魔具を使ってみます。
商業ギルドを後にして、露店街に到着しました。
今日はエリニィちゃんはいないみたい。
レイルお爺ちゃんはこっちに手を振ってくれて、エンガがご機嫌で挨拶してる。
一応、エンガのお店になる《もふもふ雲》の両隣にも挨拶をしようと思ったんだけど、誰もいない。
挨拶はまた今度かな・・・。
怖い人じゃないといいんだけど・・・。
と、思いつつ、開店の準備。
小さい机を出して、商品名と値段の書かれた板をかけて、開店!
今日は《回復薬》《フライドポテト》《オニオンリング》の他にも新作の《さつま揚げ》があるから、売り上げが気になるところ。
待ってても購入はされないだろうから、取りあえず、レイルお爺ちゃんに試食と名した広告塔になっていただきましょう。
「レイルお爺ちゃん、宜しければ、新作の味見をしてくださいませんか?ついでにこちらの《フライドポテト》と《オニオンリング》もどうぞ。」
と、さつま揚げ以外にも、レイルお爺ちゃんのお気に入りを出してあげると
「おお!いただいても良いのかのう?そうかい、じゃあ、お言葉に甘えていただくとしよう。ありがたや。」
と、両手を合わせて、《いただきます》の代わりに《ありがたや》と呟いてからさつま揚げを口に運んだ。
恐る恐る反応を見てみると
「うむ、大変美味!ジジイの弱った歯でも食べやすく、コクも甘みもあり、野菜のシャキシャキとした食感とモチモチとした食感が・・・・・」
と、目を見開き、語り始めたレイルお爺ちゃん。
うん、長い。
褒め言葉が長いよ、お爺ちゃん・・・・。
もしかして、料理評論家だったりするの?
さつま揚げを完食後には、オニオンリングやらフライドポテトの感想まで長々と語ってくれました。
更には、家族のお土産にと、オニオンリングとさつま揚げを自腹でご購入。
そのおかげか、遠巻きにこちらを見ていた冒険者風の男が、
「おい、回復薬3つ。・・・・それと、その《さつま揚げ》と《ポテト》一つ。」
と、不機嫌そうにピッタリの金額を差し出してきた。
まあ、不機嫌そうなことには腹が立つけど、これも客商売。
笑顔で対応させていただきますよ。
「はーい!回復薬3つ、フライドポテト1つ、さつま揚げ1つになります。お買い上げありがとうございます!またの御越しをお待ちしております~!」
笑顔で手まで振ってやった。
冒険者風の男はフンッなんて鼻息と共に去っていったけども。
あの人はきっと、リピーターになると思う。
レイルお爺ちゃんの食レポに聞き入ってたから、食にこだわりありそう。
まあ、勘なので、二度と来ないかもしれないけど。
そんな事より、さっき、気づいたんだけどさ。
注文が入って直ぐにエンガが回復薬の用意を始めて、私が食品を用意して、
私がお金を受け取って仕舞う間に、エンガが商品の全てをお盆にのせて相手に差し出していた。
お互いに何も相談してないのに、凄い手際よく行動してた。
これって、あれだよね?
阿吽の呼吸って言うんじゃないのかな?
何も言ってないのに、お互いの行動が分かるなんて。
熟年夫婦みたいじゃない?
ちょっと感動した。
ふふふ。
なんて乙女思考を爆発させている間にも、品物はどんどん売れていく。
買って行くのはやはり冒険者だろうオッサン共。
エンガに文句をいう奴や値切ろうとするやつは即おかえりいただいた。
回復薬だけじゃなく食べ物の方も、物珍しさからか、鼻を動かして軽く匂いを嗅いでから買って行く人が多い。
その場で食べてくれる人がいなかったので、感想なんかは聞けなかったのが残念だけど、今後の売り上げを見ながら用意する割合なんかを考えて行こうと思う。
そんなこんなで、本日もあっという間に完売。
今日もそこそこの売り上げを達成。
有り難いです。
回復薬を売るだけで、使った分を回収していけるから本当に助かる。
お金も仕舞って、小さな机も片付けて、レイルお爺ちゃんにご挨拶して、帰宅。
エンガと道を歩いていると
「あ、やっぱり。こっちの獣人が本命よ。手も繋いでるし。」
「そうね~、昨日の時とは女の子の雰囲気が違うわね~。」
「っしゃあ!賭けは俺の勝ちだぜ!!」
なんて声が聞こえてきた。
ってか、おい!
その辺オヤジ共!勝手に賭けの対象にしてんじゃない!
エンガが本命か、トリアが本命か、見れば分かるでしょう!?
え?
