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友達との食事。

家に帰って、さっそくトリアを迎える準備を開始。

2人でお揃いのエピプロンを付けて、作業開始。


メインはオークのステーキ。

ステーキソースは摩り下ろしたリンゴや玉ねぎが入ってる、少し甘めのオニオンソース。

エンガも含めて一人一枚じゃ全然足りないだろうから、残ってるオーク肉の全てを用意しておく。

エンガのお気に入りのエビフライや唐揚げも揚げたてを用意。

油跳ねにビビるエンガさんもまた可愛ゆし。

シーフードのトマトソース煮も用意。

味見をしたエンガからの【もう一口】おねだりを三度繰り返し、少し具が減ったが悔いなし。

サラダはクルトンと半熟卵の乗ったシャキシャキ葉物野菜を中心としたシーザーサラダ。

盛り付けに全力を注ぐエンガを真横から眺め、脳裏に焼き付け至福の時。

主食にはお米とふわふわのバターロールとサクサクのクロワッサンを用意。

スープはコーンスープとコンソメの肉団子入りの両方を用意。

デザートはさっぱりとしたオレンジのタルトとイチゴのタルトを用意。

どれがトリアの好みに合うのかは分からないけど、どれかは気に入ってくれると思う。

量も大量に用意したし、用意万端。


そわそわと耳を玄関の方に向けながら用意するエンガがこの上なく可愛くて、夕食会は定期的に開催しようと心に決めました。




_________________



エンガとヤエの家に後で向かうと決めてから、時間が余っちまった。

エンガとヤエなら店を閉めて、そのままネリー達のとこででもお茶しながら売ってくれるかと思ったんだけどな。

客がいるんじゃしょうがねーよな。店閉めるわけにもいかねーだろうし。

・・・。

まあ、子供には嫌われ慣れてるし。オレも子供はそんなに好きじゃねーし。・・・・。でも、まあ、モモとかいう子供はそこそこ可愛かったな。ニコニコしてて、エンガみてーな気の抜ける顔っつーか。子供にあんな顔向けられたのは始めたかもな。

オレがガキの頃なんて、食いもんの取り合いで男女関係なくガキ同士でも本気の殴り合いしてたからな・・・。

獣人のガキは常にギラギラしてて、あんなホンワリした子供いねーもんな・・・。

っつーか、『ぴっぴ』って何だよ。

少し前のオレなら切れてガキ持ち上げるくらいはしただろうに・・・。

今では『ッピ』なんて語尾につけて喋るとか・・・。

思い出すと恥ずかしくて顔が燃えそうだ!!

くそー!!

なんでエンガは『にゃー』付けて平気だったんだよ!?

ホント、あのオッサン普通とは違うな!?

あー!!もう、とにかく、暇つぶしにネリー達のとこ行こ!!




「っつー訳でさ、本当に不思議だよな、エンガって。奴隷やってたんなら、復讐心とかで、もっとギラギラしてても良い位だろ?ホンワカとホワホワが揃うと気が抜けるぜ。まあ、ギラギラしてるエンガとは友達にはなれねぇだろうし、オレも好きにはなれなかったと思うけどさ、ホント、不思議な奴。」


さっきのエンガとヤエのとこでの出来事を解体作業してるコーザに話す。

ついでに、内臓の処理なんかを手伝ってやる。

オレは魔法も使えるし、その辺の処理は普通の奴よりもかなり簡単に出来るからだ。

昔、この街に来て間もない頃、冒険者として生きるのがやっとだった時、コーザの助手としてバイトさせてもらってたことがある。

おかげで、飯に困ることもなくなって、無理矢理の依頼探しが無くなって、今も生きてる。

コーザとネリーが獣人の友達を持っていたおかげで、オレがどんなに腹の立つ態度のガキでいても許してくれてた、嫌わずにいてくれた、大切な人たちだ。


「僕もエンガの『にゃー』とトリアの『ッピ』を聞きたかったなぁ~。ヤエは隣でニコニコしてたんでしょ?エンガ可愛いわ~ってさ。簡単に想像できるよね~。にしても、子供にイラつかずに優しく出来たなんて、大人になった証拠だねぇ~。未だにガキのままの獣人も多いけど、トリアは少しづつ成長してるねぇ。何だか嬉しいなぁ~。トリアは僕とネリーにとっては息子も同然だからねぇ~。うん、子供の成長は嬉しい!・・・・エンガはね、多分、知らないからホワホワなんじゃないかな?」

