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《もふもふ雲》開店!

一気に書き上げられたので、此方を先にアップさせていただきます。


エンガとお手手を繋いで、露店街に到着。

《もふもふ雲》の開店~!

と思っていたのだが、《もしゃもしゃ草》の前に人が・・・。


「おい、嬢ちゃん。今日はこっちの店は開けねぇのか?回復薬とさつま揚げが欲しいんだが・・・。」

と、先日さつま揚げを購入してくれたオッサンが開店を待っていた。


「あ、いらっしゃいませ。商品は用意してありますので、お渡しできますよ。値段は先日と同じで。」

と告げると

さつま揚げ1袋、回復薬2個分のお金を渡してきた。

お金を受け取り、商品を渡すと


「また来る。」

と、無駄な会話もせずに去って行った。

このオッサン、さり気無く常連さんになりそうな人なんだよなぁ。

この人の為にも、早く店番出来る人間を探さないと。

ずっと店の前で待っててもらうのって申し訳ない。

開店しない日には朝のうちに《本日はお休みです》とかの看板も出したい。

そう考えつつ、《もふもふ雲》の開店準備を始める。


足の高いテーブルを出し、その上に商品を並べていく。

低い位置だと砂埃が入りそうだから、気をつける。

商品にはプラスチックの蓋を被せて、中の商品が見える状態で並べる。

周囲の人はこちらを窺っているが、近寄ってはこない。

ついでに、以前と変わらず、両サイドの人間がいない。

これでは挨拶が出来ないままなのだが・・・。

まあ、そのうち会えるだろう。


エンガはルンルンで準備を済ませ、家で作ってきた値札を立てている。

机の前には

【《獣人エンガ》からのみ買える『ラッキークッキー!』模様が彫ってある《当たりクッキー》を引いたら『エッグタルト』か『ランルー鳥の唐揚げ串』が貰える!※お一人様一つ限り】

の看板を下げる。

自分のお店をオープンさせるのが嬉しいんだろう。

エンガは少し調子っぱずれの鼻歌まで歌ってて、本当に可愛い。

もう、ホント、底なしの可愛さ。

既にお家に連れて帰りたい。


周囲はこちらの様子を窺いながら ざわついているが、誰も近づいては来ない。

「タルトって?何?甘い物?」

「芋?」

「唐揚げって何だよ、ランルー鳥は肉だろ?」

って、商品が分からないみたいなので商品の説明書きも追加することにした。

商品に使ってある原材料名と、食感や風味の説明を書き加える。

そんなこんなで、一応、用意も終わったので、エンガと2人で座ってお客を待つ。


数分後。

周囲の様子も何も変わらない上に、エンガが欠伸し始めたので、声出ししてみることにした。


「いらっしゃいま~せ~。サクサクトロ~リ、甘酸っぱくて美味しいイチゴのタルト。カリカリの甘いコーティングを纏った、皆さん御馴染みの芋~。更に、当店限定!『私の隣に座っているエンガからのみ購入可能な当たり付き《ラッキークッキー》』一人一つの個数制限有の限定商品!バターの風味が至福のサクサク食感のクッキー、しかもこの安さ!更に《当たり》を引いた方には、此方の《エッグタルト》か《ランルー鳥の唐揚げ串》をプレゼント!お買い得商品だよ~。」


少しやる気のない感じにはなったが、商品を周囲に見せながらの宣伝なので、良いでしょう。

さて、お客は来るかな~?

と、思っていると、前方の建物の影から10歳くらいの小さい子供が二人、駆け寄ってきた。


「旦那様!先ほどはありがとうございました!あちらにも荷物をお届けしましたので、ご報告させていただきます!あと、その《ラッキークッキー》を僕の分と、こっちの兄の分、欲しいんですが、今大丈夫ですか?」

と、話かけてきたのは今朝、マルフィールさんの所から派遣されてきた運び屋の少年。

エンガから渡された林檎のおかげか、未だに旦那様呼びである。

最初の怯えた様子が嘘のようだ。


エンガは直ぐに立ち上がり、尻尾をピーンと立てた。

先ほど会ったとはいえ、少年自身から話しかけてもらえたのが嬉しかったのだろう。

オマケに《もふもふ雲》初のお客様である。


「お、おう!勿論だ!あ、でも《ラッキークッキー》は一人一つだからな。そっちの兄貴には兄貴で買ってもらわねーとならねぇんだが・・・。」

と、兄と紹介された方の少年を恐る恐る窺うエンガ。

怖がられるかもしれないから、おっかなビックリなんだろう。

声は小さく優しく、体制は低く声をかけるエンガ。

対して、運び屋の少年のお兄ちゃんは気にした様子も見せずに鞄をゴソゴソ。

お財布でも出してるのかな?

