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夜の時間。

皆さま。

私、ヤエは意識を失い、

そうになりました。


そう、目の前に現れたのが

《コシミノ》着用のセクシーエンガさん

だったからです。


分かりますか?

上半身裸で、コシミノだけ身に着けた、お風呂上がりの獣人のオッサンです。

料理の臭いに鼻をヒクヒクと動かしながら、ウキウキと入ってきたんですよ。

ご馳走に目をキラキラとさせて。

水が完全に拭けてないから、水も滴るイイ男を地でいっちゃってますよ。

前に見たコシミノ姿とは段違いの破壊力です。

風呂上がりってだけで、こんなに色気が倍増するなんて!

ドキドキが止まらないよ!

私の心臓を止める気ですか?!

エンガさん!


ねえ、そのコシミノ、下はちゃんと履いてるんですか?

チラリズムに心が揺さぶられるんですが。

筋肉質の太い太股がセクシーで、目のやり場に困るんですが。

なぜに、あなたは上半身裸なの?

暑いの?

洋服は窮屈なのかい?

なぜ、なぜ、《恥ずかしい恰好》だと言っていたコシミノを着用してるんだい?

私がカッコイイって言ったから?

でも、時々って言ったよね?

ドキドキするから時々ねって言ったよね?

スグに履くとは思ってなかったよ、私。

洗ったとはいえ古いし肌に悪くないの?

恥ずかしい恰好って、パンツ一枚と同じ感覚って事じゃないの?

違うの?

もし、パンツ一枚で出てきた感じなら、私を女だと思ってないって事?

それとも【いつでもどうぞ】って事?

どれ?

どれが正しいの?


ぐるぐると思考を巡らせていると、目を細めて料理の匂いを嗅いでいたエンガが


「ん?ヤ、ヤエ!血!鼻から血が出てるぞ!おい!大丈夫か?!ど、どうすればいいんだ?!何を、何をすれば!うあっあああ!そっそうだ!」

と叫び、あたふたしたかと思えば、こちらに近づいてきて、自分の頭を拭いていたタオルで私の鼻血を拭った。


エンガさーーーーーーーん!!!!!!!

それ、逆効果!!!!!!

エンガの匂いがするタオルで鼻を拭かれるとか!

しかも、目の前にエンガの逞しい裸体が!!!!!!!

んぶっふぅ!


私は更に鼻血を噴いた。

理由が分からないエンガは大慌てで


「ヤエ!ヤエ!死ぬな!頑張れ!今、神殿に連れて行くからな!頑張れ!」

と、私を担ごうとした。


おおう!

ちょ、ちょっと待って!

流石にこんな時間に《鼻血》が理由で大金のかかる神殿になんて行きたくない!

しかも、理由が《コシミノ姿のセクシーなオッサン獣人を見て鼻血を噴いた》なんて言えないからぁぁぁぁ!

更にはエンガさん、コシミノ一枚の姿ですからね!

コシミノ一枚のオッサン獣人が女の子を担いで行くとかダメでしょう!

怪しさ満点だよ!


「エ、エンガ、大丈夫だから!ちょっと待って!落ち着いて!降ろしてちょうだい!」

鼻を抑えながら、必死にエンガを落ち着かせ、ひとまず降ろしてもらう。


「大丈夫だから。大丈夫だから落ち着いて。これはね、興奮しすぎて出た鼻血だから大丈夫なの。頭に血が上っただけだから。大丈夫。病気じゃないし、良くあることだから。神殿に行かなくても大丈夫。スグに自然に止まるから。ね?落ち着いて。」

と視線を合わせながら、鼻を抑えながら、出来るだけ微笑んで《大丈夫だ》と何度も告げる。


そんな私の言葉にエンガも落ち着いたようで、


「そうなのか?大丈夫なのか?無理してねぇか?・・・そうか。神殿に行かないのは分かった。でも、座ってくれ。心配だ。」

と私を持ち上げて、椅子に座らせてくれた。


うん。

目の前で、膝立ちで、こちらをのぞき込むのは止めてもらえるかい?

鼻血が止まらないから。

心配そうな顔が可愛すぎて鼻血が止まらないから。


ってか、なんでコシミノ履いてるのか聞いた方が良いよね?

