クッキーを作りましょう
先程の興奮をなんとか抑えつつ、クッキー作りの材料を用意します!
大理石は洗ってから浄化魔法をかけて準備完了。
バター、砂糖、卵、小麦粉、膨らし粉。
バニラビーンズも栽培したんだけど、まだ加工してないから、今回は家にあるバニラエッセンスを使います。
バニラビーンズは洋菓子作りで重要な物だから大量収穫中ですよ。
カスタードクリームやらプリンなんかにも必須アイテムですからね。
でも、お湯につけて布を巻いて乾燥させてを繰り返すとか、わりと大変そう。
上手くバニラビーンズになってくれるといいんだけど。
あ、あと、小豆なんかも栽培してるし、カボチャやサツマイモも手に入れてるので、近いうちに和菓子にも挑戦したいなぁ。
なんて考えつつ、早速作業開始!
量るのを私がやって、力作業はエンガにお願いしようと思います。
ボウルに入れたバターを木べらで練り練り。
バターが軟らかくなったら、泡だて器でまぜまぜ。
白っぽくなったら、砂糖を入れてまぜまぜ。
次は溶きほぐした卵を数回に分けてまぜまぜ。
ここで、バニラエッセンスを数滴。
後は、振った小麦粉と膨らし粉をふるい入れて、ゴムベラでさっくり・・・。
うん、さっくり混ぜるの表現が分からないらしいエンガの頭上にはハテナマークが見える。
なので、先にさっくりと混ぜるのを見せてあげてから、エンガにバトンタッチ。
それでも難しいからと、最後の仕上げは私が担当。
生地を纏めて、冷蔵庫で少し休ませて、後はお楽しみの型抜きの時間で~す!
この時点までも、凄くキャッキャウフフしていたのですが、今からはさらにキャッキャウフフだよ!
ふふふ♪
大理石に打ち粉をして、生地にも軽く打ち粉をして、
手で軽ーく伸ばして、クッキーローラーで伸ばす。
「エンガ、この棒で生地を伸ばしてくれる?こうやって、コロコロ~って。」
と、クッキーローラーを渡してお願いしてみると
「よし!任せろ!ころころ~?」
エンガはコロコロと転がそうとしているが、上手くいかない。
力んだために真ん中だけ凹み、途中で生地が切れてしまった。
「うあっ!!どうしよう!?ヤエ、ごめん!!変になっちまった!どうしよう!?」
と、わたわたしているエンガ。
「大丈夫だよ~。もう一度、こうやって生地を纏めて伸ばせば問題ないからね。はい、もう一回。優しく、少しづつ伸ばしてみて!」
再度、伸ばすのをお願いして、それを見守りつつ、型抜きの型を用意する。
色々な型を持ってるから、エンガが何を選ぶのか、ちょっと気になるなぁ。
少しずつゆっくり伸ばしてもらったおかげで、最初は凸凹だった生地も綺麗に均一に伸びてる。
後は、これを型で抜いて、予熱しておいたオーブンで焼くだけ。
様々な型をエンガに渡してみると、
「これを押し付ければいいのか?色々あんだな。む~。ん?ヤエ、これは何だ?」
と、気になったらしい型を持って聞いてきた。
「それは《星形》だよ。空に浮かんでるお星様。」
「ほし?星って夜に見える、空の光か?ヤエの所だとこんな難しい形なのか?こっちのは丸だろ?」
と、不思議そうなエンガ。
「私の所も同じだよ?夜空に光る星の事。私の世界では、こういう風に可愛く表す事が多いの。」
「そうなのか?んじゃ、これは?こっちは?こんなのあんのか?」
と、なぜなに坊やと化したエンガ相手に片っ端から形の説明をするのはちょっと大変だった。
車の形とか、電車の形とか、飛行機なんかね。
何で持ってたんだろう、私。
型抜きでキャッキャうふふするつもりが、既にぐったりだよ、コレ。
良く知らない事を説明するのってすごく大変だって実感した。
私がアホな事も実感したよ。
トホホ、、、。
そんで、説明が終わって、やっとこさ、型抜き開始です!!
と、意気込んでいたのに、エンガが選んだ型は【2つだけ】でした。
《ねこ》と《ハート》
の2種類。それ以外は全て箱に戻しました。
沢山の型を使っていいって言ったのに、2個だけ。
私は一応、お花とか星、葉っぱや小鳥なんかの可愛い系をチョイス。
んで、型抜き開始!!
