魔具作り。
幸せな気持ちに包まれて就寝したためか、眠りは深くぐっすりと。
御蔭で、いつもよりも早く目が覚めました。
今日もスッキリサッパリ素晴らしい目覚めです。
さてさて、今日も最愛のエンガの為に、美味しいご飯づくりを頑張りましょう!
本当は一刻も早く魔具を造りたいのですが、エンガに見せるって約束したからね。
それに、一人だけで楽しむのは嫌なので、魔具はエンガが起きてから造ります。
で、今日の朝ごはんは・・・・。
ご飯が残ってるので、和食にしましょう。
ノイズから買った白身の魚をフードプロセッサーですりつぶして、味を調えて揚げれば《さつまあげ》の出来あがり。
中にインゲンや牛蒡、人参なんかを入れてもOK!
蒸かした芋を入れたものや、焼いた小海老を細かく砕いて入れても良し!
種類が豊富だけど、時短魔法でドンドン揚げていきます。
これは《もしゃもしゃ草》で販売することも考えて、多めに作成。
更に、だし巻き卵やらホウレン草のお浸し、ピリ辛のキンピラ牛蒡。
お味噌汁は玉ねぎとジャガイモ。
ん~。
お味噌汁と言えば、《油揚げ》とか《豆腐》だよね。
大豆は既に大量に収穫してあるから、後はにがりを手に入れねば。
ノイズにお願いして、海水でも仕入れてみようかしら。
海水を魔法でにがりにすれば、豆腐も作れるでしょう。
【にがりになれ~。にがりになれ~。お前はにがりだ!にがりになるのだ!】
でなってくれると思うし。
と、色々と考えている間に料理が完成。
エンガはまだ起きてこないので、保存の魔法をかけて、熱々の状態を維持しておきましょう。
その間に、回復薬の量産。
トリアに渡す分も考えて、少し多めに回復薬を作っておこう。
今日はお店も開きたいしね。
まあ、魔具を造ってみて、その進み具合にもよるんだけども。
午後にはお店を開けたいよね。
ちなみに、今日の予定は・・・・。
魔具を造る事。それから、商業ギルドで《タルタ牧場》の人と、牛や鳥の飼育について相談。
10時には商業ギルドに行かないといけない。
後、時間があれば《もしゃもしゃ草》の開店。
それと、魔具の状況によっては、《もふもふ雲》の開店。
二つとも、時間差で行えれば良いなぁ。
っと。
そう思っている間に、回復薬作りも終わり。
次は、《もしゃもしゃ草》で販売するフライドポテトとオニオンリングを作ります。
下味をつけて小麦粉をまぶした芋を揚げ。
オニオンリングは小麦粉を付けてから、味付きの衣にくぐらせて油にIN。
カラッと揚げて、少し冷ましてから紙袋に小分けにして、時間停止の魔法鞄に入れておく。
すると、トタトタという足音が聞こえてきた。
「ヤエ!おはよう!」
「おはよう!エンガ!ご飯、準備出来てるからね。座って座って。早く食べよう!」
全て仕舞い終えるとほぼ同時にエンガが起きてきた。
目を擦りながら欠伸するエンガも可愛いねぇ。
今日も素敵なエンガさん。
というか、さっきの会話、なんだか夫婦みたいで良いよね。
ふふふ♪
「おおー!!今日も美味そうだな!良い匂いだ!美味そう!!種類もいっぱいで、楽しみだな!」
と、ウキウキと席に座るエンガ。
向かい合って食べる食事って、本当に美味しいよね。
三割増しな気分。
大きな口で【あ~ん&モグモグ】と頬袋でもあるのかと思うくらい頬張って食べる姿、本当に可愛いです。
「んめぇ!!ヤエ!これなんだ??肉?じゃねぇよな?なんだ?」
と、熱々のさつま揚げもハフハフと口に入れていくエンガ。
「それは《さつま揚げ》だよ。お肉じゃなくて、お魚のすり身を油で揚げたものなの。熱々でフワフワで香ばしくて美味しいでしょ?」
と、答えると
「魚!?コレが魚か!?うお~。煮たのとかとは全然違ぇんだな!これも美味い!俺、これも好きだ!」
と、嬉しそうに食べてくれるエンガ。
今日もおかわりをたっぷりと。沢山食べてくれて嬉しい限りです。
「今日は魔具を造ってから商業ギルドに行こうね。エンガは欲しい魔具ある?教えてくれたら頑張って作ってみるよ?」
今日の予定を話ながら相談してみると
「ん?魔具?おっおお!そうだ!今日は魔具を作んの見せてくれるんだよな!?俺は良く分かんねぇから、ヤエの作りたいもん作ってくれよ!俺、見てるからよ!」
との事なので、今回はわたしの造りたい物を作っていこうと思います。
ご飯も食べ終え、2人並んで食事の後片付けを終えた後、
余っていた部屋の一つを使って、魔具造りを開始!!
