怪奇生物大作戦の巻 【チコ】(※※)
エスエフ界でも頑張るジャン君に、はげましのお便りを!
こんにちは、シャフィール。お元気ですか?
あなたからの映像を見る度、シンプルな社会構造の素晴らしさを実感します。
バビロンに居るとあまり意識しないのですが、この世には差別が満ちています。
ジリヤおねえさまは病気治療の為、サイボーグとなりました。
すぐ上のラリサおねえさまはエスパーです。
サイボーグには人間以上の優秀な機能があり、エスパーには人間にはない特殊な能力があります。
けれども、二人の素晴らしい力は宇宙連邦に管理されています。
特殊な信号を受けるとジリヤおねえさまの体は動かなくなります。
ラリサおねえさまの頭の中には、超能力の使用を制限する機械が埋め込まれています。
シャフィール。あなたに出逢っていなかったら私も……そう思うとゾッとします。
愚かしいことです。下等な存在が優秀な存在を支配していては、種としての繁栄は難しいでしょうに。
宇宙新世紀〇二八七年 ナターリヤ
* * * * * *
オレは夢の中でニーナを抱きしめていた。
辺りは真っ暗で何も見えない。
だけど、ニーナが泣いているのは、その声からも震える体からも伝わってくる。
超能力ジャマーを浴びたニーナは、消滅しかけたのだそうだ。霊体としてこの世にとどまってるニーナのバランスが、崩れかけたんじゃないかと思う。
消えかけてニーナは『死』を意識した。
魔王戦の後、昇天する事を思い出し、地上から居なくなる事が恐くなったのだ。
《やっとアンヌに会えたのに……おにーちゃんやおねえちゃんたち、ソワちゃんともおともだちになれたのに……やだよ……あたし、消えたくない……》
ニーナは、五十年以上も前に死んでいる。マリーちゃんは、多分、眠ったまま急所を一突きされて殺されたのだろうと言っていた。
死んでいることも知らないまま、ニーナは遊ぶ約束をした友人を待っていた。
いい子にして待っていれば、きっといい事があると信じて……五十年以上も。
《まだ、あたし、なにもしてない……いろんな所にいって、いろんなことがしたい。みんなといっしょにいたい。大きくなりたい……消えたくないよ……》
オレはニーナをぎゅっと抱いた。
「亡くなった後、良い子は神様のもとへ行ける。綺麗で楽しい所らしいぞ」
《いや!》
ニーナがかぶりを振る。何処だろうと行きたくない、オレ達と離れたくないと。
だけど、それは……
望んじゃいけない事だ。
綺麗なまま神様のもとへ行って欲しい。
生に執着して悪霊化したら、神様のもとへ行けなくなる。浄化しなきゃいけなくなるんだ。
「オレもアンヌばあさんもジョゼ達もみんな、きっとそこへ行く。ちょっとだけ先に行って、待っててくれないかな? そんなに待たせないから……」
いやいやとニーナがかぶりを振る。
まあ、そうだよな……
「じゃあさ……オレと一緒ならいい?」
これしかないかなと思いながら、口にした。
「魔王戦で、死んでも生きのびても一緒だ。一人にしないよ。それなら、寂しくないだろ?」
《どういうこと……?》
ニーナは、びっくりしている。
《おにーちゃん、魔王戦で死ぬの? 生きのびてもニーナといっしょって……死ぬの? どうして?》
「魔王戦じゃ、オレ、絶対、みんなを守る。全力で戦ったら、死ぬかもしれない」
究極魔法を使えば、オレは死ぬ。でも、魔王に4999万9999のダメージを与えられるんだ。残り半分は百人の伴侶が削ってくれるはず。魔王に勝てるだろう。
《やだ!》
