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もしゃもしゃ草に到着。

はい。

我らが露店、《もしゃもしゃ草》に到着でーす。


周囲からの痛いぐらいの視線があるけど、気にしなーい。

お隣さんは目を見開いてる、死にかけてたお爺ちゃん。

反対側は冒険者のあんちゃんから知らない女の子に変更されてました。

そりゃそうか。

あの冒険者のあんちゃんは、怪我で依頼を受けられなくて、お金を作りたくてここで色々売ってた人だもんね。

回復薬で治ったんだから、冒険者に戻るわな。

んで、新しいお隣さんは、

私より若い雀斑のある元気そうな女の子。

ここまで若い子はこの世界で初めてなので、ちょっと緊張。


女の子はお客さんの相手をしてるみたいなので、まずは先日のお爺ちゃんにエンガを紹介。


「御爺さん、こんにちは~。お隣で回復薬のお店を開いてます、ヤエです。こっちは私と一緒にこのお店をやっていく、私のパートナーのエンガです。今後もお隣さんとして宜しくお願いします。」

私は笑顔で会釈する。

エンガは


「エンガだ。よろしく頼む。」

緊張しているらしく、若干表情が硬い。

お爺ちゃんは目を見開いていたのだが、何度か瞬きをした後に、


「おお、驚いた。そうか、お前さんが噂の獣人さんか。成程、穏やかそうじゃな。お嬢ちゃんの連れなら大歓迎じゃよ。わしはレイル。こちらこそ、よろしく頼む。お嬢ちゃんには助けてもらった恩があるからの。何かあったら相談してくれて構わんよ。ふぉふぉふぉ」

と、お爺ちゃんらしい笑い声を出している。

噂がどんなものなのかは分からないけど、思っていたよりも、印象が良いらしい。


「御身体はどうですか?あの後、体調は大丈夫でしたか?」

回復薬の効果が持続したのかも気になっていたので聞いてみる。


「ああ勿論じゃ!体調はすこぶる良い。あの後も、噂を聞きつけて回復薬を買いに来た冒険者がちらほら居たんじゃよ。」

と、その後もちょこちょこ会話をしつつ、品物を並べていく。

布を敷いて、箱を置いて、その上に回復薬と値札を書いた紙を置く。


あ、隣の女の子と目が合った。

驚いた顔してるけど、ちゃんとご挨拶しておきましょう。


「初めまして。私は隣で店を開いてます、ヤエです。回復薬と軽食のお店をしていく予定です。宜しくお願いします。」


「エンガだ。よろしく頼む。」

お爺ちゃんの時よりも表情は硬いエンガ。


隣の女の子はニッコリと笑って


「はい!ヤエさん、エンガさん、こちらこそ宜しくです!私、今日からここで自分のお店を出すことになりました、エリニィです!」

なんて元気いっぱいに答えてくれる。

裏表のなさそうな、さっぱりとしたタイプの女の子だ。

この子なら安心してお付き合いしていける。

そう思える雰囲気のある子にすぐに緊張がほぐれた。


「私の実家は染物屋さん兼仕立て屋さんなんですけど、兄弟が多くて、お店を継げる可能性も低いし、仕事も少ないので、貯金してやっとの思いで自分のお店を出すことにしたんです!実家で染めた布の切れ端を購入して、こんな風に巾着やらお財布にして販売してるんです!お姉さんも宜しければ一個いかがですか?あ、ご希望でしたら実家の仕立て屋の注文も受け付けますよ!そちらは少々値段が張りますけど、私を指名していただけるなら、この巾着をお一つおまけにしちゃいます!!」

なんて元気いっぱいにセールスしてくるもんだから、ついつい笑顔になっちゃう。

ここにあるお財布や巾着は綺麗に仕上げられてて、腕にも自信があるみたいだ。

でも、私は仕立てじゃないお願いをしたい。


「仕立てはまた今度お願いするね。今回は染めてある布を売って欲しいんだけど、どうかな?染物屋さんって布は持ち込みなのかな?私とエンガのお揃いのエプロンを作ろうと思ってるんだけど、大きさ的に一枚の布で大丈夫かな?」


私の質問に、エリニィちゃんは


「大丈夫です!うちは布だけでも売ってますし、大きな布は均一に染めるのが難しいので割高になりますが、それでも良ければ全然大丈夫ですよ!一番大きい布ならお二人の分を作っても余りますよ!でも、初心者さんなら大きめの布を買った方が間違いはないですよ!私、エプロンも作れるので注文していただいても大丈夫ですよ?エプロンなら普通の仕立てよりも料金はかかりませんよ?」

