白い姐さん 【シロ】(※)
寝るまで、特訓の時間となった。
お師匠様は賢者だ。
賢者は、勇者の教育係ってジョブ。賢者になった途端、あらゆるジョブの指導者になれる知識を、神様より与えられている。みんなの教師役なのだ。
お師匠様は、ジョゼの両手足に重たげな荷重バンドを着けさせた。
で、演武を繰り返すよう命じていた。腕力や脚力を伸ばすトレーニングみたいだ。
パメラさんには、オレの顔を見続けるよう命じた。
「人間とて、獣の一種。怖がる事はない。恐怖心が無くなるまで、見つめ続けるのだ」
びくびくと怯えながら、パメラさんがオレを見る。
神像のように美しいパメラさんと見つめ合えるのは、嬉しい状況だ。
けど、怖がった表情を張りつかせたまま、泳いだ視線を向けられるのはなあ……いろいろせつない。
お師匠様が最も時間を割き、熱心に教えているのはサラだ。
「幻想世界は大気にまで魔力があふれている……目を閉じ、感じるのだ。空気の中の輝く波動を……」
もとの世界で教科書を読ませたのは、魔法理論の学習だろう。
今は、イメージトレーニングの段階のようだ。
サラは、しかめっつらで、う~んう~んとトイレにこもっている人のような声をしぼり出していた。
魔法の波動を感じられないらしい。
お師匠様がジョゼやパメラさんの指導をしている間は、マリーちゃんがサラの指導をしていた。
優秀なマリーちゃんは、魔術師の魔法も使えるのだ。
「全ては、感じられなくても、いいのです~ サラさんと、波長のあう、ものだけ、探して、みましょ~」
「アタシと波長が合う?」
「炎は、いかが、でしょう~? 情熱的な、サラさんなら、炎と、同調、しやすいと、思います~」
怒りっぽいしなあ、サラ。炎ならイケそうだよな。
オレの視線に気づいたサラがキッ! と、こっちを睨む。見るな! って感じで。
お互い、明るい火の側にいるんだもん。しょーがないじゃん。
パメラさんと向かい合うオレの背には、ミーが抱きついている。
クンクンとオレの匂いを嗅いでは、うっとりとしている。
ミーの目は時折、サラやジョゼに向かうんだが……
その瞳には侮蔑の色があった。
『勇者の書』には、たまに獣使いが登場する。
だから、知ってるんだが、獣ってのは上下関係にシビアだ。
相手が、群れの中の上位か下位かを見極めたがる。
で、自分がかなわない相手なら服従するが、見下した者を徹底的にあなどる。
それが普通なんだ。
ミーはパメラさんを猛烈に慕い、オレをいい匂いの人として好いている。が、それ以外の奴は相手にしていない。
特にサラとジョゼを、最下層と思ってるっぽい。
サラとジョゼも、ミーを嫌ってるし……
うまくやってけるのかなあ。
翌朝、オレらはミーの案内で、ドワーフの洞窟を目指し出発した。
「よーするに、おにーさんは、かわいくて、強い、お嫁さんを、さがしてるんだ、にゃー?」
魔王を倒す為だとか、百万ダメージ以上を出せる人を探してるだとか、ジョブが被る子は駄目なんだとか……
難しいとこは全部すっとばして、ミーは、オレの事情を理解したようだ。
「ミー、かわいくって強い子って誰だと思う?」
幻想世界の住人のおすすめ種族って何だろう、と思ったんで聞いてみた。
ネコ娘は、耳をピクピクと動かした。
「……人魚?」
いや、それ、もう仲間にしたし。
「……クラーケン?」
タコは問題外。
「……シーサーペント?」
大海蛇のどこに萌えろ、と?
「……クジラ?」
もしも~し?