背格好的には運び屋の少年と同じくらいの歳に見えるんだけど、【兄】って言ってたし、年子かな?双子かな?細いし小さい。

と思ったんだけど、この子、足の筋肉が凄いわ。

半ズボンの先から見えている脹脛が筋肉質なのが分かる。

同級生でいた。陸上とかやってた子と同じ足。

毎日走り込んでる足だ。

弟君よりも、ずっとずっと筋肉質な足だ。

そんな風に足元を観察していると、年齢とは不釣り合いの筋肉質な足の持ち主が口を開いた。


「あ、ども。弟が果物貰ったみたいで。ありがとうございます。自分も運び屋してるんで、店関連での依頼に自宅からの配達、いつでも連絡ください。運び屋の受付場が街に何か所か設置してあるんで、気軽にどうぞ。露店街の入り口にもあるんで。是非。自分は《アーベル》、弟は《ベルント》で指名ください。是非ご贔屓に。それと、自分は《ラッキークッキー》と《大学芋》1つずつ。」

と、2人の名前の書かれた紙を1枚と、お金をエンガに渡してきた。


少年の兄 《アーベル》は私にも同じ紙をよこした。


「お姉さんも是非、ご贔屓に。今、小遣い稼ぎの子供の運び屋が沢山乱入してきてて、顧客獲得の為に水面下で争いが起きてるくらいなんすよ。正直、死活問題のこちらとしては絶対に負けられないんで、チップとかいらないんで、指名してもらえると嬉しいっす。」

と、付け加えてきた。

それに反応したのは優しい男の代名詞エンガ。


「ん?子供の運び屋が多いのか?」

と、兄の方に質問している。


「そうなんす。大変なんすよ、今。少し前までは働くのなんて孤児か貧乏人だけだったのに、自由に使える小遣いが欲しいからって働きたがる、《自立を目指す少年団》なんて馬鹿みてぇな名前で働くやつがいるんすよ。冒険者は年齢制限あるし、ケガするし怖いから嫌だけど、運び屋くらいなら出来るだろうって甘い考えの奴ら。身なりが良いんで直ぐ雇われるんすけど、人の客を横取りする癖に、辛いから辞める。近場しか行かねぇ。給金に文句付ける。足が痛いと駄々をこねる。配達の時間に間に合わなくても謝罪せずに泣くだけ。なんて奴もいて、【子供はお断り】なんて、とばっちりも良いとこですわ。こっちは弟妹と母親を養わなきゃなんねーのに。そういう訳なんで、良ければ指名よろしくです。自分は足が速いんで、急ぎの物に自信あります。弟は速度は普通ですが長距離が得意なんで、拡張鞄持たせときゃ、その辺の大人には負けません。」

と、まさか店の前で逆に売り込みされるとは思わなかったよ。

しかも、運び屋の業界は中々に厳しい世界らしい。


「僕からもお願いします!頑張りますから!あ!いただいた果物は、お母さんと妹と弟が喜んで食べてました!ありがとうございます!チップは多く貰っても、ほとんどは胴元に取られちゃうんで、果物いただけて嬉しかったです!」

と、自分の分のラッキークッキーの代金をエンガに渡しつつ、売り込み&お礼を言う弟君も中々に強かである。

にしても、なるほどね。

てっきり、マルフィールさんの所の専用の運び屋君だと思っていたが、違うらしい。

別口に胴元さんが居て、そっちにマルフィールさんから依頼がいって、この子が派遣されてきた。

んで、チップの多くは胴元さんが回収しちゃうのね。

果物が無事だったのは、食品だったからか何なのかは分からないけど、

「多少のチップを増やすより、気持ちは果物で!しかも指名してくれたら更に嬉しいなっ!」

って事だね?