と、丁寧に説明してくれる。


「ううん。エプロンは私が自分の手で作りたいから、布だけ買わせてもらっても良いかな?一番大きな布で、色は・・・。そうだなぁ、何色が良いかな?ね、エンガ?」

とエンガの方を見てみると


「エプロン、お揃いのエプロン。作るの頼むんじゃなくて、ヤエの手で作ってくれるんだな。ちゃんと約束守ってくれる。俺、ヤエのそういうとこ、好きだ。・・・・森の色、深い緑が良い。ヤエに似合いそうだ。」


なんて、嬉しそうに言ってくるエンガさんは、本当に何なんでしょうか。

うぃぃぃぃぃぃぃ!!!!

可愛すぎるよぉぉぉぉ!!

そんな、さらっと【好きだ】なんて言われちゃったら、

胸がドコドコキュキュキュンだよ!

うおおおおおお!

テンション上がるぅぅぅ!!

そりゃ、頑張って作っちゃうよ!

お揃いで作るって約束だし、折角のお揃いだし、エンガが着るエプロンだもの!

・・・裁縫は得意ってほどじゃないけど、一応出来るし、間違えたら直せばいいし、私頑張るよ!

私は鼻息荒く、やる気満々。

エンガさんは嬉しそうに照れ照れ。


そんな二人のあまーい空気を気にせずに話しかけてきたのはエリニィちゃん。


「ヤエさんとエンガさんラブラブだねー!それはそうと、生地の事なんですけど、深緑で私が選んできても良いんですか?それとも、ヤエさんが直接選びに行きますか?申し訳ないんですけど、エンガさんは毛がついちゃうからお店には入れないと思います。ごめんなさい。」

と申し訳なさそうに頭を下げるエリニィちゃん。


ラブラブだねー。

が若干お世辞な気がしたのは私の気のせいでしょうか?

割と商売魂のある子な気が・・・・。

にしても、洋服屋さんやら布屋さんはエンガの毛が気になるのか。

どうしようか悩んでいたら、


「嬢ちゃんに選んでもらって構わねぇよ。な?ヤエ。俺、深緑なら何でもいいから。別にヤエが一人で見に行かなくても良いよな?」

とエンガが私の代わりに答えていた。

エンガ本人は全然気にしてないらしいし、布の色には特にこだわらないらしい。

なら、それでお願いしましょう。

エンガを置いて一人でウキウキとエプロンの布を選びに行くのも、なんか違う気がするし。


「うん。じゃあ、エリニィちゃん。私とエンガに合いそうな深緑で、一番大きな布をお願いします。それと、巾着を2枚、お財布を2つ買わせてもらおうかな。エンガ、お揃いで使おうね。」


「おう!お揃いの財布と巾着、嬉しいぞ!」

とご機嫌なエンガさんと一緒にお揃いの色違いで巾着とお財布を選ぶ。


「わあっ!お買い上げありがとうございます!エプロンの布も2人に似合いそうなのを選んできますから!私に任せてください!」

と胸に拳を当てて、ドヤ顔のエリニィちゃん。


巾着とお財布の代金を支払って包んでもらい、

布の代金も先払いして、布は明日、ここまで持ってきてもらう約束になった。

エリニィちゃんは朝から夕方まで、ここでお店を開くらしいので、その間ならいつでも良いとの事。


よし。

後は私が頑張ってエプロンを作るだけだ。

頑張るぞ!!


と気合を入れていたら、エリニィちゃんのお店にお客さんが来た。

さっきも女性のお客さんが来てたし、初日にして中々の繁盛しているみたい。

エリニィちゃんが元気いっぱいに商品の説明をしているのを、なんだか嬉しい気分で見守りながら、自分のお店を開店!


と気合を入れると同時にお客様のご来店です。


「居た!居た!回復屋!って、うおっ!?獣人っ!?はあっ!?なに、ここ、獣人の店なのかよ!?嘘だろ!?最悪じゃん!!」


はい!お決まりのお馬鹿さんが来た!


