プレゼントのジャム
エンガがお腹がいっぱいになり、うつらうつらしてるので、少しお昼寝の時間を設ける事にしました。
私はその間に
魚屋のオッサン、髪紐の初老の男性、肉屋の夫婦へのお礼の品を作ろうと思います。
折角なので、私が育てて収穫した林檎と砂糖を使ってジャムを作ろうと思う。
時間を進めてあっという間に出来るし、砂糖も甘いものもソコソコ高価らしいので、パンにも塗れる感じの林檎ジャムにしようと思います。
瓶につめて、プレゼントしよう。
ちなみに瓶は 砂糖の木なんかを買った時に、食器や調理器具と共に購入しました。
自分用に大きな瓶と中くらいの瓶、小さな瓶を大量に購入済み。
プレゼント用の小さな瓶はカラフルな蓋で可愛いやつ。
ちょうど2、3回で食べきるサイズのやつなので、腐らせる心配も少なくて良いかなと。
蓋を開けなければ常温でもそこそこ保存できるし。
それに元々ジャム作りたかったんだよね。
家には冷蔵庫があるから蓋を開けても保存がきくし、エンガが甘いものを好きなら喜んでくれるだろうし。
エンガにジャムを渡しておけば、お腹がすいた時に好きにパンに塗って食べてもらえる。
エンガに空腹で悲しい思いをさせない為の対策になるのです。
リビングのソファで横になって眠っているエンガを起こさないように、細心の注意をはらいながらキッチンに移動する。
林檎を洗って芯を取って、食感が残るくらいの大きさに切って
レモンと砂糖と共に煮ていく。
時間は短縮で。
煮沸した瓶に詰めて蓋をして再度煮沸。
で出来上がり。
出来立ての熱々のジャムも少しお皿に取っておく。
エンガが起きたら味見をさせてあげようと思う。感想なんかも聞きたい。
後で出かける時に卵の木や牛乳の木や酵母の木なんかを購入して、パンも作っておこうと思う。
高価だけど拡張鞄は売ってる世界らしいので、エンガには他の人にはばれないように気をつけてもらって、保存の性能を追加した拡張鞄を持たせておこう。
タレに漬けたお肉や野菜、炊いて冷ましたご飯やパンも渡しておこうと思います。
簡単に焼くだけの料理は教えて、一人でご飯を食べれるようになってもらうのが良いもんね。
そうすれば、私が居ない時でも自分で作って人前で暖かいご飯が食べられる。
普通の鞄には保存機能は無いので、
【熱々の食事を入れておいて、食べるときに出す。】
なんて人前では出来ない。
なので、簡単な料理は出来るようになってもらいたいです。
頑張ってもらうことが沢山あるなぁ。
でも、エンガと一緒に少しずつ頑張っていこうと思う。
さて、ジャムの用意も終わり、お昼寝開始から1時間くらいたった。
そろそろエンガを起こして商業ギルドに行こう。
日が暮れてしまう。
エンガを起こしてみると、まだ寝ぼけているのか、目を擦り鼻をヒクヒクさせながら
「ん?なんか甘ぇ匂いがする。果物か?なんか作ったのか?」
と質問された。
「今日お世話になった人達に、林檎を砂糖で煮たジャムを作ったの。帰りに【ありがとう】と【よろしく】って思いを込めて皆にプレゼントしてこようよ!」
と提案してみる。
「おお!いいな、それ!皆、喜んでくれると思うぞ。ヤエの作る料理はうめぇし、ぜってぇ喜んでくれる。
・・・・なあ、ヤエ。
俺、そのジャム少し食いてぇ。ちょっとで良いからよ。ヤエが作ったモンは何でも食いてぇんだ。勿論、無理なのは諦める。でも、ヤエが作る料理は俺が最初に食いてぇ。」
と少し悩んだ素振りを見せた後に、素直に思ったことを話してくれるエンガ。
さっきの話し合いで
【言葉にしないと伝わらない】
って言ったから、ちゃんと言葉にする努力をしてくれてるんだ。
話し合って、直ぐに変わる様に努力する、真剣に取り組むエンガは凄い。
素直で真剣に向き合ってくれるエンガだからこそ可能なことなんだと思う。
私もちゃんと向き合って、悪いところがあれば直せるように努力していかないと。
「もちろん!私が作る料理はエンガにこそ美味しいって思って欲しいから、これからも一番に食べて欲しい。それと、味覚に合わないものは無理しないでちゃんと言ってね?エンガ好みの味に改良していくから。
後、さっきのジャムだけど、エンガに味見してもらおうと思って取って置いたのがあるの。これ食べてみて。」
とさっき取っておいた、まだあったかいジャムを手渡す。
甘くて良い匂いがするからか、未だに鼻をヒクヒクさせながら、
「本当か!?食う!」
とジャムの小皿とスプーンを片手に嬉しそうなエンガ。
良かった。エンガは甘いものが好きみたい。
甘いものが好きなオッサン、可愛いよね。
ちなみに、わざわざ可愛いお皿に盛ってみた私は確信犯だ。
スプーンも持ち手にお花が書いてあるのをチョイスしてみた。
ジャムを嬉しそうに小さいスプーンで食べるオッサン、想像しただけで可愛くない?
しかも、相手は《この世界最強に可愛い、虎の獣人のオッサン》だよ?
