冒険者ギルドでの騒ぎ。
さあって~!
武器も手に入れたし、お次は冒険者ギルドでの依頼だ。
まあ、正直な話、行きたくはない。
行きたくないなぁー。
初日の嫌な思い出があるから。
でもなぁ、回復薬を売るんだから、商売相手は冒険者が多くなる気がする。
そうなると、お店を任せるには冒険者とかの腕っぷしが強い奴が好ましいんだよなぁ。
エンガは他の奴隷を自分のテリトリーに入れるのは嫌そうだし。
冒険者ギルドが嫌いって言っても、冒険者から直接被害を受けたわけでもないんだよね。
まともな冒険者も多い気がするし。
受付嬢とギルドマスターがクズだっただけで。
私は冒険者じゃないし《依頼主》としての最低限の規則を守ればいいだけだから気楽な部分もある。
受付は選べるだろうし、ギルドマスターなんて早々、現れないだろう。
それと、冒険者達にエンガの件での牽制をしておきたい気持ちが強い。
エンガは嫌な思いをするかもしれないけど、嫌でも今後の生活で冒険者とは会うはずだから、今のうちから【何かあれば私が黙ってはいない】というのを印象付けたい。
なので、まずはエンガの同意を得なければ。
もし、嫌ならお肉屋さんで待機させてもらおう。
コーザとネリーなら笑顔で迎えてくれそうだし安全だからね。
「ねぇ、エンガ。今から冒険者ギルドに行こうと思うんだけどね、多分、凄く凄く嫌な思いをすると思うの。馬鹿にされるだろうし、フルフェイスの獣人な事について色々言われると思う。それでも一緒に来る?それともネリー達のところで待たせてもらう?」
これはエンガ自身で決めてもらおう。
エンガは私の言葉を聞いて、真剣に悩んでる。
道を外れて壁際に寄り、そこで立ち止まって考えてもらう。
むむむ。なんて目を閉じたりしながら考えてたエンガだけど、割とすぐに答えが出た。
「行く。馬鹿にされてもいい。なんつーか、そんなに気になんねぇ気がする。《死ね》って言われても平気だろうな。で?っつー感じだ。
ヤエ、俺、強くなったかもしんねぇ。」
なんて少し嬉しそうに、胸を張って答えるエンガが居た。
うんうん。
外に出ていろんな人と会って、悪意のある人間もいれば優しい人間もいる。
その優しい人達を大切にすればいいだけだって思ってくれてるのかもしれない。
そうなら嬉しい。
「うん。そうだね。どうでもいい人間に言われる悪意のある言葉なんて気にしなくて良いんだよ。その分、大切な人達の話をちゃんと聞いて、大切にしていこうね。
心が強くなるのは凄く良い事だよ。エンガが頑張り屋さんだから、その分、結果が出てるんだね。どんどん逞しくなって、頼りになって、私も凄く嬉しいよ♪」
エンガは照れてるのか、指先をいじりながら
「そうか?俺、ヤエから見ても強くなってんのか。頼りになる、か・・・。おう、俺、これからももっと頑張る。」
と嬉しそうだ。
うん。今日もエンガは安定の可愛らしさです。
抱きしめたいけど我慢よー。
さて、それでは行きましょう。
あ、その前に、私が暴れるかもしれないけど引かないでね?と、お願いしておこう。
今後の為だからと、ちゃんと理由も説明して。
よし、説明は済んだ!
さあ!我が戦いの場へ!!!!
________________________
到着しました。
冒険者ギルド。
入口の野郎共がざわざわしてるけど、気にしなーい。
スルースルー。
エンガも気にしてない。
スルースルー。
そして扉を開けると・・・・。
集まる視線。
痛い。突き刺さるよー。
でもスルー。
気にしない。気にしない。
受付に向かうと、前回の人とは違う。
気の弱そうな女の人がいた。
受付嬢は彼女一人らしい。
やった!これならいける!