「そうですが何か?文句があるなら別のお店へどうぞ~。エンガ、お客さんが来るまで時間がありそうだし、ご飯にしようか?お腹空いたでしょう?」


私のご飯っていう言葉に、お腹を鳴らすエンガ。


「そういや、腹、減ったな。ここで食っても良いのか?良いなら食いてぇ。飯の事考えたら余計に腹減った。」

なんてお腹を擦るエンガが可愛い。


「大丈夫だよ~。ここに来る間にもお店開きながら食事してる人いたし、お客さんが来たら相手すれば良いだけもの。今はお客さんもいないし、平気。先にご飯にしよう。」


私はさっきのお馬鹿さんをガン無視して、カバンからお盆を出して、その上に食事を広げていく。

と言っても、サンドイッチとフライドポテト&オニオンリングを皿の上に並べて、水筒に入れたミネストローネをマグカップに注ぐだけ。

水筒は私の世界の物だけど、銀色のシンプルなやつなので、そんなに怪しくはないはず。

そんなに熱々なスープじゃないから、出しても変じゃない。

それと、エンガはトラの獣人だけど、玉ねぎなんかも食べれるし、極端な猫舌でもない。

味覚は人間と同じ。

個人的な好き嫌いはあるとは思うけど、今のところ、苦手だというものも無いらしいので、食事を作る側としては助かる。


「おい!待てよ!誰も買わないなんて言ってねーだろーが!買ってやるよ!全部まとめて買ってやるよ!クソッ、獣人から買い物なんて最悪だぜ。」

と舌打ちをしながら、お金を出そうとするお馬鹿さん。


「お前なんかに売る物は無い。失せろ。別の店にでも行って来い。私はこの人と一緒にお店をやってるの。パートナーを馬鹿にする大馬鹿野郎に売る物がある訳ないでしょう?しかも【買ってやる】って、あんた何様よ。」

イラつくよりも呆れるわ。


「はあ??なにほざいてんだよ!お・れ・は!獣人なんかがいる店で品物を買ってやるって言ってんだぜ!?感謝しろよ!俺は客だぞ!」

と踏ん反り返るお馬鹿さん。


「ばっかじゃないの?私にとって、エンガを馬鹿にする人間は客でも何でもないよ。その辺の石と同じだし。というわけで、さよーならー。」

手で追い払う仕草をしてやる。


未だにキャンキャンと煩い、青年をほったらかして、エンガと二人で食事の開始だ。

むきゅむきゅと口を動かすエンガが激可愛いです。

そして、毎回の事だけどパン屑がおひげについてる。

後で取ってあげよう。

今取ってあげても直ぐに次が付くからね。

なんて考えつつ、まだ温かいオニオンリングをサクサクと音を鳴らしながらてべていると、


「お嬢ちゃん、やりおるな~。あやつ、顔を真っ赤にして帰りおったぞ。ふぉふぉふぉ。にしても、美味そうに食べるのう。美味いかい?獣人さんや。」

と話しかけてきたお隣のレイルお爺ちゃん。


「おう!美味いぞ!ヤエの飯はなんでもウメェ!しかも、ヤエは菓子も作れるんだ!それも美味い!甘いのは幸せでよ、飯は元気が出るんだ!すげぇんだぜ!」

とドヤ顔で自慢し始めたエンガ。


ちょ、待って、本人の目の前でそんなにベタ褒めしないで!

照れる!照れるから!


「そうかい、そうかい、ふむふむ。良かったのう、幸せなのは良い事じゃ。うむうむ。」

なんて微笑みながら頷くお爺ちゃんに、


「んと、レ、レイル、さん?その、食ってみるか?俺の、少し、分けるぞ?コレ、玉ねぎ。こっちは肉のパンだ。」

と、恐る恐る、自分のお皿を差し出すエンガ。


エンガのこの行動には、私もお爺ちゃんも驚いていた。

お店としてじゃなくて、個人として、初対面の人間に食品を勧めるのは断られる可能性も高い。

それ以上に、エンガが自ら、初対面の人間に自分のご飯を分けるという行動に出たのが驚いた。

私達の驚いた顔を見たエンガは


「無理には勧めねぇよ。俺の昼飯だし、ヤエの作る飯は俺が食いてぇし。でも、美味いからな。折角、隣同士になったんだし、レイルさんにも食わせてやりてぇ。」

と、自分が美味しいと思うものを分けてあげたいらしい。


レイルお爺ちゃんは


「ふぉふぉ、そうかい?じゃあ、お言葉に甘えて、お呼ばれしようかのう。」

とエンガが差し出すオニオンリングを食べた。


咀嚼するレイルお爺ちゃんを見ながら、

【どうだ?美味いか?気に入ったか?】

不安そうに、そわそわするエンガ。


「ゴックン。・・・美味い!なっんじゃ、コレ!美味いではないか!サクサクとしている表面、トロトロとしつつ、シャキシャキの食感、更には玉ねぎの甘みと辛みの絶妙な融合!!こんなに美味いとは!ありがたや~!ありがたや~!」

