お部屋の増築。
テル少年たちが自由に喋り、大学芋を食べているのを眺めていると、声がかかった。
「ヤエさん、商品がなくなったらどうすれば良いんだ?追加の商品はあんのか?これで終わりか?そろそろ商品がなくなりそうだから、一度こっちに来てもらっても良いか?」
と、私のお店《もしゃもしゃ草》の店員ボリスさんが私を呼んでいた。
「こっちは大丈夫だから、ヤエの店の方行ってくれ。テルたち、まだここで食ってくみてぇだし。もし、なんか変な客が来たら呼ぶからよ。」
と、エンガが背中を押してくれたので、あちらに向かうことにした。
「オッサンは俺たちが見ててやるからさっさと行って来いよ!」
なんてテル少年の上から目線の声が聞こえたので、それに軽く笑ってあちらに向かう。
いつの間にかテル少年にとって、エンガも守るべき対象になってるのが微笑ましい。
エンガさんや、もしかして人たらしの才能があるんじゃなかろうか?
ヤエさんは心配だよ?
と考えつつ、今はこっちに集中しなきゃ。
「ボリスさん、カルロスさん、お疲れ様です。売上げ、どんな感じですか?」
さてさて、店員さんを雇ってからの売り上げはいくらになるのかな?
聞いてみると、手帳を取り出しカルロスさんが説明してくれた。
「作業中に呼び出してすまないな。では、ここまでの報告を。回復薬とチャーシューマンは完売。フライドポテト残り1袋、オニオンリング残り4袋、さつま揚げは残り5つ。肉みそはすぐに食えるものではないという理由でまだ売れていない。芋は並んでいる人数で打ち止めなのでな。これ以上並ぶ前に来てほしかったのだ。どうする?チャーシューマンと芋が無くなれば人も途絶えると思う。ここで店じまいの場合は良いが、全てを売る場合、売れ筋の商品が無くなったのでは人が来ないやもしれん。そろそろ昼の時間になるが・・・。どうする?追加の商品を持ってきてもらうか、このまま残りの商品だけを売るか、今日はここで閉店にするか、判断を頼む。
あと、ここまでの売り上げの確認を頼む。種類別の合計がここ。全体の合計金額がここで、売上金の大半はこちらに。釣銭は店の方に置いてある。確認を頼む。」
そう言いながらこちらに手帳を見せてくれるカルロスさん。
うおおお。
カルロスさん超優秀!!自分で纏めてくれてるし。
持ってきた商品もほとんど売ってる!!
というか、思っていたよりも売れすぎてるらしい。お昼時には一番売れると思ってたから、今の状態で商品がないのは困るかな。もっと売れるのなら売ってほしい。せっかく雇ったのに午前中だけで返すのも惜しいし、一日を通しての販売の様子も見たい。
お米がまだメジャーじゃないから肉みそはしょうがない。
小瓶だから値段も張るし、硬いパンに塗るのに美味しいか分からない小瓶を買うのは大きな賭けだろうから、肉巻きおにぎりを含め、米類が広まらないと無理かなぁ。
ネリーのところで、肉巻きおにぎりとは別に肉みそお握りでも売ってもらおうかな?
