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ハーレム100  作者: 松宮星
英雄世界
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セリアの日記

○月×日

 勇者様の仲間となる。

 夢のようだ。この私が勇者様とご一緒にこの世界を救うのだ。学者として、知識をもってご協力しなければ! 


 勇者様は、まあ……残念な方ではあったけれども。

 百一代目勇者様は、二十四代目勇者様のように独立心に欠け、五十一代目勇者様のように無学な方だった。

 一言でいえば、子供だ。十八歳だというのに、賢者様(おや)離れをしておらず、精神的に幼稚だ。

 勇者とは、強く、賢く、正義感に満ち、道徳的で、悪を憎んで人を憎まない、美しくも頼もしい、この世を救う英雄。

 そうでなければいけないというのに!

 魔王戦までに、しっかり教育を施して、勇者様に好男子となっていただかなくては!


 夜、占い詐欺師が仲間となる。

 勇者様の仲間選びの基準が理解できない。

 内気すぎる格闘家、魔法を一切使えない魔術師、露出狂の戦士だ。聖女と名高き僧侶以外、まともな人間が居ない。このメンバーで魔王戦に勝てるのだろうか?

 勇者様に敗北は許されない。勝利へと勇者様を導いてさしあげなくては。



○月×日

 勇者様には人間観察眼も欠けていた。盗賊を無垢な弱者と思い込み、仲間に加えてしまった。愚かにもほどがある。

 くだらない理屈で感情的になって声を荒げもした。私に怒鳴ったのだ。子供だ。紳士ではない。しかし、正義感や慈悲の心があるとわかった部分は、収穫といえよう。


 発明家ルネさんと獣使いパメラさんが仲間となる。人格的に問題があるものの、二人とも戦闘力は高い。魔王戦では活躍してくれるだろう。



○月×日

 勇者様達は幻想世界へ旅立った。


 昨日、勇者様は、同性愛者の狩人カトリーヌさんと幽霊ニーナを仲間とした。

 幽霊に深く同情した優しさは、勇者らしい。好ましく思えた。

 しかし、ニーナを魔王戦で使わないとおっしゃった件は承服できない。

 アタッカーが一人減れば、それだけ、総ダメージ1億は困難となる。

 仲間とした者は誰であれ戦闘に参加させるべきだ。

 例外は私が認めない。

 ニーナの特性や能力に見合った戦闘方法を千慮し、提案しよう。勇者様を勝利へと導く為に。



○月×日

 シャルル来訪。

 婚約者のジョゼフィーヌさんが勇者様と共に幻想世界へ旅立ったと知って、がっかりして帰ってゆく。



○月×日

 カトリーヌさんが毎日、違う女性を部屋に連れ込む。仲間探しを名目にしているが、明らかな嘘だ。商家の娘さんに100万ダメージは無理だろう。

 あの惚れっぽい勇者様が、戦闘力ゼロの女性を目にしたら……ますますアタッカーが減ってしまうではないか。

 どうしたものか。



○月×日

 お母様の使いで、シャルル来訪。

 黄色いドレス・靴・リボン・ハンカチ・アクセサリー・バッグを押しつけられる。

 お母様の手紙には『今週のセリアちゃんのラッキー・カラーは黄色よ。セリアちゃん、お守りはね、身につけてこそ効果があるのよ。ちゃんとつけてね』とあった。

 又、お抱え占い師にくだらぬことをふきこまれたらしい。幾つになってもあの人は……



○月×日

 カトリーヌさんの部屋を別館に移動させた。これでカトリーヌさんが連れ込んだ女性が、勇者様と鉢合わせすることはないだろう……おそらく。



○月×日

 シャルル来訪。

 幽霊のニーナと遊ぶ約束をしたのだと言う。

 お母様からだと、あやしげな絵画を押しつけられた。子供の落書きのようなひどい出来。西に飾ると良縁に恵まれるのだそうだ。

 馬鹿馬鹿しい。

 とりあえず、笑顔で、礼儀正しく、令嬢らしくお上品に受け取る。

 シャルルは、お母様のお気に入りだ。ある事ない事をお母様に吹き込まれたくない。

