したたる愛 【スライム】(※)
出現した場所は、暗い森だった。
色からして変だ。幹も葉も、紫色をしている。ねじれ折れ曲がり、方々に枝を伸ばした木々。奇怪な形の樹木が点々と生え、隣の樹木に絡まりつき、のしかかるように枝を伸ばし、互いに好き勝手に葉を茂らせている。
枝や葉の間から見える空も、おかしい。緑がかった灰色だ。
何処からともなく、奇怪な鳴き声がする。
獣の匂いと腐敗臭が混じった風が、吹いてくる。生あたたかくって、生臭い。
嫌な雰囲気だ。
さすが、魔界。
神の寵愛を受けた者お断りな空間だけあって、何とも不気味だ。
来たはいいが、何処へ向かえばいいんだろ?
共に来た仲間、ジョゼ、サラ、セリア、マリーちゃん、お師匠様。仲間を見渡し、相談しようと思ったんだが……
オレが口を開くより前に、マリーちゃんが高笑いを始めた。
「素晴らしい、どこもかしこも腐りきっている! このような穢れた地に来られようとは・・・ククク、綺麗さっぱり、まったく、完璧に、完膚なきまでに、掃討してくれよう」
うわ。
何時の間にか、中身が違ってる。
魔界が邪悪すぎるんで、着くなりあの方が降りて来たようだ。
つづいて叫んだのは、セリアだった。
「…… 様と子と聖霊の御力によりて、奇跡を与え給え。絶対防御の法!」
オレらの周囲を目に見えぬ防御壁が囲う。
と、ほぼ同時ぐらいに、木々の間から人とも獣ともつかぬ小さな生き物が現れ、跳びかかってきた。が、セリアの張った結界に阻まれ、はね返り、地面へと転がった。
「勇者様、全ての精霊を呼び出してください。絶対防御の法は時間が経てば効果が無くなります。その前に、結界を」
オレは頷き、八体の精霊全てに助力を願った。
炎のティーナ、水のマーイさん、風のアウラさん、土のサブレ、氷のグラキエス様、雷のエクレール、光のルーチェさん、闇のソワが姿を現す。
小悪魔風の七色ファッションのルーチェさんが何か言って欲しそうだったんで、『似合ってますね』とだけ思っておいた。『それだけ?』と不満そうだったが、とりあえず無視。
「全員で、オレらの護衛を。アウラさん、グラキエス様、ルーチェさんに指揮は任せる。他の精霊達を使用していい、ふさわしい守護結界の維持を頼む」
《おっけー》
《よろしくってよ》
《わかりました、勇者ジャン》
しもべ経験が豊富な三体に任せておけば、安心だ。
呪文を唱えながら、いろんなポーズをとっているセリア。次の古代技法の仕込み中だ。
左手に抱くクマのぬいぐるみと何やら相談しているサラ。炎攻撃をすべきか状況を見定めているのだろう。
肩の小鳥とボソボソ話しながら、準備動作をしているジョゼ。いつでも戦えるよう体をならしているんだ。
そして、両足を大きく開いて立ち、両腕を組み、顎をつきだしているマリーちゃん。その顔には鼠を前にした猫のような笑みが浮かんでいた。
何時、戦闘になってもおかしくない緊迫した状況だ。
そんな中、オレは……
マリーちゃんの横に立ち……
お師匠様から渡された目隠しをした。
出発する前、セリアは説明した。
魔界とは、Sランクの魔族のみが赴ける、魔族達の交流場所なのだと。
二十八代目勇者の代の学者ランベールの日記から、魔界の様子は伺える。
当時、魔界には十二の実力者がいた。魔界貴族と呼ばれていたらしい。それぞれが魔界に支配地を持ち、配下の魔族を従え、他の魔族と戯れの外交と戦争を繰り返していたみたいだ。
魔界には王も存在した。だが、王を倒せばその者が王にとって代われるシステムだし、全魔族を支配できてたわけではない。あくまで『魔界』と呼ばれる空間の暫定的な王に過ぎなかった。
そして、王や貴族を倒せば、誰しも王にも貴族にもなれたわけだ。
ランベールの時代より既に千五百年。
魔界も当時のままという事はないだろうが、根本的なシステムに変化はなかろうとセリアは言った。
魔族の掟は弱肉強食。