了解した。


まだ断言はできないけど、エンガを怖がる様子もないし、腕力的にも無害っぽいし、贔屓にしても良い運び屋さんという感じだな。

働きをもっと見てからだけど、父親の話が出てこない上に、母親と妹と弟がいて、10歳付近のこの二人が家族全員を養ってるって時点で、周囲からの評価が下がる様な馬鹿な事は出来ないと思うしね。

私はそう考えて頷いていたんだけど、エンガは


「そうか・・・。やっぱり、家族の為に頑張ってたんだな。林檎、喜んでもらえて良かったぜ。また機会があれば、俺がもいでやるからな。っと、いけねぇ。初めてのお客様だからな。ちゃんとしねぇと。えっと、いらっしゃいませ。アーベルの方が《ラッキークッキー》と《大学芋》で、ベルントが《ラッキークッキー》な。良し、準備するから待ってくれ。」

と、先にアーベルに大学芋の袋を渡して、包装されたラッキークッキーが綺麗に並んでいる篭を2人に向けるエンガ。


「1人一枚づつ引いてくれ。好きなので良いぞ。この中に《当たり》のクッキーが数枚入ってる。封を開けて、クッキーに模様が書いてあったら《当たり》だ。触って選ぶのは禁止。選んで摘み上げた時点で決定だ。変更は聞かねぇ。慎重に選べよ?景品はこの2種類から好きな方を一つだからな。」

と、2人に慎重に選ぶようにと、説明するエンガ。

対して私は


「さてさて~当たるかな~?当たりは15枚に1枚だからねー。そう簡単には当たらないよ~。幸運の女神は微笑んでくれるかな~?」

と、ムフフと笑いながら少し意地悪な事を言ってみる。

すると、


「えっ!?そんなに当たりがあるんですか??僕、100枚に1枚くらいだと思ってました!そんなに当たりやすいのに、こんなに豪華な景品で良いんですか!?美味しそうなお菓子かランルー鳥ですよね?えっ!?えっ!?」

と、困惑気味のベルント君。

それに引き換え、アーベル君は


「客寄せ商品とかじゃねぇの?このクッキーも景品も食って美味けりゃ、そっちの高い菓子も買う気になるだろ。もしくは薄利多売。それと、幸運の女神はいねぇよ。幸運は自分でつかみ取るだけ。」

と、弟に向かって考えを述べつつ、真剣にクッキーを選んでいる。

ベルント君は売り上げの心配までしてくれちゃってるみたいで、エンガに本当に良いのかと何度も聞いていて、何とも優しい子だ。

エンガ、大丈夫だから心配そうな顔でこっち見ないで。

「だ、大丈夫だよな?ヤエ?」なんて聞かないで。可愛いから。大丈夫よ。大丈夫。

ベルント君が更に心配してるよ?

大丈夫だから笑顔で接客してあげてちょうだい。

対してアーベル君は頭の回転が速い子だね。

ついでに少し口が悪い。


そんな正反対の2人はじっくりと時間をかけて1枚づつのクッキーを選んだ。

封はまだ明けていないが、しっかり者のアーベル君に至っては、選ぶ際にエンガに

「なあ、エンガ?さん?、エンガさんで良い?エンガさん、ヒントねーの?」

なんて看板の文字を読んでエンガの名前を確認してから、ヒントが欲しいなんて言うくらいだった。

エンガは


「えっと、俺にも当たりは分かんねぇから、ヒントは無理だな・・・。で、でもな!クッキーだけでも充分美味ぇし、クッキー本体だけでも金額以上の価値があると思うぞ?んーと、んーと、後は・・・。気合い?」