ニーナが叫ぶ。
《おにーちゃん、死んじゃいや! 死んだらダメ!》
「うん。ありがとう。死なないように頑張るよ。だけど、うっかり死んじゃったら、行き先はニーナちゃんと一緒だと思う。一緒に逝こう」
《ダメ!》
ニーナが泣きながら叫ぶ。
《おにーちゃんは生きるの! 死んじゃダメ! おにーちゃんが死んだら、みんな、泣くよ!》
「でも、オレは勇者だから……」
ニーナの背を抱きしめた。
「魔王に負けるわけにはいかない。世界を守る為にそれしかないってなったら、死ぬさ」
ニーナがずっとかぶりを振り続ける。絶対、ダメとつぶやきながら。
「魔王戦で生き延びたらさ、オレ、神様からご褒美がもらえる。神様にお願いができるんだよ。しかも二回! そのうちの一回をニーナちゃんの為に使うよ」
《ニーナのために……?》
オレは頷いた。
「ニーナちゃんの昇天を待ってもらう」
本当は、ニーナを生き返らせてくれって頼むつもりだ。
けど、今は口にできない。期待させといて、やっぱダメでしたになっちゃったらかわいそうだから。
魔王に勝てば、どんな願いでもかなえてもらえる。でも、たぶん、聖教会の教えに反する事は駄目だろう。死者の蘇りを願うのは、聖教会的に禁忌だ。
まっ先に、ニーナを生き返らせてもらえるか聞いて、駄目なら今の形でとどまれる時間を延長してもらう。それでも駄目なら、オレの体に宿ってもらえばいい。ニーナが来たって、精霊が一体増えるようなもんだろ。どって事ない。オレが人生を終えるまでの間に、ニーナがやりたかった事をオレの体でかなえるんだ。
「いずれは神様のもとへ行ってもらう。オレが死ぬまでか、ニーナちゃんが『もういい』って満足できる日までって事にしよう。それで、どうだろ?」
《いいの……?》
ニーナの声は震えている。
《そんなこと……ほんとにいいの……?》
「いいよ」
オレは迷わず答えた。
「オレは死んでも生き延びても、ニーナちゃんと一緒だ。一人にしない」
《おにーちゃん……》
「ニーナちゃん、出てきてくれよ。オレ達がみんなと居られるのは、あと三十七日かもしれない。その時間を大事にしようよ」
ニーナは声を殺して泣いている。
「みんなニーナちゃんが大好きだ。ニーナちゃんが籠ったまんまじゃ、寂しいよ。出てきてくれ」
小さい頷きが返った。
《ありがとう……おにーちゃん……》
ニーナの声が遠のいてゆく。
《ごめんね……》
腕の中のニーナの感触も不確かなものになってゆく……
周囲の闇は消え……
オレは……
うすぼんやりとした光を目にしていた。
頼りない光は常夜灯だ……そう気づき、何処で寝てたんだか思い出す。
科学ラボ内の宿泊部屋だ。宿屋の一人部屋みたいな感じだけど窓がなくって、勉強机や機械も設置されてる。
オレは笑みを浮かべた。
オレのすぐ横に、ニーナが座っている。髪も肌も服も真っ白なニーナ。ニーナがしょんぼりとオレを見ている。
起き上り、白い子供を抱きしめた。
「おかえり、ニーナちゃん」
ニーナもオレを抱きしめる。オレの背に、しっかりと両手を回して。
そのまま、オレ達はしばらく抱き合っていた。
《おにーちゃん、ねむって……まだ夜の時間だよ》
平気だって言っても、ニーナは許してくれない。
《仲間さがしが、おにーちゃんのお仕事でしょ? つかれてたら、さがせないよ。ちゃんとねて》
んじゃ、ソワを呼び出すって言ったら、それも駄目だと言う。
《ソワちゃんも消えそうになったから、闇界にもどしたんでしょ? ちゃんとお休みさせたげて》
