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初めての獣人さん。

タルグさんのお店を去った後、超ご機嫌のエンガを連れてきたのはお肉屋さん。

ネリーとコーザのお店。

2人にもジャムを渡すつもりなんだけど、居るかな?

裏の方へ回り、ネリーの姿を発見すると同時に、初めて見る後ろ姿を発見する。

あれはもしや、獣人さんではないでしょうか?

もしかして、ネリーとコーザのお友達の獣人さんだろうか?

だとしたら、第一印象が大事だ!

ネリー達のお友達なら尚更、失礼の無いようにしないと!!

そう気合を入れていると、エンガが立ち止まった。


「ヤエ、あいつ、多分、獣人だ。近づいても良い、のか?」

エンガは私の手をいつもより少しきつく握る。

私も立ち止まり、【私も一緒だから大丈夫だよ。】と気持ちを伝える様にエンガの手を優しく握り返す。


「うん。獣人さんだね。ネリーと話してるみたいだから、多分、この前言ってたネリー達の友達じゃないかな?私、エンガ以外の獣人さんに会うのは初めてだから少し緊張するよ。第一印象が大事だから、出来るだけ笑顔で話しかけようね。」

もし、嫌そうな顔をされたら帰ろう。


「ヤエも緊張してんのか・・・。俺、なんか、ヤエはなんでも軽く出来るんだと思ってた。そっか。ヤエも緊張するんだな。うん。ヤエがいるから大丈夫だ。」

と、最後の一言は自分に言い聞かせるように呟いたエンガ。

多分、獣人さんからの反応が怖いんだろう。

私も獣人さんがどんな反応をするのか分からないので若干怖い。

この世界で噂されてる獣人さん達は、割と短気で人間嫌いな方々が多いみたいだから。

あくまで噂だし、個人の性格にもよるだろうし、例外の方々も多いんだろうけど。


兎に角、不自然じゃない笑顔でお友達大作戦GOGO!!

そう思ってもう少し近づいてみると、ネリーが私達に気付いたらしい。


「ヤエ!エンガ!よく来たね!この子、紹介するからこっちにおいで!」

手招きしてくれるネリーに従って近づくと、獣人さんはこちらに振り向いた。


おお!

この人は鳥の獣人さんだ!

頭・・・いや、髪形が逆毛の鳥の羽みたいだし、

なによりも背中から羽根が出てる。

顔は普通の青年。

まだ若い感じで、高校生ぐらいだろうか。


青年は私とエンガを見て笑顔を見せた。


「おう。あんた達が噂の奴らか。オレ、・・・・・・、っおい!!どーいうことだっ!?てめぇ!!」


鳥の獣人の青年は、フレンドリーに話しかけてきたかと思えば、

私に向かって殺気を放ち、剣を抜いた。


は??

なに??

と、考える間もなく、私の目の前にはエンガの背中が。


「ガルルァ!!てっめぇ!!俺のヤエに何してやがんだ!!」


エンガの凄い咆哮が響いた。

エンガは手に槍を握りしめ、私を背にかばい、鳥の獣人さんと睨み合う。


これは何事でしょうか?

なんで私は鳥の獣人さんに威嚇されてるの?

全く頭がついていかないのですが。

取りあえず、今の私の心境を述べるのであれば、エンガが愛おしいという一言だ。

私が鳥の獣人さんに威嚇されると同時に私の前に立ち、私を護ってくれたエンガ。

私の為に怒ってくれているエンガ。

《俺のヤエ》なんて言ってくれているエンガ。

その漢らしい逞しいその背中に、惚れなおさない女がいるだろうか?

いいや、居ないだろう。

胸キュン。

今すぐにその逞しい背中に抱き着きたい。

背中に頬っぺたくっつけてぐりぐりしたい。

ぶわっと太くなってる尻尾が激キュート。

鷲掴みたい。

お尻も・・・。

いや、止めておこう。


そんな風にエンガを凝視しながらも

勿論、私も直ぐに臨戦態勢に入る。

いつでもエンガを助けられる様に、いつでも魔法を発動できるようにしておく。

エンガが私を護ってくれるのと同じように、エンガは私が護るんだから!

