エプロン作り
新商品予定の《わたあめ》の出来栄えは上々。
エンガからも好評だし、一度お店に出してみてから、改善点などを模索していくことにしましょう。
お次は、一次発酵を終えたパン生地にバターを畳み込んで伸ばし、成形して冷凍。
食べたい時に二次発酵させて、焼くだけの状態にしておく。
後は、お昼ご飯の準備をしましょう。
さっき、道端でエンガに尋ねた時、分厚いお肉が食べたいと言っていたので
そのリクエストにお応えしようかと思う。
《とんてき》なんていかがだろうか?
分厚いお肉でも繊維を切って、すりおろした玉ねぎに付け込んでから焼くと軟らかく仕上がるはず!
お野菜もたっぷりと付け合わせにして、蒸したジャガイモもバターやマヨネーズをのせて熱々ハフハフで食べるんだいっ!
後は大量のごはん!
エンガと2人でキッチンに立って作業開始!
今では、野菜を細かくしたりするのは私よりもエンガの方が早くて上手。
ナイフの扱いが上手だからだと思うんだけど、均一に素早く切れるんだよねぇ。
飾り切りとか教えたら、職人技を発揮しそうな気がする。
にしても、早くエプロンを縫わねば。
エンガはあまり気にしてないみたいだけど、跳ね返ってた水が服に付いちゃってるからね。
粉物を扱った時もそうだったけど、力加減がまだ下手というか、勢いが良すぎるみたい。
後で拭いてあげるから良いんだけど。
こんなに沢山のお手伝いをしてくれて、最初に考えていたよりもキッチンに立つ機会が多いから、早いとこエプロンづくり、頑張らねば!
なんて考えながらも時短魔法を使い、作り上げていくおかずの数々。
蒸かしたジャガイモもお皿の上に配置完了。
どんぶりにご飯を盛って、さあ、いただきます!
まず、分厚めのお肉、トンテキに齧り付くエンガ。
肉の厚さを楽しみたいのかと思ったので、エンガの分は切らないで出してみました。
結果、牙を使いながら、もぎゅりっ!と食いちぎり、お口いっぱいのお肉を咀嚼。
輝いた眼と、ムッフー!!という鼻息の荒さだけで、テンションが上がってるのが分かる。
少しお行儀は悪いけど、口にお肉が残ってるうちに、沢山のご飯をぱくり。
そして、
「むっふふー!」
という満足そうなお返事。
ああ、可愛い。
ウチのオッサン、本当に可愛い。
その辺の美少女なんかにゃ負けない可愛さだよ。
本当に。
ああ、いけない。
冷める前にあれを食べないと。
熱々ハフハフしてる姿が見れなくなっちゃう!
ウマウマ言ってるエンガに蒸かしたジャガイモを急いで差し出す。
「これ、ジャガイモを蒸した物なんだけど、このバターかマヨネーズをつけて食べてみて。熱いから火傷に気をつけてね。」
「ん?芋?」
と、なんでか不思議顔のエンガ。
「芋ってこんなにコロコロしてたっけか?もっと小さくてシワシワじゃなかったか?むした、って何だ?茹でたんじゃねぇのか?」
と、質問を口にしつつも、手は動かすエンガさん。
茹でたのではなく、蒸気で蒸したのだと違いを説明したけど、意識は既にホカホカなお芋に向いている。
私と芋を見比べだしたので、食べる様に勧めると
ジャガイモにバターを薄く載せて、大きなお口でガブリ!
「んんんんー!!!!はっ!はひぃ!!」
と、熱かったのか、ハフハフを口を動かしながら涙目のエンガ。
涙目でハフハフしてる姿は すんごく可愛いけど火傷させるのは論外なので、急いでお水を渡します。
すると、お水を飲み、今度はフーフーと息を吹きかけてから、再度ガブリ。
ハフハフと息を吐きつつも
「うんまー!!ヤエ、コレ本当に芋なのか!?フライドポテトになったのも驚いたけどよ、あれは揚げたからだろ?こんなに真ん丸でホクホクで美味いのが芋だなんて信じらんねぇよ!蒸した芋ってスゲェんだな!」
と、お芋を両手で持って、熱々、ハフハフと食べ進めていくエンガ、思った通り、激カワです。
作って良かった!!