そう考えた時、後ろから声がかかった。
「おいおい!冗談だろ?!フルフェイスの獣人を連れて歩いてんのかよ!お嬢ちゃん!みっともねーな!!そんなの連れてこの偉大なる冒険者ギルドに来んじゃねぇよ!家で大人しくお留守番か外に繋いでおきな!!フルフェイスの獣人が出歩くなんて有り得ねぇだろうが!っかー!!世も末だな!!ギャハハ!」
と笑う馬鹿。
周囲の人間も爆笑の渦。
おろおろしてる受付嬢。
エンガを見てみると無表情だった。
怒ってる感じはしない。
ただ、聞き流してます。的な感じが駄々漏れだ。
それに気づいた馬鹿は
「んだぁ!?その態度はよぉ!!たかが獣人、しかもフルフェイスごときが!この冒険者様にそんな態度で良いと思ってんのか!?こいつで切り裂くぞ!?さっさと失せな!お嬢ちゃんも一緒にな!」
と腰から下げていたはずの剣を抜き、私たちに向けた。
こいつ本物の馬鹿だ。
エンガを馬鹿にして、更には私がエンガより前に出ているのに抜刀しやがった。
よし、生贄はこいつに決定。
今後の冒険者ギルドで馬鹿が現れないように生贄にして心を折ってやろう。
私は笑顔でその馬鹿に近づく。
そして、男がいやらしい顔で笑った瞬間、魔法で拳を強化して男の顔面をブン殴った。
何度も弾みながら、反対側の壁に叩きつけられる男。
沈黙に包まれたその場に、男に近づいていく私の足音だけが響く。
私は男の側で、男を見下ろし、笑顔のままで問う。
「ああ、何か言いました?エンガが何?ん?ウチのエンガが何だって?」
周囲は私みたいな一見すると無害そうな大人しそうな女の子がこんな行動に出るとは思ってなかった為か、誰一人として動かなかった。
鼻が折れたらしい男からの返事は未だ無い。
仕方ない。
鞄から回復薬を出す。
そして、その回復薬を飲ませてあげる。
勿論、周囲の人間に見えるようにだ。
回復する男。
目を覚まし、私に切りかかって来ようとするのを避け、再びブン殴り、壁に叩きつける。
そして、また同じ言葉を繰り返す。
その後は回復薬。
これを笑顔で6回繰り返した時、後ろから可愛い言葉が聞こえた。
「ヤエ、もういい。それ以上は駄目だ。ヤエの拳に傷がつく。止めてくれ。」
と、懇願するような心配の言葉が聞こえた。
声だけで分かる。
こんな可愛い事を言ってくれるのはこの世界中でただ一人、エンガだけだ。
何度も殴られてる男じゃなくて、私の拳の心配をしてくれるところなんて、もう、可愛すぎる。
「でも、こいつはエンガを馬鹿にしたんだよ?私の大事な大事なエンガを馬鹿にしたの。許せないでしょう?こういう奴らは一度ちゃんと話をつけておかないと調子に乗るんだよ。それに、私は冒険者じゃないもの。一般市民の女の子相手に《抜刀》したこいつを許しちゃダメじゃない?今後、他の女の子に対して同じことがあるかもしれないんだよ?」
とエンガの方を振り向いて他の奴らに聞こえるように大きな声で言葉をかける。
それに対してエンガは困った顔をしていたけど、別にエンガを困らせたいわけじゃない。
周囲の人たちに聞かせるためだけの言葉だ。
「まあ、エンガが嫌がるならここまでにする。・・・・次は無い。」
勿論、既に動く気配のない、あの馬鹿男に警告するのは忘れない。
次は回復薬は無しでのエンドレスリピート決定だからね?
周囲の人たちはそれぞれ
【あの嬢ちゃん、冒険者じゃねぇのかよ?!じゃあ、依頼人か?!】
【一般市民のガキに《抜刀》はヤバ過ぎるだろ・・・。】
【まさか、連帯でペナルティーとかねぇよな??】
【回復薬を使ってまでボコんのかよ。えげつねぇガキだぞ・・・。】
【こんなのが噂になったらヤバイんじゃないか?】
なんて口にしてる。
そうだよねぇ。
【《一般市民》の《女の子》が冒険者ギルドに《依頼》に来たのに《抜刀》される。】
これはマズイ。
ざわざわと騒がしい周囲はほおっておいて、エンガに近寄る。
「エンガ、驚かせてごめんね?でも必要な事だから。」
と告げると、私の手を取って手の甲や掌を何度も確かめるエンガ。
「ああ、手は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。」
と、私の手を撫でながら確認して心配してくれるエンガに告げると、安心した表情になって頷いてくれた。
むふふ。
エンガが手の甲を撫でてくれてる。
あったかい手大きなで包まれて、ナデナデされるのはくすぐったいけど、幸せだーい♪
さっきの馬鹿男!ムカつくけど褒めてつかわす!