と、気合を入れたら


「ちょっ!何をやってんだい!!あんた達!!」

ネリーが焦りつつ鳥の獣人さんとエンガの間に入った。


「ネリー!見てただろ!そいつが、そいつがヤエに手を上げようとしたんだ!ネリーも俺の後ろに下がれ!危ねぇぞ!」

エンガが必死にネリーを下がらせようとすると、


「うるせー!!オレは、このクズ女を殺すんだよ!!」

と、私を指さす鳥の獣人さん。

もう面倒だから、こいつは鳥の獣人さん改め、鳥野郎と呼ぼう。

そんな鳥野郎の言葉を聞いて、更に怒るエンガ。


「んだとっ!!てめぇ!!」

と、エンガが持っている槍がギリギリと音を立てた。

一触即発のこの状況で、2人の間に入っているネリーが


「待ちな!!トリア!!なんでヤエを《クズ》だなんて言うんだい?!ヤエは良い子だし、あんたは今会ったばかりだろう!!ちゃんと説明しな!!ヤエとエンガは私の友達なんだからね!理由によっては私が相手になるよ!」

と、エンガと私を背にかばうようにトリアと呼ばれる鳥野郎と向かい合った。

すると、怒っているネリーを見て鳥野郎は舌打ちし、


「んなの決まってんだろ!こいつ!!このクズ女!!獣人を大切にしてるって聞いたからどんな奴かと思えば!!その大切な獣人に奴隷の首輪をはめてんじゃねーか!!クソがっ!!」

と、こちらに剣を向ける鳥野郎。


その言葉を聞いて頭上にハテナマークを浮かべる私達。

なんのこっちゃ?

いち早く反応したのはネリー。


「はあ?それは奴隷商人やら人攫いからエンガを護るためでしょうが。【獣人を見たら捕まえろ】なんて馬鹿な奴らがいるんだから。しょうがないでしょ?エンガは冒険者のあんたと違って一般人なんだし。ねえ?エンガ、ヤエ?」

と、私達にも同意を求めるネリー。


「うん。」

「おう。」


勿論だとも。

本来ならば、こんな首輪なんぞ付けたくない。

が、奴隷商人やネリー達も言っていたんだ。

そうじゃないとエンガは攫われるかもしれないって。

だから、エンガにもちゃんと話をして、着けていることにしたんだ。

エンガは一般人。

冒険者でもなく、戦闘に特化しているわけではないのだから。

そう考えていると、目の前にはポカーンとした顔の鳥野郎。

鳩が豆鉄砲くらった顔してる。

そんな鳥野郎の口から驚くべき言葉が出てきた。


「は?いやいや、攫われるのは女、子供、老人だろ?もしくは、ウサギやネズミなんかの弱い種族の奴ら。あんたみたいな最強の種族に近い、トラの獣人を連れ去る奴なんていねーだろ。知ってんだろ?」

と、いやいや、冗談言ってんなよ。みたいな感じで言ってくる鳥野郎。


私とエンガとネリーは

『そうなの?』

と声を揃えて、お互いの顔を見た。

それを見た鳥野郎は


「・・・・うそだろ?」

と驚きの表情と共に、私に向けていた剣先を地面につけた。

その様子を見て、エンガも槍の先を上に向けて話し始めた。


「俺、ガキの頃に片足と片目を失くして最近まで奴隷だったからよ。獣人の常識なんて知らねぇんだ。しかも、俺は自分が強いか分かんねぇんだぞ?虎の獣人って全員が全員、強いのか?首輪がねぇと狙われるんじゃねぇのか?」