洋服がもったいなくて、嫌なのに履いてるのかもしれないし。

私がカッコイイなんて言ったから無理に着てるのかもしれないし。


「ねえ、エンガ。なんでコシミノなの?《恥ずかしい恰好》って言ってたんだし、無理に着なくていいんだよ?湯冷めしちゃうでしょ?」

と聞いてみる。

それに対してエンガはキョトンとした顔をして


「ん?ああ、コシミノか?ヤエにドキドキして欲しいから着たんだ。昔からずっとこの格好だから落ち着くっつーのもあるしよ、獣人は皮膚が分厚いからな。寒さには強ぇんだ。暑すぎるのは苦手だけどな。だから無理なんかしてねぇ!これは俺の寝間着で、ヤエの前での一張羅だ!」

とドヤ顔で言い放った。


っておい!

エンガさん!

待って!

【私にドキドキして欲しいから着た】

って何?!

私の前での一張羅なの?!

勝負下着みたいな感じなの?!

確信犯ですか?!

というか、私にドキドキして欲しいの?!

なんで?!

ドキドキしたけど!

ドキドキ、ドゴドゴ、キュンキュンしたけどさ!

ドヤ顔がクソ可愛いんですけど!

もう、本当に、この可愛いオッサンをどうしてくれようか!!!!!!

思春期に突入した青年な気分だよ!

可愛い彼女が無防備すぎて困る!

みたいな心境だよ!!!!


うぬぬぬぬ。

駄目だ。

我慢だ私。

今、抱き着いたりすれば再び鼻血ブー・・・。

我慢、我慢、ヒッヒッフー。

よし、OK。

抱き着いて頭を撫で繰り回したいのは我慢は出来た。

にしても、コシミノの着用はどうするべきか。

毎回ドキドキで殺されそうになるとは思うんだけど、あの素晴らしい身体が見れなくなるのも惜しい。

かといって、風呂上りは破壊力がありすぎて、直視できない。

しかも、あのコシミノは肌に悪そうだよなぁ。

凄く古い感じするし、洗ったけど色も悪いのではないだろうか。

それに、昔から着てるってことは、何年単位かで着てたんだろうし、奴隷のコシミノをそんなに頻繁に洗うとは思えないし。

でもでも、【落ち着く】って言ってるし、取り上げるべきではないんじゃないか。

ん~、取りあえず、それとなく代理案を勧めてみよう。


「ねえ、エンガ。そのコシミノって昔からずっと着てるの?大分古いし、肌に悪くない?痒くなったりしない?もし、寝間着が欲しいならパジャマを買ってあげるよ?」


そう。

コシミノは捨てないにしても、パジャマを着せてみるとか。

案外気に入るかもしれないしね。


「ん?ぱじゃま?人間が着てる寝間着の事か?ん~、いや、俺はコシミノが良い。ヤエもドキドキするし、俺も寝やすいし、良い事ばっかりだかんな!でもそうだな、確かに長年着てるからな。ボロボロだしな。・・・・・なあ、ヤエ、ぱじゃま?じゃなくて新しいコシミノ買ってくれないか?寝間着用と、休日にヤエの前で着る一張羅のコシミノ。」

と、なぜか、コシミノから考えを譲らないエンガさん。


これはあれだね。

コシミノに思い入れがあるというか、どうしてもコシミノが良いんだね。

コシミノにこだわってるんだね。

ねえ、1つだけ聞いても良いかな?

一張羅のコシミノって何?

ってか、どこで売ってるの?コシミノ。

コシミノに種類なんてあるのかしら?

良く分からないけど、ドヤ顔でのおねだりもまた可愛いので良しとしよう。


「うん。コシミノのお店、明日にでも探そうね。エンガが気に入るコシミノがあるといいね?」

これ以外に何と言えと?


「おう!ヤエも選んでくれよ?ヤエに見せるためのコシミノなんだからな!」

とまたニッコニコ笑顔のエンガさん。


うん、良く分からないけど、冷や汗が出てきた。

彼女の下着を一緒に買いに行く青年の気分ってこんな感じ?

ってか、これから毎日、風呂上がりのコシミノ姿でセクシーなエンガさんを見続けることが決定したって事だよね?

血、足りるかな?

