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自作小説倶楽部 第10冊/2015年上半期(第55-60集)  作者: 自作小説倶楽部
第60集(2015年06月)/「さくらんぼ」&「裏道」
33/36

03 E.Grey 著  裏道 『沖田御殿の怪5・公設秘書少佐』

// 事件概要//

 山林王沖田家の豪邸では、夜な夜な不審車両が敷地に侵入し、当主・沖田氏を悩ませていた。沖田氏は国会議員・島村代議士の有力な後援者である。公設秘書・佐伯祐はセンセイに頼み込まれ、婚約者三輪明菜の協力のもと事件解決に乗りだす。しかし当の沖田氏が何者かに殺害されてしまった。

    08-04 村上栄作の証言


 信濃小百合に事情聴取をした日と同日に、もう一人、殺された被害者沖田茂氏に因縁のある人物・村上栄作氏にコンタクトをとることができた。早速、真田巡査部長と一緒に、佐伯佑と私・三輪明菜はその人の自宅にむかった。

 村上家はもともと地元・月ノ輪藩に出入りしていた御用商人で、特産のワサビを扱い莫大な富を得ていた。材木王・沖田家との競合は、明治以来、町場に降りて、いくつか起こした企業が、かなりのところでかち合ってしまったこと、歴代当主が議会に立候補すれば、これまた、対立候補になってしまったことだ。

 村上氏の邸宅といえば、明治時代に流行った和洋折衷様式の平屋建物で、正面玄関・応接室は洋風、プライベートな奥座敷は和風となっている。私たちが通された応接室は暖炉が置かれたリビングだった。

 奥座敷から現れた人物は大柄で、ヒトラーみたいな口髭を生やしていた。ソファにふんぞり返り、半ば目を閉じ、巡査の話をきいていた。

「こちらが、佐伯さん。村上さんも噂をきいたことがあるだろう?」

「おっ」

 村上氏は、位を正して、皆にも葉巻を勧めた。

「東京にでている国会議員・島本先生の懐刀・佐伯祐。先生が大将ならあんたが参謀。参謀なら佐官級だから〝少佐〟って仇名がついている。あんただったのか。いやあ、お若い」

 村役場職員の制服を着た私の隣に座る佐伯は、コートを脱いで黒のスーツ姿になっている。受け取った葉巻煙草をしばしふかしてから、本題に入った。

「村上先生、信濃小百合って芸者さん、綺麗でしたね?」

「いい女だろ。ひいきにしてやっている。沖田や増川もひいきにしていた。同じ座敷で舞わせたことだってある」

「ほう、これは意外。ライバルと思いきや。案外、懇意なんですね」

「そっちの意味では〝兄弟〟だ」

 〝兄弟〟……???

「なるほど。それはそうと、失礼ですが、村上先生は、昨夜八時ごろどこにいらっしゃいましたか?」

「自宅の書斎にいたよ」

「ほう書斎に。失礼ながら、証明できる方はいらしゃいますか?」

「妻と番頭・若衆たちだが……」

 佐伯は暖炉の上の時計をみやった。

 戦前にヨーロッパで流行った蔦草がからんだ意匠の置時計で、時刻は六時十五分を指していた。

 佐伯は自分の時計をちらりとのぞきこんだ。置時計は十五分ばかり進んでいる。村上はあまり几帳面ではないようだ。……というかズボラだと思う。

 それから、いくつか佐伯は、巡査部長や村上栄作と世間話をしながら、氏が生前の沖田氏や増川と一緒に狩猟をしたり、東京に繰り出して遊んだりしたこともある、という親密さアピールをさらにきくことになった。

 それから、私たち三人は村上邸をおいとました。

 庭には、当時、月ノ輪村としてかなり珍しい自家用車専用ガレージがあり、リムージン車が一台納められていた。

 帰り道、巡査部長がいった。

「少し急いで帰りましょう。大通りじゃなくて、裏道をつかいますよ。これから、ちょっと吹雪くかもしれませんのでね」

 裏道は、沖田氏が殺害された例の神社の横に続いていた。

 佐伯がいった。

「やっぱり、親族や家人の証言というのは信用なりませんね。口裏合わせしていたのかもしれませんし」

 老巡査部長もうなずいた。

 村上には実質的にアリバイがない。沖田氏とは、社交上の形式的なつきあいはあったとしても、競合関係にあるという点では変わらないのだ。

  //登場人物//

.

【主要登場人物】

佐伯祐(さえき・ゆう)佐伯祐(さえき・ゆう)……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。

三輪明菜(みわ・あきな)三輪明菜(みわ・あきな)……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。

●島村代議士……佐伯の上司。センセイ。古株の衆議院議員である。

●真田巡査部長……村の駐在。

.

【事件関係者】

●沖田茂……達磨像のような風貌をした禿げて肥った資産家。還暦。

●沖田優子……四十歳だがみためは二十代にみえる美魔女。儚げで守りたくなるタイプ

●川島ハジメ……屋敷の若い奉公人。短気なようだ。

●村上栄作……沖田家の宿敵・村上家当主。

●増川明……沖田優子の元婚約者。

●兵藤武志……山王神社の隣に住む古武術家「兵藤流」道場主。50歳。

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