って、嬉しそうに言葉を返してきたコーザ。


「成長って・・・。オレ、もうガキじゃねーんだけど・・・。息子・・・。は、まあ、うん、っつーか、【知らない】って何を?エンガは知らないことだらけだろ?」

息子とか、改めて言われると・・・。

オレは、まあ、大事な人たちだと思ってるし、まあ、その、なんだ、家族も同然だとは思ってはいるけども。まあ、その、な。

どうにか話をエンガの方にずらしたけど、顔が熱い。


「エンガはさ【人を嫌う】っていう感情を深くは知らないんだと思うんだよね。【嫌われるのは自分】で納得しちゃうみたいだし。《人を嫌うほど人と関りを持ってこなかった》んじゃないかな~って、僕は思うんだけど・・・。エンガは生まれつきのフルフェイスだろう?フルフェイスはほぼ存在していないし、獣人にも嫌われるって他の獣人からも言われてるし、親御さんはエンガを抱えて単独で行動したと思うんだよね~。だから、エンガの知ってる世界は親御さんだけだったんじゃないかな?しかも、そのまま、子供の頃から大変な状態で奴隷になった。ひどい怪我で生死を何度も彷徨って、訳の分からないうちに奴隷として扱われて。もしかしたら、親御さんとの記憶も薄れてるかもしれない。愛された記憶も薄れて、周囲の存在との関わり方も分からなくて、兎に角、生きるために必死に、同じ位の男の人の話し方を真似して表面だけ成長しながら生きてきたんだと思うなぁ。だからさ、何をしても嫌わずに傍にいてくれる、無条件で自分を一番に大事にしてくれるヤエのいる隣で、もう一度人生をやり直してるんだと思う。だから、安心した子供みたいに純粋にホワホワしてるんじゃないかなぁ~?」


コーザはオレが照れ隠しに話を逸らしたのを理解したかのように、こちらを見ないまま、エンガについて話をしてくれた。

オレは、最初は単純にネリー達の友達ならオレも仲良くしとこう。程度にしか思ってなかった。

でも、エンガ達を知って、仲良くなりたくて友達になったわけだけど、オレはエンガの事を深く考えたことはなかった。

エンガには親代わりがいなかった。

それならあのホワホワも納得だ。

獣人は独り立ちが早い。

そのために幼少期から親や村の年上勢がこぞって鍛えてくれる。

一人で生きる為に、《人間になめられない為》に。

狩りや簡単な料理、出来るだけの戦力。

獣人集団での狩りなんかも学ぶ。

周囲と切磋琢磨、本気でぶつかり合って、互いの意見をぶつけ合う。

時にはこぶしで語り合う。

エンガにはそういった経験がない・・・。

だから純粋なままで、競争心もない。

心を護ってくれるヤエが傍にいるから無邪気なままホワホワしてんのか。



フルフェイスは人間よりも獣人から嫌われてる。

それは

【人間が獣人を馬鹿にするのは、フルフェイスのせい】

だと言われているからだ。

獣人は【自分たちは人間に獣の強さを足した強者、優れた存在】だと誇りを持っている。

が、

人間は獣人を【獣と人間の混血】や【人間を真似た獣】だと評する。

特にフルフェイスは【二足歩行の人間を真似たケモノ】だと言われる。

そのせいで、獣人は自分たちの評価を下げるフルフェイスを嫌う。

オレはフルフェイスだろうとなかろうと、人間だろうと獣人だろうと、嫌いな奴は嫌いだし、好きな奴は好きだから気にしねー。

現に、ネリーとコーザは人間でも好きだし、エンガとヤエもフルフェイスの獣人と若い女だけど友達になるくらいには好いている。

獣人でも嫌いな奴は大勢いるし、血縁でも世界一番嫌悪している奴もいる。

だから気にしたことなかったな・・・。

そっか。

これから気にしておくべきだな。

他の獣人の奴らがエンガを受け入れるとは限らねーんだもんな。

良い奴でも、【フルフェイスの獣人】なだけでエンガを嫌うこともあるかもしれねー。

そいつらが今のホワホワしてるガキみてーなエンガに嫌がらせをするかもしれねーんだ。

オレが気を付けといてやんねーと。

しょーがねーなー。

手のかかるオッサンだ。

まあ、オレ、エンガの友達だかんな。守ってやらねーとな。

そう一人で納得して頷いていると


「で?トリアは何を手土産に持っていくんだい?」

と、コーザが話を振ってきた。


「・・・ん?土産って?」


何の話だ?