『早く学者なんかやめて、結婚してちょうだい。セリアちゃん、あなたの守護星座は、来年、豊穣の座に位置するの。絶対、孫が産まれるわ。結婚よ、結婚しかないわ』

 お母様の占いかぶれは、年々、ひどくなる。

 結婚など……魔王が現れた今それどころではないのに。



○月×日

 シャルル来訪……

 一日おきに来るな、バカ……



○月×日

 ルネさんがお金の無心に現れる。先日お渡しした活動資金は、もう底をついてしまったらしい。

「ソーラーシステム搭載大型光粒子砲を開発中なんです!」

 魔法炉内で摂取エネルギーを圧縮し、レーザーパルスとして射出するシステムなのだそうだ。

「ただの大砲と思っては嫌ですよ。最大出力で照射すれば巨大な岩山だって吹っ飛びます! 晴れの日に三時間ひなたに置いておくだけで、連射可能! 怪力線ごっこにもぴったりの『最終兵器 ひかるくん』! 魔王戦におひとついかがですか?」

 専門外の為、原理は理解できないものの、魔王戦に有効な武器と判断。

 ソーラーパネル開発費と大型の魔法炉購入資金を合わせてお渡しする。



○月×日

 勇者様達が幻想世界から戻られる。

 ドラゴンやゴーレムなど、強力な仲間を得ていた。しかし、どのような仲間なのか、『勇者の書』を見ても、勇者様からお話を伺っても要領を得ない。

 仲間達の能力は正確に把握したい。個別攻撃でダメージが相殺される危険を回避し、効果的な合体技が編みだせるか千慮すべきだ。

『先制攻撃の法』を唱える私は、攻撃の面では魔王戦でまったく貢献できない。だからこそ、知恵を持って総合ダメージを伸ばせるよう助言してさしあげたいのに……勇者様は何故、わかってくださらないのか。


 サラさんが幻想世界で魔法を覚えられたとの事。努力を怠らぬ、前向きな姿勢は好ましい。しかし、結果が伴わねば意味が無い。必要なのは100万以上のダメージが出せるアタッカーなのだ。


 占い詐欺師が、精霊界行きを希望した。泥棒のような身のこなしができるのはわかったが、占い師風情が精霊相手に何の役に立つというのだ? 邪魔にならねばよいが。



○月×日

 勇者様が精霊界へ向かう。


 午後にやって来たシャルルに、ジョゼフィーヌさんは既に精霊界に旅立ったと教えてやった。

 悲劇の主人公よろしく不幸に酔いしれるバカ。何もかもが大げさで気障ったらしい。不愉快だが、してやったりな気分。胸がすいた。



○月×日

 シャルル来訪……

 学校へ行け! 学生!



○月×日

 ルネさんがお金の無心に現れる。

 現在、ドリルアームを開発中のこと。左腕に円錐状のドリルを装着し、回転させて敵を貫く必殺武器なのだそうだ。

「ただの掘削機と思っては嫌ですよ。ボタン一つで、ドリルパンチとなります! 夢の遠隔武器です!」 

 誰でも使えるお手軽武器とのこと。

 しかし、先日、光粒子砲の開発費をお渡ししたばかりだ。あちらは完成したのだろうか?

「『最終兵器 ひかるくん』に注目するとは! さすがセリア様。お目が、高い!」

 進捗が気になるだけだ。

「残念なことに、構造上の重大な欠陥を見つけてしまったんです! そのまま使うと、ブラックホール砲になっちゃうんで、設計段階からやり直してます! でも、大丈夫! 近日中に完成させますので!」

 成果は欲しい。オランジュ伯爵様から援助をいただいているのだから。

 両武器とも、きちんと開発するよう依頼し、ドリル用の魔法金属購入資金をお渡しする。



○月×日

 アナベラさんとリーズが、オランジュ伯爵家に一時帰宅。

 南方の遺跡探索に赴いていたもよう。

 古代文明の魔法剣と装飾品を持ち帰るものの、呪いがかかっていた。マリーさんの帰還を待って、呪を外してもらう事とする。


 西方の古代遺跡に向かいたいと、リーズは二人分の活動資金をねだってきた。

 アナベラさんと、又、共に行くようだ。あんなに同行を嫌がっていたのに。

 リーズが居ないところで、アナベラさんにリーズ豹変の理由を尋ねた。けれども、アナベラさんは「一人より二人のがいいってわかってくれたんだよー」とニコニコ笑うばかり。

 遺跡探索の旅で、何があったのだろう? 



