子を気にせずに、全力でお見送りするエンガは絶対に可愛い。
今から楽しみです。