なんて首を傾げてアドバイスしていた。


「あんがと。気合入れるわ。」

ってアーベル君がちゃんと返事したのが意外だったのは内緒である。

ついでにベルント君も旦那様からエンガさんに呼び方を変えて、この場だけ和気あいあいムードである。

周囲の探る様な空気とはミスマッチだがな。

ちなみに、私はヤエさんって呼んでもらえることになった。


選んだクッキーを手に

兄のアーベル君は「腹は括ったぜ。」とキリッとした顔してて

弟のベルント君は「当たっていますように!」と祈る様な顔をしている。

本当に正反対の兄弟だ。

私は「ようやく決めたか、長かったなー。」な表情だし

エンガは「当たってると良いな!俺もドキドキしてきた!」な表情をしている。


兎に角、この場で封を開けてもらって、当たりなら景品と交換、クッキーを割ってもらわないといけないので、2人に包を開ける様に促す。

すると・・・・。


『当たったー!!!!』


小さな兄弟2人の声が揃った。

騒めく周囲の声もなんのその


「っえ!?兄さんも?僕も当たったよ!変な模様が付いてる!見て!エンガさん!」

とエンガに確認を求めるベルント君。


「ベルントもか!?ヤエさん、コレ、当たりだよな!?」

と、私に確認を求めるアーベル君。


『おお!当たりー!』

今度は私とエンガの声が揃った。


「やったー!当たったっ!兄さんも一緒っ!景品2つだねっ!」

とその場でクルクルと回転して喜ぶベルント君。


「ッシャ!」

と、小さくガッツポーズを決めるのはアーベル君。


「やった!やった!当たったな!良かったなっ!」

と、一緒に嬉しそうにバンザイしちゃってるのは、店の店主であるはずのエンガさーん。


「エンガ、景品、景品。それと、クッキー割らないと。」

と、あくまで私はサポート役なので、小さい声でアドバイスする。


「んあっ!そうだ!2人とも、景品はどっちがいい?選んだらクッキー割るから貸してくれ。」

と、店主らしく再び接客を始めたエンガ。

どちらの景品にするか、また長く悩むのかな?と思ったのだが、


「ベルント、お前、菓子の方にしろ。母さん達に食わせたいんだろ?俺らは甘いのはこのクッキーで良いからな。俺がランルー鳥にして半分お前にやる。だからそうしとけ。」

と、一方的に喋ったのはアーベル君。


「良いのっ!?じゃあ、僕はエッグタルトにする!みんなにお土産っ!それで、兄さんとランルー鳥を半分こっ!で、クッキーは独り占めしちゃうっ!」

と、ナイス提案!流石兄さん!とばかりに喜ぶベルント君。

この子達にとって、優先するのは家で待ってる家族なんだなぁ。

なんだかほんわかする。

私だって、美味しいものを手に入れたら、エンガと一緒に分け合いたいもの。


2人ともエンガにクッキーを渡して割ってもらい、それぞれ景品を受け取った。

エッグタルトの入った袋を、嬉しそうに大事そうに抱えたベルント君が、アーベル君から から揚げ串をあーんしてもらってる姿は微笑ましい。

しかも、


『ウマッ!!』

「これ、本当にランルー鳥!?しっとりしてて美味しー!!」

「調理方法に相当な工夫がしてあんだろうな。美味いわ。俺の人生で一番美味い。」

「うん!うん!僕の人生でも一等賞!!あ!でも、お母さんの料理も好き!」

「そりゃ当然。ま、俺らまだそんなに生きてねぇけどな。」


なんて大音量で宣伝してくれたので、周囲の人々が徐々に徐々に近寄ってきている。

店頭で食べて、お店の宣伝までしてくれるなんて、なんて良い子達。

多分、確信犯だ。今度、何か指名してお仕事頼もう。

「また来るね!」

「次も当ててやる!」

「おう!いつでも来い!待ってるぞ!」

なんて手を振りながらお見送りを終えたエンガの傍に、また少年が一人近寄ってきた。



「お、おい!獣人のオッサン!俺にも一つ寄こせ!怖くなんてねーぞ!俺は強いっ!」

と、強盗かと思うような言葉をかけてきた少年。

長い間握りしめていたのだろう、汗で少し濡れたお金を、震える手でエンガに差し出してきた。

目つきはギッと鋭いが、鼻をズビっとすする音が聞こえるので、本当は怖いのだろう。

少し離れた所で


「やめとけよー!テールー!食われるぞー!」

「もう、ビビってるなんて言わねーから、早く戻って来いよ!」

「あいつ死ぬよー、もうやだよー、帰ろーよ!」

なんて騒いでる子達がいるから、恐らく、ここで行かなきゃビビりだのなんだの言われて、引くに引けなくて来たんだろう。

肝試し扱いですか?

