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自作小説倶楽部 第10冊/2015年上半期(第55-60集)  作者: 自作小説倶楽部
第59集(2015年05月)/「子供」&「城館」
27/36

02 柳橋美湖 著  子供 『北ノ町の物語』

【あらすじ】

 東京在住・土木会社の事務員でアパート暮らしをしていたOL・鈴木クロエは、奔放な母親を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、母親の遺言を読んでみると、実はお爺様がいることを知る。思い切って、手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきた。そしてゴールデンウィークに、その人が住んでいる北ノ町にある瀟洒な洋館を訪ねたのだった。

 お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくその町はちょっと不思議な世界で、ゆくたびに催される一風変わったイベントがクロエを戸惑わせる。

 最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上の魅力をもった瀬名さんと、イケメンでピアノの上手な小さなIT会社を経営する従兄・浩さんの二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ……。そんなオムニバス・シリーズ。

     12 子供

.

 鈴木クロエです。

 いま、けっこうピンチです。

 不思議なイベントばかりあるここ北ノ町ですが、今回の帰省では、(悪魔的な)父のお供で、吸血鬼率いるメビウス教団・魚眼人部隊の襲撃をかわし、無事にお爺様の邸宅である丘の上の旧牧師館にたどり着きました。いつものように、従兄の浩さんやお爺様顧の問弁護士・瀬名さん、それからときどきお手伝いにきてくださる近所の小母様たちと楽しい語らいをしました。

 翌日の昼食を過ぎたころ、小母様がご自宅に戻り、浩さんが自分で立ち上げた小さなPCソフト開発会社の事務とかで自宅に戻り、さらにお爺様と父が、小用とかで、でかけました。まあ、前日、教団実行部隊に襲われたわけですから、公安委員会・警察関係の人たちが、旧牧師館周辺をぐるっと囲んでいたわけで、安全だった、――かに思えたのでしたけれど。

 お留守番をしていた、私と瀬名さんはグランドピアノのある一階のリビングにいて、自動演奏を楽しんでいました。セーターとジーンズの私、黒スーツの瀬名さんが並んでソファに座り、三曲ほどきき終えたころでした。

 ドーン……。

 同じ階で奥にある、彫刻家であるお爺様の工房から、物凄い音がしたのです。様子をみにいった瀬名さんが、すぐに引き返してきて、私の腕をつかむと、外にでようとしました。

「えっ、どうしたんです」

「問題の工房地下にある葡萄酒貯蔵庫――あそこから」

「あそこから?」

 ドアを突き破って、複数の触手が、床をはってきました。外にでようとしたのですが、玄関にむかう通路に、〝それ〟がテーブルやソファを投げつけて出られなくしてしまいました。追われるように私たちは、二階から、さらに上にむかう階段を駆け昇りました。

 天窓から屋根に逃げて時間を稼ぎ、そこから外にいる公安委員会関係者に呼びかけて、なんとかしてもらおうというのが、瀬名さんの作戦です。

 触手。

 きっとメビウス教団司祭がモンスターを操っているのに違いありません。――お父様のいる公安委員会にマークされ、追い詰められた教団はなりふり構わず、お爺様の留守を狙って私を標的に襲いかかったのだと思います。

 屋根裏部屋に駆け込んだ私たち。

 上手い具合に屋根裏部屋には、以前、北ノ町主催〝秋の大運動会〟でつかった馬上槍試合トーナメント用の飛槍ランスや長剣が壁に掛けられていたので、瀬名さんは、ドアの隙間からはいだしてきた、蛸脚みたいなそれを飛槍でなぎ払い、まずきた一本は床に突き刺し、つぎにきた一本は長剣で斬りました。それで、天窓を開けて、私の腰に手をやり、屋根に乗っけてくれたのです。

