プロローグ
生温い風の中、一人の少女が静かに立っていた。
少女の前には血まみれの子供と、その傍に倒れている人間。…もう、生きてはいないだろう。
子供は少女に気付くと、ガタガタと震え出した。
「まだ子供なのに……憐れな子」
哀しそうな声で呟き、少女は右手を子供の方に向ける。人差し指にはめられた指輪に付いている宝石が黒く光った。
「もう…楽になろう?」
その声と同時に、宝石は音を発する。地に響くような音。子供は突然、悲痛な声で叫び出す。
「あ、ああ、ぁぁあ…ああぁああぁぁあああぁ!」
身体が揺れ、紅い涙は滴り、しだいにその姿は何かと重なり、二重になった。醜い姿をしたそのもう一つの影は、宝石の発する音に吸われ、身体から離れて行く。
宝石がそれを吸い込み、音が止むと、子供は白目をむいてバタリと倒れた。
静寂が訪れる。少女は無言でその屍に背を向け、歩き出す。
何の音もない空間に、彼女の声が響いた。
「任務完了」
初めまして、風林です。『フィッチ』プロローグ、お楽しみいただけましたでしょうか。まだわからない事だらけだと思いますが……本編はもっとドロドロしていく予定です。よろしくお願いします。