けど、夢の中でオレをニーナのもとへ導いてくれたのはソワだと思う。ニーナの無事な姿を見せてやりたい。
しんどそうなら闇界に還すからってニーナと約束した上で、ソワを呼び出した。
髪も肌も服も真っ黒なソワ。人型になれるまで元気になったソワは、現れてすぐニーナに抱きついた。
闇界じゃなくニーナのそばに居たいと、ソワは望んだ。
ニーナが嬉しそうにソワを見る。
抱き合う白と黒の子供の姿が、とてもほほえましい。
見てたら、二人とも『寝ないと駄目だ』とオレを叱った。ほんと、仲がいいなあ。
素直に従い、瞼を閉ざした。
翌朝。
ニーナを連れて、ユーリアさんのオフィスに行った。そこで朝食をとる約束だったんで、みんな集まっていた。
ジョゼは、ニーナを抱きしめた。『守ってあげられなくて、ごめんね』と、何度も謝っていた。
アンヌばあさんにニーナの事を頼まれてたんで、責任を感じていたんだろう。ジョゼのせいじゃないのに。
サラはニーナに、アナムを手渡した。
「ピンクのクマさんを置いてきちゃったから、寂しいでしょ? 貸したげる。こっちにいる間は、その子を抱っこしてて」
サラの炎の精霊は、茶色のクマのぬいぐるみに変化している。『ありがとう、おねーちゃん』と言ってニーナはアナムを抱きしめた。
「エスエフ界には面白いものがいっぱいあるんですよ! きっとニーナさんも気にいると思います!」
ルネさんは見聞きしたものを面白おかしく、ニーナに語ってきかせた。
お師匠様も、ニーナを撫で撫でしていた。
みんな、ニーナが『霊力ためる君』から出て来た事を喜んだ。
バビロンでは、超人研究もしている。
超人とは、人間以上の能力の、優秀な兵士たりうる存在だ。
それが、超能力者であり、サイボーグであり、アンドロイドであり、ロボットなわけだが……
他にも、バイオロイドが居る。
メカ人造人間がアンドロイドで、生物人造人間がバイオロイドらしい。
「倫理上の問題で、クローン体のバイオロイド化は違法になったの。だから、ボディーは完全な有機人工義体、頭脳だけは電脳。それが現在のバイオロイドよ」と、ユーリアさん。
サイボーグのジリヤさんは、有機的な人工物+機械+人間だった時の脳の一部。
アンドロイドのイヴの体は、全身機械。
バイオロイドの体は、有機的な人工物+電脳。
人造人間をアンドロイドと呼ぶかバイオロイドと呼ぶかは、体の構成で変わる。機械化が15%を超えるとアンドロイド扱いになるようだ。
サイボーグも人造人間も、ふつうの人間より感覚器が鋭く運動機能も高く丈夫で、人間にはない機能が追加されている。
「バイオロイドの場合、人間そっくりにも作れるけど、『人間ではない』とわかる身体的特徴の付加が義務づけられているの」
今日は、ユーリアさんのオフィスで、バイオロイドと面談している。
バイオロイドは科学&生物部門の研究者が特別チームを組んで開発にあたっている。最高責任者はユーリアさんだが、その下に科学・生物両部門のリーダーが居る。
なので、今日は彼等がバイオロイドの紹介役になっている。
科学部門のリーダーはダン、痩せた男だ。
生物部門のリーダーはバリー、太った男だ。
バリーはユーリアさんの父方の遠縁。ダンは血縁関係無しの科学者みたいだ。
ダンとバリーは、ユーリアさんと同じく、白銀の全身スーツを着ている……ユーリアさん達女性が着てるとドキドキものなのに、野郎の姿はかなりナニ。つーか、テンションが下がる。
今日はオレも、彼等と同じみっともない格好なんだが。
実験の為だ。