まずは、簡単に。
大きな揚げ鍋を。
コレがあれば、大量のから揚げやらフライドポテトやらオニオンリング、揚げ物が可能になる!
エンガからキラキラとした期待の目を向けられながら、
鉄くずに、いつもの様に魔法をかけていく。
【お前は鍋だ~。揚げ物専門の大きな鍋だ~。お前は大きな鍋になるのだ!!】
そう考えて、形を考えながら両手をかざすと、小さな鉄くずが1つに纏りながらどんどん姿を変えていく。
そして、変形が終わったのと同時に大きな揚げ鍋の出来上がり。
「うおおおおおお!!すげぇ!ヤエ見てたか!?もちゃもちゃって丸っこくなって、ぐわっちゃんって形が変わったぞ!!すげぇな!!」
と、興奮状態のエンガさん。
うん。
相変わらず、独特な擬音が満載だけど、エンガが楽しんでくれてるなら嬉しいよ。
さてさて、お次は圧力鍋を。
家にあるのを見本に、鉄くずと大量の輪ゴムをベースに
何度も見本を触って確認しながら、念じる。
【お前は圧力鍋だ~圧力鍋だ~。今日から大量のチャーシューを作ってくれる圧力鍋ちゃんだ~。】
と念じて出来たのは大型の圧力鍋。
これにもエンガは大興奮!!
逆さにしたり、コンコンと軽く叩いてみたりしながら確認してる。
それを微笑ましく見ながらも、お次は少し難しい物を。
業務用のミキサーを2台。
前に職業体験で見た、お菓子屋さんの業務用のミキサーをイメージ。
動力は魔石を使いたいので、ゴブリンの魔石を鉄くずと共に用意。枠には木材も用意。
魔石一つで3~5回動くように、ゴブリンの魔石を乾電池の要領で使いたいと思っている。
そうすれば、本来なら捨てるはずのゴブリンの魔石を格安で購入して使用出来るし。
【お前はミキサーだ。業務用の大きなミキサーだ。フック、ビーター、ホイッパーも一緒に。お前はミキサー!!】
で、巨大ミキサーの出来上がり。
ちょっと試運転。
ゴブリンの魔石をミキサーの上部につけて、電源を入れてみる。
すると、ガーっと少し大きな音を立てて回転するミキサー。
おお!やったね!
ちゃんと動く!
上手く出来あがったらしいです。
コレで一安心。
今のところ理想に近い出来上がりである。
よし、どんどん仕上げていこう!
次もお菓子屋さんで見た業務用のパイローラー。
これもゴブリンの魔石で動くように作る。
【お前はパイローラーだ!巨大なパイローラーだ!!】
で、巨大パイローラーの出来上がり。
ああ、いけない。
蒸し器も作らないと。
これはさっきよりも簡単。
竹がないから、木で作ることになるけど、何とかなるでしょう。
【お前は蒸し器だ~。蒸し器。蒸し器!】
で、木材も変形。
うん、素晴らしいね。
チートは最高です!
