店番が決まる。
エンガさんを狙う、まさかの熟女枠のお婆ちゃんかと焦りましたが、そんなことは無かった。
時々
「はぁ~?すまんねぇ、もう一回言ってくれるかい?」
と聞き返す、耳が遠いお婆ちゃんの為に、大学芋が硬い食べ物だという事を大きな声で説明してあげるエンガは天使です。
結局、エンガからの忠告で大学芋を渋々諦めたお婆ちゃんは《ラッキークッキー》1個を購入。
駄々っ子と化した少年を引っ張るお母さんには《イチゴのタルト》1個をご購入いただきました。
エンガが怖いのか、金銭的に大打撃だったのかは分かりませんが、お母さんはクッキーは購入しなかった。
そして、お婆ちゃんのラッキークッキーは残念ながらハズレ。
可哀想に。
少年はランルー鳥を手に入れることは出来ませんでした。
が、予想外のイチゴのタルト購入がよほど嬉しいのか【綺麗だな!】だとか【高い菓子なんて初めてだよな!かーちゃん!】と終始ご機嫌。そして更には、
「明日も来るからな!明日はゼッテー当たりを引いてやる!!逃げんなよ!」
と大事そうにタルトを抱えた少年は母親に引っ張られながらも捨て台詞を吐いて行った。
本当に嵐の様な子だった。
さっきまでのアーベル君とベルント君が大人すぎるのか、この子がガキなのか・・・。
いや、言わないでおこう。
「元気な子だね。明日も来るって。明日もお店あけねきゃね、エンガ。」
と、エンガの方を見てみると
「おう!お客が《来る》って言ってんだからな!!開けねぇとな!!明日も2人でな!!」
と、嬉しそうに尻尾ピーンと立てて、ルンルンしてるエンガさん。
すごく可愛い。
明日が楽しみなのね。
にしても、お婆さん、サツマイモへの食いつきが良かったな。
硬くて食べれないの残念そうだったし、サツマイモ好きなのかしら?
それとも、大学芋が珍しかったからかな?
軟らかいホクホク系の大学芋か、甘くて軟らかくてねっとりしてる干し芋でも作ってみようかな?
お婆ちゃん達のお茶うけに良さそう。
女の人はサツマイモ好きだって言うしね。
エンガも楽しんでるみたいだし、暫くは《もふもふ雲》をメインにして、向かいの《もしゃもしゃ草》は客がきた時だけ私が開けても良いのよね。店番が見つかるまでは、短時間だけ私が。
うん。それが良い。
そう考えていると、ダダダダダ!!!という凄い足音が近づいてきた。
「いた!!いらした!!ヤエさんとエンガさん!!」
と、息を切らしながら走ってきたのは、冒険者ギルドの受付嬢さん。
ついさっき会ったばかりなのに、どうしたんだろう。
【《もしゃもしゃ草》の店番を受付嬢さんが選んでみて】って言ったのが今になって嫌になったのかな?
もしくは、ギルマスから文句でも言われたのかな?
それを伝えに来たとか?
でも、あんな奴らを紹介したのはギルマスなんだし、落ち度は100パーセントあちらだと思うんだけど。
もし、さっきの事についての文句なら一人で殴り込みかな~。
と、警戒していると
「あの、選んできました!!このお二人!!このお二人なら大丈夫だと思います!!」
と、指差す先には二人の男性が。
40代くらいのオジ様と60代くらいのオジ様の2人組。
エンガと私を見る目に『嫌悪感』や『見下し』はなさそう。
これは当たりかもしれない。
《私を怖い人間だと思ってる受付嬢さんが、自分が知ってる冒険者の中から選んで》
連れて来たんだから期待できそう。
「この二人を選んだ理由は?」
受付嬢さんに聞いてみる。
「っはいっ!!このお二人はご家族で冒険者をなさってまして、お二人のコンビネーションは完璧です!しかも、獣人の方達と臨時パーティを組んだりもなさっていて、偏見などもなく、冒険者として堅実で成績も良く、何より、常識のある方々だと思いまして、頼み込んでみた所、二つ返事でOKをいただきましたので、お連れ致しましたデス!ハイ!!」
と勢いよくお辞儀する受付嬢さん。
その後ろで少し驚いた様子のオジ様2人の内の若い方が
「あー、っと、自己紹介させてもらっても良いか?俺は【ボリス】だ。C級冒険者。こっちの爺は【カルロス】で同じくC級。一応、俺達は親子だ。店番の依頼だよな?俺達は金勘定も簡単な読み書きも出来るし、腕っぷしには自信がある。条件も守れるし、どうだ?」