生地は軟らかいので、慎重に型抜きしていきます。
私は慣れているので、そんなに手元は気にせずに、エンガを凝視。
ああ、真剣な横顔のエンガ。
なんて素敵なんだろう。
笑顔だとホワホワ、ふにゃふにゃしてて可愛いけど、
真剣な表情だと《大人な男》って感じでカッコイイんだよねえ、ホント。
やってることがお菓子作りでもね。
手元でハート形を整えててもね。
頬っぺたに粉がついてて、白くなってるのも可愛いよ。
はやくエプロン作らないとなぁ。
思ってたよりも粉が身体についちゃってる。
なんて考えている間に型抜き作業も無事に終わり、後は焼くだけ。
焼くのは時間がかかるので、焼いている合間にご飯を食べちゃいます。
今日はエンガの言葉に甘えて簡単に。
クッキーの為に控えめにした夕飯は早く食べ終わって、全部のクッキーが焼き上がるまで、もう少し時間がかかるので、先にエンガにお風呂に入ってもらいます。
簡単には落としたけど、まだ粉がついてるからね。
で、私はその間に、私が型抜いたクッキーを時短魔法でドンドン焼き上げる。
全てのクッキーが焼き上がると同時に、ルンルンと軽い足取りのエンガがやって来ました。
本日も素晴らしい悩殺寝間着の姿で。
もうさ、その太もものスリット、本当に必要ですか?
悩殺の為だけにあるんじゃないの?
ああ、動きやすいのね?
じゃあ、必要、、なの、かな?
私、今日も鼻血と戦ってるんですが・・・。
耐えろ!私の鼻の粘膜!顔に熱が集中していくのが凄く良く分かるけど、我慢よ!
なんて考えつつ、お鼻をヒクヒクさせてるエンガの頭を拭ってあげる。
ある程度 乾かしてあげたら
待ちに待った《クッキータイム》ですよ!
ホットミルクと共に出してあげると、目が輝いたエンガ。
今日も断トツで可愛いね。
ウチのエンガさん。
サクサクと音を立てながらクッキーを頬張るエンガ、本当に可愛いよ。
私の作ったお花やら葉っぱの形のクッキーを食べながら
「うんまい!ふわ~ってイイ匂いして、サクサクで美味い!ヤエの作ったやつ、形も綺麗でスゲェよ!俺のは、ちっと歪になっちまった・・・。」
って、少し残念そうなエンガ。
確かに、エンガの言う様に、猫の耳や尻尾、ハートの丸みを帯びている所が少し歪だけど、味があっていいと思う。
それに、初めてにしては本当に上手に出来てると思う。
ちゃんと何の形なのか分かるし、一生懸命さとか、思いを込めて真剣に作ったのが伝わってくる出来で凄く可愛い。
「確かに、型の通りじゃないかもしれないけど、1つ1つ違う形で味があって凄く良いと思うよ?可愛いし、ちゃんとハートと猫の形に見えるもの!真剣に作ったのが伝わってくるし、素敵だよ!」
と、思ったことをそのまま伝えると
「そっか?可愛いか?良かった。じゃ、じゃあよ、俺が作ったやつ、ヤエにやる。食ってくれ。ヤエにやる為に《はあと》と《ネコ》で作ったんだ。」
と、少し照れ臭そうにお皿を私に近づけるエンガ。
え?本当に?
私の為に?
本当に?
その《ハート》と《ネコ》の2種類のクッキーは私の為に作ったの?
どうしよう、凄く嬉しい!!
ネコは【自分に似てるから】って考えて作ってくれたのかな?
さっき、形を聞かれた時に
【ハートは好きとか、想いを伝えるとかそういう意味だ】って説明したけど、それを聞いてた上で作ってくれたんだよね?
だとしたら・・・・。
ウハー!!!!!
テンション、ブチ上がる!!
エンガが私の為に考えて作ってくれたクッキーだよ?
しかも、それが《ハートとネコ》!!
嬉しいに決まってるでしょう!!
もう、本当に本当に好き過ぎる!!
照れながらクッキーを渡してくるエンガの威力、半端ないっすよ!!
悩殺寝間着姿もプラスされてるしね!!
「いいの?私がもらって良いの?本当に?ありがとう!凄く、凄く嬉しいよ!エンガ!ありがとう!本当に、ありがとう!」
もう、本当に《ありがとう》以外に言える言葉がない。
宝石貰ったりするより何倍も嬉しい!
食べるのがもったいないくらい!!