その方が売れる気がする・・・・。
にしても、売り上げを表にまとめるなんて考えなかったわ。
次からは表にした専用の用紙を用意しよう。
最初に用意した個数とかも書ける書式の奴。
商品を取りに戻るかどうかに関しては、とりあえずエンガに相談だな。
「お二人ともお疲れ様です。肉みそは長期的に販売しようと思っていたので大丈夫です。ほかの品は補充するかエンガと相談するので、そのまま残りの商品だけでお願いします。売り上げは引き続きそのまま記録をお願いします。こちらで気づくべきことなのにお手数をおかけしてすみません。助かります。明日には専用の用紙を用意するので、今はこのままお願いします」
と、返答してエンガのもとへと戻る。
そして、子供たちや周囲の人には聞こえないように手を添えて、エンガの耳元で相談する。
「エンガー。《もしゃもしゃ草》の商品が無くなりそうなんだって。午後もお店を開くなら、お昼近いし追加した方がいいと思うんだけど、この場でカバンから出して追加は出来ないじゃない?温かいのを出すなら、作ってきた風を装わないといけないんだけど、どうする?今日は《もしゃもしゃ草》は午前中だけにする?それとも、《もふもふ雲》を一時的に休憩にして家に仕入れに行く?」
腰をかがめてふわふわの耳を寄せてくれるエンガさん、マジ愛おしい。
「おおっ!すげぇじゃねぇか!そんなに売れるなんて!!そうだなぁ、午後も今以上に売れるだろうしな・・・。商品、取ってきた方が良いんじゃねぇか?テル達も食い終わったみてぇだし、一回帰って、商品もってもう一回来ようぜ。・・・・・それに、トリアを迎える用意、した方が良いだろ??トリアが良いって言ったら、一緒に飯食うんだろ?な?」
と、売れたことを自分の事のように喜び、トリアをお招きすることが嬉しいのか興奮気味のエンガ。
【トリアを迎える用意】は増築の事なのでもちろん小声で。
エンガの声が耳元で聞けるのは本当に良いもんである。
耳が幸せ。
一人でうっとりしていると、
「お~い、《もふもふ雲》は昼休憩にすんぞ~。テル、食い終わったし大丈夫だよな?ほかに買うもんとかあるか?片付けても良いか?」
と、自分が座っていた椅子なんかを片付けながらテル少年たちに問うエンガ。
「ん?へーき。もう食ったし。片付けていいぜ。モモ、休んだから歩けるよな?無理なら兄ちゃんがオンブしてやるけど、どーする?」
と、テル少年は他の子たちにも目線を向け、全員が食べ終わっていることを確認した後、しゃがんでモモちゃんに背中を見せた。
すると、モモちゃんがテル少年の背中にゆっくりとした動作でくっつき、
「にーちゃ、モモ、モモ、ねむねむー。」
と、うとうととした声色で首に手をまわした。
すると、他の少年たちがモモちゃんを支えるように手を貸し、テル少年が立ち上がった時に足を持てるようにしていた。
手早くテル少年の背中にモモちゃんを背負わせる少年たち。
手慣れてる・・・。
きっと、モモちゃん以外の子たちも小さい頃はこんな風に年上の子たちに背負ってもらいながら帰っていったのかな?
なんて想像しつつ眺めていると、
「またな。」
と、少年たちを引き連れて颯爽と去っていったテル少年。
本当に、昨日のクソガキモードどうしたよ?
お姉さんは驚きで声が出ないよ・・・・。
運び屋の二人の少年も含めて、こっちの世界の少年は油断できないよ・・・。
「うし、こっちも片付け終わったから、帰ろうぜ、ヤエ。」
と、エンガは既に商品をしまい【昼休憩】の看板を出し、こちらに手を伸ばしている。
さすがエンガ。動きが速い。
私が驚いている間に終わってたよ。
「片付けありがとう、エンガ。じゃあ行こうか。」
エンガと手を繋ぎ《もしゃもしゃ草》の二人に声をかける。