と、質問するエンガ。

そのエンガの言葉を聞いてネリーが


「そうだよ!弱かったら連れ去られるんだろ?エンガはまだ外の事を知らない赤子の様なもんだし、狙われたら大変じゃないか。」

と、補足する。

それに対し、呆れたような表情で


「いや、だからよ、ただでさえ強いトラの獣人で、既に成人済み、しかも男。この条件で狙ったりしねぇって。強ぇから。逆に惨殺されるから。」

と、答える鳥野郎。


「俺、強いのか?」

首を傾げながら不思議そうなエンガ。


「いや、強いだろ。オレ、あんたと対峙してんのめちゃくちゃ嫌だかんな。全身が毛羽立ってんし。オレ、あんたの使ってる槍、持てる気しねぇし。筋肉すげぇし。おっかねぇし。威嚇とかマジビビる。」

と、剣を仕舞った鳥野郎。


って、え?

ちょっと待って。

って事は


「あの、じゃあ、エンガの首輪は取っても平気なんですか?変な奴に狙われません?」

私も鳥野郎に聞いてみる。

すると、さっきまで私に向かっていた殺気も無く、少し気まずそうに


「・・・・おう。大丈夫・・・だろ。普通。人攫いはトラの獣人の赤子とかは狙うけどよ。そいつみたいな、筋骨隆々、栄養満点、力が溢れてます!!みたいな奴を相手にするわけねぇだろ。どんだけの死にたがりだよ。そんなことすんなら首掻っ切れって話だぜ。」

なんて言う。


ネリーと私とエンガは


『そうなんだ・・・・。』

と、声を揃えた。


イヤイヤ、初耳ですから。

だって奴隷商人は首輪を外すと他の奴らに狙われるって言ってたし。

あれは嘘じゃないと思う。

お金を多く支払ったから、【次回も宜しく】的な媚び売りだと思うし。

かといって、この鳥獣人が嘘をつく意味も分からない。

なんで??

・・・・。

・・・・。

・・・・。

ん?

そういえば、奴隷商人が私に言ってきたのは、エンガを連れて帰る時だった。

って事は・・・。

ああ、そうか。

あの時のエンガは怪我でまともに歩けなかったんだった。

まだ怪我を治していない、片足と片目が無い状態のエンガだった。

だから【攫われる】って言ったのか。

確かに、あの時のままだったら、首輪を外せば連れ去られただろう。

あの時のエンガに抵抗出来たとも思えない。

その日のうちに治しちゃったから怪我の事なんて忘れてたわ。

奴隷について、もっと早くサユさんに聞けばよかった。

エンガに不快な思いをさせて、申し訳ない。


「ごめんね、エンガ。もっと早く、いろんな人に話を聞いてれば、こんな思いもさせなかったのに。直ぐに外そうね。もう必要ないし。こんなもの要らないものね。ごめんね。」

自分の考えの浅さを痛感した。


「私からもごめん。私も知らなかったよ。とっとと他の奴らにきいてやれば良かったね。獣人で首輪を外してるのは冒険者だけだと思ってたよ。」

と、ネリーもエンガに謝罪する。

すると、焦った様なエンガが


「いやいや!!ネリーやヤエが謝る事じゃねぇだろ!俺も知らなかったし。特に困ることもねぇし。問題なかったんだぞ?」

と、手を左右に振りながら気にするなと言ってくれた。


「外すのには賛成だけどな。」

軽く笑いながら私の頭を撫でて、首を差し出してくるエンガ。


私はそのまま、奴隷の首輪に手をかけて

【外れろ】と強く念じる。

すると、カチャッという音と共に、首輪が地面に落ちた。

無事に外れて良かった。

ホッとしていると


「は??おいおい!!そんなに簡単に外すのかよ!!なんか、契約とか、呪縛とか、命令とかしてなかったのかよ!?随分すんなり外れたなオイ!」

と鳥野郎が騒ぐ。

この人、ツッコミ体質っぽい。

結構音量デカいし。


エンガは鳥野郎の言葉に少し不思議そうな顔をしつつ


「そりゃな。ヤエが俺に命令なんてしたことねぇし。ただ着けてただけだぞ?な?ヤエ?」

と、首を傾げるエンガは可愛い。


「うん。誘拐防止のために、一応【所有者は私】で登録されてたけど、それだけだし。すんなり外れて良かった。うん。首輪が無くなって髪紐の蝶々結びがくっきりと目立ってオシャレ!やっぱり、あのゴツくて趣味の悪い首輪より、この髪紐の方がエンガに似合うね!カッコイイよ!エンガ!素敵!!」