・・・・どうしよう。
本当に食べるのもったいない。
エンガの手作りクッキー。
これはあれだね。
何回かに分けて食べるべきだね。
何度もこの幸せを噛み締めねばなるまい。
「ヤエが喜んでくれて良かった。いつもヤエには美味い物いっぱい作ってもらってるかんな。少しでも恩返しにと思ってよ。うら!食ってみてくれ!ヤエが作ってくれたこっちの《くっきい》も美味いぞ!」
と、嬉しそうに言ってくれるエンガがもう、本当に愛し過ぎて。
自分で作ったものなんかとは段違い、エンガの作ったクッキーは最高に美味でございました。
私がお礼を言うと嬉しそうにするエンガも大変可愛らしく、心のカメラで連写。
色んな意味でごちそうさまでした。
そんなこんなでクッキーも食べ終えて、本日は就寝。
魔具は明日の朝にでも作りましょう。
ちなみに、今日は沢山の解体を覚えたので、エンガのお勉強はお休みです。
頭を休ませてあげないとね。
という事で、今日も幸せな一日が終わりました。
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いつもは遅くまで起きてるヤエが、もう寝るっつーから、俺も自分の部屋に戻った。
正直、興奮してて眠れそうにねぇし、まだまだヤエに聞いてほしい事が沢山あったんだが、ヤエはいつもより眠そうにフラフラと歩いてたから、相当眠かったんだと思う。
そりゃそうだよな。
俺やトリアは男だし獣人だし体力もあるだろうが、ヤエは若い人間の女だもんな。
疲れるのも当然だ。
今日はしっかりと休んでもらって、また明日、話を聞いてもらおう。
にしても、今日も面白れぇ事が沢山あった。
トリアとの狩りもそうだし、ケンタウルルも初めて見た。
魔獣の解体も新しく覚えた。
自分では分かんなかったが、俺は【強い】らしい。
冒険者のトリアが言ってくれたんだ、間違いねぇ。
それに、狩れた魔獣の数々。
コーザも【すごい】って褒めてくれた。
俺は戦えるんだ。
俺は今まで、怪我が無くなった身体でも【人間の男より下】だと思ってた。
随分と長ぇ事、自分の身体を満足に動かしてなかったからな。
だから、まともに狩りが出来るか不安だったが、何の問題も無かった。
正直、嬉しい。
俺は戦える。
ヤエを養える。
今まではヤエの世話になりっぱなしで、《かいしょーなし》だったんだ。
でも、今日からは違ぇ。
店で出す商品も、魔獣関連なら俺が狩ればいい。
食事もそうだ。
作るのはヤエだったり、一緒だったり、俺一人では作れねぇが、材料を狩ってくるのは出来る。
これで少しはヤエの手伝いが出来てるはずだ。
年上であるオッサンの俺が、ずっとヤエに背負ってもらうのは避けたかった。
安心した。良かった。
そう思いながら寝返りを打つ。
そういえば、さっき食べた《肉巻きおにぎり》も美味かった。
ヤエが、大量の《肉巻きおにぎり》を俺の鞄に入れてくれて、嬉しかった。
いつでも食べれるようにって。
ヤエと会ってからは【腹が減って死にそうだ】なんて思ったこともねぇし、未だに俺の鞄の中の食料品は減ってねぇ。
これらを食う時はヤエが傍にいない時だろうな。
なんて考えちまうと、なるべく食べる機会がない方が良いな、と思う。
ああ、そういえば。
さっき、《くっきい》を作る前に食べさせてくれた時、ヤエは【2個しか食べれてなかったでしょ?】って言ってくれた。
ヤエはいつでも俺の事を見ててくれんだ。
ヤエは俺が他の奴らに食べさせたいって思ったことも分かってくれてたんだ。
だから、皆の前では何も言わず、後で食わせてくれたんだ。
そう考えると、嬉しくてたまらなかった。
ヤエは俺の事を考えてくれてる。
俺の考えてる事を理解しようとしてくれる。
そう考えると嬉しくて、ウキウキして、ヤエの傍に居たくなった。
なんつーか、ピッタリひっついて、離れたくなかった。
そう思ってヤエの方を見てみると、ヤエは俺の鞄におにぎりを入れるために立ち上がってた。
ピッタリひっついてたいのに、ヤエが遠い。
傍に行こう。そう思った。
が・・・。
確か、物を食べてる時に席を立つのは行儀が悪いはず。
俺はもう、片手におにぎりを持って食っちまってる。
だったら、ヤエに隣に座ってもらうしかねぇ!