と、飲み込むと同時に、目を見開き、エンガを拝み始めたレイルお爺ちゃん。

お爺ちゃんの勢いに驚き、尻尾が太くなったエンガだったけど、述べられる賛辞に嬉しそうに頷き、最終的には拝まれて慌ててる。


「だろう!!俺も、そう思う!ヤエは料理がうま・・・!?!?ちょ、え、頭を上げてくれ!ヤ、ヤエ!どうしよう!?」


慌てるエンガが可愛いので、しばらく見ていたい気もするが、

周囲の目が気になってきたので、お爺ちゃんの頭を上げさせるのを私も手伝う。

結果、私のオニオンリングをお爺ちゃんに提供してあげることに。

エンガのオニオンリングを減らすなんて以ての外。

かといって、そんなに大量に用意してるのも変な話なので、今は私の分を分けて差し上げます。


「気に入ってもらえて良かったです。レイルお爺ちゃん、改めて、これからも宜しくお願いしますね。」


分かりますよね?

ええ、今後もより良いお付き合いをお願いしますね。

ああ、そんなに勢いよく頷いていただけて何よりです。

あ、なんならフライドポテトとローストポークのサンドイッチも召し上がりますか?

ええ、構いませんよ。

私の分を半分、差し上げましょう。

ええ、構いませんよ。

今後も宜しくお願いしますね。


私とレイルお爺ちゃんの目線での秘密のやり取りには気付かず、

【美味いだろう、そうだろう、うんうん】

と自慢げに自分の分を頬張るエンガさん、可愛いよ。


「もぐもぐ、いや、本当に美味いのう。もぐ、声をかけてくれて、もぐ、ありがとうなぁ、獣人さんや。ゴックン、こんなに美味いものが食せるなんてなぁ。もぐ、ああ、わしの事は好きに呼んで構わんよ。レイル、レイルじいじ、爺ちゃん、なんでも良い。うむ、美味い。ああ、ジジイは無しじゃぞ。モグモグ。」


「レイルお爺ちゃん、そっちは私の分です。玉ねぎはもう終わりですよ。食べるならこっちのポテトにしてください。」


さり気無く、私の分に手を出すんじゃないよ、お爺ちゃん。


「じゃあ、レイル爺さんって呼んでも良いか?俺の事は出来ればエンガって呼んでほしい。《獣人さん》は好かねぇ。あ、玉ねぎ、俺のを少しやるよ。ここに載せていいか?ん。」

自分の分から少し、お爺ちゃんのお皿に移してあげるエンガ。

女神か。


「おお、すまん。ありがとうなぁ。名前を呼んでも良いのかい?獣人は気を許した相手以外に名前を呼ばれるのは嫌がるのが多くてのう。獣人さんと呼んだんじゃが、不愉快だったのなら悪かったのう。よろしく頼む、エンガ君。」

と、ちゃっかりとエンガからオニオンリングを分けてもらってるお爺ちゃん。


そうだったのか。

獣人さんに会ったら、気をつけなきゃ。

有り難い情報です。

にしても、そんなにオニオンリングを気に入ったのかね?

ポテトよりも食べてるわ。


「むぐぐ、にしても美味いのう。なあ、お二人さん、この玉ねぎは販売するのかね?もぐもぐ。」


そんなにお気に召しましたか?

