リューカ堂。
サユさんに商業ギルドを追い出されました。
言葉は相変わらず丁寧で、また何時でも相談にのりますから。とのお言葉はいただけましたが、解せぬ。
そして、今、サユさんからの紹介状を手にリューカ堂に到着しました。
お店の扉を開けてエンガと仲良くお店に入ると
「いらっしゃ~いませぇ~」
と何とも言えない、ゆる~い声がした。
その声のする方向を見てみると・・・・。
何と言っていいのか、独特なセンスをお持ちの、女性なのか、男性なのか、孔雀の様な人が立っていた。
驚いた。
純粋に驚いた。
ってか、目が痛い。
なんでこんなに素晴らしい発色の洋服を身にまとってらっしゃるのでしょうか。
孔雀もびっくりするよ。
孔雀さんも【負けた】と泣いてしまうレベルだよ。
まあ、世の中には様々な人がいるからね。
深く突っ込んではいけない。
深く突っ込んではいけない。
自分にそう言い聞かせ
「あ、こんにちは。特殊な木が購入できると聞きましてお邪魔させていただきました。これ、商業ギルドのサユさんからの紹介状になります。よろしくお願いします。」
と頭を下げてお願いする。
この人の判断によって、今後の食糧事情が変わってくるのだから愛想よくしておく。
エンガも頭を下げる私を見て慌てて一緒に頭を下げた。
直後、
「やだぁ!可愛い良い子達じゃないの!ふふふふ、良いわぁ♪お姉さんが面倒みてあ・げ・る♪これがサユからの紹介状ね。スグに読むから、その辺の商品でも見てらっしゃいな。可愛い雑貨なんかも置いてあるわよぉ♪ペアのコップとかね♪」
と紹介状を片手に店員さんはカウンターの椅子に座りなおした。
強烈なキャラだったが、エンガは特に気にしていないらしい。
私も女性だろうと男性だろうと興味はないのでそんなに気にしない。
服装はすごく気になるが。
と思いつつ、お姉さん?が言ってくれた様に、その辺の商品を見てみる。
可愛いコップ、木の絵皿、筆ペンやメモ用紙の束、ドライフラワーの飾りやアクセサリーケース、置物やらなにやら、ファンシーで可愛いものがわんさか置いてある。
正直、なんでこんなにフワフワキラキラしたお店に《特殊な木》なんて土の汚れが出るものを置いているんだろう。
謎だ。
エンガはこんなに可愛いファンシーなものを見たことがないのだろう。
壊すのが怖いのか、近寄らない。
おっかなびっくりって感じ。
なので、出来るだけ丈夫そうな木皿が置いてあるところに誘導する。
可愛い、木や果物が書いてある大きな木皿の前に。
実は、我が家の食器は私基準で購入したので小さい物が多い。
なのでエンガが使うにはだいぶ小さい食器しか無い状態なのだ。
お皿、お椀、ナイフ、フォーク、スプーン、全てにおいて小さい。
エンガの手は人の手に近いけどネコ科の手に似ているので、小さい食器での食事は大変そうだった。
なので、この機会にお揃いで色々な食器を購入しようと思う。
「エンガ、うちの食器小さくて使いにくいよね?全体の数も少ないし、お揃いで全部そろえよう♪」
とウキウキ気分で話しかけると
「お!おお!買う!お揃いだな!分かった!」
と元気なお返事のエンガ
お揃いが増えるのが嬉しいのか、ご機嫌なエンガと共に
2人で好きな柄を相談したり、色違いにするか、同じ色で2枚買うかなんかを相談しながら選んでいく。
コップは2個で一つの絵が浮かぶように工夫されている物にしたし
お皿なんかも、大きい黄色のお皿がエンガの。
ひとまわり小さい薄ピンクのお皿が私の。
フォークやスプーン、ナイフなんかは同じデザインのサイズ違いを選んだ。
選んだ品の中でもエンガが興味を示したのが、
《注目の限定新商品!現品限り!手作り一点物!》
のポップで猛プッシュされていた
【2つで1セットのマグカップ】
その中の可愛くデフォルメしてあるトラがモチーフのマグカップ。
尻尾が持ち手の部分になっていて、並べると尻尾の先が軽く絡む様になっている、対になっているマグカップ。
値段はそこそこで すごく可愛い一品。
そのマグカップを見つけた瞬間のエンガは殺人級の可愛さだった。
見つけた瞬間に身体がピクッ!って動いて、尻尾がピーンと立った。
そしてそのままそのマグカップの前に行って、マグカップを2つ慎重に手に持ち、私の元に持ってこようとした。
が、
値段を確認して、さっきまで購入していた品物と貨幣の表記が違うことに気付いたのだろう。
数字や貨幣の価値が分からないエンガは、値段が書いてある木札を何度も確認して、近くにある似た商品の表記を確認して、それを何度も繰り返した。
そして、他の商品よりも値段が高いことに気付いたエンガは尻尾を下げた。
耳はへたり、心なしかひげもへたった。
可愛かった。
私は何も言わずに見守っていたのだが、この時点で心の中で悶絶していた。
コレ欲しい!