そう思って、ヤエを俺の隣に引っ張った。
そしたら、ヤエはストンって軽い音を立てて俺の横に座ってくれた。
ヤエは嫌がりもせずに、俺が頬を寄せると、頭を俺の方に寄せてくれた。
なんか、胸の辺りがホカホカして、すげぇ良い気分だった。
幸せってこういう事なんだろうな。
俺はご機嫌で、ヤエもご機嫌で、嬉しかった。
んで、その後、《くっきい》を作ることになった。
ヤエが量ってくれた《ばたあ》を混ぜて、砂糖を入れて混ぜて、卵を入れて混ぜて。
《ばにゃらえっしゃんす?》とか言う良い匂いの液体を少し入れて、粉を穴の開いた篭で落として。
さっくり混ぜる。
コレが大変だった。
さっくり混ぜるなんて聞いた事ねぇもんな。
ヤエに手本を見せてもらってやってみたが、これが難しい。
どうしても、グチャグチャと混ぜそうになる。
結局、混ぜるのの最後はヤエに任せた。
んで、粉をふった石の上で、その生地を伸ばして、型抜き。
コレがすんげぇ面白かった!
生地は軟っこくて扱いづらかったけど、
ヤエが作ってた花の形とか葉っぱの形とか、本当に綺麗に同じ形が出来てて感動した!
俺のは少し、端っこが変になっちまったけど、ヤエは褒めてくれたし、崩れた所の直し方なんかも教えてもらったから、次はもっと上手く出来る気がする!
んで、型抜きが終わって、直ぐにでも食いたかったんだが、焼くのに時間がかかるらしく先に飯を食った。
手抜きで良いって言ったのに、ヤエは肉を焼いて、サラダも味噌汁もご飯も出してくれた。
こんだけ並べてくれるなんて、十分すぎるよな。
《くっきい》を作りてぇって我儘を言ったんだから、もっと楽して大丈夫なのにな。
でも、やっぱり温かい飯が腹いっぱい食べれて幸せだった。
勿論、《くっきい》を食べるために、腹に余裕を持たせておくのは忘れなかったぜ。
《くっきい》が焼きあがるまで、まだ少し時間があったから先に風呂に入ることにした。
俺が風呂に入って出てくるとヤエが何か唸ってた。
俺の風呂上がりには必ず、顔を赤くして唸ってて可愛い。
多分、これは寝間着のおかげでドキドキしてんだと思う。
そう考えると、ガッツポーズしてぇ気分だ。
んで、ヤエはすんげぇ真っ赤な顔してんのに、【風邪ひくから】って俺の頭を拭いてくれんだ。
だから、俺は頭はそんなに拭わないで出てくることにしてる。
軽くは拭くけどな。
渇き過ぎると拭いてもらえなくなりそうだから、気を付けねぇと。
風呂から上がるとイイ匂いがした。
甘いイイ匂い。
この前のジャムとは違う、甘いけど香ばしい様な、深みのある匂い。
パンケーキとも少し違う、その匂い。
食べるのが楽しみだ!
ヤエが入れてくれたホットミルクと一緒に食べてみると、
《くっきい》はサクサクで、ホロホロで、甘くて、コクがじゅわーって感じだった。
口の中が少し渇いたが、これがまた、ミルクと合う!
2個目、3個目と自然に手がのびちまう。
おっと、いけねぇ!
俺が作ったやつはヤエにやるんだった!
ちっとばかし、形が崩れたが、味は間違いねぇはずだ。
ヤエにいつもの感謝の気持ちを込めて、渡す。
緊張するな・・・。
ヤエなら絶対に嫌がらないって分かってはいるけどよ、やっぱドキドキする。
ああ、良かった。
ヤエはすんげぇ喜んでくれた。
俺がヤエの飯を喜ぶ様に、ヤエも俺の作った《くっきい》を喜んでくれた。
やっぱ嬉しいな。
一緒に作って、一緒に食って。
しかも、俺の作ったもんを嬉しそうに食ってもらってよ。
心もホカホカで、いつもよりホットミルクも美味しく感じる。
胸がいっぱいになりながら、サクサクと食べていると、ヤエから
【エンガ、今日はここまでね。これ以上は食べ過ぎだから明日にしようね?魔法の鞄に入れておけば何時でも熱々だからね。】
って言われた。
どうやら無心で食べ続けてたみてぇだ。
腹も胸もいっぱいで、すげぇ満たされた感じだ。
ヤエも俺の作った《くっきい》を大切そうに自分の鞄に入れてた。
【大切に食べるからね。ありがとうね。】
って、嬉しそうに。
んな笑顔が見れるんなら、俺は毎日でも作るんだけどな。
ヤエは少食だし、沢山渡しても困るだろうから、
毎日は諦めるけど、今度作る時も、ヤエの為にもっと綺麗なのを作れるように頑張ろうと思う。
明日は魔具を造るところを見せてくれるって言ってたし、明日もきっと楽しい事が沢山あるはずだ。
明日になるのが楽しみだ。
早く明日にならねぇかな。