「カルロスさん、ボリスさん、追加の商品を持ってくるので、午後も店番をお願いします。戻ってくるまでに少し時間がかかるので、お二人も今並んでいる分の販売が終わったら二人でお昼休憩に入ってください。鞄に商品をしまって【昼休憩】の看板出しててくれればいいので。」
「おう。了解した。んじゃ、今の分が終わったら商品引っ込めて、家で飯食ってくるわ。爺!さっさと終わらせて飯食おうぜ!」
と、頷くだけのカルロスさんとは対照的に、お昼をご飯を家で食べるのが嬉しいのか一気にテンションを上げ、倍速で動き始めたボリスさん。
そんな二人を背にエンガと二人で一時帰宅。
あまり時間をかけるのもあれだから、少し急ぎ気味に歩いて無事に帰宅。
お昼ご飯もそうだけど、トリアを迎えるためのお部屋を用意しなきゃならない。
おご飯は炊いてあるし、パンもあるので、酢豚と豆のトマト煮と温野菜とスープ。
エンガと二人でお揃いのエプロンをして、キャッキャうふふで急いで作る。
ホント、幸せな新婚生活を送ってる気分。
最高です。
そんな感想を抱いていると
「ヤエ、部屋造ってきて良いぞ。俺、盛り付けしとくからよ。部屋造るのも見てみてぇけど、一人での盛り付けもしてみてぇから。あ、でも、後で見せてくれよ?」
と、一緒にやると言いそうなエンガがそう言ってきた。
「ん?見なくていいの?一緒に造らないの?お部屋。」
と聞いてみると
「ん。造るの見るのは今度で良い。今度、俺の為に《解体部屋》をハナレ?に造ってくれるって言ったろ?だから、俺はそん時に見る。そん時は時間かけて一緒に考えて、一緒に造ろうな。今回は急ぎだし、俺、初めて見るのは【ヤエが俺の為に作ってくれる《解体部屋》】が良いからよ、今回は見ねぇ。今日はキャクマ?とかいうのだろ?俺、それよく分かんねぇから、盛り付けの方、頑張る!美味そうに盛るから楽しみにしとけよ!!」
と、ウキウキしながらお皿の準備を始めるエンガさん。
どうやら、今回増築する客間という感覚がよく分からないらしい。
まあ、リビングをもう一個くっつけるだけなんだけどね。
でも、そうかー。
お客さん用の部屋よりも先にエンガの《解体部屋》造って見せてあげればよかったなぁ。
エンガが見てないところで1人で作業するのってなんか違和感。
そう思っていると
「キャクマ造っていいぞ?トリアを夕飯に招くっつーのは絶対にやりてぇし、増築は賛成だ。俺、人を招くなんてしたことねぇから、ウキウキしてる。トリアも、あんましそーゆーの慣れてなさそうだしよ、美味いもんいっぱい用意したら喜びそうだろ?トリアが喜んだら、俺も嬉しい。ヤエもいてくれて、一緒に喜んでくれたら更に嬉しい。けどな、いくらトリアでもこの家の中に入れるのは嫌だ。ヤエと二人で住んでるこの部屋の中に入れるのは嫌だ。それと、俺の《解体部屋》はヤエと二人でちゃんと話し合いして、じっくり考えて、二人で造りてぇから、今すぐ【適当】に造るのは嫌だ。ちゃんと2人で時間かけて造りてぇ。だから、今日のキャクマはヤエが一人で造ってくれ。俺はみねぇ。俺は盛り付け頑張る!」
と、高らかに宣言するエンガ。
なるほど。
ハナレに造る予定だった解体部屋は、ちゃんと2人でいっぱい考えて、エンガの意見も聞き入れて、ちゃんとしたものを作りたいもんね。妥協したくない。
でも、客間はそうでもないし、エンガは客間に関してはそんなに興味が無いんだろう。
それに、一人での盛り付けに燃えてる。
と言う訳で、ここはエンガにお任せ。
「じゃあ、盛り付けはエンガにお任せするね。好きなお皿使って大丈夫だからね!楽しみにしてるよ!客間はパパっと造ってくるから~。」
と、任せろと胸を張る可愛いエンガに見送られ、一度外に。
ちょうどリビングの横辺り。
畑とは反対側の壁の前に、木の棒で線を引いていく。
私とエンガの愛の巣(本宅)には誰も入れるつもりはないので、ここは余裕をもって大きめに造っておく事にする。