お次はオーブン!!
フードプロセッサー!!
ジューサーも!!
と、夢中になって色々と作りました。
そして、ずっと作りたかった魔具を作り終わると同時に振り向いてみると、エンガの姿がない。
代わりに私の周りには作った魔具が大量に並んでいた。
「あれ?エンガ?エンガー?どこー?」
声を出してみるけれど、エンガからの返事はない。
もしかしたら、暇になって一人で外に行ったのかもしれない。
一瞬にして、顔から血の気が引いていく。
エンガは何時から後ろにいなかった?
エンガが部屋を出たのはいつ?
エンガは勝手に出て行くような性格じゃないから、私に声をかけたんじゃないだろうか。
私、魔具を作るのに夢中になって、エンガの事をほったらかしにしたんだ。
うわああああああ!!!!
どこに行ったのエンガ!!
バクバクと破裂しそうな心臓を抱えながら、部屋から飛び出してエンガを探す。ドタドタと音を立てて廊下を走り、リビングの扉を開けると、椅子に座って机に向かうエンガの姿があった。
外に出ていないことに安心すると同時にホッと息を吐き、エンガに声をかける。
「エンガ、ごめんね。つい、夢中になっちゃって・・・。」
謝罪の途中で私の声はエンガの声に遮られた。
「俺、今、勉強中だ。【後で】な。」
こっちを向いてくれないエンガの後ろ姿が視界に入る。
エンガの尻尾が《シターンッ!シターンッ!》と、椅子を叩く音が響く。
エンガの放った言葉、その姿に、頭が真っ白になる。
エンガが怒ってる?
放っておいたから、怒ってるんでしょうか?
もしかして、強調されてた【後で】って単語は、私が魔具に夢中になってる間にエンガに向けて言ったのでしょうか??
凄く刺々しく言い放たれたんですが・・・。
ど、どどどどどうしよう!?
怒ってるエンガなんて初めて見る!!
というか、怒ってる成人男性なんて相手にしたことないから、どうしたら良いのか分からないよ!!
え?何?どうしたら良いの?
下手に刺激しない方が良いの?
どうなの?
教えて!神様!!
と、と、とにかく、落ち着こう!落ち着いて謝ろう!!
「えっと、エンガ?あの、」
「俺、勉強中。【後で】な。」
シターンシターンと、尻尾が椅子を叩く音が何度も響く。
怒りのエンガさん、再び。
これは・・・。
下手に話しかけると、余計に苛々させるだけだ・・・。。
モゴモゴと言い訳してたんじゃ、火に油を注ぐの繰り返しになる。
ちゃんと、ちゃんと謝って仲直りしなきゃ!!
私が全面に悪いんだから!!
正直、エンガに突き放された事で、ダメージが大きくて頭が回らない。
今はこれ以上刺激しないように、一度、大人しく部屋に戻ろう。
それで、きちんと言葉を纏めてから謝ろう!
「ごめんね、エンガ、邪魔にならないように、一度、作業部屋に戻ってるから。えっと、終わったら声をかけてくれると嬉しい、です。」
声が小さくなるのは仕方ない。
無音の中、エンガの尻尾がシターンシターンって鳴ってるんだもの。
エンガに嫌われたのかもしれないと思うと、足も声も震える。
そんな私の言葉に反応したエンガは
「えっ!?」
と、驚いた様子で此方に振り返った。
あれ?
【えっ!?】って何?
怒ってる、、のよね?
驚きの表情が全面に出てるけど、怒ってるのよね?
さっきの尻尾シターンシターンは怒ってるのの表現だよね?
あれ?違うの?