一応、毎日鼻血を噴いても良いように、後で回復薬を量産しておこう。

そうしよう。


まあ、コシミノは明日見に行くとして、今は

鼻血を拭いたタオルとは別のタオルをエンガに渡して、体の水分をもっと取ってもらおう。

見てて寒いし風邪ひきそうだもの。


「エンガ、今から揚げ物するから、その間にもう少し頭とか拭いて。まだ水っぽいからね、風邪ひいちゃうよ。」

と頭に布を載せてあげてガシガシと拭いてあげる。

すると、タオルの下から

【ゴロゴロ】

と響く音がした。

ふふふ♪ゴロゴロって咽鳴らすの可愛いなぁ。頭拭いてもらうの好きなのかな。

と微笑ましい気持ちになった。

でも、ご飯の準備をしなきゃだし、あとは自分でやってもらおう。

名残惜しいのを振り切り、エンガの頭から手を離してキッチンに向かおうとしたら、後ろから


「えっ?!」

と言う驚きの声が聞こえた。


振り向いてみると、驚いた顔のエンガ。

なんだ?

どうしたんだい?

首をかしげてみると

少しもじもじしながら、


「もう・・終わりか?もちっと・・・・」

と上目遣いで見てくるエンガさん。


・・・・・。



鼻血は耐えたよ。

頑張ったよ。私の鼻腔。

拭いてほしいよね。

そうだよね。

頭なんて自分じゃ拭きにくいもんね。

だからあんなにビショビショだったんだもんね。

と心の中で、誰に聞かせるわけでもない言い訳をしながら、私は再び、エンガの頭を拭う事にしました。

さっきより優しく拭いてあげよう。

ご飯はこの至福の時が終わってからでも良いよね。

さっきよりゴロゴロが強くなってるし、時々、手に頭をぐりぐりと押し付けてきて、非常に可愛いです。

可愛いぞーコンニャロー!


と二人でほのぼのしつつ、粗方拭き終わったので、ご飯の準備に入ります。


「俺も手伝うぞ!ヤエ一人を働かせるなんて男が廃る!」


との事だったので、エンガには冷蔵庫にしまっておいた物を出して並べてもらいます。

今日は服屋には寄れなかったので、お揃いのエプロンはまた今度。

私はエビフライとイカフライを量産。

エンガがチラチラとこちらを気にしているので、マッハで揚げていきます。

時々、唾をのみ込む音まで聞こえてくるからね。


そして、やっと出来上がりました。

大量のエビフライとイカフライ。

それと他の副菜の数々。

いつも思うけど、豪華な食卓だなぁ。

エンガはいつもの指定席に座り、尻尾をピーンと立てて、おめめを真ん丸にして、ヒゲや耳もピーンとして、両手にフォークを持って、私が座るのを今か今かと待ち構えております。

ちゃんと、私が座るまで待ってくれるんだよね。

ふふふん♪

流石、マイダーリンは優しいなぁ。

涎拭ってる姿も可愛いよ。


私も席に座って、2人で仲良くいただきます。


初めてのフライはどうでしょう?

エンガの口に合うかな?

とドキドキしながら見ていると、


「もぎゅもぎゅ!!!もぎゅ!もぎゅ!」

と何本ものエビフライを口に突っ込んで、空になった茶碗を出しながら、こちらに話しかけるエンガ。


「うん、うん。気に入ってくれたのは表情で分かるけど、飲み込んでから喋ろうね?何言ってるか全然分からないからね。」

ご飯のお代わりを大盛りにして渡してあげる。


口から何本ものエビの尻尾が出ているのは中々にシュールだ。

ん?

バリバリゴックン?

あれ?

口から大量に生えていた尻尾が全部消えた。


「あ、エンガ!エビの尻尾は食べなくても良いんだよ。食べれない部分ではないけど、硬くてガリガリしてるでしょう?」

言うの忘れてた。

初めて食べるんだろうし、分からないよね。


「んあ?エビの尻尾?って、この先っぽか?硬くもねぇし、全然平気だぞ。っつか、バリバリしててうめぇぞ!残すなんて勿体ねぇ事しねぇし、ヤエが作ったんだからな。食えねぇ部分じゃねぇんだから食うぞ。ついでに言っとくけどな、俺は動物の骨とかも食えるぞ。ガリガリしてて食いごたえあっから割と好きだ。」

って嬉しそうに、答えたエンガ。


ん?

骨も食べるの?

んーと、普通のネコ科って骨は食べないよね?

