◆ストーカーたちを見た
向井季理は美貌、性格において完璧でなくてはならない。
それが自分で定めた生き様である。
そして他人から称賛を浴びることに、他の何よりも快感を覚えていた。
故に、自分の粗暴な素顔を曝すわけにはいかなかった。
「だれかいるの!?」
今、人生最大の危機に瀕していた。
誰かに素顔を見られたかもしれないのだ。
――口が悪く、横柄な自分の素顔を。
死角になっている曲がり角に、恐る恐る足を進ませる。
確実に誰かいる。
でも、誰かいたとしてどうする? 掴まえて口止め?
女であれば捕まえられるかもしれないが、男であれば力のない季理では難しい。
交渉するしかないのだろうか。だがもし卑劣な人間だったら。
とにかく相手の顔だけでも確認しよう。
そう思ったとき、角から荒々しい足音が聞こえた。
しまった――。
「待ちなさい!」
すぐさま季理は躍り出るが、すでに相手は遠くにいた。
は、速い……。
右膝を怪我しているため、追いかけようにも無理があった。
ただ、後ろ姿だけはぼんやりと見える。
身長はよくわからないが、小さくはない。
季理と同じ、秀泉高校の男子制服を着ていた。
明日、学校であの後ろ姿を捜してみよう。
そう思いながら呆然と立ち尽くしていると、突如として視界に見知らぬ少女が割り込んできた。
不思議なことに、誰もいないと思っていた電柱から湧き出てきたのだ。
腰まである長い黒髪に、これまた同じく秀泉高校の制服だった。
少女は、先ほど季理から逃げた男の後を走っている。
――それで終わりではなかった。
秀泉高校の制服を着た謎の男が石塀を飛び越えて、季理の視界に現れたのだ。
蛙のように着地すると、謎の男は長髪の女子の後ろを走っていく。
「な、なんなのあれ……」
不思議な光景を目の当たりにして、季理は開いた口が塞がらなかった。