○月×日

 ついに恐れていた事態が……パメラさんとカトリーヌさんが顔を合わせてしまった。

 カトリーヌさんに襲われてパニックになったパメラさんが、勇者様のお部屋をめちゃくちゃにして逃走した。



○月×日

 シャルル来訪。お母様からだと、緑のコップを渡される。今週のラッキーアイテムなのだそうだ。

 街からの苦情。パメラさんが動物を呼び寄せてカトリーヌさんから逃げ回っている模様。

 ルネさんがお金の無心に現れる。今は『めがとん パンチ』を開発中とのこと。『最終兵器 ひかるくん』とドリルアームはどうしたのだ?



○月×日

 ニーナが遊んでと現れた。

 私を誘うとは!

 オランジュ伯爵は多忙、パメラさんはカトリーヌさんから逃走中、今日はシャルルが来なかったからか。あのバカでも、ニーナの役には立っていたのか。

 好きな遊びを聞かれたので、読書と答えた。が、却下された。

 鬼ごっこは嫌だったので、昔語りをした。

 歴代勇者様のご活躍をダイジェストで、子供にも分かりやすくおもしろおかしく話した。


 尊敬する八十四代目勇者『サイオンジ サキョウ』様の話には熱が入ってしまった。

 しかし、ニーナには破天荒な五十一代目勇者様や、二十八代目・二十九代目兄弟勇者様の話の方が魅力的だったようだ。

 英雄世界の勇者様達は個性が強い方ばかりだ。勇者としての能力も格別にすぐれていた。

 あの世界は女性の社会進出が奨励されており、さまざまなジョブの女性が存在する。

 仲間探し向きではなかろうか?



○月×日

 どんなに長くとも精霊界には二十日しか滞在しない、と賢者様はおっしゃった。

 今日で二十日。

 戻られたらすぐにも次に赴く世界についてご相談がしたいところだ。が、不自由な精霊界からのご帰還なのだ、お疲れのはず。滋養のつくものを召し上がっていただき、休息していただこうと準備は万端に整えていた。


 昼過ぎから、シャルルやルネさんが伯爵家に顔を出す。

 勇者様のお部屋で、ニーナと共に皆でご帰還を待った。


 しかし……

 夜が更けても、勇者様達は戻られなかった。

「ジャン君のことだ、何処かでのんびりしているのだろう」と、シャルルはのんきに笑って帰った。「彼らならば大丈夫だ。あまり思い詰めてはいけないよ」と、帰り際に私を抱きしめてから。……余計なお世話だ、バカ。

「『ルネ でらっくすⅡ』をお渡ししてあるから、大丈夫です! 必ず勇者様達は戻ってらっしゃいますよ!」と、ルネさんもことさら明るく言ってから帰った。

《おねーちゃん、ニーナがいっしょにいてあげる。なかないでね》と、幽霊にまで慰められてしまった。


 皆、どうかしている。

 私は心配などしていない。

 精霊界は異世界人に対し、たいへん友好的な世界だ。事件など起きるはずがない。

 勇者様がどんなにマヌケな方でも……

 他人にすぐ同情する、騙されやすい方でも……

 子供なみに単純な頭脳しかなくても……

 惚れっぽくっても……

 考えなしでも……

 無鉄砲でも……

 無事に戻られるはずだ。

 賢者様や聖女が一緒なのだ、義妹や幼馴染もいる、おまけに占い詐欺師まで。

 必ず無事にお戻りになる。


 勇者様はこの世界の希望なのだ……

 お亡くなりになるはずがない……

 そんなことあってはならない。私が許さない……


 勇者様……



○月×日

 勇者様達が精霊界から帰還。


 勇者様が闇界を彷徨ってしまったせいで、帰還が遅れたようだ。そんな事だろうと思った。

 本当にマヌケで無能な方だ! 仲間の能力を測れないし! 『勇者の書』も子供の日記並みのひどい出来!