とルンルンしながら持ってこようとしたのに、買えないのでショボーン。
ってしちゃった獣人のオッサン、クソ可愛いです!!!!!!
遠慮するエンガの事だからきっと諦めるのだろう。
でも、すごく可愛いマグカップだし、エンガに似ているので他の人間に買われるのは腹立たしい。
なので、私から話をふり私が欲しいという事にして買おうと思った。
その直後、尻尾も耳もヒゲも下げつつ、少し情けない顔をしたエンガはマグカップを2つ元の位置に戻してこちらに戻ってきた。
「なにか良い物あった?欲しい物とかあった?」
とそれとなく聞いてみる。
それに対して、エンガは
「んにゃ。ヤエと選んだのが良い。」
と、そう返された。
やはり諦めたらしい。
下がってる尻尾と表情を見ると未練タラタラのようだが。
ここで私の出番である。
「そっか~」
と言いつつ、
【あ、これ可愛い~】
【うん、オシャレ~】
【これも素敵】
と お目当てのマグカップの前まで流れるように移動。
そして、そこで初めてエンガに似ている激キュートなマグカップを発見した私。
を装い、
「キャー!これ可愛い!!エンガ!エンガ!見てこれ!このマグカップ!エンガにそっくり!可愛い!しかもペアだよ!これ、絶対に買い!ね!」
とハイテンションでエンガに詰め寄る。
が、値段が高いのを確認しているエンガは
「いや、待て、ヤエ、それ高ぇだろ?!他の食器と比べてみろ、高ぇだろ?コップは買ったんだし、俺に似てるからって無理に買うな。な?」
と説得してきた。
が、私は当然、断る。
「え?可愛いし、1点物だし、この値段は妥当だよ?それに、高いって言っても他の物の倍くらいの値段だよ?こっちのお皿は1枚大銅貨4枚(400円)で、こっちのマグカップは2個セットで小銀貨2枚(2000円)だもの。大量生産のお皿を2枚買う倍ぐらいの値段で1点物のペアマグカップだよ?こんなにオシャレで可愛いデザインで!お買い得だよ!?買うしかないでしょ!?」
と少し早口で力説する。
嘘は言ってない。
値段もそのまま告げている。
が、数字が分からなくて計算が出来ないエンガに
わざと難しい説明をして混乱、承諾させようとしていることに少し心が痛む。
エンガは早口で【お買い得だ!】と興奮して言い切る私に、本当にそうなんだと納得したらしい。
「そ、そうなのか?俺は計算出来ねぇから分かんねぇが、ヤエがお買い得で買いてぇんなら、買った方が良いんだろうな。」
と、少し困惑しているような反応をされたが。
なので、
「うんうん!お買い得だよ!それに、エンガに似てるマグカップなんだもの。私が使いたいよ!他の人間に買われるのは絶対に嫌!」
と笑顔で付け足しておく。
「う?お、おう。お買い得なら買うべきだな。ん、お買い得なら買うべきだ。確かになんとなく俺に似てるしな、俺も良いと思うし、お買い得だしな。」
と、《お買い得》を連呼しながらカゴに入れるエンガさん。
たぶん、《お買い得》という単語を初めて使ったんでしょう。
高いとは思うけど、お買い得なら。
と言い訳を連呼しながらカゴに入れるオッサン、くっそ可愛いです!
横目で見たけど、尻尾がピーンって立ってるから本当に喜んでるんだろうね。
うむ。今日もうちのオッサンはピカイチで愛しいです!