強者こそが絶対者であるという思想の下に、王もしくは貴族、或いはそれに類した存在が魔界に居るはずだ。
魔界では、強い存在だけが、他を支配し、心のままに生きられる。
弱者は奴隷扱いだ。無聊を慰める道化に堕されるも、他の魔と合体させられ別の存在に創り変えられるも、生死すらも、主人次第になるのだ。
『仲間とするのなら、王か貴族級の方を』と、セリアは言った。
『魔界に赴けるのはSランク魔族のみとはいえ、部下は付属物扱い、ランクに関係なく魔界入りできてしまいます。又、魔界生まれの魔界育ちのものも、Sランクではない可能性が高い。大物を仲間にできないのならば、わざわざ魔界へ行く意味がありません』
とはいえ、『仲間になってくだーい』とバカ正直に頼んでもダメだろう。光の加護を受けるオレは、魔族の敵だし。
『魔族の闘争本能に訴える作戦でいきます』
セリアはメガネのフレームを押し上げながら言った。
『魔族は戦いを好みます。弱いものイジメも好きらしいですが、好敵手との好勝負が最も好まれるみたいです。強い敵と見るや、王や貴族が自ら出向いて来て戦うようです。きわどい勝負の末に、強い敵を叩き潰すのが何にも勝る快感らしいです』
戦闘マニアなわけだ。
『なので、魔界に行ったら、まず我々の存在をアピールします。戦闘力の高さを示せば、その地の支配者級の存在が嬉々として対戦にやって来るはずですので……その機を逃さず萌えてください。それまでは小物に萌えぬよう、目隠しをご着用くださいね』
Sランクの魔族は攻撃力だけならば、神族をも凌駕しているらしい。
そんな凄い相手に、オレらが存在をアピールできるのか疑問だったが……
杞憂だった……
「魔界に棲くうクズどもよ。人を堕落させ、食い物にするゴミどもよ。存在自体がきさまらの罪だ。内なる俺の霊魂が、マッハで、きさまらの罪を言い渡す」
『マッハな方』は大暴れだ。
「有罪! 浄霊する!」
前に、マリーちゃん言ってたよな。
『私〜 邪悪な存在に出逢うと、人格が、変わってしまって〜 『マッハな方』は、邪悪を、駆逐しきるまで、私から、離れません〜』と。
魔界にあるもの全てが邪悪。マリーちゃん、ずっと憑依されたまんまなんじゃないか?
最初こそ小物しか居なかった為か大人しかった。が、後から後から魔が襲ってきている今、『マッハな方』はあの魔法をぶっぱなしまくっている。
「その死をもって、己が罪業を償え・・・終焉ノ滅ビヲ迎エシ神覇ノ贖焔!」
今ので五度目? 六度目?
魔族の断末魔の叫びが聞こえる。
目隠ししているんで惨状は見えないが、いっぺんにあがる悲鳴が十や二十じゃきかないような……
マリーちゃんに降りて来た方は、そこに存在していたものを消し去り、騒ぎを聞きつけてやって来たモノ達も遠慮なく祓いまくっている。
魔界まで乗り込んで有無を言わさず浄化しまくるとか……見かけたら消滅させるとか……人間に対し悪事を行ってるか調べもせず有罪判決するとか……オレらの方が悪に思える。
時々、セリアが先制攻撃や絶対防御の法を唱えている。古代技法が発動した後に駆けつけた奴も、その後の技法の餌食になってるわけだ。
相手にまったく手出しさせないとか、あらゆる攻撃を防ぐ結界に籠るとか……
ますます悪役っぽいぞ、オレら。
敵が魔族じゃなきゃ、勇者資格を剥奪されかねない極悪さだ。
まあ、仲間ががんばってくれてるんだし……良しとしよう。
オレの現在の心配は……
この地の支配者魔族が、どんな姿で現れるかだ。
『魔族はたいそう美しいのだそうですよ、勇者様。上級の魔族ほどその美は完璧となり、人間が触れる事のできる肉体を持ち、男女の姿を望みのままにとれるのだそうです』
いくら美形でも男じゃ萌えられん。
男の姿だったら挑発して女性化させてみせる、とセリアは自信満々だったが……
《僧侶ごときが、美しきノーラの領土を穢すか?》
音楽的な色っぽい声が頭上からした。ハスキーだけど、よく通る、透明感のある声……
女の人の声?