なんつーガキ共だよ、おい。

さっきの2人が天使に見えるわ。

まあ、正直想像してた範囲内だし、有り得る事だと話しておいたから、エンガのメンタル的にも問題ないとは思うけど、実際に来られると呆れるわ。

溜息をつく私とは反対に、エンガは片膝を着いて少年に目線を合わせ、ニッカリと笑った。


「いらっしゃいませ。オッサン、怖ぇー顔してっかんな。話しかけてきたお前は勇気あんぞ!ビビりなんかじゃねぇ!」

と笑って見せて


「《ラッキークッキー》で良いか?当たり付きクッキー。当たるかどうかはお前の運次第だ!その場で開けて当たりを確かめてくれよな!」

と、少年の手に極力触れない様にお金を拾い上げ、クッキーの篭を少年に向ける。


何かされるんじゃないかと一瞬身構えた様子の少年だったが、エンガのニッカリ笑顔に気が抜けたらしい。

鼻水を少し垂らし、あほ面をさらしながらも、震えの治まった手で一枚のクッキーを掴んだ。


「当たってると良いな?開けてみてくれ。当たってたら景品だぞー!」

と、未だにニコニコ笑顔で包を開ける様に言うエンガに促され、

バリバリと包を開けた少年はクッキーを何度かひっくり返すが、何も無し。

エンガも一緒に確認していたが


「あー、ハズレだ。残念だったな。でも、クッキー自体がスゲェ美味いからな!また買いに来てくれよ!」

と、それだけ言うとスッと立ち上がり椅子に戻った。

少年はクッキーとエンガを見比べつつ、少し不満そうな顔をしつつ、サクサクとその場でクッキーを食べ始めた。


「あれ?これ、すげーうまい。」

と、もさもさと口を動かしながら呟く少年は、急にグリンっ!と身体の向きを変え


「おい!お前ら!これ、甘くて美味いぞ!こんなに安いんだ!当たんなくても、コレだけでも許せるって!金の無駄なんかじゃねーよ!お前らも買えよ!これ、お得だって!このオッサンも怖くねーよ!笑ってんし、弱そうだから平気だって!!」

なんて、エンガが無害だと分かった上に、友達相手だからか、お得な商品を勧めて他の子に感謝されたかったのかは知らないが、随分と態度が変わった少年。

笑顔だからって、エンガが弱そうには見えないよ。

無理があるよ、少年。

しかも、商品に関しては若干上から目線なのね。

というかね、開けて確認しろとは言ってるけど、別にその場で食えなんて言ってナイヨ?

この世界では、買った商品はその場で食べて評価する決まりでもあるのかい?


少年が見ている先の子供たちを見てみたら、自分たちに話が向いたことに驚いたんだろう。

脱兎のごとく、逃げて行った。

残念。脆い友情だったね、少年や。

キミは置いて行かれたんだよ。

あの子達はキミの無事よりも自分を選ぶ子達だっ・・・・


「逃げやがった!ったく!弱虫どもめ!おい、オッサン!まだ店閉めねーよな?かーちゃんとばーちゃんにも食わせてぇから、ちょっと待っててくれ!一人一つなんだから、2人ともここに連れてこねーと!直ぐ来るから、待ってろよ!絶対だぞ!!」

と、少年もダッシュで去って行った。


「・・・。嵐みたいな子だね。しかも謎の上から目線。」

「だなぁ。でも、石投げてくるようなクソガキじゃねぇし、2人も客を連れてきてくれるらしいからな。気長に待ってみるか。」

と、苦笑するエンガと共に座って店を再開する。

まあ、先ほどの美味いだのなんだののやり取りがあっても、周囲の奴らは今の距離からは近寄ってこない。

子供たちの評価だけでは、まだ信用に欠けるって事だろう。


接客で疲れただろうエンガの為に、水筒からミルクティーを出してあげる。

ついでに、ラッキークッキーの切れ端を焼いた物をおやつに出す。

店番しながら売り物の切れ端を御茶請けにお茶するのもどうかと思うけど、露店街だし、良いだろう。

客よりエンガ優先だし。


「焼きたても美味ぇけど、冷めても美味ぇな。ヤエのクッキー。」

と、サクサクとクッキーを食し、ふぃ~。と紅茶で一息つくエンガ。

まるでお家での優雅なティータイムの様にくつろいでいらっしゃるが、ここは外である。

「ヤエもクッキー、あーん。」

なんて、口に入れてもらえるのは嬉しいが、もう一度言おう、ここは外である。

当然、周囲の視線が突き刺さる。

だがしかし、私の幸せタイムだ。

《エンガから》のラブラブモードなのだから、誰にも邪魔はさせないっ!!


注意点、《エンガから》のラブラブモードとは、エンガが当たり前の様に私に優しく甘えてくる状態である。

照れずにあ~んをしてくれたり、ぎゅっと抱きしめてくれた時、コレが当てはまる。

まあ、そんな説明はどうでも良いのだけど。

このままでも良いものかな~?

もっと周囲に声をかけるべき?


「いたー!かーちゃん!ばーちゃん!獣人のオッサン、まだいたー!これ、この《ラッキークッキー》ってやつ、買って!買って!買って!うめぇから!!んで、当たったら、俺にランルー鳥くれ!!」

先程の、上から目線の少年に手を引かれたお婆ちゃん(仮)と、その後ろ追いかけて来たお母さん(仮)が走ってきた。

本当に嵐の様な少年だ。

しかも、いきなりの駄々っ子モードにお姉さんは驚きだよ。

戻ってくるの速いな少年。

っつーか、ばあ様大丈夫?