さっさとカメラ作りたい。
今度、魔道具屋さんに行ってそれらしい材料を購入して魔法を駆使して作り上げよう。
絶対に。
ジャムを口に運んだ瞬間、エンガはピタッと動きを止めた。
そして次の瞬間、
「うんめぇ~!んだこれ?!甘ぇ~♪
俺、こんなに甘いもん口に入れたの初めてだぜ!今まで食った中で一番甘かったのは《ブドウの皮》だったかんな!こっちの方が甘ぇんだな!林檎はガキの頃に食った事あるけどよ、ここまで甘くねぇし、ちいとばかし渋かったはずだぜ。なのに、林檎がこんなに甘くでうめぇモンに変わるなんてな。ヤエは本当にすげぇな!こんなに甘くて美味いモンが作れるなんてよお!」
と目をキラキラとさせながら語り、スプーンを咥えて幸せそうに口元が弧を描いているエンガさん。
ジャムの果実の部分を食べ終えて、お皿に残ったジャムの水分を必死にスプーンで取ろうとしている姿が超絶可愛いんですが、どうしたら良いですか?
今までに食べた一番甘いものが
《ブドウの皮》
な件に関して、なにか発言をすべきでしょうか?
その発言を聞いて、私はエンガを大切にしたい度と愛おしさが更に増しました。
やっぱり、私が美味しいものや甘いものを食べさせてあげて、今までとは比べ物にならない位の愛を注いで、生涯幸せにしていこう。
そう改めて心に決めました まる。
今は兎に角、お皿と私を交互に見て、
【お皿、舐めてもいい?】
みたいな顔をしているオッサンを止めましょう。
「エンガ、もう少しジャムを出してあげる。だから、お皿を舐めるのは止めようね?
それと、後でパンかパンケーキを作ってあげる。それにジャムを載せて食べるともっと美味しいよ。それまで我慢出来る?」
とお皿を舐めるのを阻止しておく。
エンガは口からスプーンを放して
「んぐ!?本当か!少しでもいい!もうちょっと食いてぇ!
ん、な・舐め・・ねえ・・・よ・・・。
ゴホン、後は我慢する!パンか ぱんけぇき?食えんの楽しみにしとく!」
とちょっと恥ずかしそうな顔をして、お皿をこちらに向けるエンガ。
エンガさん、やっぱりお皿舐めそうだったのね?
指摘されて恥ずかしいのね?
あー。
この表情も可愛いなぁ。
本当に、底が見えない可愛さなんですが。
神様も本当に罪な男を誕生させたもんだよ。
ん?
【違う!お前だけだよ!どうにかして!この子!】
って声が聞こえた気がしたけど、気のせいだよね。
うん。気のせい。
新しいジャムの瓶を開けてスプーン1杯分、お皿に盛ってあげる。
・・・・・・・。
エンガはまだ お皿を構えてこっちを見てる。
・・・・・・・。
キラキラした目でこちらを見ている。
・・・・・・・。
お皿を見て、私を見た。
・・・・・・・。
軽く首を傾げられた。
負けた。
くっそ可愛かった。
首を傾げる、獣人のオッサン、くっそ萌えた。
堪らんかった。
完敗だった。
スプーンで大盛もう1杯盛ってあげた。
「ありがとう!ヤエ!」
と喜んでモグモグしてるエンガさん。
幸せそうに食べてる。
もしかしてエンガさんさ、私の心の葛藤を分かっているんじゃないかい?
青少年の理性の葛藤みたいな、私の心の中を分かってるんじゃないかい?
こっちを見つめながら首をかしげるとか、その辺のオッサンは中々やらない事だからね?
私がエンガに萌えてるのを知っててやってるんだとしたら、あざといぞ!
可愛いから大歓迎だけどな!
この小悪魔ちゃんめ!
なんて考えていたら
「美味かった。ごちそうさん。ヤエはやっぱり料理がうめぇなぁ。甘いもの作りまで得意だなんて、本当にすげぇな。俺もがんばらねぇと。」
と何だか真剣な顔で決意したようなエンガさん。
・・・・。
なんかごめん。
勝手に小悪魔ちゃんなんて考えててごめん。
エンガはそんなことしないよね。
ただただ、素直で純粋なオッサンなんだよね。
あー、勝手に萌えてて罪悪感が・・・。
後で美味しいパンかパンケーキ作ってあげよう。
そうしよう。
その後、ジャムをご機嫌で完食したエンガを連れて、商業ギルドへ向かうことにした。
玄関から出るとき、私は衝撃の瞬間を目撃した。
玄関のところにかけてある鏡にうつった自分の姿を見たエンガ。
エンガは鏡を最初に見た時は凄く驚いていたので、また驚くのかな?と見ていたら、違った。
エンガは鏡にうつる自分の首元を何度も角度を変えて確認しながら、顎を上げたり、首を伸ばしたりしていた。
そして私とお揃いの髪紐を指でなぞりながら
「フンッ♪」
と満足そうに鼻息を鳴らした。
その時、私が傍にいることを思い出したのだろう。
ハッ!
っと私の方を振り向いたので、私は靴を履いていて見ていません。的な空気を出しておいた。
「ん?何?どうかした?エンガ?早くしないと日が暮れちゃうよ?」
と言っておく。
「お、おお!おお!おお!行こう!行こう!早く行くぞ!今すぐ行くぞ!」
と、恥ずかしいのか若干テンパったエンガが急かしてきた。
そして、当たり前のように右手を差し出してくれた。
私はエンガの右手に私の左手を重ねて、手を繋いだ。
そして家から笑顔で出て行く私とエンガ。
エンガはもう、
私と手を繋いで歩くことに不安なんてないみたいだ。
私と外に出ることも怖くは無くなったみたい。
エンガの世界がどんどん広がっていく。
私はそれが凄く嬉しい。




