アナベラのひとりごと (※)
アナベラとリーズが、二人で旅を始めた時からの話です。
「オレは金がほしかったの。遺跡盗掘の支度金さえいただきゃ、勇者一味に用はねーんだよ」
髪は短いし、シャツにズボン姿。
リーズは男の子みたいなカッコーが好きで、男の子みたいにしゃべる。
でも、目は大きいし、顔はかわいい。ランボーなのはあんま似合わない。
「護衛なんざいらねーよ。つーか、ド素人について来られても邪魔。ちゃんとお宝は七三で分ける。七を勇者に届けるからさ、聞きわけて帰ってくんない?」
そーいうわけにはいかない。
だって、イザベルさんが言ってたもん。
えっと……
リーズの旅は危ない、血がいっぱいだって。
だから、リーズが遺跡でお仕事をする間、あたしが護衛する。あたしがリーズを守る剣になるのだ。
「占い女のたわごとなんざ、本気にすんなよ。オレは一人で大丈夫だ。あんたなんかいらねえ。ついてくんなよな」
だめ。
イザベルさんの占いは、絶対、当たるもん。
あたしが居ないと、リーズがケガしちゃう。
いっしょに行くって言ったら、リーズは舌うちしてジャンプした。
塀からひょいひょい高い建物にのぼって、ピョンピョン跳ねて遠くへ行ってしまった。
「あばよ、ねーちゃん。伯爵邸に帰りな」
リーズの方が足が速い。体も身軽。
だけど、あたしは十才から傭兵をやってきた。女だから、身軽さと柔軟さを生かすよう鍛えてきた。岩場渡りは得意。屋根を逃走中の賊をつかまえたこともある。
それに、お仕事がない時、いろんなバイトをやってきた。煙突そーじとか、大工さんのアシスタントとか、軽業の相手役とかー
けっこー道なき道を行くのは得意ー
屋根にのぼって、リーズを追っかけた。リーズほどぴょんぴょんできないけど、ハシゴなくたって、ぜんぜん、へーき。
「なんで、あんた、ついて来られるんだよ!」
屋根から塀、道に下りてから、又、塀へ。
段差に手間取ってると、置いていかれやすい。
だけど、少し距離が開いても、へーき。リーズの気配は覚えてるから見失わない。盗賊が逃げたがるコースもだいたい読める。
それに、持久力はあたしのが上。リーズはまだ子供だから、体ができあがっていない。
バテるのが早い。
追いつくのはかんたんだった。
あたしは、えへへと笑った。
そのうちリーズはあきらめた。逃げなくなった。でも、
「オレから十歩はなれて歩けよ、ねーちゃん。あんたの仲間と思われたくない」
一人で歩きたがる。
そーいうわけにもいかない。街中でリーズが刃にさらされたら、たいへん。
手をつないであげたら、急いで振りほどかれてしまった。
「触るなよ、バカ! ガキじゃあるまいし、手なんかつなげるかよ!」
いくつ? って聞いたら、十四だって答えた。
やっぱり、あたしの方が、ずーっとおねーさんだった。
いくつまでなら手をつないでいいの? って聞いたら、
「知らねえよ」
と、リーズはそっぽを向いた。
「誰かと手ぇつないだことなんてねえもん」
おかーさんとも?
「居ねえよ、そんなの」
どーして?
「オヤジに愛想つかして出てったか、オレを産んで死んだかだろ?」
おとーさんとは、手をつながなかったの?