別に旅に行った帰りでもねぇし、土産も何もねーけど?

そう思ってコーザの方を見てみると、困った顔をしたようなコーザと目が合った。


「ん~とね、僕たちのところに来たり、相手の店にお邪魔したりする気軽なものなら気にしなくていいんだけど、今回は【営業時間外に販売を頼んだ】んでしょう?で、今から個人のお宅にお邪魔するなら、軽い手土産なんかを持って行った方が良いんじゃないかな~?まあ、あの二人なら無くても気にはしないとは思うんだけどね~。まあ、普通の場合だから今回は気にしなくても良いかもだけど、今後の為にも覚えておこうね~。」

なんて軽い口調で告げるコーザに血の気が引く。


知らなかった。

オレはこの肉屋と酒場と飯所と宿くらいにしか行かねーから。

そんな決まりがあったなんて・・・。

コーザとネリー以外にまともな友達なんていたことねーし・・・。

よく考えたら、ここ以外の【友達の家に行く】のって初めてだ。


「コ、コーザ・・・。どうしたら良いんだ?と、友達の家に行くのって、何を持ってったら?」

頭の中が真っ白になる。

オレ、今、出せるもの何かあったか?

つーか、あいつらが喜びそうなもんって・・・。

んと、んと、んと・・・。


「そうだね~、ヤエが料理上手だから食品はやめた方が良いね~。こだわりも強いだろうし。候補としては、手軽で相手の負担にならないもの。かな~?」


なんだそりゃ。

まあ、確かにヤエの料理はすんげぇ美味かった。

エンガがどんどん食わせてくれたけど、あんなに沢山の飯を《好きに食え》って渡してもらえたのも初めてだ。

基本は取り合いの世界だからな・・・。

っつーか、相手の負担になるもんってなんだ?

ネリーの総菜でも買っていけば良いかと一瞬考えたのに、駄目なのか?

え、他に何があんの?


「そうだね~、あの二人の事だから何でも喜んでくれると思うけど・・・。う~ん。あ!薬草とか良いんじゃない?それか花とか?」

と、うんうん一緒に悩んでくれているコーザ。


「薬草・・・。花・・・。薬草は高けぇからなー。花屋はオレは行けねーし。・・・。あー、あれなら何とか・・・。なんでも良いもんなのか?土産なんて用意したことねーから分かんねーんだけど・・・・。」

一応、候補が浮かんだので恐る恐るコーザに『本当に何でもいいのか』聞いてみる。


「なんでも良いと思うよ。こういうのは気持ちだからね。」

と、笑顔でコーザが賛成してくれたので、オレが持っている物の中から持っていくことにする。


今更だけどよ、あいつらの家に行くの緊張してきたな。

まあ、玄関先で回復薬売ってもらうだけだけどよ・・・。

土産持っていくなんて、今までにねーからな・・・。




__________



土産、本当にコレで良いのかよ?

2人を思い出しながら、喜びそうなのを用意したけどよ、変じゃねーか?

大丈夫か?

というか、時間、今で大丈夫か?

店もあるだろうし、まだ帰ってねーんじゃ?

もっと遅い方が・・・。

いや、遅すぎるとあいつらも困るよな・・・。

あー、時間決めとけば良かったぜ。

と、今更だが門の前でグダグダと考えていると


「トリアッ!!」

急にエンガとヤエの家の玄関が開いた。

勢いよく。

バンッ!!と、扉が開き、そのまま壁にぶつかり跳ね返って閉まるくらいには強く開いた。


んで、一度見えた満面の笑み&聞こえた声の持ち主はエンガだ。

勢い良すぎて一瞬で見えなくなったけど。

相変わらず、気の抜けるオッサンだな~。

と思いつつ、緊張してた肩の力が抜けたのを感じる。

っつーか、あの勢いで扉外れねーの?壁へこまねーの?この家すげぇ頑丈だな。


「わりぃ!!トリア!開けたのに閉まっちまった!よく来てくれたな!ヤエー!!トリア来てくれたぞ!!キャクマの方に案内して良いか!?」

と、エンガが家の中に向かって叫ぶので驚いた。


「ちょ、待て待て。エンガ、オレは家には入らねーよ?」


キャクマが何かは分からねーが、案内っつーからには家の中だろ?