私は、この可愛い姿が見たかったのよ!!
なんて気分を上げつつ、エンガに説明してあげましょう。
「ふふふ。普通のお店で売ってるお芋は蒸してもそんなに美味しくないと思うよ。小さいし、シワシワだし、べちゃべちゃしてる事だってあるからね。このお芋が美味しいのは私が育てたお芋だからだよ。エンガが美味しく食べてくれますように!って想いを込めて育てたお芋だから、こんなに大きくてコロコロとしてて栄養と旨味満点の美味しい、お芋なんだよ。」
と、マヨネーズの入った小皿を差し出しながら説明する。
そう、この世界の芋は食えたもんじゃない。
この飯マズ世界では、ジャガイモは緑や紫がかってるのは普通。
シワシワで、旨味なんてなさそうな小さい物が主流なんだから。
エンガを想って、チートで全力で育てた自慢のお芋様となんて、雲泥の差よ!
なんて考えていると、食べる手を止めたエンガが目に入った。
「へへ、そうか。ヤエが俺を想って育ててくれた芋だから、こんなに美味ぇのか。そっか、そっか。へへへ~♪」
と、嬉しそうに、照れたようにモジモジと笑うエンガ。
んんんんんんんん!!!!!
可愛い!!
もう、本当に、可愛い!!
エンガの為なら、何キロでも、何トンでも育てるよ!
お芋様!!
なんて心で叫んでいる間に、エンガはジャガイモにマヨネーズを載せて食べ始めた。
「もひゅもひゅ、ん!!コレ、コレも美味ぇ!!まったりしてて、酸っぱさもあって、美味ぇ!」
と、次はもう少し多めにマヨを載せて食べるエンガさん。
やっぱりな~。
エンガは結構、マヨネーズ好きみたいなんだよね。
パンに具材を挟む時も、マヨつける率高かった気がするし。
でも、マヨネーズは美味しいけどカロリーも高いから、他の食品との組み合わせとかも考えた方が良いかも。
もしくは、もう少し控えめにしてもらうとか?
ん~、というか、獣人の基本の一日摂取カロリーってどれぐらいなんだろう?
太らせるのもあれだけど、動かなくても ある程度のカロリーが必要な身体なのかもしれないし、難しい。
何となく、獣人って自分の身体は自分で判断できそうなイメージがあるんだけど、エンガは《空腹》が常だったみたいだし、難しいかな?
どうなんだろう。
一日にどんなものをどれくらい食べるのか、今度トリアに聞いてみようかな。
エンガとトリアじゃ種族も年齢も体の大きさも違うけど、普通の人間よりも参考になる話が聞けると思うし。
と、少し悩んでいると、目の前にマヨネーズの載ったホカホカのジャガイモが現れた。
「美味ぇから、ヤエも食ってくれ!」
と、笑顔で私にジャガイモを向けるエンガ。
ああ、なんて可愛いオッサン。
私的にはマヨネーズが多すぎるんだけど、そんなのどうでも良い。
エンガの気が変わらないうちに、と思って
大きく口を開けてぱくり、と いただいた。
ああ、美味しい。
エンガが美味しいって言ってくれて、それを自らの手で分けてくれて。
美味しいに決まってるじゃないか!
「美味しいねぇ。エンガが食べさせてくれたからかな、今までのお芋の中で一番美味しい。分けてくれてありがとうね、エンガ。」
と、素直にお礼を述べると
「ん?そ、そうか?美味いなら良かった。」
と、照れてるエンガさん。
照れてる姿も激プリティ。
こんなイイ男を目の前にご飯を食べれるなんて、本当にありがたや。
ご飯をたっぷり食べて、お腹いっぱい。
目を擦りながら、船を漕ぎ始めたエンガは昼寝のお時間ですね。
「エンガ、明日もお出かけしなきゃいけないし、今日は もうゆっくり過ごそうか。私はエプロン作りたいから、サイズだけ測らせてね。その後は部屋で寝てていいから。」
授業で使っていた裁縫箱を手に今にも眠りそうなエンガに声をかけると、立ち上がってくれたエンガ。
簡単なエプロンを作るつもりなので、胸囲や腰回りなど必要最低限のサイズだけを測っていく。
「よっし、OK。後は大丈夫だよ~。部屋でゆっくり寝てていいからね。」
と、眠りそうになっているエンガの背中を撫でてあげると
「俺、ここで寝る。ソファでけぇし、寝れるから、そこにいる。ヤエの傍にいる。エプロン、楽しみ。」
と、頭をカックンカックンと動かしながら、ソファに横になる準備を始めるエンガ。
全世界の皆さま、お聞きになりましたか!?