仲間を増やした瞬間、オレと相手女性が精神&肉体にどう変化するか多角的に調査するのだそうだ。
フィットスーツのが調査しやすいってんで着たけど、やっぱ恥ずかしい。下着の上から、服の形をスプレーで蒸着してるだけなんだもん。下着のラインも浮かび上がらず、どこもかしこもすべすべではあるが……
色んな端子をつけられたまま、オレは目隠しをし、椅子に座って待つ。
そこへ、ダンとバリーがバイオロイドを連れて来るわけだ。
他の仲間は武器開発チームとの会合やら試験やら実験に行った。
調査対象外にしてもらったニーナと精霊のソワだけが、ここに居る。二人とも、オレのスーツ姿に大爆笑だった。
ダンとバリーは、戦闘力の高いバイオロイドから順に連れて来る。最初、彼等は自信満々だった。
彼等によると、バイオロイドの良さは完全人工物である点。自由なボディを与えられるんで、あらゆる夢をかなえられるのだそうだ。兵士からアミューズメントパークの案内人形、ボディガード、メイド、果ては大人のエッチな子守りまでこなすのだとか。
オレは目隠しを外し、彼らの夢としばらくたわむれた。
だが、キュンキュンは一向に訪れない。
余裕たっぷりだった彼等も、次第に焦り始める。
二十体目も駄目だった時、ダンは床にへたりこみ、肩より低く頭を垂らした。エリートなんで、打たれ弱いようだ。
太っちょのバリー方は、キレた。机を叩いて、オレに詰め寄る。
「おまえさん、おかしいよ」
む。
「こんだけ揃ってて、好みの子がいないなんて、男としてどうよ? ホモじゃねーの?」
赤ら顔を一層赤くし、バリーが右腕を開き部屋をさししめした。
そこには、いろんなタイプのバイオロイドが居る。
ネコ耳、犬耳、ウサギ耳の獣人達。エルフっ娘、天使に悪魔、人魚に、妖精、蛇女、半植物の女の子。
それぞれが、2タイプづついる。ロリロリ・美少女・妙齢の美女のどれかだ。
みんな顔が違う。クール系、お嬢様、保護欲がかきたてられる清純派まで。
体形もさまざま、ボンキュッボンもいれば、ぺったんこもいる。
あなたのハートをわしづかみな感じのラインナップだ。
でも、萌えない。
「よく出来てるとは思うよ! けど、つくり笑いだ! 魅力がない! リアリティ無さすぎ!」
ホモ呼ばわりされたから、オレの口調もとげとげしい。
「リアリティが無い? 絶滅動物の資料映像をモーション・キャプチャーし、練りに練って造り上げた架空生物だってのにか?」
「中身が変なんだ!『はじめまして。ステキな方ね。うっふ〜ん、好き好き〜』とか……どんだけ女の子をなめてんだよ! 世の中そんなに甘くねーよ! 寄って来る女の子は、何か目的があるに決まってるだろーが! オレを喰いたいか、殺したいか、利用したいかだ!」
一瞬の沈黙の後、バリーの目に同情が浮かぶ。
「……おまえ、寂しい人生を送ってるんだな……」
やかましい!
「くっつかれても嘘っぽすぎて、キュンキュンしねーんだよ! 最初から愛情値マックスとか、ありえねーから!」
「そこを否定したら、セクサロイド産業はなりたたねーだろ! バイオロイドは、男の夢でいいんだよ!」
「オレ、本物に会ってるんだぜ? ネコ耳娘もウサギ獣人もエルフも、もう仲間にいる! 今更、薄っぺらな劣化版偽物にときめくかよ!」
「劣化版偽物……」
床の痩せっぽちのダンが頭を抱える。
「ああああ、妖精ちゃん達は本物なのに……」
妖精……ちゃん?
「みんな、『妖精図鑑』から僕のもとへ舞い降りた天使ちゃんなのに……偽物だなんて……偽物だなんて……偽物……」
天使ちゃん……?