私の疑問だらけの顔を見てハッとしたらしい、エンガは
「【後で】な。終わったらな。」
と言って、再び机に向かってしまった。
良く分からないけど、ご機嫌が斜めなのは間違いない。
先ほどから言われる【後で】の言葉が心臓に刺さる。
もし、私がエンガに言った言葉だとしたら、最悪だ。
放っておいて【後でね。】なんて連呼してたんなら、本当に最低だぞ、自分!!
時よ戻れ!!
本気で請い願う!!
そう考えながら、フラフラと震える足でなんとか作業部屋に戻り、考える。
よく思い出すんだ、自分!!
放っておいた他に何かしたのか!?
エンガに酷い事を言ったのか!?
どうなんだ!?
なんて謝る!?
謝罪の言葉は!?
悩むこと1分。
「ヤ、ヤエー。お、終わった、勉強、終わった、ぞ?」
と、恐る恐るといった表情で作業所の扉から顔を出すエンガ。
え!?
早い!!
まだ1分くらいしか経ってないよ!?
というか、なんで恐る恐るなの??
なんでエンガが落ち込んでる感じになってるの??
良く分からないけど、とにかく、とにかく正直に謝ろう!!
「エンガ!!ごめんね!!魔具を造るのに夢中で、エンガの事を放ったらかしにして、本当にごめんなさい!!エンガが話しかけてくれたのも、きっと気付かなかったか雑に返事したと思う!本当にごめんなさい!」
何と言えばいいか分からないけど、精一杯気持ちを込めて頭を下げる。
すると、
「・・・んや。俺の方こそ、ごめんな。ヤエ、魔具に一生懸命で、俺が話しかけても【ごめんね、もう少し待って】とか【後でね】ばっかでよ。俺、なんつーか、俺と話すより魔具作る方がヤエは楽しいのかって、腹が立って、寂しくて、それで・・・。自分が言われて嫌な言葉だったのに、ヤエに言っちまった。ごめんな・・・。俺の方が大人だし、そんな事で怒るなんて、馬鹿みてぇなのにな・・・。ごめんな。・・・うぅ、俺、まだまだガキっぽくて、情けねぇなぁ。もっと、ヤエが頼ってくれるようなカッコイイ大人の男になりてぇのによぉ・・・。」
と、ションボリしながら教えてくれたエンガ。
側に居るエンガの事を放ったらかしにするなんて初めてだから、戸惑ったのと悲しくなってしまったんだろう。
そんな思いをさせたかと思うと本当に申し訳ない。
「エンガが謝る必要なんてないよ!!夢中になりすぎて、適当な返事して、エンガを傷つけた私が悪いから!本当にごめんなさい!エンガは頼りになるし、カッコイイよ!」
もう一度、心を込めて謝罪する。
エンガが怒るのは当然だ。
【もう少し待って】とか【後で】なんて、適当な返事をするなんて。
最低だ・・・。私。
今回は本当に私が悪い。反省。
お互いに謝罪した後も、暫く2人そろって項垂れていたが、
何時までも落ち込んでる場合じゃない。
悪かったところはちゃんと直して次に生かさないと。
兎に角、
楽しいからって、他の事に全く気が回らなくなるのは駄目!
周囲にも気を配りながら、様々な事が出来るようにしないと!
というか、エンガを無視するなんて絶対に駄目!!!!