あの首輪は存在感ありすぎだし、ゴツイし、可愛くなかった。

外れて良かった。

髪紐の存在感がグッと上がり、オシャレさんだ。

フワフワの毛並みに艶のある髪紐が揺れて、可愛い。

そう思っていると、嬉しそうなエンガが


「おう!!ヤエとお揃い!!似合うだろ!!」

と、ネリーと鳥野郎に自慢し始めた。

それを聞いた鳥野郎は


「お揃いかよっ!!だああああーもーーーー!!!何なんだよ!お前ら!!オレ、オッサンの心配してさ、あんなに必死に、なのに、オレが悪者みてーじゃんか!!しかもお揃い自慢かよっ!!言いたいことありすぎて頭痛ぇー!!」

と、頭を抱え始めた。

ネリーは、そんな鳥野郎の肩に手を置いて、


「だから言っただろう?この二人、お似合いなんだって。邪魔したら馬に蹴られるよ。瞬殺だよ。」

なんて言ってる。


なるほど。

さっきの鳥野郎、改め、鳥の獣人さんの話で理解できた。

この人、ネリーから話を聞いていたから、最初は私達にフレンドリーだったんだ。

でも、エンガが奴隷の首輪をしているのを見た。

で、エンガの心配をして、私に向かって怒った。

そんな感じかな?

ネリー達から話を聞いていたとはいえ、

初めて会ったエンガと私に、なんでそんなにフレンドリーなのかは分からないけど、

エンガには人を引き付ける何かがあるのかもしれない。

私が一目見た時に心を奪われたのと同じように。

ま、他の人がエンガを好きな事は嬉しい事だ。

一番の座は譲らないけどね!!


よし、エンガを心配してくれる、ネリーのお友達の獣人さんなら是非、お友達になりたい。

改めてご挨拶しましょう。


「あの、私、ヤエって言います。初めまして。あの、エンガの為に怒って下さってありがとうございます。エンガの事を心配してくださってありがとうございます。嬉しいです。」

私が頭を下げると


「そうだ!!俺を心配してくれたって言ってたよな!!ありがとな!!嬉しいぞ!!あ、俺はエンガだ!よろしくな!」

と、笑顔で挨拶するエンガに対して鳥獣人さんは


「っはあ?!ち、ちげぇよ!オレは心配なんてしてねーよ!バーカ!誰が見知らぬオッサンの心配なんてするかよ!!バーカ!!」

って・・・・。


え~??

顔が真っ赤ですけど?

必死過ぎて、ゼーゼー言ってますけど?


「え??でも、さっき・・・」

驚いて聞き返すエンガに


「知らねーよ!!バーカ!!耳遠いんじゃねーの!?」

なんて返す鳥獣人さん。


すると、ネリーがため息を吐きながら


「まーた、この子は・・・。照れると直ぐに怒鳴るんだから。」


とな?

もしかして、鳥獣人さんツンデレ君でしたか?

思春期の青年らしい感じで可愛らしいんじゃないですか?