簡単だし、材料も少ないし、これを商品にするのはありかも。

勿論、ポテトも販売する。

後、鶏肉が手に入るなら、から揚げも良いと思う。

後は、蒸し器で量産した蒸しパンに煮るだけの角煮、ネギを挟んだ《角煮まん》

販売数が伸びてきたら、串カツ、エビカツなんかのサクサクシリーズもありかな。

あともう一つ、出来るかどうかわからないけど、販売したいものがある。


ラインナップ的にはこんなので良いでしょう。

出来るだけ片手で食べれるものを中心に。

露店での販売だし、そこまで頑張る必要はない。

でも、もし、販売数が伸びるのであれば、パートさんをネリーに紹介してもらうのも有りだろう。

うんうん。どんどん、この世界で生きるための下地が出来ていく気がしてウキウキするね。


「はい、一応、そう考えています。他の商品も考えておりますので、販売の際には是非、ご贔屓に。」

笑顔で答えておく。


「ほう!それは楽しみじゃのう!ふぉふぉふぉ!」


お爺ちゃんとエンガと私の三人で仲良く、ご飯を食べ終え、その後もこの辺りのお店について話をしていると


「お話し中すみません。回復薬を売っていただきたいのですが大丈夫ですか?」

と声をかけられた。


目の前に立っているのは、人の良さそうな笑みを浮かべた青年。

突然で驚いたのか尻尾を太くして、直立不動。

硬直したエンガの背中を優しく撫でつつ、


「いらっしゃいませ~。お待たせしてすみません。いくつ必要ですか?」

出来るだけ丁寧に言葉を返す。

すると、笑みを浮かべたままの青年は


「全部お願いします。」

と返事をしてきた。


ん~と、転売かな?

ウチは安く設定してあるし、冒険者ギルドに卸せば儲かるからね。

確信は無いし、本当に全部自分達で使うのかもしれないし、何とも言えないけど。

まあ、その辺の対策は今後考えようかな。

購入数制限の設定とかね。

取りあえず、今は


「申し訳ございません。全て販売することは出来ません。当店は、まだ開店したばかりでして。暫くの間は、他のお客様に当店の存在を知っていただくことが目標なんです。ですので、お一人様一種類につき3つを最高とさせていただきます。申し訳ございません。」

と返答させてもらう。

嘘じゃない。

もしゃもしゃ草の名前を多くの冒険者さんに知ってもらわないとだしね。


私の言葉に対し青年は笑顔を変えないまま、


「そこをなんとか、もう少しなんとかなりませんか?私が他の冒険者にも宣伝しておきますから。全体の7割、どうでしょうか?」

と食らいついてくる。


7割って多すぎだろ。

ほぼ無くなるじゃないか。

どうでしょう?なんて交渉のレベルじゃないよ。


「申し訳ございませんが、当店では3つとさせていただきます。今後は増やすかもしれませんが、暫くは無理です。すみません。」


「そうですか。では、全体の5割でどうでしょうか?」


ああ、この人、商人かな。

少しづつ少しづつ要求を下げつつ、自分の中の最低ラインをゴリ押ししてくるんじゃなかろうか?

面倒だな。なんて考えてたら


「不満があんなら別の店に行ってくれ。ヤエを困らせるな。」

後ろから不機嫌そうな声が聞こえた。


後ろを振り向いてみると、私の後ろで仁王立ち、不機嫌そうなエンガがいた。

青年はエンガをじっと見つめ、


「・・・分かりました。全種類、3個づつでお願いします。」

とあっさりとお金を出してきた。


お金を確認し、商品を数えて渡すと、何も無かったかのように帰って行った。


「ありゃ、商人じゃな。安く手に入れて店で売ろうと考えたんだろうなぁ。嬢ちゃんが相手なら楽勝だと思ったんだろうが、後ろでエンガが不機嫌そうに構えてるもんじゃから、敵になるのは不利だと思ったんじゃろ。あれは小物じゃろうし気にせんで良い。」

とお爺ちゃんからのお言葉をいただきました。


成程。

私みたいな小娘が店主ならゴリ押しで安く買い取れると思ったけど、後ろでエンガが不機嫌そうに構えてるのを見て、ビビった。という事かな。


「やっぱり商人でしたか。教えてくれてありがとうございます。」

お爺ちゃんにお礼を言ってから


「エンガもありがとうね。あの人しつこかったから助かったよ。エンガが一緒にいてくれて助かった。」

勿論、威圧してくれたエンガにもお礼を言う。


「おう!ヤエを困らす奴は俺が許さねぇからな!任せとけ!」

と胸を張るエンガは優しいし頼もしい。


その後も何組かの冒険者が来店し、回復薬を購入していった。

たま~にエンガに喧嘩を売ってきて、追い返した奴らもいたけど、安く買える回復薬店を敵に回す馬鹿な冒険者は少ないらしい。

ほとんどの人が、今後も来ると言い残していった。

エンガと一緒のもしゃもしゃ草、無事に完売!本日はこれにて閉店です!

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