と心に決め、心を落ち着ける為にも、おやつタイムにする事にする。
10時には商業ギルドに着くように行かなければならいないから、そんなに時間はないんだけど、こんな空気のままでお出かけしたくない。
ちゃんと、仲直りして、いつもの様に明るく元気にお出かけしたい。
そう思って おやつの準備を始めると、それに気づいたエンガが
「あっ!俺!俺がホットミルク入れる!!ヤエが入れてくれてたの見てたから、俺にも出来る!はずだ!俺にやらせてくれ!」
と挙手。
コンロを使わせることが少し心配だけど、エンガも私と同じように空気を変える事を考えてくれたのかもしれない。
「じゃあ、昨日のクッキーを出すから、ホットミルクはエンガにお願いしても良い?」
「おう!任せろ!」
と、元気なお返事のエンガを見守りつつ、私はマグカップの準備。
クッキーは出すだけだからね。
コンロの着火の瞬間にハラハラドキドキしつつ、火加減も教えてあげて、見守る。
結果・・・・。
無事に2人のお揃いのマグカップには熱々のホットミルクが。
エンガが初めて入れてくれたホットミルクと、昨日【私の為に】作ってくれたクッキー。
最強の組み合わせです。
更に、マグカップの湯気の向こうに見えるのは、
少し不安そうな顔でこちらを覗き込みながら、感想を待っているエンガの姿。
愛おしいその姿に
ああ、私、本当に、この人の事が好きだわ。
そう改めて確信。
クッキーを齧り、ホットミルクに息を吹きかけてから飲み込む。
「ふぅ~。美味しい。甘くて優しい、ホッとする味だね。エンガ、入れてくれてありがとう。」
ホッとするような安心できるような、エンガの優しさが溢れる味だ。
沸騰したから膜が張っているけど。はちみつが多くて少し甘いけれども、優しい幸せの味。
その言葉と同時に、身体の力が抜けて落ち着いた私を見たエンガは
「本当か?美味いか?・・・そうか。良かった。ヤエが喜んでくれたんなら俺も嬉しい。・・・俺達、まだまだ知らねぇ事ばっかで、喧嘩したりすることもあるだろうけどよ。これからもこうやって おやつ食ってさ、仲直りしような?ぜってぇ、仲直りしような。」
と、微笑むエンガ。
そうだよね。
お互い、真剣に人と向き合ってきた時間が圧倒的に短いから、まだ成長しきれてないところが多い。
でも、これからもずっと一緒にいるんだもの。
ちゃんと向き合って、仲直りをして少しづつ成長していこう。
・・・今回は全面的に私が悪いけどね。
「うん。喧嘩しても絶対に仲直りしようね。これからも宜しくね、エンガ。」
そう言ってマグカップに乗ってるエンガの手を握る。
すると、嬉しそうに、少し恥ずかしそうな表情で
「おう!よろしくな!」
なんて、手を握り返してくれるエンガが可愛くて。
時間を忘れてしまい、商業ギルドへダッシュで向かう事になるのは数分後のお話。
___________________
だ、ダッシュで到着しました。
息が苦しいです、ヤエです。
なんとか約束の時間の3分前に商業ギルドに到着しました。
今から《タルタ牧場》の人と牛や鳥の飼育についての話し合いです。
既に汗だく、息が上がった最悪の状態ですけどね。
背中を撫でてくれるエンガの優しさが沁みる。
息を整えつつ、サユさんを探していると
「ヤエさん、エンガさん、此方にどうぞ。」
と、通路の方から声がかけられた。
「タルタさんはお部屋でお待ちです。話し合いには私も同席させていただきますし、必要書類なんかは必要事項を書くだけの状態で用意してありますので、安心してくださいね。」
と、本当に頼りになる人です、サユさん。
冒険者ギルドの不安しか残さない職員さんとは大違いですな。
サユさんを筆頭に少し早足で個室へ移動。
そこで待っていたのは若い男の人でした。
「お待たせしました。こちら、タルタ牧場の《マルフィール》さんです。マルフィールさん、此方が本日ご了解させていただきます、依頼主のヤエさんとエンガさんです。」
