うんこ
普通の街並み。普通の人混み。普通の1日。そう、今日も普通の一日で、自分の記憶に特に何も残らずに過ぎて行くはずだった。
人はみな人生で一度は経験があるだろう、「お漏らし」。ちなみに大の方だ。俺は人生4度目の経験を今にもしそうな勢いでいた。
顔が青ざめ、脂汗が噴き出ている。街行く人は澄まし顔で俺とすれ違ったり抜かしたりしている。そして、こういう時に限って電話やらメールやらが来るのだ。
治安が悪いせいか、付近の店はトイレがないか、あっても貸してくれない。
腹が痛くなりはじめたのは確か、さっきの友達と酒を飲み交わしたバーを出た後だな。きっと食べたものの中の何かにあたったのだろう。とりあえず、トイレのある場所までは行かなければならない……
そして、こういう時に限って電話やらメールやらが来るのだ。さっきも彼女から早く帰ってくるようメールが来たし。あの、バイブはかなり腹にくることがこれで分かった。
そしてさっきから別の問題が浮上しているのだ。どうやらさっきぶつかった強面の男二人が俺の後をつけてけているらしい。友達の子分かとも思ったが、この状況では全く判断がつかない。いや、いくら治安が悪いとはいえ、ぶつかっただけで襲われるだろうか、漫画でもあるまいし。
だが、路地を少し曲がった所で強面の男が走ってきた。こちらは腹痛で走れないというのに……!案の定すぐに捕まり、絡まれた。どうやら何か盗まれたと勘違いしているらしい。
「この状況じゃあ、逃げられねぇ。さっさと盗んだものを出せ!」
「な……何のことだ……俺は今、体調が悪い……こんな状況で物など盗めると思っているのか……」
「しらばっくれてんじゃあねえ!」
罵詈雑言と共に腹にパンチを食らった。いや、濁流へのスイッチを押されたのだ。俺は諦めざるをえなかった。止めようと思っても、止まらなかったのだ。パンチを受けた瞬間、我慢していたものが汚い音色を奏でながら、腸から現世へ到達したのだ。
これにはさすがに二人の男も狼狽えた。だが、その時、その汚物の中に光るものが見えた。それを見た途端、勇敢にも男の一人がその光るものを拾い上げ、俺に怒鳴ってきた。
「こんなとこに隠して嫌がったのか!いろんな意味で汚ねえ野郎だぜ!やっちまいましょう!」
雨が降ってきた。泥と汚物にまみれ、傷だらけになった俺は呆然とそこで倒れ込んでいた。多分、殴られている間だろうが、携帯に着信が入っていた。留守電があったので聞いてみた……
『もしもし、俺だ!さっきお前と飲んだ後、俺のダイヤがなくなったんだ……もしかしたらお前が間違えて持って帰ったんじゃねえか、と思ったんだが……どうやら俺の子分が先走って、お前が盗んだと勘違いしてるらしい!もし、俺の子分に何か言われたら、携帯で俺に連絡してくれ!……………』