そして様々な商品が入ったカゴをぶら下げつつ、しばらく二人で商品を眺めていると、紹介状を読み終わったお姉さん?に呼ばれた。
「2人ともおいでなさ~い。サユからの紹介状も見せてもらったわ。あんた達は人を見た目で判断しない良い子達だし、サユからの信頼もあるいみたいだし、金払いも良いみたいだし、久しぶりの上客になりそうね~。よろしくね。私は《パイロ》よ。私は《お姉さん》だからね。そこのところ、間違えないように。」
とパイロさんはウインク付きで自己紹介してくれた。
サユさんが何を書いたのかは知らないけど、気に入ってもらえたみたいだし、上客だと言われたのは上々でしょう。
「パイロさん、私はヤエです。これから《特殊な木》の件について何かとお世話になると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。」
と頭をさげた。
それを見たエンガは少し緊張しているのか、直立不動の状態で
「お、俺はエンガだ。よろしく頼む。」
と言ってガッと勢いよく頭を下げた。
それを見たパイロさんは
「ふふふふふ。良いわねぇ♪こんなに素直で礼儀正しい子達、久しぶりよぉ♪気に入ったわ~♪欲しいものがあったら私に話を持ってきなさいな。何とかしてあ・げ・る♪」
ともの凄いご機嫌で言ってくださった。
なので、さっそく交渉させていただきます。
「ありがとうございます!それでは、さっそくお願いしても良いですか?《特殊な木》が欲しいのですが、あるものを全て見せていただけますか?」
とお願いしてみる。
「分かってるわよぉ~。こっちにいらっしゃい。」
と隣の部屋に呼ばれた。
なので、商品&カゴを一度カウンターに置かせてもらって、隣のお部屋にお邪魔する。
そこに並んでいたのは沢山の鉢、そしてその鉢から伸びる小さな木がズラリと並んでいた。
どの木も小さく、1つとして実は生っていない。
実も葉も無い、ただの枯れ木の様な枝が挿してある鉢が並んでいるのは異様な光景だった。
「ここにあるのが全て、《特殊な木》よ。そっちが塩。こっちが卵。あっちは酵母。そっちは・・石鹸だったかしら?鉢に書いてあるから、気に入ったの持ってきなさいな。分かってると思うけど、育つとは限らないわ。後、複製は不可能だからね。枯れそうになったら暫くは休ませて木が元気になるまで待ちなさい。じゃないと枯れちゃうからね。そうなったら大損よ~」
と説明をしてくれたパイロさん。
んえ?
複製は不可能なの?
私、ガンガン挿し木しちゃってたけど。
増やしちゃったけど。
元気が無くなったのはそういうことか。
搾取しすぎると枯れるのね。
下手に挿し木がどうのこうの言わなくてよかったぁ。
危ない。危ない。
「それじゃあ、エンガ、選ぶのと運ぶの手伝ってもらっても良い?」
とエンガを見てみると
「おお!任せろ!俺はガキの頃、森に住んでたからな!丈夫な木を探すのは得意だぞ!」
となんだか意気揚々と木を物色し始めた。
そしてエンガと二人で選んだ木をパイロの元へ運んだ。
その量の多さにパイロは驚いていた。
「え?こんなに?こんなに買うの?あんた達、博打に一生をかけるタイプなの?ちょっと、これ、一本がすごく高いのよ?こんなに沢山買ったら大変なことになるんじゃないの?本当に大丈夫なの?」
とすごく心配された。
が、これでいいのだ。
私にはチートがあるのだから!
卵やら牛乳、調味料やらスパイスやらを今後買い続けるのを考えると格安だぜ!
気分はお買い得商品を大量ゲットした主婦だ。
今回は 卵、牛乳、油、はちみつ、スパイス、塩、酵母、膨らし粉、調味料、石鹸などを購入した。
石炭の今すぐに必要じゃないものなんかは今のところ保留である。
全て布袋で包んでもらってから鞄にしまう。
もちろん、先ほどエンガと選んだ日用品も購入。
支払いは勿論、キャッシュです!
パイロさんが小声でぽつりと
「サユが《一括で支払う誠意のある人物》って言ってたの本当なのね。うん。確かに大切にすべき上客だわ。」
と呟いた。
買い物が終わったので次のお店に向かうことにする。
「ありがとうございました。またお邪魔させていただきますので、よろしくお願いします。それでは、失礼します。」
とエンガと二人で頭を下げて次のお店に向かう。
パイロさんはウインク付きの笑顔でお見送りをしてくれた。
《特殊な木》を手に入れた今、私とエンガの食生活は完全に保証された。
良かった。餓死と食中毒死は回避だ。
酵母も手に入ったし牛乳と卵もあるから、エンガと約束したパンもパンケーキも作ってあげられる。
ペアのマグカップでホットミルクも入れてあげよう。
明日にはドーナッツも揚げてあげよう。
おやつに目を輝かせるエンガさん想像するだけで、幸せいっぱいです。
むふふ♪
とエンガと仲良く手をつないで次に目指すのは武器屋《ニールの店》。
エンガが使える様な武器と解体用のナイフ、それから防具も欲しい。
まだお金はそんなに減ってない。
異世界に来てお金の心配をしなくてもいいのは凄くありがたい。
心に余裕ができるから。
神様に感謝です。