 仕方が無い。私が教え導いてさしあげよう。

 勇者様に、しっかり教育を施すのが私の役目なのだから。



○月×日

 勇者様達が英雄世界へ旅立つ。

 助言を聞き届けていただけて、本当に良かった。

 英雄世界の人間はすべからく英雄。それに、あの世界は人口が多い。仲間探しもたやすいだろう。


 正直に言えば、共に行きたかった。数多くの勇者様を輩出してきた憧れの英雄世界を、一目でいいから見たかった。


 けれども、私は百一代目勇者ジャン様の学者。

 百一代目勇者様が魔王戦で勝利を収められるよう準備を進めることが本分なのだ。物見遊山で観光している暇などない。


 ああ、そういえば……占い詐欺師が精霊支配者になっていた。

 占い師では戦力にならなかったのでたいへんありがたい。いっそのことこれを機に、占い師を廃業すれば良いのに。

 とりあえず、どんな能力を得たのか調査しておかねば。


 午後になってから、シャルルが現れる。ジョゼフィーヌさんもニーナも居なくなったのだ。当分、来るまい、せいせいする。



○月×日

 アナベラさんとリーズが、オランジュ伯爵家に一時帰宅。

 本当にすれ違いだ。

 勇者様が会いたがっていた事をお伝えすると、アナベラさんは「えへへ」と笑った。


 西方の遺跡探索に赴いていたもよう。

 古代文明の小剣と装飾品を持ち帰るものの、又も呪いがかかっていた。マリーさんが怪しげな呪文で解呪してくれた。


 今回持ち帰った小剣をリーズが、前回の剣をアナベラさんが装備する事となった。


 今度は東方の遺跡に赴くのだそうだ。

 又、アナベラさんと一緒に行くようだ、リーズは。


 そこで、占い詐欺師が現れた。水晶がリーズ達の帰還を教えてくれたのだと嘯いた。どうせ情報屋で情報でも買っているのだろう。

 占い詐欺師は非常に不愉快な事を指摘してきた。

「あら、セリアさん、ブレスレットはどうなさったの? 勇者さまが精霊界からご帰還なさった日はつけてらっしゃったのに」


 アカデミックドレスの袖で隠されていたものが、何故、わかったのだ? スリなみに目が鋭いのか。

 この女とまともに話すと、馬鹿をみる。二度と、この女の手管にのる気はない。だから、はっきり言ってやった。

「先日は、うっかり手にはまっただけです。もうつけません」と。


 私は迷信も占いもジンクスも信じない。

 お抱え占い師に騙され続けているお母様を、哀れな方だと思っている。


 だから、本当にアレをつけたのに他意はないのだ。

 勇者様の帰還が遅れたからといって、お守り代わりにつけたわけではない。占い詐欺師ゆかりの装飾品を装備することで向こうとの絆を深めたかったとか、それによって帰還しやすい環境を整えようなど、馬鹿げた思考をしたわけではない。


 占い詐欺師から貰ったアメジストのブレスレットを装備したのは、ただのきまぐれだ。

 そして、もう二度とつけない。


 つけられるわけがない。

 私が占い詐欺師に押しつけられたモノと、勇者様が雷の精霊と契約を結ぶ為に用いたアクセサリーはまったく同じデザインのブレスレットだったのだ。

 二人揃って身に着けたら……まるでペアアクセサリーではないか。


 私と勇者様がペアアクセサリーだなんて……

 ありえない!

 恋人同士でもあるまいし!


 魔王が目覚めるのは、五十九日後となった。


 占い詐欺師に心を乱されてなるものか。

 私は常に冷静だ。


 最後の日までなすべき事を続け、勇者様をお助けするのだ。

 私は、百一代目勇者様の学者なのだから。

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