「オヤジがガキのメンドーみるかよ」
リーズは、おとーさんの部下達に囲まれて大きくなったのだそうだ。
「ものごころついた時から、スリやかっぱらいを仕込まれてきたんだ。おててつないで優雅にヨチヨチなんて、お坊ちゃんやお嬢ちゃんだけだろ」
そんなことないのに。
手をつないであげた。
リーズは照れた。
「離せよ、バカ!」
大きな声で怒鳴った。
けど、離してあげない。
あたしが本気になれば、リーズは手をほどけない。
「やめろよ! 離せよ! おい!」
あたし、手をつなぐの大すき。
前後に大きく手を振って歩く。
昔、おとーさんとおかーさんと手をつないだ時みたいに。
「やめてくれよ! ただでさえ、あんた素っ裸で目立ってるのに!」
裸じゃないよー
ビキニアーマーつけてるもん。
「紐ビキニじゃねえか! 胸の先っぽと下をほんのちょっと隠してるだけだろ! 着てるとはいわねーよ!」
む。
特別注文なんだ。
世界で一つしかない、すっごいアーマーなんだぞー
ここは勝負! って時に着れば、絶対、勝てるんだからー
「あーもう! わかった! すごい鎧だよなー わかったから、手ぇはなせ!」
だめ。
「頼む! もう逃げない! 絶対、逃げない! だから勘弁してくれ!」
おかーさんたちが生きていたころ、あたしが真ん中になって三人で手をつないだ。三人でぶんぶん手を振りまわした。
真ん中のあたしは、宙に何度ももちあげられた。
ブランコみたいにゆらゆらされるのが、大すきだった。
「ちきしょー、公開羞恥プレイかよ……オレまでバカみたいじゃねーか……」
リーズは、そのうち静かになった。
頭をうなだれたリーズと手をつないで街の中を歩いた。
照れ屋のリーズは首まで真っ赤。かわいかった。
街や大きい村に泊まると、リーズはこっそり出かけたがった。
夜中に起き上って、あたしが寝ているのを確認してから出てこうとするのだ。
もちろん、いつも止めた。
一人にしたらリーズが危険だもん。
血だらけになっちゃう。
「ちくしょー! よく寝てると思ったのに!」
そんなことはない。
お仕事中は、浅くしか眠らない。
「あんた、おかしいよ! 刹那のスリ技を見切るし、神速のオレ様を捕まえるし! その上、気配まで読んで!」
おかしくない。
傭兵だから。
「警備ヘボそうな屋敷があったのに! あの成金そうな家構え! ぜったいしこたま貯め込んでるはずなのに!」
何で泥棒したいの?
スリも。
あたしがちょっと目を離すと、リーズはお財布をいっぱい持ってたりする。全部、とりあげて落し物で届けたけど。
お金なら、オランジュ伯爵さまからいっぱいいただいてる。旅の資金はたっぷりある。
「使わねえと技が錆ちまうもん! 日々の鍛錬がものを言うんだぜ」
それは、そうかも。
あたしも、剣術や体術の稽古はかかせない。
んじゃ、あたしが練習相手になったげる。
あたしのお財布を狙って。
あたしと追っかけっこをしよう。
あたしを出しぬいて宿屋から出ればいい。
スリと泥棒の練習になる。
「あんたが練習台?」
リーズは嫌そうだった。
「すっぽんぽんじゃスリの練習相手になんねーよ、バーカ。服の膨らみや歩き方から、どのへんに財布があるか予想するんだぜ?」
んじゃ練習の時はビキニアーマーの上に服を着るーと言ったら、
「ずっと着てろよ、バカ! 露出狂! 変態!」
リーズは怒鳴った。
もー おねーさんにバカバカ失礼だぞ〜
お仕置きに、後ろから羽交い締めにして、ぎゅ〜と締めてやった。
あたし用のマントと服を買った。着るのは練習の時だけだけど。
昼間は移動で忙しいから、リーズとの練習は夜。宿屋に泊まってからか、野宿の時は寝る前。
ついでに、剣術の稽古もつけたげた。
リーズはダガーの扱いがうまいけど、素早さを生かしてるだけだ。
自分の有利になる間合いがわかってなかったし、突くばっかで攻撃は単調だった。
あたしがちょっとコツを教えてあげると、リーズはめきめきと強くなっていった。のみこみがいい。頭がいい。剣術の勉強だと素直だー