大きさを決めたら、あとは頭の中でイメージ。
最初の時は、実際にあった私の家の中身をグレードアップしてこちらに持ってきた感じだったが今回は違う。
外装だけじゃなく、内装もこちらの世界に近づけて造る。
家具まで付くかは分からないので、出来なければ後で買いに行こう。
机は大きめの丸い奴。椅子は背もたれがあって、エンガ用の大きいのとトリアや私の普通用の椅子。
暖かい絨毯と、木枠の窓も二つ付けて、暖炉と煙突。
長くて幅広のチェストと、壁にかける絵があると直よし。
あ、あと《神棚》もついでに造っておこう。
神様の像とお酒や食事を載せられる大きさの神棚。
ま、全部は無理だろうけど、願うは自由。
これを想像しながら、出来る。私は出来る。
よし、『お前は客間だ、私が想像した客間だ、屋根も壁もある、客間だ、お前は客間なのだ~!』
と魔力を練りながら形にしていく。
すると、ものの数分で大きな魔力の塊が部屋になった。
扉を開けて入ってみると、大きな部屋の真正面に扉がある。
おそらく、あれがあちらの家のリビングへ続く扉だろう。
そこには【エンガと私しか開けられない・通れない魔法】をかけておく。
ついでに、あちら側がよく見えない様に認識を曖昧にする魔法もかけておく。
あ、トイレとか洗面所忘れてた。
お客様には必要だよね。
左手の奥の方に扉を作り、手前に洗面所、その奥にトイレを作る。
大きさ、備品もほぼ完ぺき。
多分、神様が協力してくれたんじゃなかろうか。
神棚めちゃくちゃ立派なの出来てるし。
神棚の上の神様の像、めちゃくちゃ美形に豪華に造られてるし。
神様、この部屋で一番力入れたの神棚でしょう?
木目が輝いて見えるよ。お茶目な爺ちゃんだな、ホント。
後でお供えさせてもらいます。ありがとう、神様。
と、絨毯や絵はなかったので、後で買いに行かないと。
暖炉はあるけど木材はなし。自分で用意しないと。
簡素な感じではあるが、願ったもののほとんどが用意された部屋が出来てよかった。
机なんかも後で良いものを買ったり造ればいいものね。
さて、こちらはこれで終わり。エンガの方に戻りましょう。
「こっちは終わったよ、エンガー。」
と、客間の方の扉からリビングに入ってみる。
「おう!俺の方も終わってるぞ!!こんなんで良いか?水もスープも盛ってあるし、フォークとスプーンの用意も完ぺきだぜ!」
と、机を指さしながら盛り付けを見せてくれるエンガ。
「わあ!本当だ!全部完ぺきに用意してあるね!それに、お皿と食事の色合いも丁度いいと思うよ!ありがとうエンガ!客間はご飯の後に説明するね。温かいうちに食べちゃおう。」
エンガの盛り付けは中身が少しごちゃっとしているが、お皿と用意した食事との色合いのバランスが凄くいい気がする。
色彩のセンスがあるのかも。
さすがエンガ。
そう褒めながら、二人で楽しく食事する。
食事が終わったら、簡単に客間の紹介。
置いてあるもの一つ一つに凄いと声を上げるエンガは本当に可愛い。
国宝級だと思う。
もっと世界的に保護すべきだと思う。
そんなエンガがせっかくだから神棚に何か上げたいというので、お店用のじゃがマヨとチャーシューマン、タルトを1カット、神棚にあげる。
料理に使っている清酒もコップ一杯。
一度に全種類出すのは勿体ないので今回はこれだけ。
お供えして、二人で頭を下げる。
声には出さず、心の中で客間建設のお礼を言う。
『なに言えば良いんだ?えっと、今日も一日、すごく幸せです。キャクマ造るのにヤエの手伝いしてくれて、ありがとうございます、神様。これ、おれとヤエで作ったんだ、です。ウメェから食ってみてください。これからも宜しく頼みます。』
