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◆ストーカーの住処

「お兄ちゃん、起きろ」


 朦朧とした意識の中に声が入り込んでくる。

 笠羽衛は、ベッドの上でくの字になって寝転んでいた。

 目蓋はまだ開いていない。

 素肌に当たるシーツのひんやりとした感触に、未だベッドから出られずにいた。


「起きろって言ってんだ」


 耳をつんざかんばかりの大声だった。

 はっと目を覚まし、何事かと衛は辺りを窺う。

 一人の少女が目に入った。

 両手を腰に当ててこちらを睨んでくる。


「ったく…………おはよう」

「おはよう、雫」


 伸びをしながら、衛は右手で目をこすった。

 身体を起こし、ベッドから這い出る。

 まだ眠い。

 衛を起こした少女の名前は笠羽雫(かさはねしずく)。衛のひとつ下の妹だ。

 赤黒のスカートに白のシャツを着ている。

 衛と同じ秀泉高校の女子制服だった。


 ちなみに衛は二年生で、雫は一年生だ。

 雫は肩にかかるほどの髪を後ろで二つに結んでいる。

 身長は百五十センチで胸はあるのかどうかわからないほど。ただ態度だけはでかい。

 だが、これがなかなか素直で兄想いの出来た妹なのである。

 頼めば何でも言うことを聞いてくれるのだ。

 けれど衛は欲張ったりはしない。「お兄ちゃん」と呼ばせる以外は。


「ご飯、できてるから早く降りてこい」

「わかった」


 疑うような目を衛に向けた後、雫は嘆息しながら部屋から出て行く。

 こいつはもうだめだ、と思われているようで衛はなんだか切なくなった。

 しかし真実ゆえに反論できない。

 緩慢な動きで雫の後を追う。前方から軽やかに階段を下る音が耳に入る。

 笠羽家の二階に、衛の部屋は位置していた。

 衛も階段を軋ませながら下りる。

 洗面台で顔を洗い、すっきりしてからリビングに向かった。



「いただきます」

 と、衛と雫は揃って口にする。

 静かに食べ始める。

 野菜サラダとこんがり焼けたトーストが朝食だった。

 香ばしい匂いが食欲をそそる。

 オレンジのジャムを塗ったトーストを衛は口に頬張る。

 雫の方を見やると、苺ジャムを塗りたくっていた。トーストを両手で掴み、雫は口に運ぶ。あむ、と食べる姿は我が妹ながら可愛らしかった。


 食卓には雫だけしかいない。

 これが笠羽家の朝の風景だった。

 衛が中学二年のとき、両親は交通事故で亡くなった。

 不幸中の幸いか、衛と雫の引き取りを申し出てくれる親戚はいた。

 けれど今の家に残ることを衛たちは選んだ。

 住み慣れた家だからという理由もあったが、やはり親と過ごした家から離れたくなかったのだ。金銭面についても親の遺産が少しばかりあったし、ある程度は親戚が面倒を見てくれたので問題はなかった。


「ごちそうさま」


 衛は食べ終わると、頬杖をついて雫を眺めた。

 視線に気付いた雫が上目遣いで睨んでくる。

 それに応えて衛は愛でるように見つめ返した。


「雫は可愛いな」

「なっ――――」


 雫の顔は一気に赤く染め上げられた。


「照れたところも可愛いよな」

「うぅ……」


 普段、口の悪い雫でも、こうして褒めると一瞬にして弱々しくなる。


「…………ばか」


 衛は立ち上がり、縮こまってしまった雫に近づいた。

 雫の頭に手を乗せ、髪のセットを乱さないよう優しく撫でた。柔らかな感触が指から伝わってくる。撫でている間、雫は目を細めて気持ち良さそうにしていた。

 衛が撫でていた手を離すと、ものほしそうな目を向けてくる。

 その愛くるしさに、兄である衛もどきりとしてしまう。

 だが、いつまでもそうしてはいられない。


「じゃあ着替えてくる。遅かったら先に行ってていいぞ」


 雫とはいつも一緒に登校していた。

 この歳になっても兄妹で登校しているなんて珍しいかもしれない。

 けれど、それほど仲がよいのだ。


「待ってるから早くこい」


 後ろから雫の声が聞こえてくる。

 口元をほころばせながら、衛は自分の部屋に向かった。




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