獣人だから食べるのか、エンガだから食べるのか、ネコ科が食べるのか・・・・。

謎だねぇ。

まあ、エビフライを頬張る獣人オッサン、可愛いからどうでもいいや。

特にタルタルソースがお気に召したらしい。

ソースをつけて、タルタルをたっぷりと載せて食べている。

イカフライも同様に。

イカフライはソースだけの方が美味しいと思うんだけどね。

まあ、自分の好きなように食べるのが一番だろう。


ザクザク、もぎゅもぎゅ、ん~♪

ガツガツ、ごっくん。

もきゅもきゅ、バリバリ。


って、相変わらず美味しそうに食べてくれるなぁ。

その幸せそうな顔を見てるだけで、頑張った甲斐があるよ。

エンガを見習って、私も尻尾も食べよう。

っていけない!

私も早く食べないと!

エンガが全部食いつくしそうな勢いじゃないか!

エンガに見とれてる場合じゃなかった!

自分が食べたいから作ったエビフライとイカフライ!

私も堪能しないと!



お箸を動かして、エビフライを頬張っていると、エンガからの視線を感じた。

ふと、目線を上げてエンガの方を見てみると


「美味いか?これ、一番でっけーの、ヤエにやる。食え。飯もたらふく食えよ?」

となんでかご満悦なお顔で、私に一番大きなエビフライをくれた。


多分、私と同じで、

【ひもじい思いなんてさせたくない。お腹いっぱい食べさせてあげたい。】

と思ってくれてるんだと思う。

そんなエンガの優しさに感動しつつ、


「こんなに大きいの貰っても良いの?嬉しい、ありがとうエンガ!エンガと食べるご飯、凄く美味しいよ♪」

と素直にお礼を言うと


エンガは


「おう!」

と照れ臭そうに、幸せそうに頷いてご飯を頬張り始めた。


時折こちらを見ては、私が食べている姿を確認して嬉しそうに頷いている。

・・・・・・。

子供にご飯を食べさせてるお父さんみたいだなんて思ってナイヨー。

ワタシ、シアワセヨー。


そんなこんなで食べ終わった夕飯。

エンガの中で、《フライ》は大ヒットだったらしい。

副菜のお肉よりも食いつきが良かった気がする。

珍しいし、あの《サクサク》の食感が初めてだったらしい。

ソースの深い味わいとか、タルタルソースの酸味と卵のコクとマヨネーズのマイルドな味付けが

どうたらこうたらと、エンガ流の擬音を使いながら力説してくれたけど、さっぱりだった。

身振り手振りで判断したから、多分あってるとは思うけどね。


そして現在、私は入浴中。

エンガが


「皿洗いは俺がする。ヤエは風呂入ってこい。」

って言ってくれたので、有り難くお言葉に甘えることにした。


お風呂から上がったら、軽くデザートのパンケーキを食べようと思います。

そのために、お風呂ではストレッチ!

太るわけにはいかないのよ!

エンガに恋する乙女としては!

太るわけにはいかない!

