◆ストーカー誤解される
翌日、笠羽衛はいつものように雫と一緒に朝食をとっていた。
昨日と同じでオレンジのジャムをトーストに塗る。
雫はというと、ピーナッツバターを塗りたくっていた。
そして口に含む前に可愛らしい舌を出して、ぺろりとピーナッツバターを舐めている。
「おいし」
「こら、行儀悪いぞ」
「うるさい」
はむっとトーストに雫はかじりつく。
衛も嘆息しながら頬張る。
「…………」
静かだった。
ふと、雫に視線を向けるとこちらを睨んでいた。
頬にはピーナッツバターがついている。
雫は小柄なため、衛を見るときはいつも上目遣い気味だ。
それに童顔なのもあって、睨まれても迫力なんてものは一切感じられなかった。
むしろ可愛いぐらいだ。
「お兄ちゃん、昨日のハンカチ洗っといた」
そのハンカチは向井季理の持ち物だった。
彼女は捨てていたけれど。
「そうか、ありがとう」
「あれ、女の人の。綺麗な花柄の刺繍があった」
「そうだ」
「なんで血がついてたんだ」
「そ、それは……」
「…………まさか」
「ち、違う! お兄ちゃんはそんなことしてないぞ!」
身を乗り出して衛は抗議する。
「まだ何も言ってない。そっか、そうなのか。へ~、お兄ちゃんが。ふ~ん」
無表情で目を細めながら雫が淡々と言ってくる。
「ぐっ……」
あられもないことを想像されていそうだった。
これは残しておいた最終手段を使うしかない。
衛はティッシュを二枚とると、それで雫の頬についたピーナッツバターを拭う。
「ほら、ついてるぞ」
「んぅ~~~」
雫の頬はぷにぷにとしていた。
「よし、取れた」
綺麗になった頬は、ほんのり赤く染まっていた。
先ほどまでの高圧的な態度はどこへやら、雫はすっかり縮こまっている。
「…………あんがと」
なんとかうまく誤魔化せた。
だが誤魔化す必要はあったのだろうか。
真実を話せば雫も分かってくれたはずだ。
いや、そこに至るまでの経緯がストーカーから派生したものなのだ。
そんなことを雫に言えるはずがない。
残っている朝食を一気に食べ終えると、衛はすぐに立ち上がった。
「じゃあ、着替えてくる」
この場にいると、またハンカチについて訊かれそうな気がしたのだ。
トーストにかじりつく雫を置いて、衛はリビングから逃げるように退出した。