『今日もエンガが可愛いです。ホント、このオッサン最高に可愛いです。愛おしいです。エンガに会わせてくれてありがとうございます。あと、客間へのお力添えありがとうございます。今度、エンガの解体部屋を造るときも宜しくお願いします。可愛いエンガの為に、神様の全力、見てみたいっ!そーれっ神さまっ!!かっみさっまっ!かっみさっまっ!!・・・・。その際には清酒1本とお好きな食べ物をお供えさせていただきます。よろしくお願いします。」
【喜んでもらえて何よりじゃ。美味しそうなお供え物ありがとうなぁ、エンガ君。お嬢ちゃんは神の全力をエンガ君の為に簡単に期待する辺り、本来なら罰当たりなのじゃが、そこまで言われるといっそ潔くて清々しいわい。全力は無理じゃが、出来るだけ助力してやろうかのう。その時には清酒以外の酒も頼みたいものじゃのう。それとワシ、甘いものもイケル口じゃ。食べ物は近々手紙に書くのでな、それを頼む。それと、なにか新しい食べ物を作ったら神棚にあげておくれ。絶対じゃぞ?いいな?絶対じゃぞ?・・・二人が幸せそうで何よりじゃ。】
と、頭の中で神様の声が響いたかと思うと、神棚の品々が無くなっていた。
神様が持って行ったらしい。
ちょっと驚いた。
「喜んでもらえて良かったね、エンガ。ありがとうだって。また今度お供えしなきゃね?」
そう声をかけながら横にいるエンガの方を見てみると、口をポカーンと開けたエンガと目が合った。
「や、ヤエ、今の、今のって、神様の声か?・・・・俺、初めて神様の声聞いちまった。すげぇな。俺、なんか、感動した。人間いっぱいで神様も忙しいだろうに、俺なんかに声かけてくれるなんて・・・。ヤエのとこの神様、優しいんだな・・・。俺、お供え忘れねぇようにするし、あれだ、なんつーか、うん、これからも頑張ろう。」
と、混乱しているのか、途中から頷きながら自分の世界に入って自己完結したエンガさん。
そんなところも好きよ。
驚くと周り見えなくなっちゃうのよね~。
うんうん。可愛い。
にしても、作ったものを毎回お供えするの忘れそう・・・。
エンガはやる気満々だから、エンガにお願いしておこうかな。
神棚お供え係。
正直、欲まみれの私にお供えされるより、エンガみたいに心からの感謝と言葉でお供えしてもらう方が神様も嬉しいと思うのよね。
ウチのエンガさん可愛いし。
あれだよね、エンガがお供えしてくれたって考えるだけで有難さ2割増しだよね。
よし、そうしよう。作ったらエンガにお願いしよう。
お互いに色々と考えている間に結構な時間が経ったので、この辺で切り替えていく。
小さい普通の拡張鞄に商品を詰める。
回復薬は今日の分はもう終わり。
食品だけ小分けにして、再度露店へ出発。
夕飯は時短魔法を使って作ればいいし、足りないようなら保存してある熱々なお惣菜を出せば良いだけだ。
というか、その前にトリアの予定聞いてないから、夕飯食べてくのか分からないんだけど・・・。
さっき聞けば良かったなぁ。
子供苦手っぽかったから引き留めなかったんだけど、時間とか詳しく決めておけば良かったわ。
まあ、何か用事があるんだとしても、10分くらいならエンガの為に居てくれそうだけどね。
トリア、エンガの落ち込む顔に弱そうだからな~。
私の次に。
ま、本当に無理だったら今度ちゃんとした約束すればいいしね。
そんなことを考えていたら露店に戻りました。
トリアが来るのが今から楽しみなのか、ウキウキと足元を弾ませながら隣を歩いていたエンガは今日もピカイチで可愛いかった。
周囲の目も暖かかったから、馴染んできたなぁと思う。
「おっ!来た来た!ヤエさん!エンガさん!」
と、手招きをするボリスさん。
その前には、並んでいる人達が。
「朝食った奴らがギルドで広めたらしくてな。何をどれだけ持ってきてくれんのか分かんなかったけどよ、それでも良いっつー奴だけ並ばせといた。」
まさか、こんな事になっているとは思わず、私もエンガも驚いた。
お客様を待たせているなら急がねば。