との説明。
ほうほう。
御爺さんがカルロスで、オジさんがボリスね。
脳内メモメモ。
「私が雇主になります、《もしゃもしゃ草》の店主のヤエです。こちらはパートナーのエンガ。エンガの事は私と同等の存在だと思って下さい。それで、C級のお二人が《店番》の依頼を受ける理由をお伺いしてもよろしいですか?C級なら冒険者として相当稼げますよね?なぜ、ウチで店番を?」
そこが気になるよね。
もっと低い級の冒険者なら、《お金に困ってる。毎日の安定した収入を手に入れたい》で納得出来るけど、C級ならそれなりにドカンと稼げるでしょう。
なのに、なぜ、店番を選んだのか。聞いておかないとね。
「あー、っとな。まず、俺の方。女房との間に6人目の子供が出来たことが分かってな。出産やらその他の費用がかなり掛かる上に、女房も年だしよ、出来る限り傍に居てやりてーんだわ。直ぐに駆けつけられるところで働きたかった。んでも、C級の仕事ってなると2~3日出かける様な遠出や危険度の高い仕事が多くてな。この辺で出来る様なランクが下の仕事は『ランク下の人間の仕事を取った』とみなされて給金下げられるからよ、正直、はした金にしかなんねーの。でも、子供がある程度大きくなるまでは安定したそこそこの収入が欲しい訳よ。で、色々探してた中、この依頼だろ?店番にしては高額で定期的に収入を得られて、ギルド直々に話を持ってこられたんだからランク下の仕事でも給金は下がらねぇ。更に、ウチが直ぐそこ。これはここしかねぇ!って思ってな!」
と、割とヘラヘラした感じのオジさんは少し照れ臭そうに説明した。
「ワシは目が悪くなったからだ。ワシが得意なのは弓でな。視力が落ちた今、ワシに後衛を頼む奴はおらん。冒険者としても終わりだ。今後、ランクも下がっていくだろう。だが、日常生活では問題もないし、体力も問題ない。計算も出来るし、ある程度の知恵もある。ここで働かせてもらえるのなら有り難い。そう思って来た。よろしく頼みたい。」
と、頭を下げる御爺さん。
成程。
オジさんは高齢で出来た子を産んでくれる奥さんの傍で働きたいって事ね。了解。
お爺さんは視力の低下で冒険者業が上手く出来なくなったから、別の方法でお金を手に入れたいと。
うむ。一応、2人とも内容的には納得。
回復薬をよこせ的な感じでもないし、常識ありそうだし、大丈夫そうかな?
私の中の鑑定眼が大丈夫だと告げている気がする。
ちらりとエンガを見てみると
「嘘ついてねぇと思うし胡散臭くもねぇから、雇うだけ雇ってみたらどうだ?試しで。」
と、最初の作戦どおり、お試し期間を設ける事を提案してくれた。
エンガが嫌がってないなら、取りあえず、それで行こうかな。
「じゃあ、お試し期間からという事で、よろしくお願いします。明日の朝7時にこの場所で。《もしゃもしゃ草》はそちらのスペースになるので、設置からお手伝いしてもらいます。で、お昼は自分で用意してください。トイレなんかは交代で。もちろん、店番の途中で奥さんに何かあった際にはそちらを優先してもらって構いません。ですが、商品を鞄に仕舞って持っていく位はしてください。後程回収させていただきますので。回復薬の放置だけは絶対にしない様にお願いしますね。そちらの落ち度で商品が無くなった場合は、全額買い取りにしてもらいますから、そのつもりで。あと、回復薬以外にも売っているので、そちらの方の販売もお願いします。」
【分かった。よろしく頼む。】
と、いくつかの注意点を真剣に聞き頷いた親子は、挨拶と共に私とエンガに頭を下げた。
そんな二人を見送りながら
「ギルドのお姉さん、あんな人材をこんなに早く見つけてくるなんて凄いですね。まだお試しですけど、お姉さんに頼んで良かったです。ありがとう。」
空気と化していた受付嬢さんにお礼を言う。
正直、今日中に見つけてきてくれるなんて思ってなかった。
中々にやる気のある、根性のある良い子なのかもしれない。
そう思っていると、
「きょ、今日中じゃないと駄目な気がして・・・その・・・・。お気に召したなら何よりです!ハイ!走り回った甲斐がありました!で、では!失礼いたします!」
と、方向転換し、ダッシュで走って行った。
そんなに私が怖いか?