大穴狙いでトリアに賭けた人もいるの?
えーーーー。
というか、皆さん。
数日しか経ってないのに、随分と私たちの事を受け入れてくれてますよね?
賭けの対象にしちゃうくらいだから、エンガの事も、もう全然怖くないんだろうなぁ。
怖かったらバレた時のことを考えて、賭けなんて出来ないもんね。
そう考えると、良い事なんだろうなぁ。
複雑ではあるが。
あ、
【おい!待てよ!手を繋いでるだけじゃ、どっちが本命かなんて分からないだろ!?まだ、勝負は終わってない!!】
なんて言ってる馬鹿がいる。
これは・・・・。
聞き捨てならないよね。
よっし、ここはエンガとのラブラブを周囲に知らしめるべきだね。
ついでに、あのオッサンの心と財布の中身を抉ってやろう。
「エンガ、エンガ!お昼ご飯には何が食べたい?エンガが食べたい物、頑張って作るからね!」
エンガの腕にくっついて、甘えるように話しかけてみる。
エンガに届け、この想い!!好き!好き!大好き!!
「んっ?飯か~。ヤエの作るもんは何でも美味いからなぁ。何がいいかな・・・。う~ん。あ!肉!肉が食いてぇ!分厚めの塊肉!んでよ、塊肉なら、俺は米が食いてぇな!野菜も山盛り!」
なんてお言葉と共に、人前でくっついた事に少し照れながらも、嬉しそうに微笑むエンガさん。
うん!可愛い!!
「任せて!!私、頑張る!!」
全力で返事をしてから、オッサン共の方を向いて、ドヤ顔してやった。
気分は【どうだ!可愛いだろ!ウチのエンガさん、本当に天使!】である。
トリアに賭けた数人が崩れ落ちたのを見た気がしたが、気にしない。
私は勝負に勝った様なルンルン気分でエンガと共に帰宅した。
まだそんなにお腹が空いていないとの事なので、お昼ご飯は少し遅めにしようと思う。
なので、その前に《魔具》の試運転をしてみようと思う。
まずは、巨大ミキサーから。
エンガにも使い方を覚えてほしいので、横で待機してもらう。
ビーターをセットして、バターを投入。
機械を動かし、バターを練り上げていく。
大き目の音と共に回転するビーターに驚いていたエンガだったが、少しすると興味津々で中を覗き始めた。
目を真ん丸にして大きなボウルの中を覗き込むオッサン、本当に可愛い。
バターが軟らかいクリーム状になったら、砂糖を加えて、更に練り上げる。
軽く、白っぽい状態になったら溶き卵と塩とバニラエッセンスを投入。
大型だからか、人の手でやるよりも何倍も速く大量に出来て凄い便利。
混ぜ終わったら、ビーターを外して、ボウルの中に小麦粉と膨らし粉を投入。
機械で混ぜると、ほわっほわの状態だから、少しだけボウルの側面に擦り付けるようにして、全体を混ぜていく。
均一に混ざったら、まとめて冷蔵庫へ。
少し休ませる。
そして、生地を休ませている間に、他の品を使ってみることに。
蒸し器にはよく洗ったジャガイモを投入。
後でマヨネーズやバターを付けて齧り付こう。
小さいジャガイモをおててに持って、ハフハフモグモグしてるエンガは絶対に可愛いと思う。
圧力鍋ではチャーシューを仕込んだ。
中華饅の生地の蒸しパンに挟むか、チャーハンに入れても美味しいと思う。
巨大ミキサーにフックを装着してパン生地も仕込んだ。
一次発酵中が終わったらバターを挟んで巨大ローラーで伸ばしてクロワッサンを作ろうと思う。
今朝の事もあったし、エンガの様子を見ながら作業してたんだけど、
ボウルを持ってくれたり、粉を運んでくれたり、楽しそうに作業してたので、今朝のは一人で放っておかれたのが嫌だったんだなぁと、改めて分かった気がした。
次からは気をつけよう。
そして、今回の目玉。
私が一番、力を入れた、動くかどうかドキドキしている作品。
それは
《わたあめ機》
である。
皆様、ご存じだろうか?
中心部を熱で温めザラメを溶かし、回転による遠心力を用いて中心部の小さな穴から溶けた飴を放出。
細く出た飴は周囲の温度で冷まされ、綿のような状態で差し込まれた割り箸に絡みつく。
子供の大好きな、夢の様なお菓子である。
理科の実験とかで、空き缶を使って実際に作ったよね、わたあめ機。
懐かしい。
実は、エンガがお店の名前を《もふもふ雲》に決めた時、わたあめはエンガのお店で出すべきだ!!