「……エビ? ザリガニ? イカ? サンマ? イワシ? マグロ?」
わかった……君のかわいい=食べたい、なんだね……
サンマやイワシの何処が強いのかは、わかんないけど……
先頭に立って道案内をするネコ娘。
そのやや後ろを、オレとお師匠様が続く。パメラさんは、まだ人嫌いを克服できてないんで、お師匠様の背にすがりついている。
マリーちゃんはその後、サラとジョゼは更に後ろを歩いている。
今、オレらは野原を進んでいる。
ミーはネコ族が通らない道を選んでくれてるんだが、朝からずっとネコ族どころか誰にも出会わない。
安全にこした事はないが、できれば仲間探しもしたい。
お師匠様に頼まれ、パメラさんが、ネコ娘に質問する。
「ここから……ドワーフの洞窟に向かうまでの間に出会える……種族……ネコ族以外……何がいるの?」
ネコ娘は、耳をピクピクと動かした。
「マスター……ミーに、案内させるのか、にゃ?」
ネコ娘が、ドラゴンのきぐるみの人を上目づかいに見つめる。
う。
媚び媚びのそのポーズ……ちょっと、かわいいぞ。
「あなたが苦手な種族なら……近くまで連れてってくれるだけで、いい。強い、お友達がいるのなら、紹介して」
ネコ娘は、パッと顔を輝かせた。
「女侠客のシロさんが、この近くに住んでるにゃ」
女侠客……?
侠客って、確か……強きをくじき弱きを助ける、正義の味方だ。異世界出身の、二十二代目勇者がそうだった。
「シロさんは、やさしい女なんだにゃー 地下迷宮の暴れん坊達に絡まれてたミーを助けてくれたにゃー」
ほー
「暴れん坊達は、シロさんの子分になったにゃー シロさん、今では、地下迷宮の親分なのにゃ」
何か強そう。よさげな感じ。
この世界の住人は、最弱と呼ばれる小人ですら、オレらの世界の一流の戦士より強いそうだ。ハズレは、ほぼ居ない。
地下迷宮の親分となるような生き物なら、会ってもいいんじゃないか?
どうせ萌えなきゃ、仲間にできないんだし。
会うぐらいならいいんじゃないか?
そう思って、案内してもらった。
タンポポの咲く野原の真ん中に、地下迷宮の入口があった。
小動物じゃなきゃ見逃しそうな、ちっちゃな穴だ。
その中にミーだけが入って行って、中からシロさんを連れて戻って来てくれたんだが……
会ってから後悔した。
せめて……シロさんの種族を聞いておくべきだった。
こ、こんな、お方、では……
会った途端、理性がふっとぶ……
メロメロになっちゃうに、決まってるじゃ、ないか……
体温が上昇し、心臓がバクバクする……
シロさん、か、か、か、か、かぁわぁいぃ~~~~!
オレのハートは、キュンキュンと鳴った……
心の中でリンゴ~ンと鐘が鳴る。
欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。
《あと八十六~ おっけぇ?》
と、内側から神様の声がした。
「はじめまして、みなさま」
シロさんが、オレ達を見上げる。
後方にいたはずの、ジョゼとサラがオレの真横まですっ飛んで来る。
マリーちゃんも、にこにこ笑いながら、パメラさんの脇からシロさんを覗く。
「シロと申します」
長い耳と、つぶらな赤い瞳、ヒクヒク動く鼻。全身を覆う毛は見事な白色だ。
後ろ足で立ってるんだが、背はオレの膝ぐらいまでしかない。耳を合わせても、腿の途中までだ。
どこから、どー見ても、ウサギ。
白ウサギ。
めっちゃ、かわいい~~~~~
そんなちっちゃなシロさんが……
道中合羽を羽織り、腰に刀を差して、長い楊枝ならぬ牧草をくわえているのだ。
『渡世人』装束!
ニ十二代目『勇者の書』にあった伝説のヒーロー姿だ!
ヤクザな白ウサギ……
このアンバランスさが、もう……凶悪なほど……
「かわいい! かわいい! かわいい!」
ドラゴンのきぐるみの人が、シロさんがぎゅっ! と抱きしめる。
あぁぁ……いいなあ……
オレも、ぎゅっ! したい……
「次! あたし! あたしにも貸して、パメラさん!」
サラは、目の色が変わっている。
「パメラさん……私にも、ウサちゃん、抱っこさせてください……」
ジョゼが、左手の腕人形の蛇の口をパクパクさせながら、獣使いに頼む。
『スネちゃん』持って来てたのか……偉いぞ、ジョゼ。
「ふわふわで、ほんと~に、愛らしい、お姿ですね~ ぬいぐるみ、みたい、です~」
マリーちゃんは、いつも通りっぽい。けど、シロさんから目を離せないようだ。抱っこしたいんだよね、マリーちゃんも!