女の人の声だよな!
《その程度の能力で思いあがるな!》
キ――ン! と、耳をつんざく不快音が響き渡った。
ゾゾッとするような生理的嫌悪感を誘う音だ。
《結界が消されました》と、ルーチェさん。
《学者の支援技法『絶対防御』も消されましたわ》と、グラキエス様。
《違う結界を張り直すね》と、アウラさん。
「判断は任せる! 絶対、みんなを守ってくれ! 頼む!」
経験豊富な三体に、他の五精霊を協力させてるんだ。防御方法をひねり出してくれるはずだ。期待する。
「……大物のようだな」とつぶやいたのは、お師匠様だ。
敵が大物ならば見なくては……しかも、女性形態だし。
オレは目隠しを外した。
周囲には何もなかった。
そこらにあった木々が根こそぎなくなり、オレらは丘みたいに盛りあがった場所のてっぺんに居た。
『マッハな方』の魔法は神聖魔法。物理的な攻撃力はない。なのに、木が無くなり、地面までえぐれているということは、木も土も魔界の穢れに染まりきっていたって事だろう。
オレは頭上を見上げ……硬直した。
空に、いっぱい魔族が居る。
二つの黒い翼を、羽ばたかせる魔族。
その姿は……
男女それ以前だった。
前肢が翼で、黒くて小さくて……
蝙蝠じゃん!
背中に蝙蝠の翼をはやした人間型美人なら、たぶんキュンキュンできる!
けど!
アレは無理!
女……いや、メスでも無理!
蝙蝠そのものじゃ、萌えられねーよ!
「少しは骨がありそうだな」
オレの横で、ククク・・・とマリーちゃんが笑う。とっても楽しそうに。
「己の世界と魔界で悪事の限りをつくす、愚昧なる魔族よ。存在自体がきさまの罪だ。内なる俺の霊魂が、マッハで、きさまの罪を言い渡す」
あ、ちょっと待って、マリーちゃん! じゃなかった『マッハな方』!
「有罪! 浄霊する!」
今回は有力魔族を仲間にしにきたんで、有力魔族まで浄化しちゃったら来た意味がなくなってしまって、アレは蝙蝠だけど他の姿になれるかも、
「その死をもって、己が大罪を償え・・・真・終焉ノ滅ビヲ迎エシ神覇ノ贖焔!」
なんか、いつもと呪文が違うんですけど!
尼僧姿の聖女から光が一気にふくれ上がり、どデカい白光の玉と化してゆく。光の広がり方が大きい。いつもの倍? いや、それ以上だ。
「ククク・・・滅べ」
聖女が呟くと同時に、強大な浄化魔法が爆発的に周囲に広がっていった。
と、同時に、天からも闇の雨が降り注ぎ……
聖なる光と邪悪な雨は宙でぶつかり……
凄まじい衝撃を生み出したのだった……
* * * * * *
目がさめたら、一人だった。
空が血のように赤い。
ゴツゴツとした岩地に、ひっくり返っていたみたいだ。辺りには何もない。どっちを見ても、どこまでもどこまでも岩場が続いているだけだ。
なまあたたかな空気がくさい。タマネギが痛んだみたいなにおいだ。
「お師匠様……?」
首をひねりながら、見知らぬ場所を見わたした。
誰もいない。
お師匠様すらも。
オレは体を起こした。背にはリュック。腰には剣と小袋がぶらさがっている。
ノドがヒリヒリ痛い。腹も鳴った。
リュックの中をあさると、お師匠様のモノがあった。何でオレのリュックの中にあるのかわからなかったが、とりあえずほっといて、水筒でノドをうるおし、パンとチーズを取り出した。
ノドは楽になった。でも、変な匂いがするせいか、パンもチーズも美味しく思えない。
見上げると、空の色は赤紫に変わっていた。
気持ち悪い色だった。
なんで、こんな所に一人なんだ?
食事を切り上げ、辺りを見回した。
「お師匠様?」
どこか近くにいるはずだ。
でも、どっちへ行けばいい?