家には入っちゃダメだろ。

話は玄関で・・・。

って、なんだ、その顔。

何でそんなにしょんぼりしてんの、このオッサン。


「も、もしかして、時間ないのか?急いでるのか?ちっとで良いんだが、寄っていけないか?」

と、しょんぼりしたエンガから思いもよらない言葉が聞こえる。


「いや、時間はあるけどよ・・・。家の中は駄目だろ?」


「ん?なんで駄目なんだ?家というか《キャクマ》っつー《ハナレ》なんだが・・・。嫌か?」


ん~~~~~????

なんだ、この噛み合ってない会話。

エンガは寂しそうな顔でオレの事見てるし、そもそも《ハナレ》って何だよ。

分かんねー。


エンガと二人で首を傾げてると


「いらっしゃい、トリア。ん?二人とも首傾げてどうしたの?凄く可愛いけど。」

家の奥からヤエが現れた。

可愛いってなんだよ。

獣人の男二人が首傾げてて可愛いはねーだろ。

というかあれだな、揃いのエプロン姿の二人はもう、新婚夫婦にしか見えない。

例え、エンガがまだヤエに婚姻の申し込みをしてないとしてもだ。

だとしたら、やっぱり断らねーと。


「ホラ、やっぱり二人で住んでんじゃねーか。だったらオレが入ったら駄目だろ。」

と言うと、今度はヤエも首を傾げた。

なんで首傾げてんだよ。

何なんだよ、お前ら。


「なんで駄目なの?私達、今日はトリアを夕飯に誘うつもりだったんだけど、時間無い?」


ん?

夕飯に誘う?

オレを?

飯に誘ってくれんのか!?

あの美味かった飯、もっかい食えんのか!?

おおおおお!やったぁぁぁぁ!!!

って待て待て待て。

まず、ちゃんと話しねーと。

これ、獣人の習性が分かってねー感じだよな?

オレが説明しなきゃいけない感じだよな?


「あー、とな、誘ってもらえるのは嬉しいんだけどよ、オレが家に入るの、エンガが嫌がるだろ?」

直接嫌だって言われるのは気まずいので、つい、視線が泳ぐ。


「ん?俺がトリアを嫌がるのか?一緒に飯食いてーのは俺だぞ?」

ってエンガは不思議そうだけどな、


「あのな、エンガは獣人の習性に詳しくねーから知らねーのかもしれねーけどな、獣人はつがいと住んでる家に他の生物が入るのは嫌がるもんなんだよ。大丈夫だと思ってても、オレが家に入った瞬間、すげぇ嫌悪感が湧くと思うぞ。獣人の本能だからな。特に男は過敏だからな。この前、ヤエにオレの匂いがついた時も嫌だったろ?家に他の野郎の匂いなんざついた日には大惨事だぞ。覚えとけよ?」

と、教えてやると


「へぇ~。」

と、納得したかのように頷く二人。


「んだよ、知ってたのかよ?オレ、そんなことでお前らに嫌われんのヤだからな?家には入んねーよ。玄関の前で良い。」

エンガに嫌われたら最後、ヤエもオレを嫌うだろう?

こんなことで2人も同時に友達をなくすのは嫌だ。

まあ、一緒に飯が食えねーのは残念で、二人が招いてくれようとしてくれたのは素直に嬉しいけどな。

少しの寂しさと安堵を感じていると、エンガが続けた。


「ああ、知ってたんじゃなくて、分かったって感じだ。《ツガイ》が何なのか分かんねぇんだけど、俺、いくらトリアが相手でも、こっちの家に入れんのは嫌な感じがするからな。そっか、獣人の本能なのか。俺が変なんじゃなくて良かった。でもよ、俺たちが誘ってんのは、こっちの《ハナレ》なんだが・・・。どうなんだろうな?分かんねぇから、取り敢えず入ってみねーか?こっちは入っても平気だと思うぞ?」