と必死にストレッチをこなし、髪をタオルで巻いた状態でリビングに向かいます。

早くエンガにパンケーキを出してあげないとね。


リビングに着くと、お皿を綺麗に片づけたエンガが


「ヤエ!片づけたぞ!コレで良いか?大丈夫か?ダメなら言ってくれ。やり直す!」

と、気合が入った状態で声をかけてきた。


片づけてもらった場所や、洗ったお皿を確認したけど、何の問題も無い。

とっても綺麗。


「ありがとうエンガ。すごく綺麗になってる。もっと自信をもって!」

そう、エンガにはもっと自信を持ってほしい。

大丈夫かどうか、こちらの顔色を窺わずに、自信をもって行動してほしい。


エンガは褒められたのが嬉しかったのか、照れたように頬を掻きつつ、

私に近づいてきた。

私はスグにでもパンケーキの用意をしてあげようと思ったんだけど、それよりも先に


「なあ、ヤエ。髪、まだ乾かしてねぇんだろ?俺、やってやろうか?さっきヤエがやってくれたみてぇによ。こう、わしゃわしゃって」

と頭を拭く様なジェスチャーをしながらエンガが勧めてきた。


ワクワクしてるみたいだし、折角、エンガが頭を拭いてくれるっていうんだから、お願いしようと思う。


「本当に?じゃあ、お言葉に甘えてお願いするね。よろしくねエンガ。」

とお願いすると


「おう!任せろ!」

とご機嫌な声が返ってきた。


そして・・・


うん。

頭がもげそう。

エンガさん、ルンルンで【ぐっるる~】なんて鼻歌歌っちゃってるけど、

手つきが荒い。

めっちゃ雑。

わっしゃわっしゃじゃなくて、

【ぐわっしゃい、ぐわっしゃい】

みたいになってるんですけど。

頭がありえないくらい、上下左右に動くんですけど。

でも良いもんね。

多少、痛くても。

エンガが頭を拭いてくれるなんて幸せ、逃す気なんてないもんね。

これくらい、エンガに頭を拭いてもらえる喜びに比べたら、どうってことないもんね!

あ、エンガさん、私の首はそっちには曲がりません。


そうして、頭を拭いてもらった後の私の頭は、鳥の巣の様に芸術的でした。

自力でボンバーな感じに仕上がるとか、どんな魔法を使ったの?

ってレベルの仕上がりでした。

エンガはその仕上がりに驚いていたけど、私は全力でお礼を言う。

勿論、明日もやってもらうという約束を取り付けた私に抜かりはない。

あの幸せタイムを逃してなるものか!


そんなラブラブタイムの後にはお待ちかねの

《パンケーキ&ホットミルク》

のご登場です。

手作りの林檎ジャムと砂糖控えめのホイップクリームが乗っておりますパンケーキ。

蜂蜜が入ってるホットミルク。

それを見たエンガは


「なあ、ヤエ、これ食いもんか?綺麗だぞ?飾り物じゃないのか?ん?でも、いい匂いすんな。んでも、こんなにモフモフしてるもん見たことないぞ?食いもんなのか?飾りじゃ?」

と若干、パニックになってた。


そりゃそうか。

初めて見る食べ物なんだしね。

良く考えてみると、きつね色の焼き目のついた、丸いフワフワした物体に、さっき食べたトロトロキラキラの林檎ジャムがかかってて、モフモフした白い物体が載ってる。

その隣にはあの独特な匂いのする蜂蜜が香る温かいミルク。


いかん。

ホイップクリームは文章にしたらマズそうだわ。

匂いはとても良いんだけど、綺麗すぎて、ふわふわしすぎてて、どこにフォークを刺したらいいか分かんなくて、戸惑ってるみたい。

なので、私の分を自分で切って見せる。

パンケーキを一口大に切って、ジャムとホイップクリームを少しづつ載せて

エンガが見てる前で食べてみせる。


おおうっ!!

美味し~い!!

正直、《特殊な木》から生えた食材だし、そこまで期待してなかったんだけど、美味い!

パンケーキはフワフワで表面が少し香ばしくてバターの風味がたまらん。

林檎ジャムは酸味があってトロトロな部分と食感が残ってるところがあって、全てと合わさっても引けを取らない。

そして、私の腕の筋肉を酷使した、ホイップクリーム。

お砂糖は少しだけだから、ほぼ甘くないんだけど、ミルクのコクと風味が強くて、他が甘い分、全てを包み込んでるみたいで素晴らしい!

私の人生の中でもかなり上位の作品だよ!このパンケーキ!

しかも、ホットミルクも上出来!

濃すぎない、優しい味わいの温かい、体の疲れがほぐれる様なミルクの味わいと

蜂蜜の優しい甘さとあの独特な匂いが鼻から抜けていく。

素晴らしいよ!