根性があるというよりも自分の為に全力な子な気がするので前言撤回。
「ヤエ、片付けも終わったし帰ろうぜ?俺、腹減った。」
と、マイペースなエンガさん。
残っていた物を鞄に仕舞ってくれたらしい。
お礼を言って、今日は店仕舞い。
さっきからこっちを好奇の目で見てくる人たちが買ってくれるとは思えないものね。
今日はここで店仕舞い。
少し早いけど、エンガの空腹は大問題だからね。
そっこー帰ります。
「今日は白菜が大量にあるからお鍋にしようか~。」
なんて新婚夫婦の様な会話をしながら帰宅。
今日は、朝、ベルント君が届けてくれた、マルフィールさんがくれた牛肉と大量の白菜があるので、すき焼きに決定。
蒟蒻芋を育てていたので、エンガと2人で時短でこんにゃくも作ってみた。
勿論、今お腹が空いてるエンガには、先にクロワッサンサンドを2個食べてもらってから。
いざ、こんにゃく作り開始!!
ゴム手袋をして、芋を良く洗い、お湯と共にフードプロセッサーへIN。
お湯と芋をよく混ぜて、40分程度放置。を短縮魔法で時間短縮。
その後、ぐっちゃらぐっちゃらと練る。糸を引くくらいに全力で練回す。
で、石灰水をぶち込んで混ぜ、平らにバットに押し込んで、
時短魔法で冷まして適当に切って煮る。
水に入れて時短魔法をかけたまま、何度か水を入れ替えて灰汁を抜く。
んで、出来上がりー。
糸こんにゃくじゃなくて、ノーマルのを手でちぎった奴だけど、もっちりむっちり。
中々上出来だと思います。
出来上がりを見たエンガは、
「スライムみてぇ・・・。食えんのか????」
と疑問の様ですが、お口に合うでしょうか?
あとは魔具を駆使してうどんも量産。
時短魔法も使って、案外簡単に出来て驚きです。
エンガと2人で伸ばしながら、キャッキャウフフしながら切り分けるの、超楽しかった。
すんごく太っといのとかあるけど、手作りの良さよね。
小鉢も作って、お鍋は真ん中にセット。
出来立てのこんにゃくと上質な柔らかい牛肉と新鮮な白菜とネギ。
卵に付けて食べれば完璧!!
シメにはうどん!!完璧!!
・・・・。
豆腐があれば更に最高なんだけどね・・・・。
まあ、良いか。
よく頑張った!
それでは、それでは、いただきまーす!!
薄く切った牛肉を甘い割り下で煮込んであげる。
牛肉は牛肉ならではの良さがあるからね。
他のお肉とはやはり違いますからね。
さてさて、エンガの様子は・・・・?
「うめぇ!!これ、もきゅ、やわらけぇ!!んにゅにゅ、ゴックン。飲むのが勿体ねぇ!!甘くて軟らかくて溶ける!!すげぇ!!」
と、牛肉大絶賛。
その笑顔、今世紀最大級のプリティさだね。
良かった。
良いお肉は本当に美味いからね。
こんにゃくも、もっきゅもっきゅと
「おんもしれぇ!初めて食う!もっきゅっきゅなのな!」
と、嬉しそうなエンガ。
白菜もうまうま。ネギもうまうま。うどんもうまうま。
エンガの箸が止まらなくて、30分はエンガに具材を盛り続けたヤエさんです。
んー。
エンガがこんなに牛肉を気に入るんなら、もっと購入して繁殖してもらった方が良いかもなぁ。
この笑顔は週一のご褒美で拝見したい。
一頭潰せば一月は持つだろうから、20頭は繁殖させてもらっといた方が良いかも。
ランルーもだけど、追加すべきだよね。
次、マルフィールさんの使いの人がきた時にお願いしてみよう。
今から手紙の準備しとくべきだね。
そんなこんなで一日で1番の幸せタイムを堪能し終えた。
もふもふ雲でのことや、こんにゃくなんかを作ってたら遅めのお昼ご飯になったので、夕飯はもっと遅く軽めで良いかなぁと思っております。
エンガさん、お腹ぽんぽこりんだもんね。
お腹がいっぱいで動きにくそうなエンガには休んでもらって、今後の商品を考える。
回復屋をあのバイト2人に回してもらえるなら、商品を増やすのが良いからね。
回復薬は少しで、残りは食品で稼ぎたい。
今ある商品は《フライドポテト》《オニオンリング》《さつま揚げ》。
一応、《ランルー鳥の唐揚げ》も作ってあるけど、個数は少ない。
何が良いかな~?