【傍にいる。】
なんて、もう、ウチのエンガさん、可愛すぎるでしょう!?
ねえ、可愛いでしょう!?
そうでしょう、ドヤァァァァ!!!!!
【楽しみ。】
だなんて言われちゃ、もう全力で頑張るしかないでしょう!
私、ヤエ、裁縫の経験は家庭科の授業だけですが、精一杯頑張ります!
っと、その前にミシンを作ろう。
鉄くずと木、後はゴブリンの魔石を使って・・・。
ああ、うん。
予想とは違ったけど、使えそうだし良いかな?
まさか、電動じゃなくて足踏み式が出来るとは思わなかったよね。
魔石、必要ないじゃん。
完全に魔石が装飾品扱いになっちゃってるし。
ん~、本当は電動が良かったんだけどなぁ。
前にテレビで見た《昔の道具の構造と使い方、当時の生活》的な番組が頭に残ってたせいか、そちらが強く反映されちゃったらしい。
まあ、真面目に受けてなかった授業の裁縫よりも、面白く構成されてた番組の方が強く記憶に残ってるのはしょうがないか。
まあ、何にしろ、手縫いよりもマシだ!!
エプロン作り、開始!!
自分の分を先に作ってみよう。
失敗しても自分のならそんなに気になんないし、エンガには綺麗に出来たほうを渡したい。
それに、エンガのは大きい分、使う布が多いから失敗は許されない。
ではでは、前もって書いておいた簡易な図面にサイズを記入し、全体図を再確認。
そして、なぜか大量にある新聞紙を使って型紙の作成。
新聞紙にメジャーで印をつけて、サインペンで線を繋いで、それなりの形にしたら切り取り、型紙の完成。
自分の身体に当ててみて、変な所は無いか確認。
次にこの型紙を布に当てて、布を切り取る。
間違えない様に、慎重に。
布を切り終えたら、不要な切れ端を使ってミシンの練習。
なかなか真っすぐ縫えないし、足もつりそうだし、手を縫いそうで怖いけど、練習あるのみ!
私は今日中に2枚のお揃いのエプロンを縫うんだいっ!!
と、黙々と作業を続け、何とか形になった1枚のエプロン。
うん、初めて一から作ったにしては、良く出来てるんじゃないかな?
まあ、歪んでるし、引き攣ってる所もあるけど、後半はだいぶ上手く縫えるようになったし、着ても変じゃないし動きやすいので良しとしましょう。
お次は本命!エンガの分のエプロン!
集中して、丁寧に頑張るぞ!!
と、気合を入れ直して型紙を切り終え、ミシンの作業に移ろうと思った時、目の前に大きな影が出来た。
どうやらエンガが起きたらしい。
起き上がって腕や身体を上の方向に伸ばしている姿は猫っぽくて可愛い。
欠伸を一つこぼして、口元をうにゅうにゅと動かすのもまた可愛い。
「んあ~、良く寝た。おっ!それ、俺のか?俺のエプロン?」
と、ワクワクしている表情で聞いてくるエンガ。
「うん。今作ってるのがエンガの分だよ。エプロン、まだ時間がかかるんだけど今日中に作っちゃいたいんだ。御夕飯は調理パンでも良い?」
と、布を広げて見せながら聞いてみると、エンガは何度も頷いて
「おう!調理パンも大好きだから問題ねぇ!俺も早くエプロン着たい!ヤエ、頑張ってくれ!」
と激励してくれた。
うん!
エンガが応援してくれるなら百人力よ!!
