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自作小説倶楽部 第10冊/2015年上半期(第55-60集)  作者: 自作小説倶楽部
第57集(2015年03月)/「菓子」&「欠片」
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03 BENクー 著  菓子 『おかしな家』

   おかしな家

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 むかし、むかし、あるところにヘンゼルと言う少年がいました。

 ヘンゼルは、貧しい木こりのお父さんと二人で暮らしていました。

 ある日、お父さんは一人の女性を連れてくると、「新しいお母さんだ」と言いました。

新しいお母さんはとても優しく、ヘンゼルはすぐに好きになりました。

 三人で暮らし始めて半年ほど経った頃、お父さんは家を空けるようになり、たまに帰ってきた時でも必ず酔っていました。

 お父さんが働かなくなったので、暮らしはもっと貧しくなりました。

それでも新しいお母さんとヘンゼルは、蓄えておいた食べものと森から獲ってくる食べもので何とか暮らしていました。

 ところがある日のこと、酔って帰ってきたお父さんは新しいお母さんを殴って、蓄えていた食べものを全部食べてしまいました。

 とうとう我慢できなくなったヘンゼルは、お父さんに殴りかかりましたが、逆に血だらけになるまで殴られてしまいました。

 お父さんは、「ヘンゼルはグレてる」と言うと、翌朝、ヘンゼルを山奥に連れて行きました。山に捨てようとしたのです。

 その頃は国じゅうが飢饉で、子供を捨てる親がいっぱいいたのです。

 ヘンゼルは、お父さんが自分を山奥に捨てるつもりであるのに気が付きました。

「知ってるか。親が今まで食べたことのないものを食べさせたり、腹いっぱい食べさせてくれた時は、子供を捨てるつもりなんだぜ」と、友達から聞いていたのです。

 友達が言ったとおり、山に入る前、お父さんはヘンゼルに大事なパンをくれたのです。

.

 ヘンゼルは、お父さんの後ろを歩きながら、『どうすれば生き延びられるか』をずっと考えていました。

 すると、山道の先に、山小屋があるのを思い出しました。

 山小屋には川に降りる道があって、川には切り出された材木が川上から流れてくるのを覚えていました。

 頭の良いヘンゼルは、「お父さん、あの山小屋のずっと奥にお菓子の家があるって、本当なの?」と、小さい頃にお母さんから聞いた昔話のことを話し始めました。

逃げるのを悟られないようにするのと、山小屋に向かわせたかったからです。

お父さんはちょっと変な顔をしましたが、ヘンゼルの話には応えず、黙って山道を登って行きました。

 全く急ぐ必要がないお父さんと、急ぎたくないヘンゼルの歩みはゆっくりしていたので、 ヘンゼルの期待どおり、山小屋に着いた時にはすっかり夜になっていました。

 お父さんは、山小屋に入るとすぐに暖炉に火をつけました。

 ヘンゼルは、暖炉の火がはじける音を聞くと、燃える木の1本を取り、「おしっこしてくる」と言って、山小屋から逃げ出しました。

 ヘンゼルは、火をかざしながら川に続く道を降りると、火を捨てて、流れてきた大木にしがみつきました。

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 ヘンゼルが戻ってこないので、逃げたと思ったお父さんは、すぐに森の奥へと追いかけて行きました。

 まさか、川に飛び込んだとは思わなかったからです。

 森の中を進むうちに、何も食べていなかったお父さんは、お腹が空いてたまらなくなりました。

 ふと、目の前の木の下を見ると、キノコがいっぱい生えていました。

木こりのお父さんには、それが毒キノコでないのがすぐに分かったので摘まんで食べ始めました。

 すると、フワフワとしてとても気持ちよくなりました。

.

 キノコを食べ尽くしたお父さんがそのまま森を進んで行くと、とつぜん目の前にお菓子の家が現れました。

「本当にあったんだ!」と驚きながら、ビスケットでできている窓を一つ摘まんで食べてみました。

 すると、あまりの美味しさに止まらなくなり、とうとう窓を一つ食べてしまいました。

お腹いっぱいになったお父さんは、ポッカリ空いた窓の下に座り込みました。

すると今度は、星の間からヒラヒラと一匹の妖精が降りてきました。

 目の前を舞っていた妖精は、地面に降りたとたん、ムクムクと形を変えると、大きくて恐ろしい悪魔になりました。

 悪魔は、「私の家を食べたのはお前か!」と、今にも首を切り落とそうとして、大きな鎌を振り上げました。

 お父さんは、這いつくばりながら来た道を逃げ戻ろうとしました。

 ところが、悪魔に背を向けて手を着こうとしたとたん、とつぜん地面が消えてなくなり、 お父さんは、真っ暗な地の底へ真っ逆さまに落ちてしまいました。

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 川を下って町に着いたヘンゼルは、一人の材木商人に助けられたました。

商人は事情を聞くと、ヘンゼルの頭の良さに感心し、商人の下で働くことを条件に、一緒に家の様子を見に行くことにしました。

 ヘンゼルがいない間、とうとう食べものがなくなった新しいお母さんは、テーブルに伏して倒れていました。

 商人は、二人を連れて町に戻ると、下働きとして雇うことにしました。

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 それから10年が過ぎ、ヘンゼルは、商人の代わりに店を任されるまでになりました。

新しいお母さんは、商人の妻になっていました。

 そんなある日、隣りの山に材木の買い付けに来たヘンゼルは、お父さんから逃げ出した 山小屋のことを木こりたちに尋ねました。

 ところが、どの木こりに聞いても、山道の先に山小屋があったことなど知らないと言いました。

 不思議に思ったヘンゼルは、山小屋に行ってみることにしました。

 すると、そこは山小屋を建てられる場所もなければ、ヘンゼルが降りたはずの道などあるわけがない切り立った断崖だったのです。

 ヘンゼルは、不思議に思いながら振り返ると、目の前にある大木の根本が盛り上がっているのに気が付きました。

 近寄ってみると、大木の幹が剥がされていて、そこだけポッカリ穴が空いているようでした。

 また、剥がれている幹には薄っすらと文字が彫られていて、そこにはグレーテルと彫られていました。

 グレーテルは、ヘンゼルを生んだお母さんの名前でした。

.

   -おしまい-

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