なんて二人でのほほーんとした空気を出していると、一度聞いたことのある音、カツコツと階段を下りてくる音が聞こえた。
ああ、来ちゃったの?
ギルドマスターさん。
ギルマスさんの傍にはさっき受付にいたはずの気が弱そうな女性が居た。
騒ぎになって慌てて報告に行ったのだろう。
受付嬢はビビってるのか、目が合った瞬間に逸らされた。
笑える。
あなた、そんなんでこの冒険者ギルドでやっていけるんですか?
そんなビビってる受付嬢を引き連れて私の前に降臨なさったのは、以前にも会いましたね。な、ギルマスさん。
どうやらギルマスさんは私の顔を覚えていたらしい。
「あら、この前の女の子?受付嬢から聞いたけど、ここで何があったのか、貴方の口からも説明してもらってもいいかしら?」
と私と同じ目線になるように、すらっと長い身長を少し屈めて首をかしげるギルマス。
う~ん。
子供への対応な気がするんだが・・・。
まあいいや。
どうやら、この前は聞き分け良く帰っていったから、大人しい子供だと思って有耶無耶にしようとしてるんだろうけど、そうはいかないよ?
「ええ、勿論。詳しく説明させていただきます。一人の意見だけで結果を出すなんて有り得ませんからね。
まず、私は冒険者ではありません。分かりますよね?ギルマスである貴方に冒険者ギルドへの登録を拒否されたんですから。もちろん、隣にいる私のパートナーも冒険者ではありません。
そんな一般市民で小娘な私ですが、一応、商業ギルドに登録しておりまして。本日は露店の店主として依頼を出しに、この冒険者ギルドに来たんです。
ですが、このギルドに入ると同時に、そちらに居る男性が私のパートナーを侮辱しやがりまして。更には急に抜刀まで。そうです。素手の一般市民の小娘相手に抜刀ですよ?
他の方々も見ているだけで何も言わず、助けてくれない。そこでコレが冒険者全員の普通の考えなのだと判断し、今後同じような被害に遭う被害者が現れないように、私が被害を受ける前にそちらの男性を殴らせていただきました。何度も謝罪を求めたのですが、その度に切りかかって来ようとするので、逆に殴らせていただきました。正当防衛です。それが全てです。」
全て告げると、ギルマスの表情が硬くなり、直ぐに周囲の人間にも正しいかどうか質問を始めた。
【《一般市民》の《武器を所持してない》《女の子》が冒険者ギルドに《依頼》に来たのに《抜刀》され《切りかかられ》る。】
を強調して話してやったのだから当然だろう。
最初に暴言を吐いたのも、攻撃態勢に入ったのも向こう。
私は素手だし正当防衛だ。
しかも、冒険者ギルドでの出来事で、他の冒険者も誰一人として止めてないからね。
冒険者は全員、この行動が正しいと思ってるんじゃないの?
と、それらを意識して発言してみた。
当事者であり、被害者本人がそう認識しているのだから、
その女の子が周囲の頼りになるお話大好きなおば様方にご相談してもしょうがないよね。
それで、そういう噂がこの街に広がってもしょうがないよね。
そのせいで冒険者への依頼が減ってもしょうがないよね。
子供を連れている大人や、若い女の人が冒険者達を蛆虫を見る様な目で見てもしょうがないよね。
あーあー大変だー。
さて、どう出ますかね?