ヤエさん頑張っちゃう!!
「あ!ここで見てても良いか?エプロン作るのなんて初めて見るからよ!」
と、ソファを降りて目の前に座ったエンガ。
勿論、返事はOKです。
目の前で作るのは緊張するけど、ワクワク顔を見ながら作るのって素晴らしいと思うんだよね!!
更にやる気出るし!
という訳で、ミシンの作業からは興味津々のエンガを目の前に、時々エンガの質問に答えながら作業を進め、間に御夕飯として調理パンを食べたりしつつ、何とか完成!!
2枚目だったからか、エンガが目の前で応援しててくれたからなのか、思っていたよりも綺麗に出来上がった。
「うおおおお!!出来たのか!?出来たのか!?お揃いのエプロン!」
と、嬉しそうなエンガと共に、早速試着。
「どう?きつくない?」
と、聞いてみると
「全然!ぴったしだ!スゲェ!俺とヤエのお揃い!また一つ増えたな!!うおおおおお!!作ってくれてありがとう!ヤエ!」
と、大興奮のエンガ。
裾を広げて全体を確認して、私と自分のエプロンを見比べ、何度も頷くのを繰り返す姿をみて、作って良かったと心から思う。
こんなに喜んでもらえると、何でも作ってあげたくなっちゃうよね。
また今度、何かお揃いの物を私の手で作ろう。
そう心に決めました まる。
「ヤエ!これ、このエプロン着て何か作ろうぜ!今から!」
と、鼻息荒くおねだりしてくるエンガさん。
おおう、今からですかい?
既に深夜に近い時間帯だと思うのですが・・・。
というか、エンガさんや、ヤエさんはずっと作業して疲れて・・・。
ません!!
ええ、疲れてなんていませんとも!
だから、そんな期待してるようなキュルキュルな眼でこっちを見ないで!
【ダメ?ダメ?】
みたいな可愛い目でこっちを見ないで!
鼻血でそう!!
「も、勿論!何が良い?」
「何でもいい!!一緒に作れるやつ!!」
一緒に、一緒に作れるやつ・・・。
あーっと、さつまいもがあるから、大学芋とかどうでしょう?
ホクホクねっちょりの方じゃなくて、油で揚げて飴に絡ませるカリカリの方。
疲れたからか、無性に食べごたえのある甘いものが食べたい気分。
こんな時間に食べたら太るだろうけど、食べたい。
「サツマイモを揚げて飴を絡ませたのなんてどうかな?」
とりあえず、エンガが好きそうなものか聞いてみる。
「サツマイモも揚げんのか!?フライドポテトみてぇに旨くなりそう!!それが良い!!けど、アメが分かんねぇ・・・。けど、それが良い!それにする!」
よし、決定だね。
にしても、飴が分からないのはエンガが食べたことないからなのか、この世界に無いからなのか・・・。
どっちだろ?
私的には存在しててほしいんだけど・・・。
あー、でも、あっても《べっこう飴》程度かな?
味付きの飴なんてこの世界では無理そうだし、あっても食べれるか分からないからなぁ。
でも、飴好きの私的には切ないな・・・。
自分で作るしかないのか・・・。
まあ、今は
私の背中を押してキッチンに連れて行こうとするエンガが可愛いので、その話は置いておこう。
さて、ソワソワしてるエンガと一緒におやつ作り開始!!
まず、サツマイモを細めの乱切りにして水にさらし、バットにサラダ油を薄く塗っておく。
水を切ったサツマイモを布巾で拭いて水気を完全に切ってから、低温の油で揚げる。
芋が軟らかくなったら一度油から上げて、次は高温の油でカリッと揚げていく。
そして、砂糖と水を鍋で煮詰めてべっこう飴を作り、その鍋に胡麻と揚げたサツマイモを投入。
サツマイモ全体に飴を絡めて、油を塗ったバットに移して出来上がり。
飴が固まるので、バットの上で芋同士がくっつかない様に、ばらけさせるのがポイント。
おっかなびっくり、芋を油に入れていく可愛いエンガを全力で堪能しつつ、《大学芋》の完成。
熱いうちは本当に凶器の様なお菓子なので、逸るエンガを抑えるのに一苦労。
まだ?まだ?もう冷めたんじゃね?まだ?