「お二人ともありがとうございます。この中に入っている分で全てです。引き続きよろしくお願いします。皆様、遅くなってすみません。回復薬はございませんので、その点は予めご了承ください。」
お客さんにも声をかけてから、商品の入った袋をカルロスさんとボリスさんに渡す。
2人はスグに袋を受け取ると、片方が中身の個数の確認、片方が一人目からの注文を受け付け始めた。
「手際が良い出来る男って感じだよな、あの二人。隙もねぇし、強いんだろうなぁ。俺もああなりてぇなぁ・・・・。」
と、二人を見るエンガは一人でつぶやいている。
エンガの目にはきびきびと働く二人の男が頼もしく見えているんだろう。
エンガにいい影響を与えてくれる人達みたいで本当に良かった。
予想以上の働きだし、今後もこのまま契約してもらおうと思う。
とりあえず、あっちは二人に任せて、私たちは《もふもふ雲》を開店させましょう。
お客さんはいないけど、こっちは二人でまったりと。
椅子と商品を並べて、周囲の人にも聞こえる様に簡単に宣伝しながらお客さんが来るのを待つ事、数時間。
おっ、どうやらお客さんが来たようです。
こちらをチラチラと窺うような おば様を発見。
「どうぞ~、お気軽に見ていってください。」
と、笑顔で声をかけてみる。
おば様はビクッと体を震わせたのち、そろ~り、そろ~りとゆっくりこちらに近づいてきた。
「あ、あの、そのタルトを1つ・・・。あと、あと、大学芋も1つ・・・。あと、ラッキークッキーも・・・。」
と、お金を差し出しながら小声で注文をするおば様。
目は合わせていないが、ちゃんとエンガの方を向いて話かけているし、これでもOKにしよう。
「ありがとうございます。イチゴのタルトと大学芋、ラッキークッキーをおひとつですね。」
そう私が声をかけると同時に
「この中から一つ選んでくれ。手に取ったら変更はなしだ。模様があれば当たりだ。こっちの景品から一つ選べる。当たるといいな。」
と、緊張した面持ちのエンガがお金を受け取りラッキークッキーの籠を差し出していた。
すると、エンガが急に行動したことに驚いたのか、おば様は
「ヒッ!?」
と、短い悲鳴を上げた。
エンガは少し悲しそうな表情をしたが、
【一つ選んでくれ。】
と繰り返し伝える。
おば様は少し気まずそうに籠から一枚、手早く選び取った。
「袋を開けてみてください。模様があるなら景品と交換しますよ。こちら、残りの商品とお釣りになります。商品は生ものですので出来るだけ早くお召し上がりくださいね。」
エンガに対して感じ悪いお客様にはそんなに愛想ふりまかないよ~。
そう思っていると
「あ、あら?これ、模様?」
と、おば様がクッキーをこちらに向けた。
あらら。
まさかの当たり。
そんなに売れてないのに当たる確率高いな。
まあ、当たりが無くなったら補充してるし当然かもだけど。
当たりが無い籠からクッキー引かせるの、なんか申し訳なくてね。
確率は変わるが、お客様のマイナスにはならないから良いでしょう。
さて、景品交換しないと。
「おお!当たりだ!!それ当たりだぞ!!やったな!!クッキー割って景品と交換な!景品はこれ、ランルー鳥の唐揚げ棒かエッグタルトのどっちかだ!こっちは しょっぱくて、こっちは甘いぞ!どっちにする!?」
と、おば様の手元を覗き込んで手早くクッキーを割り、景品を指さすエンガ。
相変わらず、自分が当たりを引いたかのような喜びように思わず笑みがこぼれる。
おば様も掌のクッキーをエンガが割ったことに驚いたようだったが、景品を差し出すエンガに気が抜けたらしい。
「あ、ありがとう・・・。そうね、じゃ、じゃあ、こっちのランルー鳥を・・・。甘いの買ったし、こっちで・・・。」
と、オドオドとした態度のままではあるが、しっかりとエンガからランルー鳥の唐揚げを受け取った。
直接受け取ったということは、少し恐怖心は和らいだのだろうか?
