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自作小説倶楽部 第10冊/2015年上半期(第55-60集)  作者: 自作小説倶楽部
第60集(2015年06月)/「さくらんぼ」&「裏道」
32/36

02 柳橋美湖 著  裏道 『北ノ町の物語』

【あらすじ】

 東京在住・土木会社の事務員でアパート暮らしをしていたOL・鈴木クロエは、奔放な母親を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、母親の遺言を読んでみると、実はお爺様がいることを知る。思い切って、手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきた。そしてゴールデンウィークに、その人が住んでいる北ノ町にある瀟洒な洋館を訪ねたのだった。

 お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくその町はちょっと不思議な世界で、ゆくたびに催される一風変わったイベントがクロエを戸惑わせる。

 最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上の魅力をもった瀬名さんと、イケメンでピアノの上手な小さなIT会社を経営する従兄・浩さんの二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ……。そんなオムニバス・シリーズ。


   13 裏道


 こんにちは。

 鈴木クロエです。季節は梅雨。もうすぐやってくる、夏本番にむけて、長く伸びた髪を思い切ってショートにしてみました。

 お爺様たちのいる北ノ町から、東京に戻ってしばらく経ちました。お爺様・彫刻家鈴木三郎が住んでいる牧師館は、地下室から象みたいなモンスターがでてきたため、公安委員会が調査するため、しばらくゆくことができません。

 雨合羽をきた私は、自転車に乗って、最近覚えた裏道である会社社宅と会社との間を自転車で往復しています。爽やかな色合いの白・青・紫に咲く陽花が、軒や線路際に連なっているのが綺麗です。鬱陶しい季節ではありますが、これをみるのがちょっと楽しみ。

 さて。

 例のカルト系宗教団体メビウスの件です。

 うちの家族で、もっともか弱いと考える私をターゲットにして、隙あらばと狙ってくる感じなのですが、実をいうとそれが、公安委員会で、それなりのポストに収まっている父の罠。さりげなく網の目のような警備体制をとっていて、襲撃してくる魚眼人を捕まえ、解剖実験室送りにしているとのこと。――父・寺崎明の方が邪悪なメビウス教団よりも悪魔的でよほど怖いです。

 父・寺崎明が所属する公安委員会の関係筋の話だと。

「捕えた教団の亜人たちの臨床試験結果は次の通りです。――まず魚眼人は、腕力があるのだけれども、知能指数が低いという特徴をもち、洗脳した一般人教徒に混じって、教団の下部階層にいます。つぎに中間幹部層にあたる、吸血鬼は知能指数が高く、魚眼人を指揮し、司祭階層を構成しています。最後に、教団指導部層にあたる司教・教主階層はいまだ正体不明で、先日、旧牧師館地下室から姿を現した象に似たモンスターはこのクラスが召喚したものと考えられます」


 退勤時間。

 その日も雨でした。

 住宅地の中を抜ける私鉄沿線の裏道を、自転車のペダルを漕ぐ私の後から、何者かがつけてくる気配がします。

 誰?

 私はスピードをあげました。

 けれど、怪しげな気配との距離は縮まりません。

 メビウス教団の亜人かモンスター?

 さらに私はペダルの回転を速く。

 敵はまだ私をつけている様子。

 自転車がシャーって音を立て、濡れた路面を走るタイヤで白くして軌跡をつくってゆきます。

 瞬きをしないどんよりとした感じの魚眼人。

 二本の前歯が牙になった吸血鬼。

 象に似た胴体で、鼻が多数の触手になったモンスター?

 どれだろう。

 あ、そんなことどうでもいい。

 もう、ついてこないで!

 そのとき下り通勤快速列車が。

 フォーン……。

 ガタンゴトン、ガタンゴトン……。

 嫌。

 追いついてきた。

 きゃあああっ。

 けれど視界に。

 雨傘を指した黒いスーツの人が歩いてくるのがみえると、背後からの気配は、フッと消えたのです。

 えっ、あれっ、瀬名さん?

 お爺様の顧問弁護士。

 こないだモンスターに屋根まで追い詰められたとき、子供のころは、年上の母に恋をしていたと私に告げた、一回り年が離れているけど、背が高くて、クールで、素敵な人。

 安心したら、なんだか、涙がでてきました。

「クロエさん、どうした?」

「瀬名さんこそ、どうして?」

「君のお爺様にいわれて、様子をみてきて欲しいって頼まれたんだ。……もっとも、自分も会いたかったというのはあるけどね」

 私は自転車を降りました。

 すると今度は上り通勤快速列車が。

 フォーン……。

 ガタンゴトン、ガタンゴトン……。

 目を閉じる私。

 瀬名さんの長い両腕が私の肩を抱きしめる気配。

 けど。

 やっぱり。

 なんだかそんな気もしていたんです。

「クロエ、しばらく顔をみなかったんで、けっきょく浩と一緒に上京してみたんだ」

 そう、大笑していたのは北ノ町のお爺様。

 横で一緒に笑っていたのはピアノが得意な従兄の浩さん。

「……」たぶん目を白黒させている私。

 自転車なみに走れるなんて、二人とも、なんて脚力なの!

 ある雨の日の出来事でした。

【登場人物】

●鈴木クロエ/東京在住・土木会社の事務員でアパート暮らしをしている。

●鈴木三郎/お爺様。地方財閥一門で高名な彫刻家。北ノ町にある洋館で暮らしている。

●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住んでいる。

●瀬名玲雄/鈴木家顧問弁護士。

●小母様/お爺様のお屋敷の近くに住む主婦で、ときどき家政婦アルバイトにくる。

●鈴木ミドリ/クロエの母で故人。奔放な女性で生前は数々の浮名をあげていたようだ。

●寺崎明/クロエの父。母との離婚後行方不明だったが、実は公安委員会のエージェント。


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