という、可愛い目をしつつ、此方の顔色を窺いながら手を伸ばそうとするエンガに
【まだダメだよ。】
と、何度も注意しなきゃいけないなんて、なんて拷問・・・・。
注意する度にシュンとするエンガの可愛らしさったら。
こんな事なら、私の食べたいものじゃなくて直ぐに食べれるものにしとけば良かった。
深夜なのに、作った後に待たなきゃいけないなんて・・・。
しくじったわ・・・。
なんて考えつつ、ようやく程よく冷めた大学芋の試食開始です。
初めて見る状態のお芋だからか、スンスンと匂いを確認するエンガの隣で、カリカリと食べ進めていく私。
いや、本当に食べたかったのよ。
表面はカリカリ、噛み締める度にお芋の甘さと飴の純粋な甘さが口に広がる。
ああ、美味しい。
「っん!!甘うめぇ!!」
エンガも気に入ったのか、ポリポリと食べ進めていく。
しばらく無言で咀嚼していると
「ヤエ、これ、店で売れるんじゃねぇか?」
との発言が。
うん。確かに。
紙袋に入れて売れるし、サツマイモは皆も食べるものだし、わたあめよりも身近に感じるかも。
わたあめで興味を持たせて、《大学芋》で地道に稼ぐのもありだな。
「そうだね。これも売ったら良いかも。サツマイモも砂糖も胡麻も自分で作れるからね。ウチの油鍋大きいから一度に沢山あげられるし、飴も鍋で作ったのをざっと絡ませればいいしね。あ~、でも、サツマイモ切るの大変かも・・・。う~ん。私は細めが好きなんだけど、大きく切った方が簡単だよね・・・。」
と、販売についてモゴモゴと悩んでいると
「ヤエ、もう寝よう。芋はここまで。考えんのも明日にすんぞ。」
と、お芋のお皿をパッと片付けたエンガは私を抱えて歩き出した。
ん?
なんだ?
今、私はどうなっている?
エンガに抱っこされてんの?
なんで?
「ヤエ、目が半分しか空いてねぇぞ。眠ぃんだろ?エプロンでずっと頑張ってたのに、無理させてごめんな。俺が運んでやるから後は歯磨いて寝ろ。」
と、洗面所まで連れてこられた私。
眠いからなのか、驚きでか頭が働かない。
え~っと?
歯ブラシに歯磨き粉を付けて持たせてくれるエンガ、優しい。
じゃなくて。
隣に並んで歯をジャコジャコと豪快に磨くエンガも素敵。
じゃなくて。
「ん?はみがき、できうか?」
と、自分の歯ブラシを銜えながら、私の口に歯ブラシを突っ込もうとするエンガさん、新ジャンル。
じゃなくて。
「あ、ううん。大丈夫。歯磨き、出来る。」
うん、これでもないんだけど、本気で脳みそが眠いらしい。
頭が働かなくても、手は勝手に動くから不思議。
うがいも済ませて、口元をタオルで拭いてもらって、再び抱えられる私。
のっしのっしと歩くエンガ。
部屋に到着すると、入室しても良いか聞かれたので、良いと答えると
ベットにゆっくりと降ろされた。
そして、そのままゆっくりと横にされて、布団をかけてもらった。
「エプロンありがとうな。慣れない事で大変だったのに、一生懸命頑張ってくれて、嬉しかった。俺、大事にするかんな。明日は遅くて良いからな。朝もパンだけで良いから。ゆっくり眠ってくれな。」
と、優しく何度も頭を撫でてくれて、徐々に瞼が下がってくる。
謎だらけだが、間違いなく、今、私は最高に幸せだ。
もしかしたら、私の脳みそが都合よく見せてくれている夢かもしれない。
そう思えるくらい、素晴らしい気分の中、私は眠りについた。
エンガが、すっかり眠りに落ちた私の前で手を振って、本当に眠ったかを何度も確認し、
顔を真っ赤にしながら、額にキスを落としてくれたなんて知りもせずに。