まあ、ウチのエンガさんが一番可愛いですけどね。

なんて心の中でドヤ顔をしていると


「・・・そうか。そうだよな。初めて会った、フルフェイスの獣人のオッサンだもんな・・・。すまん・・・。聞き間違えたみてぇだ。」

と、苦笑するエンガ。

すると、鳥獣人さんは驚愕の表情で


「っはあ?!なんでそうなったんだよ!?・・・・・・・・・。があー!!ちくしょー!!なんで落ち込んでんだよ!?空気読めよ!!分かるだろ!?言わすなよ!!」

自分の聞き間違いだと納得したエンガにキレた鳥獣人さん。


「・・・??ん??・・・・すまん??」

全然分かってないらしいエンガ。


「だああああ~!!したよ!!心配!!心配した!!オレ、エンガの心配しましたー!!コレで満足かコラァ!!」

鳥獣人さんは顔を真っ赤にしながら、半泣きでキレた。


「・・・ん??えっと、やっぱり心配してくれてたのか??そうか!!ありがとな!!エンガって呼んでくれんのか?!俺、俺もトリアって呼んで良いか??ダメなら諦めるけどよ・・・。」

と、俯きながら尋ねるエンガ。


「いーよ!!もう!!呼べよ!!好きに呼べよ!!ってか、分かんだろ!!名前を呼びあったら仲良しだろ!!分かんだろ!!言わせんなよ!!しかも、勝手に落ち込んでんじゃねーよ!!」


この言葉でエンガは目に見えてご機嫌になった。


「良いのか?!じゃあ、トリアって呼ぶぞ!!名前を呼び合って仲良しか!!じゃあ、俺、トリアと仲良しか??」

と、【どう?どうなの?】って期待してる感じで聞き返した。


「・・・・。」

トリアは無言。

改めて【仲良しか?】なんて聞かれると思ってなくて照れるんだろう。

もう一度言わなきゃいけない雰囲気になるなんて思わなかったんだろう。

が、そこは我が家のエンガさん。

グイグイいきますから。

しかも、そんなに無言でいると・・・・。

ほら、心配になって来てショボーン。ってなってる。

そんなエンガに耐えられなかったんだろう。


「んがあああああああ!!仲良しだよ!!オレとエンガは仲良し!コレで良いだろ!?もう勘弁してくれ!!」

顔を真っ赤にしつつ叫んだトリア。

哀れ。


「そうか!!嬉しいぞ!ヤエ、聞いたか?!俺、トリアと仲良しになったぞ!」

と、嬉しそうにドヤ顔のエンガ。


「うん!聞いてたよ!良かったね!エンガのお友達がまた一人、増えたね!」

私の肯定の言葉で更に喜ぶエンガ。

さてさて、では、次は私が仲良しになりましょうか。


「あの、私も名前で呼んでも良いですか?私の事もヤエって呼んでくださいますか?私とも【仲良し】になっていただけますか?」

と、笑顔で聞いてみる。

もし、悩むようなら、先ほどのエンガとのやり取りをつつき、羞恥心をくすぐる方向で仲良しになろうと思う。

それを感じ取ったのか


「・・・ああ、も、もう良いわ。なんか疲れた。さっきは悪かったな。オレみたいな獣人でも良ければ、仲良しになってやんよ。好きに呼んで良いぜ。もう好きにしてくれ・・・。」

と、疲れたように言うトリア。

よっし!許可を得ました!


「ありがとうございます!じゃあ、トリアと呼ばせてもらうので、私のことはヤエって呼んでください。宜しくお願いします。」

トリアに頭を下げて、頷いてもらえたのを確認してから


「エンガ!私もトリアと仲良しになったよ!私もお友達増えたよ!やったね!」

と、エンガとハイタッチ!


「・・・お前ら、お似合いだよ。ホント。」

トリアは呆れたように笑いながらそう言った。



暫く、エンガと喜び合っていると、ネリーから声をかけられた。


「そういや、あんた達、なにか用事があったんじゃないのかい?」


あ!!

忘れてた!!

ジャム!!

ジャムですよ、エンガさん!!