と思ったのよね。
うん。
別に、わたあめを売るエンガが見たいとかじゃないよ?
わたあめ作る、獣人オッサン、可愛い!
なんて下心じゃないよ?
可愛いだろうけどね!
間違いなく、可愛いだろうけどね!
上手く形にならなくて四苦八苦して、慌てちゃったりしたら、すごく可愛いと思うけどね!
兎に角、売れるかどうかは別にして、エンガのお店の注目商品になるのは間違いないよね!
まあ、元値は自家栽培の《砂糖の木》から採取したザラメだけだし、タダに近いから良いでしょう。
早速、電源を入れてみましょう!!
エンガに【上手くいけば、甘い綿の様な砂糖が出てくるはず】と伝えながら作業開始。
エンガは首を傾げてる状態。
そりゃそうだよね。
私も初めて見た時は驚いたもの。
さーて、そろそろ良いんじゃないでしょうか?
割り箸を構えて・・・。
ドキドキしている私のすぐ後ろで、私の肩に軽く手を乗せながら、一緒に見守ってるエンガさん。
なんか、後ろが気になってしょうがないんですけど・・・。
そっちにドキドキしてきた。
近くない?
エンガさん、今、凄く近くない?
私の頬に触れてるの、エンガさんのお髭じゃないの?
ソワソワするんですけど、違いますでしょうか?
あの、お、ヒゲェェェェェ!!!!!
キター!!
わたあめが出てきた!!
上手くいった!!
焦げてない、綺麗な白色のわたあめがドンドコと!!
急いで割り箸に巻き付けて、一度機械を止める。
初心者にしては中々上手に巻きつけられた、ふわっふわの《わたあめ》をエンガの方に向けてみると、目をキラキラと輝かせたエンガがいた。
「ヤ、ヤエ!コレ、コレ!《くも》じゃねぇのか!?空に浮かんでるやつ!なんでここにっ!?それ、触れるのか!?空、飛べるのか!?」
わたあめを指さして興奮状態のエンガを落ち着かせながら説明してあげる。
「これは《わたあめ》。綿のような状態の飴だから、空の雲とは違う、甘い食べ物なんだよ。エンガのお店は《もふもふ雲》でしょう?雲に見える、甘いこのお菓子なら、お店の名前と相性が良いんじゃないかな?ほら、甘くて口の中で溶ける。エンガも食べてみて。」
そう言って、味見も兼ねて少しちぎって食べて見せてから、エンガに割り箸を渡す。
焦げた味も無く、上質な砂糖の甘さで普通に美味しかった。
エンガが気に入るかどうかが問題だけど・・・。
「んにゅ。・・・・。ヤエ、なんか、すげぇ、引っ付いた・・・。」
と、エンガは耳を垂らし、情けない声を出した。
勢いよく齧り付こうとしたせいだろう。
エンガの口の周り、鼻の上、お髭には《わたあめ》が纏わりついていた。
私も昔、屋台で何度もやったわ!それ!
注意するのを忘れたことを後悔する。
私と違って、エンガは虎さんのお顔だから、絡み具合がハンパない。
べったベタしてる。
特に髭に付いているのが気になるのか、手で髭の辺りを擦ってる。
割り箸をエンガから受け取り、顔をぬるま湯で洗ってくるように言うと、思ってたのと違ったのがショックだったのか、エンガは尻尾を下げながら顔を洗いに行った。
さっきのじゃ味も分からなかっただろうし、もう一度作る事にする。
今度は、手でちぎって食べるか、少しづつ器用に口で剥ぎつつ食べることを勧めよう。
顔を洗ったエンガに、もう一度わたあめを差し出し、ちぎって食べる様に言うと、緊張した様子で、少しだけちぎって口に運んだ。
「んおっ!無くなった!ふわふわだと思ったら、無くなったぞ!しかも甘ぇ!うおー!すげぇ!初めて食う味だ!」
と、食感が面白いのか、どんどんと食べ進めていくエンガ。
「んまかった。ごちそーさん。これ、良いな。わたあめだっけか?見た目もそうだし、無くなるのに甘いのとか、驚くし面白いと思うぞ!まあ、一口で食おうとするなって注意書きは必要だと思うけどな。」
と、評価をいただいた。
というか、さっきは一口で食べようとしたのね?
そりゃ顔中にくっつくわ。
注意書きは必須だな。
全体的に少し細くするのも有りかもしれない。
エンガのおかげで、改善点が分かったので助かった。
やっぱり試食は大事だね。
そんなこんなで、《もふもふ雲》の商品に《わたあめ》追加決定です!