と、よく分かんねーけど納得はしたらしいエンガが玄関から出て、別のドアを指さす。

玄関とは別の、飛び出た作りの部屋っぽい所のドアだけど、何なんだあれ。

っつーか《ハナレ》ってなんだよ。知らねーよ。

でも、そっちの建物が嫌で、こっちは平気だって考えてんなら、本当に平気なのかもな・・・。

《家》と《物置》みてーな感じに区別してるんなら、平気だよな・・・・。

嫌われるのは嫌だけど、一緒に飯を食うのは魅力的だ・・・。

美味い飯を、エンガとヤエと3人で食えるなら・・・・。

少し、試してみるのも良いかもしんねー。

少しだけ。嫌がったらすぐに離れればいい。

んで、離れたらスグに渡すの忘れてた手土産渡して仲直りして、また今度の狩りに誘って・・・・。

よし、男は度胸だ。

少しだけ、少しだけ試してみよう。

まだツガイじゃねーから平気なのかもしれねーし。


「オレは《ハナレ》が分かんねーんだけど・・・。少し試してみるか?まあ、入ってみて、嫌ならすぐに言えよ?エンガが大丈夫だっつーんなら、寄ってっても、まあ、良い、か。暇だしな。」

なんて、また最初の頃みてーに嫌な感じで言っちまった。

誘ってもらえて嬉しいのによ、家に入れてもらえるかもって、一緒に飯が食えるのかもって期待してんのにさ。

オレって本当に駄目なヤツ。

自分で自分が嫌になる。

友達だって認めてるし、この前の狩りの時には仲良く出来たのに。

照れたりテンパると、直ぐに嫌な奴に逆戻りだ。


「おお!時間あんなら良かった!!とにかく入ってみてくれ!もし、嫌なら言うからよ、そしたら外で食おうぜ!椅子と机出してよ、中から料理を運べば問題ねぇだろ?今日は月も出ててるし、ランプもあるかんな!きっと楽しいぞ!」


オレが自己嫌悪してる間にエンガが嬉しそうに話を進めていく。

オレと飯食うのがそんなに嬉しいのかよ。

オレなんかと・・・。

オレは・・・嬉しい。

エンガ達と飯食えるの嬉しい・・・。

素直に言えたら良いのによ、オレ、本当に駄目なヤツ。


そんな風にグダグダ悩んでるオレをエンガが《キャクマ》に引っ張ってってくれた。

開かれた扉の前に立ち、エンガの顔色を窺いながら少しだけ足を入れてみる。

エンガが嫌そうな顔をしたら直ぐに飛びのける様に、足に力を入れて様子を窺うと・・・。


「ん。平気だ。大丈夫だ!嫌な感じしねぇよ!よし、これで大丈夫だな?一緒に飯食えるな!?今日な、俺もいっぱい手伝ったんだぞ!ステーキは今から焼くからな、座って待っててくれ!すぐに用意するな!」

と、エンガはニコニコと太陽のように笑う。


エンガにぐいぐい押されて中に入り、椅子をすすめられて、座って、周囲を眺める。

思ってたよりもしっかりとした生活してるみたいだ。

良かった。

回復薬屋で金持ってんの知ってたけど、立派な家に家具もあって、幸せそのものだ。

良かった。

何だか嬉しい。

そう考えてるといい匂いがしてきた。

しかも、二人のウキウキとした声が聞こえる。

良いな、なんか、この感じ。

ネリーとコーザのとこで食わしてもらってた頃を思い出す。

ここまで考えて、やっと。

2人に嫌われなかった事とオレを歓迎してくれてることに実感が持て、安堵のため息が漏れる。


「お待たせ~!!」


ヤエの言葉を筆頭に二人はどんどん料理を運んでくる。

こんなに沢山、今日は何かのお祝いなのか??

だからオレも誘ってくれたのか??