顔を見合わせるた後、エンガは自分の鞄からゴソゴソとじゃむの瓶を2つ取り出した。


「えっと、ネリー、コーザは?」

そう、先ほどからコーザがいないのである。


「ああ、コーザは今日は友達と魚釣りに行ってるよ。今日は休みだからね。コーザがいないとダメな用事かい?」


「んにゃ。大丈夫だ。ネリーがコーザの分も受け取ってくれ。これ、俺とヤエで作ったんだ。甘い、ジャムってやつでよ、俺もヤエも一生懸命作ったんだ!パンに塗ると美味いぞ!食ってくれ!」

と、二つの瓶を差し出す。


「本当かいっ!?甘い物!?貰っても良いのかい?貴重品だろうに、良いのかい?本当にもらっちゃうよ?ああ、ありがとうねぇ。甘い物なんて中々食べれないから嬉しいよ。ありがとうね。」

と、嬉しそうに受け取ってくれるネリー。


エンガは嬉しそうに返事をし、私に向かって


「ヤエ、俺の持ってる、俺が食べるやつ、トリアに渡しても良いか?トリアにも食ってもらいてぇからよ。」

と、カバンの中から、私が一人で作ったジャムを取り出すエンガ。

私がエンガにいつでも食べられるようにと渡しておいたジャムだ。

私が頷いたのを確認したエンガは


「トリア!これ、ヤエが作ったジャムだ!また今度、もし、トリアがジャムを気に入ってくれたらよ、そん時はヤエと俺が作ったジャムを用意するからな!楽しみにしててくれ!」

と、ジャムの瓶を差し出すエンガ。


「じゃあむ?聞いたことねーな。・・・まあ、貰ってやってもいい、ぞ。」

と、目を逸らしながら、手を差し出すトリア。


あー。

なんか、青春の甘酸っぱい一ページを見ているようだわ。

思春期の青年が、クラスの女の子からバレンタインにチョコを貰う。

が、嬉しいくせに素直には受け取れず、【貰ってやっても良い】なんて言っちゃう。

みたいなね。

で、本来なら、そんな態度で言われれば腹が立ちそうなんだけど、

これは怒れない。

だってどう見ても嬉しそうなんだもの。

トリアよ、表情筋が緩んでますよ?

目を逸らしてたのに、今は瓶をチラ見してるもんね。

見てる側としては、思春期の青年を微笑ましく思うオバサンな気分だわ。

ちなみに、ネリーも同じ様な表情で見てる。

エンガは勿論、


「おう!ジャムだ!受け取ってくれ!ヤエが作ってくれたんだけどな、美味いぞ!俺も味見したけどよ、美味ぇからな!大事に食べてくれよ!」

と、【受け取ってもらえて嬉しい】が前面に出てます。


トリアはそんなエンガに若干戸惑いつつも、受け取り鞄に仕舞った。


「・・・ありがと。」


下を向いたままの小さな声だったけど、ちゃんと私にも聞こえた。

エンガの耳もピクピクと動き、


「おう。」

と、トリアが恥ずかしがるのが分かったのか、先ほどよりも静かな声色で優しく微笑んだ。

トリアはキョロキョロと視線を彷徨わせながら


「あー、なんだ、その、エンガとヤエは冒険者じゃないんだろ?でも、獣人なら肉は必要だろ?あー、オレは冒険者なんだよ。で、な、その、もし、もし、お前らが狩りに行きたくて、でも不安だっつーんなら、オレが護衛してやっても良いぜ!一回だけな!貰った《じゃあむ》の礼だからな!」

と、私達の護衛をすると言ってくれた。


おお!

これはありがたい申し出です!