めちゃくちゃ呼吸荒いけど?


「こんのバカ息子!ばーちゃん引っ張ってくんじゃないよ!心臓止まったらどーすんだい!」

と、お母さんらしき人は少年に拳骨を・・・。

ゴチーン!!って凄くいい音がしてたんだけど、大丈夫かい?


「だ、大丈夫か?ばーさん。良ければ、これ飲むか?」

最初はオロオロしていたエンガだが、荒い呼吸のまま放置されていたお婆さんの背中を撫でて、紅茶を勧め始めた。

勿論、例え老婆であろうとも、エンガとの間接キスを許す私ではないので、新しいコップを用意させていただきましたが、何か?


短気で人間嫌いであるはずの《獣人》なエンガの意外な行動に、私以外のその場にいた全員が『え?』と止まっていた。

コップを渡された、当の本人であるお婆ちゃんは


「はあはあ、良い、の、かい?」

と、エンガから紅茶を受け取り、一気飲み。


「ぷっはぁー!生き返る!あんなに走ったのは久しぶりだでねぇ~。天に召されるかと思ったよ。いやはや。獣人さん、ありがとうねぇ。」

と、冷えたビールを一気飲みしたかのような清々しい表情のお婆ちゃん。


「あ!忘れてた!ばーちゃん!大丈夫!?馬鹿がごめんね。・・・・。獣人さん、ばーちゃん見ててくれた上に、お茶までごちそうさまです。ありがとうございます。」

と、少し怯えた様子で頭を下げながら、少年の頭まで無理矢理下げるお母さん。


「ばーちゃんごめん。オッサン、あんがとー。」

お母さんの拳骨が痛かったのか、判別のつかない涙を目にためる少年。

エンガは気にしなくていいと、出来るだけ身体を丸めて小さくし、手を横に振ってみせるが、母親らしき人からの怯え、困惑の空気は消えない。

ので、私が接客することにする。


「お買い物ですか~?ラッキークッキーはこちらのエンガからのみ購入可能ですよ~。その他の商品も自信作なので、宜しければどうぞ~。」


さてさて、何が売れるかな?


「かーちゃん、ばーちゃん!これ!ラッキークッキー!!買って!!んで、俺にランルー鳥ぃぃぃぃぃぃ!!」

と、熱いシャウトを繰り広げる少年。

お前、最初の強盗並みの頑張る少年風はどうした?

駄々っ子モードすげぇな、おい。

友達に見られたら引かれるぞ?

そんな少年に袖を引っ張られつつ、少年の母親は


「わ、わたしは、えっと、あの、この《イチゴのタルト》で・・・。バカ息子が迷惑かけたし、その、たまにはお高い御菓子も、その・・・。」

と、おどおどした様子で私に話しかけてきた。

エンガにラッキークッキーを頼む勇気は出ないらしい。

迷惑かけちゃったから、高くても買わなきゃ!的な感じでタルトを選んだんだろう。

そんな母親の心境を理解していない息子君は


「え!?クッキーじゃなくて、そっちの高いの買うの!?俺も!!俺も食いたいぃぃぃぃぃ!!」

と、少年はクッキーじゃなくても良いらしい。

取りあえず、何か食いたいらしい。

少年のお母さん、こういう子を連れて歩く時は、先にお腹いっぱい食べさせてから来た方が良いよ。

買い物の時とか駄々こねるから。

食パンでも食わせてから・・・。


「1個だよ!買うのは1個!!みんなで分けるから!そんなにお金持ってきてないから!」

と、少年に小声で怒鳴るお母さん。

そんな二人に作り笑顔で対応している私の横では


「そうかい、今日が開店初日なんだねぇ~。そうかい、そうかい、珍しい商品ばかりだねぇ~。これはなんだい?ん?ごめんねぇ、ばばあ は耳が遠くてねぇ~。ああ、なるほど。これを買って当たるとそっちが貰えるんだね?ふんふん。面白いねぇ。どれ、ばばあ にその、らっきぃくっきいを一つ、おくれ。・・・大学芋は ばばあ でも食べれそうかい?歯が少しばかり無ぇんだけども・・・。」

と、何やら腰をかがめたエンガさんと楽し気なトーク繰り広げるお婆さん。


えっ!?天敵はまさかの熟女枠ですか!?




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