あたしたちはどんどん仲良くなってったんだけどー
南の大きな街で、あたしはついにリーズにやられてしまった。
一階が食堂の宿屋。
ルームサービスもあったんで、あたしたちは部屋で食べた。
香辛料たっぷりの辛めの肉料理とサラダにパン。リーズは果物ジュースも注文した。
リーズは、けっこー食事にうるさい。旅をするのなら地元の美味いものを食べなきゃ損だ、と言う。庶民料理にしか興味ないから、高級料理店には行きたがらないけど。
「甘酸っぱ! ちょっと癖があるけど、イケルぜ」
リーズは南国果物のジュースが気に入ったようだ。
あたしも飲んだ。
酸味があって、ちょっと舌にピリピリした。でも、新鮮な果実を絞ったばっかだから、美味しかった。
ごくごくっと飲み干してから、舌に違和感を感じた。
果汁にだいぶごまかされてるけど、覚えのある不快感が口に残ったんだ。
薬くさかった。
「薬ぃ? そーいう味の南国果物なんだろ」
リーズのは大きな瞳が、クリクリしている。期待と興奮で落ち着きが無い感じ。
あたしはおトイレで、胃の中のモノを吐き出した。
吐き出したんだけど……
全部を出す事はできなかった。
意識が遠のいてしまった……
で、ちょっとの間だけ、眠っちゃった。
頭がモーレツに痛かったけど、無理やり起きた。
部屋に戻ると、リーズは居なかった。
あたしに睡眠薬を盛って、盗賊のお仕事に行ってしまったらしい。
両手剣を背負い、あたしはリーズを探しに出た。
「どーして、オレの居場所がわかったんだ?」
リーズの気配は覚えてる……
どっちに居るかは、だいたいわかる……
「あんた、犬かよ!」
ちがうよー 匂いじゃないよー 気配でわかるんだ……
「霊能者かよ!」
ちがうって、傭兵だよ……
リーズの手をひっぱって走った。
できるだけ遠くへ行かなきゃ……
「なんで来たんだよ?」
リーズがケガしたら、たいへんだから……
「しねーよ! そりゃあ、ちょっとドジふんだけど、あれぐらいオレ一人で」
きみ、無茶しすぎ。
昼間、大きなお家の前で腹たててたでしょ?
お貴族さまの別邸。お金にものをいわせて、街で好き勝手やってるって噂を聞いて……
「オレは貴族が嫌いなんだよ!」
うん……
「金と身分のあるバカほど始末の悪いもんはねえ! オレは金持ちしか獲物にしねえんだよ!」
うん……
だよね……
だから、前、高級馬車から降りた勇者さまを狙ったんだよね……
でも、下調べもなしに、貴族の別邸に行くとかムボー。
「あんたがへばりついてっから、下調べできねーんだよ!」
護衛だって居るだろうし……
危ないと思った……
「侵入はバレたよ。けど、めぼしいものいただいた後だし、顔は見られてねえ。うまいこと逃げきったんだ」
うん……
「なのに、あの用心棒、妙に勘がよくて……裏道に居たオレを見つけて身ぐるみ脱げって迫ったんだ。証拠もないのに、泥棒の一味だって決めつけやがって」
きみがかわいいからだね……
「なに言ってるんだよ! あんたバカだろ!」
そーでもない。けっこー居るんだ。そーいうダメな大人。仕事にかこつけて、悪さするんだ……
きみはかわいいから……
人目につかない所に、一人で居たから……
狙われちゃったんだ……
「べ、べつに、あんなの、オレだって倒せたし……いざとなりゃ逃げりゃいいし……」
うん……
リーズでも倒せたよね……
あれぐらいの剣技なら、多分……なんとか……
「あ? おい、ねーちゃん、大丈夫か?」
でも、一人だったら、ケガしちゃったかもしれない……
イザベルさんが言ってた……きみの未来に血が見えるって……
「しっかりしろよ、立てるか? なー、おい!」
一緒にいよう……
あたしが守ってあげる……
あたし強いんだぞ……
戦士ギルドのランクは低いけど……
お仕事、失敗したことないし……
必ず勝つアーマーつけてるし……
「ねーちゃん! さっきまでシャキシャキしてたじゃねえか! あのブ男、一発でのしてくれたじゃん!」
きみに何かあったら、みんな、悲しむ……
おとーさんも、勇者さまも、イザベルさんも、みんなも……
