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春待月3

「とりあえず昨日名乗ったっけ?エリーよ。エリオット・イキシア・稲荷木。この大きいのは弟のデレク。」

「もう名乗ったよ。姉さん。」

「あらそう。やっぱりこの学園に入ることにしたのね。歓迎するわ、新入生さん。あなた、この木と同じ名前なのよね?サクラさん?」

初めて声をかけた時はデレクは櫻よりしっかりしているように思えたのに、姉の前ではなんだか態度が少々子供っぽい。無言でクッキーを口に放り込む姿は少々拗ねているようにも思える。

花や木がそこかしこにあるこの温室でのこの不思議なお茶会はなんだかおとぎ話じみていて、昔読んだ海外の児童文学のようだ。櫻は小さな頃好きだったウサギを追いかけて不思議な世界に迷い込んでしまった女の子の話を思い出す。この不思議なお茶会の主催者たるデレクの姉、エリーというらしい。彼女は櫻の疑問の一つを察し答えてくれた。

「なんでこの木がって思ったでしょ?これ、誕生日プレゼント。タクトセンセが私の17の誕生日にって何処からかもってきたのよ。」

「はぁ…」

思わず櫻は生返事をこぼす。タクトセンセ。ことタクトは昨日の印象の通りに豪快な人物の様だ。

「思いの外早く根付いてくれたから、花祭りで出す花の砂糖漬けに使えるかな。とか思ったけど、咲き切っちゃったからなぁ…ミモザとスミレと薔薇と後は何にしよう。あ、」

「いつものがいいよー。タクト先生の中和してよー。」

楽しそうなエリーにリブロの意見は聞こえていないようだ。

「あ、でも今年はデレクもいるから。お菓子の味は保証するよ!後は去年から仕込んでたアケイシャ酒もあるし、金木犀はお茶にしてあるし。」

また一つ、わからない単語が飛び出した。

「花祭り?」

単語の意味はわかる。間違いなく花の祭りだろう。だけれども砂糖漬けやアケイシャ酒、と言う単語から櫻は故郷で行っていた花見の宴の様な物だと解釈した。あれも桜の花が咲く時期に行う。

そんな櫻の様子に気づいてか、リブロが説明をしてくれた。

「あ、サクラ。ごめんね。花祭りっていうのは豊作を願うお祭りで、エリーたち木属の魔術師の腕の見せ所なの。街に屋台がいっぱい出てね、春の花で一杯になるの。春咲きの薔薇に、ヒナギクに菖蒲に…で、ここにいるエリーは去年、春咲きの薔薇の新品種を開発して、女王様にご褒美もらってるから更に頑張らなきゃってなってるの。普段はこんなに周り見えなくなってないから。」

なんだかフォローになっているような、なっていない様なフォローに櫻はなんだか笑ってしまった。

「えっと、エリーさん?その薔薇の新品種ってどんなのですか?あと女王様って…」

櫻の質問にエリーは、しまった。と言う顔をした。そして彼女はばつがわるそうな顔をして説明をし始めた。

「あ、うん。この国には王族や貴族がいるのね。まぁ、政治関係は民主制だから基本的には象徴みたいな感じで。女王様は女王様。そのままよ。薔薇が好きな方でね。去年の花祭りの時期に私が品種改良した薔薇が女王様の目にとまっただけ。ただそれだけよ。」

「凄いじゃないですか!それって!」

櫻は素直に感嘆の言葉をあげた。しかし、エリーは素直に喜べないようだった。

「でも、あれはあれで好きなんだけど、私の夢の一歩でしかないの。」

「夢?ですか。」

「そう、青い薔薇を咲かせるの。花を加工するんじゃなくて、青い色を持った薔薇。…この子の目、みたいな感じの。」

この子、とエリーはリブロに向き直る。リブロの瞳の色は深い青。櫻はその青さを花に求めるエリーの夢はひどく困難な道に思えた。そんな櫻の考えを察したのかエリーは口を開いた。

「普通なら、無理かもしれないけど、私達は魔法使いだから。キーズと精霊蟲の力を借りて、私は頑張るだけ。サクラ…木の方のサクラだって咲かせられたのは精霊蟲たちとキーズのおかげだもの。」

「キーズ?」

「わたしのパートナー。昨日見たでしょ?牡鹿のキーズディア。」

ああ、と櫻は思い出す。タクトを跳ね飛ばしたあの鹿だ。

「あ、そういえばタクトさん!大丈夫だったのかな!?」

急にその事を思い出す。あれから車を運転していたが、急に具合が悪くなり、病院に担ぎ込まれる。なんてことはなかったのだろうか。

「あー、大丈夫大丈夫。あれからお説教くらって課題出されたし。センセは元気よ?」

「センセ?」

それともう一つ。なぜエリーはタクトをセンセと呼ぶのだろうか。

その思考はとある声でかき消された。

「ほう、優雅にお茶会とは。課題は終わってるんだろうな?我が弟子よ。」

女性の声だった。その声にびくりとリブロは反応した。

「あー、先生。おはようございます。課題は終わってます。」

「だったら、迅速に私に報告しろ。報告、連絡、相談は基本中の基本だ。」

その声の主は三十代半ばといったところだろうか、波打つ金の髪を一つに縛り、きりりとした雰囲気を全身から放っている。それよりも櫻の目を奪ったのはその瞳の色だった。女性も櫻のその様子に気づいたらしく口角をあげた。

「オレンジ…」

「おや、珍しい。瞳に太陽を宿す子か。リブロも課題そっちのけになるはずだ。」

女性の瞳の色は櫻と同じ色をしていたのだから。






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