目の前で魔法を使っていいのか悩むところだけど、冒険者と一緒に行動できるなら、

倒し方や解体している間の見張りの仕方も学べるし、森の歩き方や薬草の事も聞けるかもしれない。

是非、お願いしたい。


「良いんですか?迷惑じゃなければお願いしたいです!私もエンガも狩りはほぼ初心者なので、森の歩き方や薬草の事、注意点なんかを聞きたいです!」

と、お願いしてみる。


「トリア!俺からも頼む!狩りなんてガキの頃以来だしよ、ヤエをちゃんと護れるかどうか、自分の実力を知っておきてぇんだ!頼む!」

と、エンガもお願いする。

すると、思っていた以上の勢いでお願いされて焦ったのか


「べ、別にそんなに大袈裟に言う事じゃねーだろ!一回だけだかんな!一回だけ!」

と、しょうがねーな!と雰囲気を無理やり出しながら引き受けてくれたトリア。

それに対して、私とエンガは


「よろしくお願いします!」

「よろしく頼む!」

笑顔でお返事させてもらいました。


その後、日にちなどを決めて、私とエンガは商業ギルドへ。


元気よく手を振るエンガと、目を逸らしつつ、小さく手を上げるトリア。

なんだかんだで良いコンビになりそうな気がする。

そんな未来に期待しつつ、私も手を振り、商業ギルドへ向かった。




_______________


ヤエとエンガが帰った後、

一度は鞄に仕舞ったはずの瓶を取り出して

ボーっとしているトリアを見る。


私達夫婦からすれば、まだまだ幼さを残すトリア。

獣人であり、冒険者であり、単独行動が多い性質上、

人前では強がることが多いこの子だが、まだまだ子供だ。

私とコーザは、ヤエとエンガにこの子を紹介することにした。

ヤエとエンガも、まだ広い世界を知らない、幼い印象を受ける子達だ。

この子達なら、お互いに助け合える関係になれると思ったのだ。

エンガとヤエにはトリアに人付き合いを教えてあげてほしい。

トリアにはエンガとヤエに獣人についての知識を教えてあげてほしい。

だからこそ、トリアにエンガとヤエの話をしておいた。

トリアは警戒心も強いし、言葉がきつくなる時も多い。

だから、エンガとヤエの人柄を事前に話しておいた。

エンガとヤエが来たらトリアの事を話して、私達夫婦が立ち会って会えるようにしようと思っていたのだが、トリアに説明した直後に2人が来た。

一時期はどうなるかと思ったが、終わり良ければ全て良し。



「どうだった?私達が言った通りだろう?」

未だに瓶を眺めているトリアに聞いてみる。


「ん。オレ、ネリーとコーザ以外から贈り物もらうの初めてだ・・・・。あいつ、エンガさ、ネリー達が言った通り、本当にずっと奴隷だったんだな。首輪の事もだけどさ、トラの獣人で自分が強いか分かんねーなんてよ、普通は無いもんな。ガキの頃に親から教えてもらう事も知らないままなんてさ。フルフェイスだからかも知んねーけどさ。あんなに無邪気なままだとさ、心配だよ。オレに分かる事なら教えてやろうと思ったよ。ヤエもさ、獣人のオレに変な目を向けねーし、エンガの事を本当に大事にしてんだな。ずっとエンガの事、見てんのな。なんつーかさ、オレ、人間も獣人も知り合いはいるけどさ、あの2人は別だ。ネリー達の話を聞いてさ、気のいい奴らなら偶に会ってやっても良いとか思ってたけどさ、オレ、あの2人と友達になりたい。あいつらさ、オレの乱暴な言葉に怒ったりしなかった。《バーカ》なんて言ったのにさ、怒鳴られても可笑しくない事いっぱい言ったのにさ、オレと仲良くなりたいとかさ、ホント、変な奴ら・・・。」


手の中で瓶を大切そうに両手で包みながら、胸中を吐露するトリア。

私達夫婦が本当の子供の様に接しているからこそ、こんな風に話をしてくれるんだ。

この子が【友達になりたい。】なんて言うのは初めてだし、

この子には仕事仲間や知り合いはいるけど、《友達》はいない。


「良い子達だろう?大丈夫だよ。トリアが本当にあの2人を【大事にしよう、仲良くなりたい】と思っているなら、あの2人に少しづつで良いから伝えてごらん。あの子たちはきっと、笑顔で受け止めてくれるよ。」


私はトリアの頭を撫でてから、お茶を入れる準備を始める。

ヤエとエンガがくれた《じゃあむ》を食べながら話そう。

もっともっと話したいことが沢山あるだろうから。


トリアにとっても、

ヤエとエンガにとっても、良い出会いになったことを心から願うよ。

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