あたしも……
だから、リーズ……
「わかった! わかったから、しっかりしろ! 立て! 頼む、アナベラ…………道端で寝るな〜っ!」
目を覚ましたら、朝日が目にしみた。
マントをかけられて、どっかの家の壁に背もたれていた。
あたしは、お外で寝てしまったらしい。
すぐ隣にリーズが居て、あたしと並んで座ってた。
ずっとそばに居てくれたの? って聞いたら、にらまれた。
「あんた、素っ裸なんだもん。夜の街に一人で転がしとくわけにはいかねーよ」
マントはからんできた酔っ払いから、巻き上げたのだそーだ。
犯罪はいけないぞ。
「慰謝料だよ。あいつ、あんたにエッチなことしよーとしたんだぜ」
あたしのテーソーを守ってくれたのか。
ありがとーって言ったら、リーズはますます不機嫌そうな顔になった。
「南国だからどーにかなったけど、外で夜明かしとかバカみてえ。宿とったのにさ……」
リーズが睡眠薬を飲ませるからだよ。
リーズがあたしをにらむ。
「あんた、重すぎ。胸とケツに脂肪ため過ぎだよ。ひきずってもろくに運べやしねえ」
むぅ。
人をおデブみたいに〜
「デブじゃん、胸とケツは」
生意気な子は後ろから羽交い絞めにして、ぎゅっとしてやった。
「ごめん! デブじゃない、ぷるんぷるんのぷりんぷりんだったよな!」
もう薬を使わないでよとも、脅した。
「使わない! あんた寝かしたらたいへんだってわかったから! もう絶対しない! だから離して!」
ちょっとだけぎゅうぎゅうしてから、許してあげた。
リーズはいい子だ。
あたしが寝てる間ならどこへでも行けたのに、そばにいてくれた。
リーズも、あたしを大切に思ったくれたんだ。
えへへと笑みがもれた。
それから、ずーっといっしょ。
古代遺跡のスゴいトラップを発動させちゃったり、盗掘団と出くわして戦闘になったりで、けっこー危険な目に合った。
でも、リーズは無事。
大きなケガはさせてない。
これからも、しっかり守る。
「アナベラ」
リーズが目で合図を送ってきた。
視線の先は床の岩板。四つのブロックだけちょっと盛り上がってる。
それから、リーズは天井を指さした。
トゲトゲだ。
あそこ踏むと、天井が落ちてきて串刺しなのか。
古代遺跡は、泥棒よけのトラップがいっぱいだ。
ほんのちょっとだけ見た目が違う岩を避けて進んでたら、別のトラップが発動した。
壁面から矢が飛び出してきた。
標的はリーズだ。
切り落とした。
リーズが口笛を吹く。
「ほれぼれするねー バカだけど、あんた剣技はちょ~一流だ」
むぅ。
それ、ほめてるの?
「あんたは剣の腕っぷしだけは一流、オレは冴えた頭脳と盗賊の腕前が一流。オレたちいいコンビだよなー」
また始まった。このとこ毎日、リーズはあたしを誘う。
「なあ、魔王戦の後も、コンビ組もうぜ。あんたみたいなおひとよしのバカは、ずる賢い奴らの餌食だったんだろ? しょーがねえから、オレ様がこれからずっとメンドーみてやるよ」
むぅ。
えらそー。
あたしの方がずーっとおねーさんなのに〜
「あ? ごめん、すねるなよ。六四でいいからさ。オレが六であんたが四。な?」
分け前分配の提案は、最初は八二だった。
リーズなりに気前のいいところを見せてるみたい。
でも、あたしは傭兵だ。泥棒になる気はない。
「んじゃ、雇う。オレ専属傭兵ね。盗掘中心にすっからさ、一緒に稼ごうぜ」
魔王が目覚めるのは四十八日後だと、リーズが教えてくれた。
あと何日だって毎日教えてくれる。
あたしは、今は勇者さまの仲間。
勇者さまの傭兵だ。
先のことは、魔王戦の後に決める。
返事は保留にしてるけど……
リーズがお得意さんになってくれるなら、食いっぱぐれなさそう。
いっしょに何かするのは楽しいし。
リーズと契約を結んでもいいかなー と、だいぶ思ってる。
でも、まずは今の契約をちゃんと果たさなきゃ。
魔王に勝つんだ。
あたしは攻撃して、100万と……
えっと……
100万とちょっとのダメージを出すんだ。
勇者さまのために、がんばらなくっちゃ!