視界がひらけた岩地には、何にもないし、誰もいない。
『私がおまえを導こう』
お師匠様は、いつも冷たい顔でオレを見る。
だけど、オレが熱を出した時は、つきっきりで看病してくれた。
オレの大好きな『鳥肉の丸焼きのポテト添え』を誕生日に作ってくれた。
お師匠様がオレを見捨てるはずがない。
むやみに歩き回るより、ジッとしてる方がいい。
待とう……
オレは、リュックをしょったまま座った。
水音がした。
雨かと思ったけど、そうじゃない。
ちょっと向こうに、お師匠様が見えた。
白銀の髪で白銀のローブ。いつも通りのお師匠様だが、通り雨にあったのか全身がずぶぬれだ。
「お師匠様!」
かけよりかけて、あれ? と、思う。
いつものお師匠様じゃない。
お師匠様がにっこりとほほえんでいる。
そんなこと、ありえないのに……
でも、前にもこんなことがあった……
お師匠様じゃないお師匠様が、オレに笑いかけたんだ……
いつ?
どこで?
頭が痛い……
お師匠様は笑わない。
あんな風にオレにほほえみかけてくれるのは、お師匠様じゃない。
ベルナ母さんだ。
ジョゼのお母さん。
母さんが亡くなったオレにとっちゃ、本当の母さんも同じ人だ。
気がつくと、オレの前の女性はベルナ母さんになっていた。
黒髪で、すらりと背の高い、美人だ。
母さんの全身がぬれている。泳いできたばかりみたいに。
ベルナ母さんが両手を広げる。
『おかえり』。
庭が見える。
ジョゼやサラとよく遊んだ、ブランコがゆれている。
『おいで』と母さんが笑う。
『ジョゼたちを呼んどいで。ケーキが焼けたよ、みんなでお食べ』。
オレは……
帰ってこられたのか……
ずっと帰りたかった家に……
また、今日から、みんなといっしょだ。
ジョゼともサラとも、ベルナ母さんとも父さんとも……
オレは母さんに抱きついた。
オレのハートは、キュンキュンと鳴った……
心の中でリンゴ〜ンとカネが鳴る。
欠けていたものが、ほんの少しうまっていくような感覚がした。
《あと四十六〜 おっけぇ?》
と、内側から声がした。が、今はどうでもよかった。
明るくて元気な母さん。抱きしめられると、気持ちがいいんだ。胸がぷるんぷるんで、あったかくて、やわらかくって。
大好きな胸に顔をうずめようとしたら……
「儚キ夢幻ヨリ舞イ堕リシ天獄陣!」
オレの後ろから、まばゆい光が広がった。
ベルナ母さんが悲鳴をあげる。 巨大な光の矢が、母さんを貫いたんだ。
一本ではない。何十本もの矢が母さんの体にささる。
「ベルナ母さん!」
オレが抱きついていた人が消え失せる。飴のような水となって地面へとこぼれてゆく……
なんで……?
「幻術だ」
後ろから女の人の声がした。
「きさまが萌えたのは、スライムだ」
オレの足元に水たまりが出来ていた。光の矢に刺されたまま、水の端っこがうねうねと動いている。
「幻術フィールドを作り獲物を誘いこんでは、内部にとりこみ消化する。幻術以外、これといった能力のない、低級低俗低能な肉食下等生物だというのに・・・つまらんものを伴侶としたな、マリーの下僕よ」
幻……? 今のベルナ母さんが……?
振りかえるとそこには、尼僧がいて……
白銀の女性もいた。やれやれというように、頭を静かに振っている。
「お師匠様!」
むかえに来てくれたんだ!
お師匠様なら絶対来てくれると思っていたんだ!
気持ちのまま動いた。
お師匠様にぎゅっと!
て?
あれ?
変だ。
「ジャン……?」
お師匠様が不思議そうに聞く。
「どうしたのだ、おまえ?」
おかしい……
抱きつくのをやめ、オレは少し離れた。
お師匠様を見つめる。
オレとお師匠様と目がぴったりと重なった。
「……お師匠様、ちぢんだ?」
「は?」
「じゃないか! オレがのびたのか!」
すごいや、オレ。お師匠様の胸ぐらいしかなかったのに。
「ひとばんで、大きくなったんですねー」
「ジャン……」
お師匠様のスミレ色の目が、ジーッとオレを見つめる。いつもは見上げていた顔が、おでこがくっつけられそうなぐらい近くにある。
「てか、ここどこです? オレ、賢者の館から出て良かったんですか? 本物の勇者になるまで出ちゃだめだって、お師匠様が言ったのに」
お師匠様がマユをしかめる。
「……おまえ、いくつだ?」
「やだなあ、お師匠様」
思わず笑ってしまった。
「このまえ、誕生日だったのに。十才になりました!」
お師匠様はおでこに手を当て、尼僧さんはフッと鼻で笑って肩をすくめた。
「記憶喪失か・・・よりにもよって、わざわざ魔界でなるとは・・・まったくもって使えん下僕だ」
きおくそうしつ……?