ギルマスさん。
大人しくお話を聞いてくれると嬉しいなぁ~。
ニヤニヤしそうになるのを抑えていると、
他の人の話を聞いていたギルマスさんが、改めて私に向き合った。
「わざわざ依頼に来たのに不愉快な思いをさせてごめんなさいね。彼の冒険者ライセンスは一か月停止、及び、今後同じ問題を起こさないように本人とこの場にいる冒険者達に指導、貴方からの依頼に彼が関わる事は禁止する。という措置を取らせてもらうわ。それと、貴方へのお詫びとして冒険者ギルドへの登録の許可、今回の依頼の仲介料は無料にさせてもらうわ。これでいかがかしら?冒険者の全てがあの男の様な人間ばかりじゃないの。分かってもらえるかしら?」
と猫なで声でお願いされる。
素手の相手に切りかかったにしては軽いんじゃないのかと思うけど、私は無傷だし、相手は重症だし、面倒だからこれでもいいかな。
あんまり重いペナルティにしても、他の人から恨まれかねないからね。
一度に沢山の人間と対峙するのは精神的に厳しいので避けたいし、
それに、一番重要な【エンガに手を出せば私が報復する】というのを周りの冒険者にも分かってもらえただろうし、妥当かな。
「それでいいですよ。ただし、今後、同じような事がある場合は、誰が相手でも腕か足を貰うつもりでやりますね。なので、私のパートナーを馬鹿にすれば【冒険者でもない一般市民の女の子にに殺される】って事、出来るだけ広めておいてくださいね。
あと、冒険者の登録はしたくないので結構です。既に商業ギルドに入って問題ないので。それと、仲介料くらい払いますよ。無料なせいでアホみたいなのが来ても困りますからね。以上でよろしくお願いします。」
と冒険者登録と仲介料無料は拒否しておく。
今更冒険者ライセンスなんていらないし。
私がそこそこ強いのを知って、欲しくなったのかもだけど、既に遅いんじゃボケー!
私の言葉に驚き、言葉を続けてきたのは少し離れた所にいたギルド職員さん。
「え?良いんですか?冒険者に登録すれば、冒険者への依頼の仲介料は割引になりますし、魔物を倒した際には依頼達成の収入も得られますし、魔物や魔石、採集品、回復薬なんかの買取も商業ギルドよりも高額ですよ?宿泊施設や図書館などの施設でも割引がされますし、ランクが上がれば、指名料が入ったり、貴族とお近づきになれたり、大金を手に入れるチャンスも格段に高くなるのに?本当に登録しないんですか?素手でその実力なら、上手くすればB級にはなれますよ?なのに?登録しないんですか?」
なんて未確認生物を見る様な表情聞いてくるけど、有り得ないよーん。
お前らキライだもん。
「不要です。別に魔物を狩るのは勝手にやっても良いんでしょう?採集も同じ。安くても商業ギルドで買い取ってくれるなら、それで良いんですよ。信頼できない人間の下にいることほど怖い事はありませんからね。」
とギルマスさんを見ながら言ってあげる。
笑顔を保ってるギルマスさんの口元が引くついてるのが笑える。
反面、私は吹き出しそうだ。
私の吹き出しそうな笑顔で、私がこの前の事を根に持っているのを理解したのか、ギルマスは直ぐに折れた。
「分かったわ。気が変わったらいつでも登録して頂戴。その日が来ることを期待してるわ。
依頼についてはこの受付嬢にそのまま担当させるから、あちらにどうぞ。
さ、仕事に戻りなさい!」
と手を叩いて他の職員に指示を出すギルマスさん。
動き出す職員さんとは別に、ギルマスさんはその場に残って
その場にいた冒険者達に指導をするらしい。
私は受付のカウンターを通り過ぎ、別の部屋に通された。
その際に、受付嬢さんがギルマスになんだか耳打ちされていたのが気になったので、後で問い詰めてみようと思う。
あの受付嬢さん、気が弱そうだから何でも喋りそうだもの。
逆にこちらの情報はあんまり聞かせない方が良さそうな人だけど。
と考えていたら、隣のエンガが少し屈んで、私の耳元で
「【彼女の気分を損ねないように。個室。全て報告。】だとよ。」
って、ギルマスさんの言葉を拾ったままに教えてくれた。
おお!
あんなに小声でもぞもぞ喋ってる事が聞こえるなんて凄い!
獣人だから耳が良いのかな?
うん。
今後、独り言には気を付けた方が良いかも・・・・。
一番やばいのはハァハァ言ってたり、変態だとか痴女だと思われそうな発言だな。
うん。本気で気をつけよう。
別の意味でキリッとした顔になりつつ歩いている私とエンガが連れていかれたのは、そこそこ奥の方にある、小さめな個室だった。
結界系の魔法がかけられてるところで、隣の部屋の音なんかも一切しない。
そこに入ってドアを閉めて、先に座るように促してくる受付嬢さん。
既に若干、涙目なのは気のせいじゃないですよね?