揚げ物ばかりでも駄目かと思うけど、冒険者は堅い炭みたいなパンを食べてるんだから、それに合いそうな物が必要だよね。そう考えるとメインで一品物って考えるんだけど・・・。
う~ん。
肉団子とか串焼き系が楽だけど、焼いてある系は割と屋台で並んでるし、二番煎じ感が強いよね~。
悩む。
あ、お米の文化を根付かせるのも良いよね。
あんなに硬いパンじゃなくて、お米の素晴らしさを知ってもらうのも良いかも。
例えば《肉みそ》とかを作って瓶で販売。
ネリーの所はしょうゆベースの肉を巻いて焼いた肉巻きお握りだから、
私の方はひき肉の少し甘めな味噌味。
ネリーにノーマルのお握りも売って貰って提携するとか。
お米が受け入れられるようになるかもしれないし、数個だけでも作ってみよう。
んで、今度ネリーの元に持って行って聞いてみよう。
後は《蒸かし芋~マヨネと共に~》かな。
エンガが私のジャガイモを【真ん丸ででかくてスゲェ】って驚いてたくらいだから、丸々一個の方がインパクトあるよね。
ジャガイモは大量に出来るし、収穫も簡単。
大きいし食べごたえあるから、単価がある程度高くても大丈夫そう。
蒸かした芋の真ん中に十字の切り込みを入れて、マヨネーズを乗せて渡す。
簡単だし冷めても美味しいだろうし、良いんじゃなかろうか?
売れなかったら無しという事で。
あとは~。
チャーシューも沢山出来てるから、《チャーシューマン》なんてのも良いかも。
確か、簡単な蒸しパンの作り方があったはず。
そのレシピを使って蒸し器で作った蒸しパンに、チャーシューとネギと辛子マヨをはさんで出来上がり。
手間がかかるから単価は高くなるけど、お試しなら良いかも。
これはパートさんでも雇って作れるようになれば楽になるよねー。
チャーシューはオークで。
オークなら私とエンガで簡単に狩れるし一匹でも取れる肉が多いから、安上がり。
圧力鍋でほっとけば簡単に作れるチャーシューだし、持ち歩きが出来る食事として良さそう。
よしよし、取りあえずはこんな感じで。
エンガに声をかけて明日の仕込みの分も準備する。
ジャガイモと玉ねぎをフライの大きさに切って、マヨネーズを作る。
ひき肉を炒めてもらって、合わせ味噌とネギをINして瓶に入れて肉みその出来上がり。
切ったジャガイモと玉ねぎは味付けをして粉を付けてフライヤーにドボン。
さつま揚げはまだ残りがあるのでそれでいい。
ジャガイモはきれいに洗って、蒸すのは明日の朝に。
蒸しパンの生地をヘラでコネコネ、蒸し器に並べて加熱。熱を取ってから半分に割って、作ってあるチャーシューを詰めてネギとマヨをトッピング。
エンガのお店に出すための商品も作っていく。
メイン商品になるジャムは時間短縮で大量に。
小さな瓶に詰めて出来上がり。
干し芋にも挑戦。洗った芋を縦にスライスして、天日に当てながら時短時短時短。
軟らかくて甘さの強い干し芋になりました。上出来。
後は、混ぜて揚げるだけの簡単一口ドーナツも作ってみた。
表面に砂糖をまぶして甘味感を全面に出していきます。
にしても、フライヤーがあると簡単で助かる。
魔法を使えば油も綺麗に出来るし、何度も使えてよろしい。
子供が気軽に買えるように一口の大きさで安く。
薄利多売。
ここで今日の作業は終了。
作り終えた時には時間も遅くなっていた。
結構時間が経っていたので、エンガには先にお風呂に入ってもらう。
エンガは綺麗好きな長風呂さんだから、お風呂から上がってきた時に御夕飯でちょうどいいかな。
勿論、さっき作ったものも全部味見してもらいます。
お風呂から上がってきたエンガのセクシー寝間着に悶絶しつつも、頭を出来るだけ優しく拭いてあげてから、味見兼夕飯の開始。
肉みそもチャーシューマンも気に入ったみたいで、良かった。
そして、私がお風呂に入る間に、エンガには簡単な計算や文字の練習をしてもらう。
毎日やらないと忘れちゃうからね。
で、お風呂上がりにはエンガに頭を拭いてもらって、至福タイム再び。
少し力が強いけど、前よりもずっと上手になって、鳥の巣みたいな頭じゃなくなったのは成長の表れですよね。
満足そうなお顔のエンガも可愛い。
でも、おねむなのか、瞬きの回数が増えてて、尻尾がたらーんと垂れてる。
時々する大きな欠伸と、欠伸の後、口元をもにゅもにゅするのも可愛い。
よし、今日もウチのオッサンは世界一可愛い。
再確認したところで、今日はここまで。
おやすみなさーい。