とほっこりしながらエンガを見てみると、


フォークを銜えたままのエンガがこちらを見ていた。

すんごく幸せそうな顔で。

そりゃもう、背後にお花が飛んでるのが見えるくらい、

ニコニコホワホワ

した顔をして。

お皿を確認してみると、切ってあるのは大きな一口分。

でも、まだフォークを銜えてる。

口に入れた瞬間の味にノックアウトされたらしい。

動かないまま数十秒。

フォークを口から抜いて、もきゅもきゅと口を動かし、やっと飲み込んだかと思えば


「ヤエ、俺、コレ、好き」

なんて言葉をニッコニコの笑顔で述べて

今度は最初よりも小さく切って口に運び始めた。

どうやら、ゆっくりと味わって食べるつもりらしい。

更にホットミルクを飲んで、へにゃんって顔になったりしてて、凄く、凄く愛おしい。


いつもみたいにがっつかず、ゆっくりと味わって食べている姿が、本当に美味しいと言ってくれている様で嬉しい。


そして至福のまったり時間を過ごし、パンケーキを食べ終えたところで、パンケーキの欠片を髭につけたままのエンガから提案があった。


「なあヤエ、俺もジャムが作りてぇ。みんなに配るやつあんだろ?あれ、俺も一緒に作って《俺とヤエの2人から》の贈り物にしてぇ。俺も皆に感謝の気持ちを伝えてぇ。駄目か?」

との事だったので、


「勿論、大丈夫だよ!一緒に作ろう。皆に沢山のありがとうと宜しくの気持ちを込めて作ろうね。」

と、エンガの髭からパンケーキの欠片を取ってあげつつ、早速、沢山の林檎を用意する。


髭についていたのに気づかなかった事か、私に取ってもらったことか、そのどちらかに照れたエンガの

【あ、うあ、す、すまん】

は可愛くてたまりませんでした マル。


私が瓶を煮沸する間に、エンガには林檎を切ってもらう。

ナイフの扱いに慣れているので、綺麗に芯を取って切り分けてくれる。

そして二人でコトコトじっくりと煮ていきます。

ここは愛情を込めるためにも、魔法は一切なしで作ります。


そして出来上がったジャム。

温かいうちに味見をしましょう。

エンガのスプーンには多目に盛ってあげて、私も味見。

うん。温かくて、甘くて食感も酸味もあって最高じゃないですか!

エンガも私もお互いの顔を見合わせて、笑顔で何度も頷きました。

そして2人でそんなジャムを瓶に詰めていきます。


出来上がったジャムは収納。

明日、渡すのが楽しみだなぁ。


で、もともと作った分と、さっき作ったパンはエンガに持たせておこう。

非常食&小腹がすいた時のおやつ用にね。


「エンガ、これ、私が一人で作ったジャムとさっき作っておいた焼きたてのパン。エンガのカバンの中に入れておいて。エンガがお腹が空いたら自分で判断して食べてね。良い?お腹が空いたら食べてね?私の許可はいらないから、自分でお腹が空いたら食べるようにして。エンガが空腹に耐えるなんて悲しいから。無くなる前には報告してね。新しいの入れるから。」

と何度も何度も自分で食べるように言い聞かせる。

エンガの性格なら遠慮して食べないまま、ずっと鞄に入れておくことも考えられるからだ。


エンガは驚いた顔をした後、真剣な表情になって、


「俺もヤエが腹を空かしてたら悲しい。ヤエも同じなんだな?よし、分かった。ちゃんと自分で判断して食べる。無くなる前に報告だな。それも守る。」

と頷いてテーブルの上のジャムとパンを仕舞っていくエンガ。


うんうん。

私とエンガの立場を入れ替えて考えてくれたのね。

私がお腹が空くのはエンガも悲しいと感じてくれる。

もう相思相愛だよね。私達。


さて、後はお金のお勉強です。


「エンガ、今朝も言ったけど、これからエンガは私と一緒に【奴隷じゃなくてパートナーとして】生活していくから《お金》を手に入れて使う、ってことをしていかなきゃいけないの。だから、今からお金の勉強しようね。エンガのお金はエンガが自分で管理すること。もちろん、使うときに私の許可はいらないし、貯金なんかも自分で考えてする事。無駄遣いには気をつけてほしいけど、私はお金持ちだから過度な我慢はしないでね。生活必需品や私との共有財産になるものは私が購入するから。分かった?」

と最初のお話をした時点でエンガは


耳や髭を下げて情けない顔をした。


「うぅ、言ってることは分かんだけどよ、俺、今まで金使ったことも計算したこともねぇし、文字も読めねぇし、馬鹿だし、愚図だしよ、無理だと思うぞ・・・?俺、駄目なオッサンだし・・獣人だし・・・馬鹿だし・・・」

としょんぼりしながらウダウダ言い始めた。


お金の計算にオッサンな事も獣人な事も関係なくないかい?

今までやったことがないなら、出来ないか無駄かどうかなんて分からないじゃない。

なのになんでそんなこと言うの?

んん?