嫌なら嫌だって言うのも必要ですよ?
いくら上司が相手でも、私が怖いんでしょう?
ああ、それからもう一つ、重要な事が。
「椅子、足りませんね。」
笑顔で受付嬢に言ってあげる。
受付嬢と私とエンガ、いるのは3人。
椅子は2つ。
=(イコール)椅子を1つ持ってきてください。
となる。
が、ここで遠慮をするのがウチのエンガさんだ。
「俺は立ってるぞ?」
「ダメだよ、エンガは私のパートナーなんだから。話にも参加してもらわないと。なので、椅子、お願いします。」
怖がらせないように出来るだけの笑顔で受付嬢さんにお願いする。
わざわざ持ってこさせてごめんね~と。
エンガには同じ目線で参加して欲しいので、隣で椅子に座っていてほしい。
だからよろしくお願いします。
そう思って言ったのだが、
「はいぃぃぃぃ!!!勿論です!お使いください!!私が立ちます!!」
とエンガに自分の椅子を指さし、90度に折り曲がる受付嬢さんが目の前にいた。
私もエンガもポカーンですよ。
ええ、椅子を持ってきてほしいと言ったつもりが、彼女の中では
【お前が立ってろよ、分かるだろ?ああん?】
になったらしい。
なんだこの人。
大丈夫か?
話が通じないタイプの人間じゃないんだろうか?
こんなんで大丈夫?
予想の斜め上を来たんだけど。
書類はちゃんと確認しないとダメな感じだねこれ。
「あの、貴方に立ってろって言ったんじゃなくて、椅子をもう一つお願いしたかったんですが・・・」
「え?あ、ああ!そうでしたか!分かりました!スグに持ってきます!お待ちください!」
受付嬢はまた頭を90度に下げてから去っていった。
途中でガッシャーン!なんて音がしたのは気のせいだと思いたい。
「・・・なあ、ヤエ。大丈夫か、あれ。」
エンガよ、言わないでおくれ。
私も不安だから。
そして、戻ってきた彼女は小さいサイズの椅子を抱えてきた。
小さい椅子は背もたれも無くて、木で出来てる感じの奴。
それを持ちつつ、顔を青くしつつ
「あの、大変申し訳ないのですが、依頼者用の椅子が一番大きいので、その椅子に男性に座っていただいて、本当に本当に申し訳ないのですが、こちらの木の椅子に依頼者様に座っていただいても宜しいでしょうか?大きい椅子は運べない上に貸し出しに時間がかかって・・・職員用の椅子は固定されているので・・・」
と涙目になっている。
なる程。
一応、奴隷の首輪をつけているエンガが一番大きくて質の良い椅子に座って、私が木の椅子。
そして、彼女は向かい合って置いてある、目の前のそこそこ上質な職員の椅子に座ると。
本来なら依頼者は怒るかもだけど、まあ、私たちは問題ない。
「職員の椅子が動かないなら仕方ないですね。」
そう言ってから、エンガに依頼者用の大きくて上質な椅子に座るように勧めると
「俺、木の椅子で良いぞ?木の椅子は尻が痛くなるだろ?ヤエはこっちに座っとけ。」
なんて嬉しい言葉を言ってくれたけど、残念ながら。
「エンガ、その言葉は凄く嬉しいんだけどね、多分、この木の椅子じゃあエンガは支えきれないと思う。壊しちゃって弁償するのも嫌だから、そっちに座ってくれると助かる。スグに終わるから。ね?」
とお願いする。
うん。
この木の椅子にエンガが座ったら壊れるでしょう。
小学生が座るサイズの椅子に、普通の成人男性よりもかなり大きい、体格のいいオッサンが座ってみな?
壊れるしシュールな光景だよ。
エンガなら可愛いだろうけど。
見てみたい気もするけども。
エンガは自分が座れば壊れると知ってショックだったのか。少しションボリしつつも、大人しく座ってくれた。
私はその隣に木の椅子を並べて座る。
そんな私たちに安心した様な表情の受付嬢さんを目の前に、依頼の相談開始です。




