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自作小説倶楽部 第10冊/2015年上半期(第55-60集)  作者: 自作小説倶楽部
第57集(2015年03月)/「菓子」&「欠片」
19/36

05 E.Grey 著  菓子&欠片 『沖田御殿の怪3・公設秘書少佐』

  // 事件概要//


 山林王沖田家の豪邸では、夜な夜な不審車両が敷地に侵入し、当主・沖田氏を悩ませていた。沖田氏は国会議員・島村代議士の有力な後援者である。公設秘書・佐伯祐はセンセイに頼み込まれ、婚約者三輪明菜の協力のもと事件解決に乗りだす。しかし当の沖田氏が何者かに殺害されてしまった。

    08-01 山王神社

.

「いやあ。ついに〝殺し〟にまでなってしまいましたよ、佐伯さえきさん」

 村の駐在・真田巡査部長は白い息を吐いて手をこすりながらいった。初老の巡査部長が煙草をくわえ、佐伯にも一本渡してからマッチで火をつけ、話を続けた。

「沖田さんは信心深い。所有地である山林を巡回するときは、必ずここに立ち寄って、拝んでいたものだった」

 山林王沖田家。現当主・沖田茂が居とする沖田御殿から、歩いて数百メートルのところにあるのが、山の守り神である山王神社だ。殺された沖田の遺体はそこで発見された。連絡を受けた佐伯祐と私・三輪明菜は明け方を待って現地にむかった。遺体はすでに運び出されていたのだが、長野県警の制服警官が現場検証を行っていた。私たちを出迎えたのは停年に近い初老の警察官だった。いくつかの事件捜査に協力した佐伯は、真田巡査部長と懇意になっていた。

 鳥居をくぐったところにある社殿の手前が拝殿で、奥にあるのが本殿だ。参拝者が柏手を打ったり賽銭をあげたりするのが拝殿だ。梁や柱には龍などの聖獣が彫られている。

 被害者・沖田茂はジャンパーを羽織っていた。その賽銭箱に、突っ伏すような格好で死んでいた。背中には切り傷があり、血が流れている。何者かが、沖田氏を待ち伏せして、刺して殺害・逃走したというわけだ。

 真田巡査部長の後ろから、袴姿をしたスキンヘッドの人物が現れた。……第一発見者で、神社に隣接したところに住む古武術家「兵藤流」道場主・兵藤武志という小父さんだ。スキンヘッドで口髭、和装といったいでたちで、背も高くいかにもという感じがする。兵藤さんは山王神社の氏子総代でもある。

「やあ、明菜ちゃん。こういうところでいうのもなんだが、村の娘たちが憧れる〝少佐〟を捕まえたんだってね。おめでとう」

「やっだあ、もおっ、小父様ったらあ。まだ婚約したばかりですのよ」

「ラブラブだね」

「きゃあ!」

 私はスーツに外套を羽織った佐伯の腕に手をからめ、身をべったりくっつけた。

 このあたり・月ノ輪村を選挙基盤にしている東京のセンセイ・島村衆議院議員の下で辣腕を振るう公設秘書・佐伯祐は、センセイが大将ならば、さしずめ参謀にあたる。参謀といったら旧軍でいうところの佐官であることが多い。切れ者の佐伯を皆は〝少佐〟って呼んでいる。

 婚約者である私がいうのもなんだが、佐伯はなかなか男前だ。あちこちの女が色目をつかう。だからときどき、熱愛まっさかりな〝婚約者〟であることを、あちこちにアピールする必要が生じている。

 真田巡査がコホンと咳払いした。

「昨夜七時過ぎだった。わしは沖田さんの悲鳴をきいて、玄関先の懐中電灯を手に取り、神社に駆けつけた。そのとき、犯人と思われる男とすれ違ったが、男には構わず、悲鳴がきこえた神社にゆくのを優先させた」

 佐伯がきいた。

「そこで沖田さんの変わり果てた姿をみつけたというわけですね?」

「うむ、そういうことじゃ」

「怪しい男に心当たりは?」

「暗くてよくみえなかったのだが、殺された沖田さん同様に、神社の氏子でもある増川明のようにもみえたんじゃが……。人違いやもしれぬ」

 巡査部長と兵藤さんは、そういい残すと、ほかのところにいった。

 佐伯は立ったりしゃがんだりして境内をしげしげと検分した。三十センチばかり降り積もった雪についた足跡鳥居をくぐってすぐのところの参道を挟んで雌雄対になった狛犬の一つにむかっている。その物陰に潜んでいたようだ。

 ――その〝かけら〟は何?

 本来はビー玉みたいな球形だったのだろう。半月状に割れていた。

 雪の上から佐伯が拾い上げてハンカチに包んだ。

「飴だ……」

「飴?」

.

    08-02 増田明の証言

.

 重要参考人である増川明は、隣町にある拘置所に収監され、取り調べを受けている。 役場同様に木造二階の建物だ。警察署を示す赤いランプの球がベランダみたいな庇のついた玄関天井にぶら下がり、長さ一メートル以上はあるだろう、「長野県警山間地区警察署」という表札がそこの壁に貼りつけられている。

 真田巡査の口利きで、佐伯と私は、増川明の証言をききにやってきた。

 通されたところは二階にある取調室だった。よくある警察ドラマみたいに、部屋の真ん中に机がどかんと置いてあり、そこを挟んで椅子を向いあわせている。

「佐伯さん。あなたを村のみんなが〝少佐〟って呼んでいる。警察じゃないが東京にいる代議士・島村センセイの片腕で、面倒くさい事件の捜査に協力して、いくつも解決していることも知っている。――頼んます。俺の無実を証明してください」

「まあ、あなたしだいですがね」

 佐伯は煙草をくわえて、増川にも一本すすめた。

 増川明は中学校卒業後、実家家業である梨園を継いでいる。体型は中肉中背というところ。独身。四十歳。その証言によると……。

「俺はあの夜、電話を受けて神社にいきました。神社に着くと沖田の爺が、賽銭箱に突っ伏して死んでいてハメられたって分かった。このままじゃ俺は犯人される」

「そこで慌てて逃げ出した?」

「ええ」

「電話の主は心当たりの人物ですか? 誰です?」

「いえません。迷惑がかかります?」

「あなたの話が本当だとすると、電話の主にハメられたということになるのですが、それでもですか?」

「はい」

 勝負にならない。

 それで、増川をよく知る人物を片っ端からあたっていった結果、私たちは、信濃小百合っていう温泉芸者のところにたどりついた。..

  //登場人物//


【主要登場人物】

佐伯祐(さえき・ゆう)佐伯祐(さえき・ゆう)……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。

三輪明菜(みわ・あきな)三輪明菜(みわ・あきな)……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。

●島村代議士……佐伯の上司。センセイ。古株の衆議院議員である。

●真田巡査部長……村の駐在。【事件関係者】

●沖田茂……達磨像のような風貌をした禿げて肥った資産家。還暦。

●沖田優子……四十歳だがみためは二十代にみえる美魔女。儚げで守りたくなるタイプ

●川島ハジメ……屋敷の若い奉公人。短気なようだ。

●村上栄作……沖田家の宿敵・村上家当主。

●増川明……沖田優子の元婚約者。

●兵藤武志……山王神社の隣に住む古武術家「兵藤流」道場主。50歳。

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