 屋根裏から、公安委員会の方々に助けを求めると、待機していたワゴンタイプの警察車両から二十名ばかりが、飛び出してきて、旧牧師館に突入を開始。……したのはいいのですが、窓が突き破られて、触手が庭にいた先発隊員を突き飛ばしてしまいました。また、拳銃で援護射撃をしていた後方隊員の弾丸は、触手に対してあまり有効ではないようです。ブスンと撃ちこまれた弾丸は、肉が内部から押し出すような感じで外に押し出され、パラッと地面に落ちました。

 モンスターの注意が警護隊員にいっている間。

 屋根裏に逃げた私たちには少しだけ会話をする余裕ができました。

 なんでもいい。もしかすると死ぬかもしれない。悔いがないように瀬名さんにいろいろきこう。

「あの、瀬名さん。母とは幼馴染でしたよね? 昔の母ってどんな感じでした?」

 唐突にそんな話をしてきた私に瀬名さんは少し面食らった様子。でも、すぐにちょっと笑ってから、答えてくれました。

「ミドリさん……素敵な人だったよ。子供時代、母子家庭で育った自分にとって、姉代わりであり初恋の人。そういうわけだから、君のお父さん・寺崎さんを憎んでいた時期もあった」

「母子家庭? お母様はいま?」

「学生のときに死んだ。ロクな貯金もなかった自分に、近くに住む君のお爺様・鈴木先生が気の毒がって、学費という形で投資をしてくれた。それでご恩に報いようと法曹を目指し、先生の顧問弁護士になった」

「凄い!」

「先生には、結局また、お世話になってしまっているんだがね」

 私は屋根の上で座りました。

 瀬名さんも横に。

 ピッタリと身体を寄せ合っている私たち。

 瀬名さんの腕にさりげなく片手を添えた私は、さらに、肩に頭を乗せてみたい。

 人生の最後になるかもしれない一瞬。

 恋の真似事。――母に恋したというかつての少年の肩に私が母に代わって頭を乗せたい、という欲求が湧いてきました。

 でも。

 いいところだったに……。

 やっぱりきちゃいました。

 うちのスーパーヒーローたちが。

 ザッザッザッ。

 リムージンのドアが開き、二メートルはあるような大剣を担いだお爺様と父がでてきて、玄関先で襲いかかってきた触手を斬り落としたのです。怪傑ゾロみたいな黒のシルクハットに覆面とマント姿。……いいですか、拳銃武装三十人の隊員が束になってもかなわなかったモンスターをですよ。たった二人で、斬り刻んで、内部突入に成功したんですよ。信じられますか? だいたいあんなに大きな武器をいつも車のトランクに隠し持って出歩いているかと思うと不思議でなりません。

 ほどなく。

 ドシーン、と物音がしました。

 たぶん。

 工房にいる怪物の本体を二人が仕留めたのでしょう。

 チートな人たち。

 公安委員会の人たちと、あとで、そこをのぞいてみると、切り刻まれた、象のような巨体をもったモンスターが地下室から半身を持ち上げた格好で死んでいるではありませんか。象の鼻にあたる部分が数十束からなる触手になっていたというわけです。

 なんだかモンスターが可哀想に思えてきました。

 室内にまだいたお爺様と父。

 父の携帯電話が鳴り、仲間から連絡が入りました。――福島県の山奥にある教団道場が、公安委員会特殊部隊に襲撃を受け、壊滅的な打撃を受けた、のだと。

 携帯の蓋を閉じた父が、お爺様に、

「教団もやぶれかぶれになったのでしょうねえ」

 と話していたのがきこえました。

   (つづく)

【登場人物】

●鈴木クロエ/東京在住・土木会社の事務員でアパート暮らしをしている。

●鈴木三郎/お爺様。地方財閥一門で高名な彫刻家。北ノ町にある洋館で暮らしている。

●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住んでいる。

●瀬名玲雄/鈴木家顧問弁護士。

●小母様/お爺様のお屋敷の近くに住む主婦で、ときどき家政婦アルバイトにくる。

●鈴木ミドリ/クロエの母で故人。奔放な女性で生前は数々の浮名をあげていたようだ。

●寺崎明/クロエの父。母との離婚後行方不明だったが、実は公安委員会のエージェント。

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