太っちょのバリーが仲間を蹴飛ばして黙らせる。
部長机のユーリアさんは、事態を静観する構え。
「俺とダンが造り上げたかわい子ちゃん達は、男性顧客から満足度80%超のアンケート回答を貰ってるんだよ。宇宙人だろーが何だろーが、野郎は野郎。きっちり満足させてやろーじゃねーか」
人外の仲間を全部教えろと、バリーが迫る。
「人魚、ネコ獣人、兎獣人、クマ獣人、森の女神、小人、ドワーフ……」
バリーが、コンピューターの端末にメモをとってゆく。
「……六翼の堕天使に、サキュバス……十二翼の堕天使……なるほど」
太った男はオレの仲間リストを何度か見直し、それから腕を組んだ。
「……チコだな」
バリーのつぶやきに、痩せたダンがひどく驚く。
「チコ?」
「こいつの仲間リストと重ならねえ、キュートでパワフルなレディつったら、チコしかいねえ。連れて来る」
きっぱりと言い切るバリー。ダンはおろおろするばかりだ。
「しかし、あの子は愛玩用で、実戦向きでは……」
「あいつには切り札がある。モード切り替えりゃ、エスパー部隊だって一網打尽にできる」
へー。エスパー部隊より強いのか。
「だが、そんな事をしたら、」
バリーがバン! と、机を叩いて相棒の口をふさぐ。
「ダン。俺達が心血注いで造ってきたかわい子ちゃん達を、この若造に全否定されていいのか?」
「バリー……」
「俺達のドォーター達は、どれも最高だ! 人の手で作り上げた至上の愛だ。そうだろ?」
痩せたダンが、頷く。
「愛は負けねえ。必ず勝つ。勝たなきゃいけねーんだ。わかるだろ、ダン?」
うんうんと頷き、相棒に抱きつく痩せた男。
涙を目ににじませ、がっしりと抱き合う二人の男。
背景に赤い夕陽が見えそうだ……
えっと……
ユーリアさんがため息をつき、通信機を操作する。
「バイオロイドチーム? №C121118K通称『チコ』を連れて来て。ええ、そう。ダンもバリーも、又、『愛』で使い物にならないの。至急、頼むわね」
そして、扉が開き、バイオロイドチームの研究員が入室する。
愛らしい子が連れて来たのだ。
見た途端、キュン! と、きた。
《かわいいー!》と、ニーナが叫ぶ。
これは、かわいい!
ほっこりする……
黒目がちな、大きなつぶらな瞳。周囲を警戒しているのか、上目づかいにオレを見上げながら、耳や鼻をピクピク動かしている。
けっこう爪が長いが、手はものすごく小さい。体も小さい。
しかし、何といってもラブリーなのはシッポだ。大きくて長く、身長くらいある。ふわふわのもふもふだ。
「コンニチハー」
舌ったらずな声。
「こ、こんにちは……」
心臓がバクバクいう。
無意識にオレは両手を開いていた。抱っこしたい……
これ、反則だよ……
研究員の右手にのってるし……
リスそのものじゃん!
本当に強いの?
ピョンと跳躍し、リスがオレに飛びついてくる。つるつるの服に滑らないか心配だったけど、器用にオレの肩の上まで這いあがってくる。
オレの左肩にリスが、ちょこんとのっている……
ヒゲややわらかな毛が頬に……
リスの息づかいが……あああ、呼吸してる……造り物なのに!
《いいなあ!》ニーナがすぐそばでぴょこぴょこ飛び跳ねてる。
「はい」
研究員がオレに、スティック状のモノを手渡す。
ビスケット……?
「チョーダーイ」
オレの耳元でかわいらしい声がする……
スティックの先端を向けてあげると、リスはちっちゃな手でお菓子を受け取って、
「アリガトー」
と、オレの肩の上で食べ始めたんだ。
耳元でカリカリカリカリ音がする……
カリカリカリと……
オレのハートは、キュンキュンと鳴った……
心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。
《あと三十五〜 おっけぇ?》
と、内側から神様の声がした。
「萌えました……」
ヤバイ……
かわいすぎる……
バリーとダンが満面の笑みでハイタッチしてやがる。
ちくしょー……負けたよ……
シロさんに萌えた時と一緒のパターンじゃん……
まあ……強いんだし、いっか。
《あたしもー!》と、せがむニーナの為にしゃがんだ。ニーナが、リスちゃんに次々とお菓子をあげる。
「ユーシャと№C121118K通称『チコ』のスキャン終了。分析に回して」
ユーリアさんは秘書ロボットに指示を出してから、オレの前にやって来た。
「ご協力感謝します」
「強制仲間枠入りについて、なんかわかりました?」
女科学者は眉をしかめ、メガネをずりあげた。
「心拍数の上昇等、興奮状態にあったぐらいね。チコの方は身体変化なし。もう少し詳しく調べてみるわ」
前足を口のところへもっていってビスケットを食べるリスのチコ。
口いっぱいに頬張って、頬袋をふくらませてる……
「この子、本当にラリサさんより強いんですか?」
「モードチェンジして不意をつければ。小型爆弾並の破壊力だから」
「モードチェンジ?」
「ゲル状変化よ。瞬時に肉体をどろどろに溶かして、液体生物になれるの」
は?