「ああ、お待ちしておりました。私はタルタ牧場の職員の《マルフィール》と申します。この度は数ある牧場の中から、タルタ牧場を契約先の候補にしていただきまして、誠にありがとうございます。本日はよろしくお願いいたします。」
と、丁寧なご挨拶と共に下げられる頭を見ながら、少し戸惑う私とエンガ。
今までの人達と違って凄く大人な人だ。何だか少し怖い。
そう思うが、ビビってる場合じゃない。
「初めまして。私はヤエです。お忙しい中ご足労いただきまして誠にありがとうございます。」
と、取りあえず頭を下げてみる。
「俺はエンガだ。」
と、強張った声で名前を告げるエンガ。
そんな私達を見ても笑顔を崩さないマルフィールさん。
「挨拶はその辺りで。長時間は部屋を独占できないので、早速ですが本題の方に移らせていただきますね。まず、ヤエさんとエンガさんの希望は《鳥や牛》を購入し育ててもらう事。でしたが、詳しく決めたプランなどはございますか?」
と、話を進めてくれるサユさん。
サユさんが間に入ってくれただけで、少し緊張が解ける。
エンガの顔を見ると
「ヤエに任せる。」
との事なので、このまま私が話をさせてもらう事に。
「プランはざっくりとしか決めていないので、まず、タルタ牧場さんで飼育可能な種類の家畜を聞きたいです。卵や乳は不要ですので、《肉》という点で考えて、繁殖が簡単なもの、美味な物なんかを教えてください。」
と質問すると
「では《肉》としての観点での紹介を簡単にさせていただきますね。まず、美味な物として王道なのは《牛》です。牛は体が大きいので一度に手に入る量が多く、肉が軟らかく旨味も強いです。ただし、餌代も飼育費も高い上に繁殖に時間も労力もかかるので、お二人での消費をお考えでしたらあまりお勧めは出来ません。量り売りもしているので、そちらの方が気軽に手に入りますよ。次は鶏ですね。味は淡白で、牛肉には劣りますが、繁殖も容易く卵を必要としないのであればお勧めです。後は、兎もありますね。脂身が多く食べる所が少ないですが、繁殖力は間違いありません。山羊や馬もありますが、味と価格を考えるとお勧めはしません。豚肉はオークの方が美味しい上に格安です。」
と、即答してくれるマルフィールさん。
なんだか商売人って感じで、その即答が怖い。
下手に返事しちゃいけない感じ。
良く考えないと。
まず、牛。
これはまあ、美味しいなら何頭か番で購入しておくのは有りだよね。
商売には使わずに、エンガと2人だけで食べるやつ。
特別な祝い時に2人で美味しい高級な牛肉を食べるとか良いよね。
で、鶏。
これも買いだよね。
から揚げ作りたいし。
《もしゃもしゃ草》での主力商品にしたいし。
ブイヨン作りたい。
なので、鶏は大量に飼育してもらうかな~。
と、うんうん唸っていたらマルフィールさんから話の続きが
「もし、多少味が落ちて、魔獣でも構わないのであれば《ランルー鳥》という種類の鳥をお勧めします。鶏よりも大味ではありますが、鶏よりも早く食べごろになるので、質より量をお求めならこちらをお勧めします。」
「え?魔獣なのに牧場で飼育できるんですか?」
思わず聞いてしまった。
「ええ、《ランルー鳥》だけは飼育可能なんです。鳴かない上にあまり動かない種類なので、場所も取らず、雑草でも育つ上に、他の種類の動物を威圧したりもしないので飼育は簡単。ただし、卵は激マズなので、成長してからでないと食べられません。卵を食べたい方には不人気の種類ですね。」
なるほど。
味は大味、卵も食べれないけど、大きくなるのも早いし飼育料も安いしお店を出す人間ならオススメよ~。って事ね。
うん。
良いんじゃないかな。
正直、この世界の人間の食べてる腐り肉に比べたら、新鮮なだけで美味しいお肉だと思うから。
お店に出す方はランルー鳥で。
エンガと食べるのは鶏で。
「あの、朝に絞めた家畜を、その場で血と内臓を抜いてもらって、その日の午前中までに届けてもらう事は可能ですか?」
これ、一番大事な事だよね。
無理なら、自分たちで取りにいかないと。