ちょっとお話してみようかな~。
ということで、少しお話してみましょう。
「当たりおめでとうございます!それと、沢山のお買い上げありがとうございます。まだ出店したばかりなので、ご来店いただけて嬉しいです。お気に召しましたらまたいらしてください。」
と、声をかけてみると
「あ、ありがとう。まさか当たるとは思わなかったわ。昨晩、テル君が騒いでたからウチの子が行きたいって言ってたの・・・。テル君のお家、美味しい美味しいって大騒ぎしてたからウチの子も食べたいって騒いで大変だったのよ。夜だし、もう閉まってるって言っても聞かなくて。しかもね、昨日騒いだせいで今日は熱が出ちゃって。今、留守番させてるのよ。熱が出てるから旦那が外出禁止だって言ったんだけど、泣いて手が付けられないし、『買いに来たふり』だけでも良いかと思ったんだけど・・・。まさか当たるなんて・・・。ふふふ、あの子きっと喜ぶわ。熱が下がったら周囲の子たちに自慢するだろうし、これから子供がたくさん来るようになると思うわ。子供たちにも優しくしてあげてね。」
と、おば様は優しそうな母親の顔に。
「そうか、テルの知り合いだったか。テル達、今日も来たぞ。んで、当たり引いたんだ、あいつ。きっと今日も大騒ぎすると思う・・・。でも、あんたも当たったからな、子供もきっと喜ぶだろうし、熱が下がったら自分で当たり引きに来るように伝えてくれ。熱、早く下がるといいな。あ、もちろん、他の子供たちとも仲良くなれる様に頑張るぞ!俺!」
と、エンガも話に入る。
「・・・ええ、そうね、こんなに美味しそうなものをいっぱい買ったんだもの。きっとすぐに良くなるわ。テル君は声が大きいからね。きっと今日も大騒ぎよ。ふふふ、でも、今日はうちの子も負けじと大騒ぎするわね。次は自分で当てる様に言っておくから、来たら仲良くしてあげてね、獣人さん。」
と、おば様は最初とは打って変わってエンガに笑顔を向けてくれた。
その後、私たちが喋っていた姿を見ていたおば様方が何人か声をかけてきた。
どうやら、話が出来る人がいるうちに買ってみたいという事らしい。
おば様はそのまま他の方たちにも声をかけてくれて、ラッキークッキーが当たったことやテル少年たちが子供だけで来たことなんかを話して、他の方たちに好印象を植え付けていってくれた。
子供が待っているからと早足で帰るおば様に「また来てください」と声をかけて、他の方たちの会計を済ませる。
他の方たちも先ほどのおば様との間に問題がなかったということが分かっているからか、程よい距離感で買い物を済ませていった。
夕方に差し掛かる時間帯にボリスさんとカルロスさんから商品が無くなったとの報告を受けた。
どうやら、この二人には相当の商売センスがあるらしい。
もし、ギルドからの邪魔とかでこの二人を手放すことになるのはあまりにも惜しいので、本契約にしてもらおう。
お試しなんて言ってる場合じゃないよ。
と言う訳で、エンガと相談して二人を連れて冒険者ギルトに。
あのおっちょこちょいの受付嬢さんに契約を本契約に変更してもらった。
相変わらずのへっぽこぶりだったが、受付嬢の契約書の間違いを指摘し、直させるカルロスさんの頼もしさが再確認できた。
今後もこの人のかかわる契約書はよく読もうと心に決めた。
そんなこんなで明日からの予定も決め、ギルドで解散。
私たちは家に帰ってトリアをお迎えする準備を始めます。
お友達が来てくれるの、楽しみっ!!




