雨傘のエインズワース
「お? 雨降ってきたな」
「え!? 傘持って来てないのに!!」
いつもと同じように、エインズの屋敷にて開かれた勉強会。
しかし、それも終わろうかという頃、突然降り出した雨に、神月が頭を抱えた。
「うぅぅ……今日はもう降らないと思ってたのに~!」
言わずにはいられない、とばかりにそううなって窓から外を見る神月に、あぁ、とエインズが言葉を零す。
「なに?」
「ん、ちょっと待ってろ」
くるりと振り返った神月に、そう言い置いて近くの部屋へと入って行くエインズ。
――ほどなくして、引っ張り出して来た一本の傘を掲げ、こともなげにエインズが告げた。
「ほら、さっさと片付けしろ。これ以上雨が酷くなる前に、帰らねぇとだろ? ――送ってく」
雨雲のせいで暗い道を、神月とエインズは隣り合って歩く。
差された傘は、エインズが持つ一本のみで、寄り添わなければ濡れてしまう状態に、自然と二人は口を閉じた。
強めの大きい雨粒に、地面と傘が立てる音が、黙したままの二人の耳にはより大きく届く。
いつもより、ずっと近い距離。
どちらかが少し傾くだけで、肩や腕が当たる。
雨で冷えているはずの身体が、確かな温かさを伝える。
とくん、と優しく跳ねる鼓動が、そう長くない道のりを、ゆったりと引き伸ばして行く――。
「……ありがと」
ふいに、うつむいたままの神月が、そう呟いた。
「――おう。……どういたしまして」
エインズもまた、前を向いたまま返した。
――互いに、小さな微笑みを浮かべて。
降り続く梅雨の雨の中。
不思議と、互いの周囲は温かかった。