ホカホカの湯気の立つ暖かい飯。

誰かと食べる飯、久しぶりだ。


「沢山用意したからな!遠慮せずに食えよ!?俺もいっぱい食うからな!!」

と、気合十分のエンガに


「回復薬の話はまたあとでね。先に食べちゃおう。冷めちゃうからね。」

と、ヤエも大きな器にスープを盛ってくれる。


あ、そうだ、忘れてた。


「あ、あのよ、これ。大したもんじゃねーけどよ、一応、土産っつーか、なんつーか・・・。」

ずっと手に持ってたせいか、手のぬくもりが移ってしまった土産を差し出す。

こんな豪華な飯に招いてもらったのに、こんなものを出すのは気が引ける・・・。

一応、瓶に入れて紐でそれらしく結んではみたが・・・・。

もっとちゃんとしたの用意すればよかった。

そう思っても後の祭りだ・・・・。

後悔でいっぱいで俯いていたオレに弾かれた様な声がかかる。


「わぁ!お土産貰うの初めてだよ!トリアありがとう!初めて見たけど、香木?瓶に入っててお守りみたいで可愛い!!」

と、声を弾ませながら、興味深々に瓶を眺めるヤエ。


「うおお!!俺も土産貰うの初めてだ!嬉しいな、ヤエ!ありがとう、トリア!!」

と、ヤエの掌の瓶を一緒に眺めるエンガ。


よく分かってもいない中身なのに2人は大喜びで、オレはこんなに喜んでもらえるなんて思ってなくて、胸の辺りが熱くなる。

コーザが言ってた【きっと二人は何でも喜ぶ。】は本当で。

俺なりに二人が喜んでくれるように必死に考えて選んだ物は内容に関係なく本当に喜んでもらえた。


『ありがとう!トリア!!』

2人の声が揃ってオレにお礼を言う。

こいつらは本当に素直だよな。

エンガもヤエもニコニコの笑顔だ。

これが愛想笑いだっつーんなら、他人の表情なんて何も信じらんねーわ。


「ま、まあ、・・・、・・・喜んで、もらえて、良かった。・・・・それ『マタタビの木』とかゆー奴で、ネコ科の獣人が喜ぶらしいんだ。ご機嫌になるって。昔、依頼で採ったヤツのあまりだけど、そこそこ珍しいし、エンガが喜ぶんならヤエも喜ぶと思ってさ・・・。・・・友達の家に土産持って行くのなんて初めてで、なに持ってったら良いか分かんなくて、コーザに聞いて、焦って、でも、お前らの事考えて選んだんだ。喜んでもらえて、嬉しい。・・・飯、飯も誘ってもらえて、嬉しい。」


いつもみたいに少し上から目線な事言っちまうかと思ったけど、口から出たのはオレらしくもない、たどたどしいけど素直な気持ちだった。

エンガは優しい笑顔でヤエは少し驚いた顔してやがるけど、こんなのオレが一番驚いてる。


「ふふ、トリアが夕食会を喜んでくれてるって分かって嬉しいよ。それに、この『マタタビの木』も嬉しい。エンガが喜ぶんなら、私にとっては金塊以上に価値のあるものだからね。私の事、良く分かってるよね、トリア。さすが、私達の友達!」

と、親指をぐっと立てて、良い笑顔のヤエ。


「ああ。俺達の事を考えて選んでくれたんだな。すげぇ嬉しい。飯も喜んでもらえて嬉しいし、トリアとヤエと一緒に飯食えるのも嬉しい。俺、今、幸せだ。」

と、ふんわりとした優しい笑顔のエンガ。


何だか恥ずかしくなってきた。

そう思っていると《クキュー》とオレの腹が鳴った。

このタイミングでかよ!?


笑うなヤエ!!

お前なぁ!!腹抱えて笑ってんじゃねぇよ!!

ん・・・?

あ、うん。

お前と同じくらいの大盛で頼む、エンガ。

ん?

ああ、これも良いのか?

食う、食う、大盛で。

ん、肉多めで。

・・・・。

ヤエ、【エンガの母性がカンストしてる。最高。】って言ってんの聞こえてるからな?

エンガは不思議そうにしてるけど、オレ、何となく分かるからな?

ん?

イタダクマス?してから?

ああ、食事の挨拶な。

ん。

みんなで一緒に『イタダキマス』。


こうして賑やかな夕食が始まった。

美味い飯を食いながら、

頑張ったところを一生懸命伝えてくるエンガと、エンガを褒めてオレにドヤ顔してくるヤエ。

あれもこれもと、オレの皿に色々と盛ってくれるエンガと、【女神か】と呟くヤエ。

オレの冒険者としての話が聞きたいと子供のようにはしゃぐエンガと、【エンガ可愛いな~。で、私も聞きたい。】と話しにのってくるヤエ。


今日の夕飯で改めて分かったのは、

エンガは俺よりも食うって事。

エンガは会話が大好きだって事。

エンガは面倒見がいい男だって事。

ヤエの飯はやっぱりウメェって事。

ヤエはエンガを溺愛してるって事。

ヤエは気を許してる奴の前では素の呟きをどんどん零すおもしれー女だって事。

それから、二人がオレの事を本当に大事に思ってくれてる友達だって事。

こんなに楽しい夜は久しぶりだ。

デザートと茶を飲みながら、オレたちの話はまだまだ続く。


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