「とりもちになれるわけ」
「はあ……」
「その状態で敵を捕獲して自爆するの」
は?
「チコは、自爆機能付きバイオロイドなのよ。マスターの指示で、電子脳破裂が可能。爆風は、半径五キロの建物を倒壊させるだけの威力があるわ」
自爆……?
このリスちゃんが、木端微塵……?
「駄目です! そんな!」
オレは声をはりあげ、肩のリスを見つめた。
ビスケットを食べ過ぎたみたいだ、ほっぺがはち切れそうだ。口の端からビスケットのカスをこぼしてるし……マヌケで、かわいい……
「自爆はやめてください! そんな攻撃ならしなくていいです!」
ユーリアさんが、きょとんと目を丸める。
「でも、この子、それ以外はたいした攻撃できないわよ。噛みつきとか爪とかだけよ? 普通のリスよりは強い、その程度よ」
「それでもいいです」
「攻撃対象に117万ダメージは不可能だと思うけど?」
ぐ。
「だとしても、自爆は駄目です! オレは魔王戦で、誰にも死んでもらいたくない! オレも死にたくないし、仲間達を誰一人失いたくないんだ! 何があっても自爆はダメです! 絶対に!」
「死ぬだなんて……チコはバイオロイドよ? 電脳のバックアップをとっておけば、同じ記憶の個体を幾らでも複製できるんだから」
「それは、このチコじゃない!」
オレは肩のリスを両手に抱いた。
「チコと同じ記憶を持っただけの、そっくりさんだ! その子はその子、このチコはこのチコだ! この子が死ぬのは、絶対、嫌だ!」
ユーリアさんは、戸惑いの表情だ。
オレの言う事が理解できないって顔だ。
「萌えて仲間にした子は、みんな大切なオレの伴侶だ。あなただって自分のパートナーが死ぬのは嫌でしょ? それと同じだ!」
ユーリアさんが目を大きく見開いているのが、メガネごしに見える。
その口が何か言いたげに開かれる。
けれども、オレはその言葉を聞く事ができなかった。
というのも……
「ああああ、ありがとう! ユーシャくん!」
「見直したぜ、マイブラザー!」
ダンとバリーが突進してきて、オレに抱きついたんだ。
チコは慌ててニーナの手へと逃げ、ユーリアさんはのけぞって離れる。
「君になら安心してチコを託せる……チコを幸せしてやってくれ」
「バイオロイドを愛せる奴に悪人はいない。今日から俺達は親友だ。何でも言ってくれ、マイブラザー!」
抱きつくな!
おまえら、体にフィットした全身スーツ姿だろーが!
鳥肌が立つ!
魔王の目覚めは三十六日後だ。
オレは、又、借金が増えたらしい……
* * * * *
『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き
●女性プロフィール(№066)
名前 チコ
所属世界 エスエフ界
種族 バイオロイド
職業 愛玩用バイオロイド
特徴 外見はリス。
モードチェンジでトリモチになって
自爆できる。絶対、させないけど。
大好きなお菓子を食べすぎて
頬袋をふくらませがち。
戦闘方法 自爆はさせない。
年齢 発売されて二年目。
容姿 愛らしいリス。
口癖 『チョーダーイ』
好きなもの リス用ビスケット
嫌いなもの 美味しいものをもらえないこと
勇者に一言 『アリガトー』
キュートな仲間に胸キュンキュン! ダメージより仲間を選んだ、勇者ジャン!
魔王の目覚めは36日後だぞ!




