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自作小説倶楽部 第10冊/2015年上半期(第55-60集)  作者: 自作小説倶楽部
第56集(2015年02月)/「恵方巻き」&「夜明け」
7/36

01 紅之蘭 著  夜明け 『ハンニバル戦争トレビア会戦2/4』

【あらすじ】


 紀元前三世紀、カルタゴの若きスペイン総督・ハンニバルは、アルプス山脈を越えて、イタリア半島に雪崩れ込んだ。

 大艦隊と軍団をローマ元老院から託された老練な執政官コルネリアスは、フランスでスキピオの腹を読んで、親衛隊のみを率いて帰還、新設の4個軍団でハンニバルがいる北イタリアにむかう。そして最初の大規模戦闘・ティキヌス河畔での会戦となり、敗北・負傷してしまう。老執政官は、後方に戦線を移し、ロングス執政官麾下にある南方・シチリア方面の軍団との合流を図った。スキピオはロングス執政官の指揮下に入った。

 ハンニバルは、ロングスの陣城を急襲すべく、策を練る。

 そして……。

    夜明け

.

 ブケパロス。

 昔、当時の「世界」を征服した男・アレクサンドロス大王の愛馬からとった名だ。

 アルプス越えの前に三十七頭。越えた後に二十頭いた戦象は北イタリアの冬に耐えきれず、力尽きてさらに数を減らし、この戦いになるとわずか三頭になっていた。あれほど苦労して霊峰の頂を越えさせたというのに、「重戦車」は、南国育ちゆえに寒さに対して極端に弱く、バタバタと雪上に突っ伏してしまったのだ。


 戦象たちが死んでゆく隊伍の中にあったハンニバルは、一般兵士が地べたに直接寝ていれば同じように地べたに寝、凍える夜に外にいれば一緒に凍えた。隻眼になったのは、このときの過労ゆえだという。


 生き残った者たちの絆は固い。

 戦象とてもそうだ。

 首のところにまたがる象使い。

 若い隻眼の将帥は、象の背にある籠に座り、横に軍師を近侍させた。

 そこは望楼でもあり、誰よりも、戦場を一望することができた。

 雪原の果て近くにみえる裂け目がトレビア川だ。ローマ軍のほぼ全軍が、渡河して、カルタゴ軍が陣取る西岸に隊伍を進め、陣を整えだしていた。

 ギリシャ人軍師シレヌスが、教え子である二十九歳のスペイン=新カルタゴ総督にいった。

「総督はお察しのことでしょう。密偵の報告を整理してみすと、ローマがしている横列陣形パターンは、最強部隊を中央に、両端にゆくほど弱くしてあります。その両端にいるのが騎兵ですが、掃討戦に用いるものと考えられます」

 北流する川を背にしたローマ軍の布陣だ。

.                              

騎兵                                  

ガリア歩兵 

同盟都市歩兵

カルタゴ軍・ガリア歩兵 → ← ローマ軍・軽歩兵  ローマ軍・重装歩兵

同盟都市歩兵                               

ガリア歩兵                            

騎兵

.

 ローマの横列陣形について述べたい。

 最強をなす中軍・ローマ重装歩兵は一万六千。

 中軍の左右をなす同盟市歩兵は、標準的な強さで、各四千の都合八千。

 さらに同盟市・左右両軍の外縁に陣取る同盟ガリア諸族は各六千の都合一万二千。ガリア人は日和見で、ハンニバルが精強であればそっちにつこうとさえしている感があり、あまりやる気がない。ゆえに、ここが最も弱い。

 両端にいる騎兵は、ローマ及び各同盟市の貴族層と、同盟ガリア部族たちの混成部隊だ。各二千の都合四千。

 つまりこの時期のローマ人の基本隊形は、中軍を剣、左右両軍を鞘、外縁のガリア歩兵を飾りとし、両端にトドメを刺す騎兵を配しているというわけだ。

 なお、前軍をなす軽歩兵とは、戦いの序盤で矢が尽きるまで敵軽歩兵と射ち合う、弓兵を主体とした四千で構成される。

ローマ軍の総勢は四万。  

 ただし明け方、カルタゴ騎兵の奇襲を受けているので、若干の目減りがある。

 ――確かにこちらの三分の一にも満たない数だが、この状態で勝てるのか?

 最右翼にいたローマの若き騎兵将校スキピオも薄着で寒さに震えていた。歯がガタガタ鳴って、鼻水が止まらない。腹がグーグー音を立てている。

 鳴り物が鳴った。

 ローマの総勢四万が一斉に進軍を開始した。

 ほどなく、どんよりした空から白いものが降りだしてきて、視界が悪くなった。

 戦いは第二段階に入った。


【登場人物】

.

《カルタゴ》

ハンニバル……カルタゴの名門バルカ家当主。新カルタゴ総督。若き天才将軍。

イミリケ……ハンニバルの妻。スペイン諸部族の一つから王女として嫁いできた。

マゴーネ……ハンニバルの末弟。

シレヌス……ギリシャ人副官。軍師。ハンニバルの元家庭教師。

ハンノ……一騎当千の猛将。ハンノ・ボミルカル。この将領はハンニバルの親族だが、カルタゴには、ほかに同名の人物が二人いる。カルタゴ将領に第一次ポエニ戦争でカルタゴの足を引っ張った同姓同名の人物と、第二次ポエニ戦争で足を引っ張った大ハンノがいる。いずれもバルカ家の政敵。紛らわしいので特に記しておくことにする。

.

《ローマ》

コルネリウス(父スキピオ)……プブリウス・コルネリウス・スキピオ。ローマの名将。大スキピオの父。

スキピオ(大スキピオ)……プブリウス・コルネリウス・スキピオ・アフリカヌス・マイヨル。ローマの名将。大スキピオと呼ばれ、ハンニバルの宿敵に成長する。

グネウス……グネウス・コルネリウス・スキピオ。コルネリウスの弟で大スキピオの叔父にあたる将軍。

アシアティクス(兄スキピオ)……スキピオ・アシアティクス。スキピオの兄。

ロングス(ティベリウス・センプロニウス・ロングス)……カルタゴ本国上陸を睨んで元老院によりシチリアへ派遣された執政官。

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