獣人だから買い物が禁止されてるわけじゃないよね。

奴隷だからってって買い物が禁止されているはずもない。

だったらなんで?

ん~。

なんででしょう。

・・・・・・・・。

もしかして、ずっとそう言われてきたのかな。

【獣人だから無理だ】

【馬鹿だから無理だ】

【愚図だから無理だ】

【オッサンだから無理だ】

って言われ続けてきたのかもしれない。

洗脳みたいな感じだったのかも。

だったら、

【無理】

は禁句にして、少しづつゆっくり褒めて伸ばしていこう。


「エンガ、初めての事なのに出来ないって決めつけちゃダメだよ。誰でも初めての事は時間がかかるんだから、ゆっくり正確に覚えていけば良いんだよ。少しだけでも良いからやってみよう?ね?」

と優しく話しかけるが、エンガの表情は暗いし返事がない。

しょうがない。

卑怯だとは思うけど、最終手段に出よう。


「ねえエンガ。もし、私がケガや病気で寝込んだ時、エンガは買い物には行ってくれないの?私がいなきゃ駄目なの?私を助けてはくれないの?」

と聞いてみる。

私には回復薬と魔法があるので、万が一にもそんな状況にはならないのだが。

エンガの顔つきが変わった。


「んなわけねぇ!!俺はヤエを助ける!ヤエが辛い時は俺が家の事をやる!ヤエに無理はさせねぇ!ぜってぇにだ!よし!よっし!こい!ヤエ!俺に計算を教えてくれ!時間はかかるだろうが、俺、頑張るからな!」

と気合十分になったエンガ。


うん。

エンガは自分に自信がないけど、人の為に頑張れる男なんだよね。

私の為に頑張ってくれるの嬉しいよ。


「私もこの世界の常識には疎いから、これから学ばなきゃいけないことが沢山あるの。一緒に頑張っていこうね。エンガ。」


エンガの前に紙とペンを用意して、様々な貨幣を出してひとつづつ説明していく。

ゆっくりと丁寧にエンガの表情を見ながら時間をかけて教えていく。

二時間ほど経ったころ、エンガは貨幣の全ての額を覚え、一ケタの足し算が出来るようになっていた。


おお!

覚えるの速いと思うよ!

最初は戸惑ってたけど、集中力があるから教える事全部吸収してくれた感じだ。

この調子でいけば、文字を自由に読み書き出来る日も近いはず!

そうエンガを絶賛していたら、


「そ、そうか?俺にゃ無理だって思ってたからよ、こんなに勉強が楽しいなんて知らなかった。次はどれだ?」

とお勉強が楽しかったのか、やる気満々のエンガ。


嫌々じゃなくて楽しんでもらえて良かった。

でも、もう夜も遅いので寝かせてください。


「今日はここまでにしよう。一度に覚えても分からなくなっちゃうから、後は明日からも毎日お勉強しよう。」


「それもそうだな。そろそろ眠くなってきたし。んじゃあ、明日からもよろしく頼む。」

と納得してくれたみたいで良かった。



皆に配るジャムも出来た、勉強もした。

今日はここまでで十分でしょう。


明日の予定は

ニールの店で武器の購入。

行きたくないけど、冒険者ギルドに行って《もしゃもしゃ草》の店番の依頼。

ついでに《もしゃもしゃ草》を少しの間オープン。

回復薬のお店だという事を周囲にもアピールしておかないと。

後は・・・・。

コシミノの購入だね。

服も下着もエンガの好きなのを着てほしいから服屋に行かないと。

あと、サユさんに奴隷の事について色々聞いておかないと。

明日もやらなきゃいけないことがいっぱいだ。


筆記用具を片づけつつ、脳内会議をしている間に

エンガは船をこぎ始めた。

お休み三秒だよね。

眠るのが早い。

起こすのも可哀想なんだけど、肩を揺すって起こして、

【うぬ~】

とか言ってるエンガに肩を貸して部屋まで連れていく。

そして昨日と同じようにお布団をかけてあげて おやすみなさい。


ぐっすり眠っているエンガを見ていると

【ここは俺にとって安全な場所】

って思ってもらえている様で、なんだか嬉しい。

素敵な夢を見てほしいなぁ。


さて、私は明日売る回復薬を作ってから眠りましょう。

今日も一日、頑張りました!

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