「絞めた後に下処理して、午前中にお届けですか?ええ、勿論、追加料金を支払っていただければ可能です。個人配達や、血と内臓を抜く下処理も普段は行っておりませんので、特別料金をいただく上に、絞める時には3日前までにはご連絡いただかなければなりませんが、可能ですよ。」
と、内容を聞き返した直後、笑顔で即答のマルフィールさん。
成程。
追加料金ですか。
取りあえず、手間のかかる事は追加料金で何とかなりそうな雰囲気ですね。
「では、牛を雄2頭、雌2頭。鶏を繁殖させやすい割合で15羽、ランルー鳥も繁殖させやすい割合で30羽。全種類、長期的に飼育と繁殖をお願いしたいので、年齢はバラバラでお願いします。ランルー鳥は味見もしたいので、近いうちに1羽絞めて配達をお願いします。」
そう私が告げると同時に、机の上に置いてあった白紙の用紙に家畜の値段と飼育の値段、下処理の値段に運び賃をサラサラと淀みなく一気に書いて、こちらに向けてくるマルフィールさん。
「こちらが合計金額になります。運び賃の方ですが、午前中という超特急での指定配達ですので、少し割高になっていますがご了承ください。」
金額をざっと見てみると、やはり高い。
私の懐は全く痛まない値段だけど。
定期的に安定した形で肉を手に入れる為なら仕方ないけど、回復薬屋さんでもしてないと、手が出せないだろって値段だ。
思わず、紙を確認してからサユさんの顔を見てしまった私。
そんな私の顔を見て、横から
「内容確認、失礼します。・・・そうですね、個別特急配達料金、特別な下処理を考えると正当な値段ですね。家畜自体の値段も飼育料の値段も、此方が把握している内容と同じですし、問題ありません。飼育方はギルドが定期的に視察に行っているので保証しますよ。」
と、サユさんが確認してくれた。
本当に頼りになるお姉さんだよ、サユさん。
「では、この内容でお願いします。契約者は私とエンガの共同名義で。初期費用は今お支払いさせていただきます。毎月の支払いは商業ギルドの口座からでお願いします。」
目の前でお金を数えながらを出して、お願いする。
マルフィールさんは一瞬、目を見開いたけど、直ぐにまた笑顔を作って
「ご契約ありがとうございます。では、此方にサインを。誠心誠意、お世話させていただきますので、楽しみにしていてください。」
とのお返事の後に、一匹目の配達日も決めました。
サユさんに書類の確認もしてもらって、無事に契約終了。
「では、また後日に。失礼いたします。」
と、最後の最後まで笑顔で対応のマルフィールさん。
なんだか、気が抜けないお相手な気がしてなりません。
まあ、何はともあれ、無事に契約完了!!
これからは、から揚げも商品に出来るし、美味しい牛肉も手に入れられるだろうし、良し。
んでもって、オークの狩りは継続する事。
狩りデートもしたいし、豚肉の代わりは必要だもんね。
うんうん。
食事の件で余裕ができるのは良い事だよね。
では、お次は《もしゃもしゃ草》で回復薬とさつま揚げと、フライドポテトとオニオンリングの販売。
《もふもふ雲》でジャムも売ってみたいけど、そっちは明日かな。
出来れば、今日作った魔具で量産出来たものを出してみたい。
今日は時間が無くて、エンガにも出来上がった魔具を見せてないからね。
ふふふふ、最後に作った例の作品は見てからのお楽しみでござるよ、エンガ殿!!
一人でテンションを上げつつ、エンガと2人で《もしゃもしゃ草》へと向かう。
今回は、エンガさんとヤエちゃんが、まだまだ お子様だというお話でした。
ヤエちゃんも頑張ってはいますが、まだ18歳の女の子ですから。
周囲が見えなくなったり、エンガさんの事まで気が回らなくなったりしますよって事です。
異性との喧嘩なんてしたことないだろうし、謝罪の仕方にも困っちゃう。
今後、一生を共に過ごす相手だと考えると尚更、嫌われるのも怖いですよね。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。




