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自作小説倶楽部 第10冊/2015年上半期(第55-60集)  作者: 自作小説倶楽部
第56集(2015年02月)/「恵方巻き」&「夜明け」
13/36

07 E.Grey 著  夜明け 『沖田御殿の怪2・公設秘書少佐』

  //事件概要//


 長野県月ノ輪村役場職員・三輪明菜のもとに、婚約者・佐伯佑が訪ねてきた。「少佐」と仇名される切れ者の公設秘書だ。彼が仕えている代議士・島村センセイから命じられ、後援者の一人・沖田茂氏の悩みを聞いてやれというものだった。夜中になると、ときたま、山林王沖田家の豪邸・庭先に、怪しい車が侵入するのだという。


.    04 容疑者たち

.

 長身・黒スーツの佐伯は、被害者である沖田茂氏・その夫人である優子さん・使用人の川島ハジメ青年に話しをきいた。それによると敵意をもっていそうな人物は次の通りだ。

 第一は、明治時代以来の宿敵・村上家の当主である栄作氏だ。沖田氏は近く県会議員に立候補するという話だ。そのあたりでも競合している。

 第二は、これまた古い話で、優子夫人さんの元婚約者・増川明氏の存在だ。夫人は、ご実家が破産しかけたとき、沖田氏が資金援助して助かった。その人身御供として、嫁いできた経緯があった。あおりを喰らった増田氏はいまだに沖田氏を深く恨んでいる。

 応接間から木枠・ガラスの窓のむこう側を臨むと、回遊式になった池のある雪が積もっているのがみえる。

.

.    05 明菜的観測

.

 川島青年が、中・高生の化学実験につかうみたいな、アルコールランプをつかった器具で沸した珈琲を御馳走になって、佐伯と私は沖田家を後にした。

 屋敷から通りに出るには、小川を、木橋をつかって渡らねばならない。木橋というのは、乗用車一両がなんとか渡る幅だ。

 バス停は木橋を渡り切った端にある。

 バスを待ちながら、私は佐伯にいった。

「あのさあ、県会議員に立候補しようとしている村上さんは、沖田さんにとって確かに仇敵なんだけど、夜中に車を庭先に侵入・嫌がらせをするあたりは、姑息っていうか、子供じみていない?」

 背の高い佐伯は、私が貸したピンクの可愛い傘をさしている。ちょうどアイアイ傘になった格好だ。

「すると明菜は、優子夫人の元婚約者・増田明が真犯人だと考えているわけだな?」

「違ている?」

「うむ……」

 佐伯は首を傾げてから数分頭を整理したようだ。

「筋としては悪くない」 

 雪を弾き飛ばしながら、チェーン装着したボンネットバスがきたので、私たちは乗った。

.

.    06 また雪が降ってきた 

.

 村役場に着いたところで、控室で、朝方気合を込めてつくったお弁当を佐伯に食べさせた。重箱を開けた佐伯が、「こりゃ美味い」と褒めたのはいうまでもない。

 食べ終えたあたりで、東京にいる島村センセイから電話がきた。

『佐伯君か? 沖田氏の件の尽力に感謝する。沖田茂には実子がなく、養子をとろうとしていた。沖田はああみえて案外したたかだ。仇敵とはいっても村上家とはもともと血縁になっている。奴は抱きこもうとして同家・二男坊を養子にしようと画策していた。村上家もけっこう乗り気だったようだ』

 なるほど。

 同僚である月ノ輪村役場の女子職員の噂だ。

「沖田家の奥さん・優子さんって、旦那様にときどき平手打ちされるんですって。暴力亭主よね」

「ほんと? とんでもない話だわ!」

 お茶を飲み終えるころ、懇意にしている村の駐在・真田巡査部長から電話がかかってきた。

『村上家は自家用車を持っているが、現場に残された車輪の幅が違っている。増川は車を持っていない』

また雪が降ってきた。

. 

.    07 そして…

.

 役場仕事を終え、私は帰宅した。その日は佐伯はうちに泊まった。家族にも気に入られていているので、たぶんうちの父につきあわされて夜中まで酒を飲むことになるだろう。

 夜10時を回ったころだったろうか。

 駐在さんから電話があった。居間に置いてあるのはダイヤル・固定式の電話機だ。

 佐伯が父と一緒に炬燵で酔い潰れ突っ伏していた。母と台所仕事を片付けているところだった。

『少佐……いや、佐伯さんはいるかね?』

「いま眠ったところです」

『沖田邸でついに〝殺し〟が起きた。佐伯さんに伝えてくれ』

「〝殺し〟? 誰が?」

『沖田家当主の茂氏だ』

「えっ!」

 酔い潰れていたはずの佐伯が、いつの間にか、起き上がってこちらをみていた。

 夜明けを待って佐伯と私はタクシーに乗り込んだ。

.   つづく


  //登場人物//


【主要登場人物】

佐伯祐さえき・ゆう……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。

三輪明菜みわ・あきな……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。

●島村代議士……佐伯の上司。センセイ。古株の衆議院議員である。

●真田巡査部長……村の駐在。


【事件関係者】

●沖田茂……達磨像のような風貌をした禿げて肥った資産家。還暦。

●沖田優子……四十歳だがみためは二十代にみえる美魔女。儚げで守りたくなるタイプ

●川島ハジメ……屋敷の若い奉公人。短気なようだ。

●村上栄作……沖田家の宿敵・村上家当主。

●増川明……沖田優子の元婚約者。


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