尼僧さんがつくってくれた結界の中に、オレとお師匠様はこもった。おっかない顔の尼僧さんは何故か結界内に入ろうとせず、足をひらき、両手を組んで、辺りを見わたしていた。
ンで、時々、スライムをうりうりと足の裏で踏んづけていた。矢がささって動けないスライムがじたばたするのを楽しんでいるようだ。イジメっ子だ。
魔王が目覚めるのは四十六日後だと、お師匠様が教えてくれた。
「……退行だな。おまえは心だけ十才に戻ってしまったんだ。魔法をかけられた為か、外傷性のものか、ストレスからかはわからんが……」
本当のオレは、今、十八才……?
魔王があらわれたんで、本物の勇者になった……んだそうだ。
オレに与えられた勇者の使命は、魔王戦までに百人の女の子を集めること。
この魔界にも仲間さがしに来たらしい。
さっきスライムを仲間にしたんで、あと四十六人なのだそうだ。
女の子百人を仲間にする勇者か……
そう聞いて、がっかりした。
ヒーローっぽくない。
伝説の剣の振るい手とか、無敵格闘技マスターとか、変身勇者とか、お師匠様みたいな竜騎士とかが良かったのに。
「精霊を呼べるか?」
今のオレは八大精霊の支配者らしい。
それは気に入った。ちょー強い精霊をしもべに使役できるなんて、カッコいい。
精霊の名前を教えてもらい、それぞれと対応するアクセサリーをにぎったりしてみた。
が、何もなし。
どの精霊も、声が聞こえないし、姿も現してくれない。
「……記憶の無い今のおまえには、応えてくれぬか……」
お師匠様がむずかしい顔となる。
「精霊界に帰還したのでなければ良いが……」
事故にあって、勇者一行はバラバラになっているのだそうだ。
「サラとジョゼには、それぞれ精霊がついている。彼らの加護があれば魔界でも数日は生きられよう。だが、セリアは……最悪の場合、死亡しているだろう。古代技法は周囲の助力がなければ行使できんからな」
オレが記憶を失う以前に出した命令『絶対、みんなを守ってくれ!』を精霊たちが守ってくれていれば、セリアって人も生きてるかもしれないのだそうだ。
オレは空を見上げた。
今はピンク色に変化した空。
この世界のどこかに、オレの仲間がいる。セリアって学者さんとサラとジョゼだそうだ。
ひとみしりで甘えんぼうのジョゼが、今、一人ぼっちなのかと思うと気が気じゃない。サラだって、オバケやムカデが大きらいだったし……心配だ。
「あ、そうだ」
オレはリュックの中から、お師匠様のモノを取り出した。
「オレの荷物の中に入ってました。これ、お師匠様の本ダナのヤツでしょ?」
「ジャン……」
お師匠様が目を細め、大きく息をはいた。
「表紙をよく見ろ……それは、おまえのモノだ」
そう言われ、表紙を見た。
『勇者の書 101――ジャン』と書いてあった。
「あれ?」
オレの『勇者の書』のようだ。
* * * * *
『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き
(お師匠様に書けと言われたから、書いてみた)
●女性プロフィール(№054)
名前 スライム
所属世界 魔界
種族 スライム
職業 スライム
特徴 不定形生物。
アメみたいな水でできていて
好きな形がとれる。
戦闘方法 体内にとりこむ
年齢 わからない。
容姿 卵をわって中身を
お皿に出した感じ。
でも、変化すると、
どんな姿にもなれる。
お師匠様やベルナ母さんにバケた。
口癖 しゃべれるの?
好きなもの お肉。
嫌いなもの 光の矢。
勇者に一言 しゃべらないと思う。