「おやめになってください、姐さん」
パメラさんの腕の中で、シロさんが耳をピンと立てる。
「あっしは、ヤクザな女。関わりすぎると、ケガしますぜ」
そして、シロさんは口をもぐもぐと動かし出す……
くわえてる牧草は、どんどん短くなってゆき……
全てが、シロさんの口の中へと消えた……
シロさんが、ごっくんと喉をならす。
くわえてたのに……
牧草、食べちゃったんだ……
か、かわいい……
すかさず、横からシロさんの口の前にタンポポの花が差し出される。
お師匠様?
無表情のまま、タンポポをグッとシロさんの口へと近づける。
シロさんは鼻をぴくぴくと動かし……
ぱっくんと、タンポポを、口にくわえ……
モグモグ、モシャモシャして、ごっくん……した。
うぉぉぉ! 食べた!
タンポポ食べたよ!
オレも、やる~~~~!
『アタシも!』、『私も!』、『私も!』と、みんなでタンポポを摘んではシロさんにあげた。
シロさんが、『もう、けっこうでござんす』と、言うまでプレゼントし続けた。
シロさんに頼み込んで一回づつ抱っこさせてもらったんで、みんな、ちょっとだけ興奮がおさまった。
ちっちゃなシロさんが後ろ足で立って、オレ達を見上げる。
「あっしの妹分のミーから、聞きやした。姐さん方は、ドワーフの洞窟を目指していらっしゃるそうで」
あくびをしながらゴロゴロしていたネコ娘が、愛情深い目でオレの隣の人を見上げる。
「そーだよね、マスター?」
シロさんとミーの視線は、緑のきぐるみの人に向いていた。
あの……
一応、このパーティ、『勇者一行』なんですが……
獣なお二人の目には、獣使いが一番、偉い人に見えるんですね……
うぅぅ……
獣人とは普通に話せるパメラさんが、小さく頷いた。
「ドワーフの洞窟から……荒野のドラゴンの支配地まで行くの……ドラゴンの女王アシュリン様にお会いしたいの……」
「にゃ? ドラゴン?」
ネコ娘が、毛を逆立てる。
「あ……いいのよ、ミーちゃん……あなたは、行ける所まで、案内してくれれば、それでいい……荒野なんて、こわい所まで、行かなくても、いい」
「だけど……」
ネコ娘が、パメラさんとオレを順に見つめる。
大好きなマスターとは離れたくないし、美味しそうなオレは食べたい……その顔は、そう語っていた。
「そいつは、又、願ってもないこって」
シロさんが、プフプフと鼻を鳴らす。
「姐さん、あっしも、その旅に同行させてもらえませんか?」
え?
「先日、あっしは、地下迷宮の主人となりやした。筋を通したいのでござんすよ」
筋を通す?
「地下に暮らすあっしらウサギ族と、洞窟に暮らすドワーフ族とは近しい間柄でして。ウサギ族は、代替わり襲名には挨拶を欠かさず、仁義を通して参りやした」
はあ。
「しかし、最近、ウサギ族のテリトリーの周囲が物騒でして……あっしらをかどわかそうとしやがる、ならず者どもがおりやして」
何ぃ?
「危険とわかっていて、子分どもを使いに出すわけにはいきやせん。あっしは、もともと風来坊。旅慣れておりやす。あっしが自らドワーフさん一家までご挨拶に伺えばすむ話。そう思ったんですが、子分どもが心配し、泣いて引き止めるんでやんすよ」
そりゃあ……
こんなかわいいシロさんを、危ない一人旅には出せないよな……
「獣使い一行との旅ならば、子分どもも安心して、あっしを送り出してくれるでしょう。どうかご同道をお許しください」
シロさんがぺこりと頭を下げる。長い耳が揺れて垂れる……キュート!
「しかも、姐さんは、ドラゴンの女王様にまでご用があるとのこと。ドラゴンは、あらゆる獣の王、あっしらの大親分にあたられるお方。はからずも、このシロ、ウサギ族の親分となりやした。しかし、なったからには、筋はきっちり通しやす。大親分にご挨拶したい。それが任侠道にござんす。ぜひ、ぜひ、荒野までご一緒させてください」
駄目! と、言う仲間が居るはずもない。
シロさんは荒野まで、オレらと一緒に行く事になった。
「姐さん、お仲間のかたがた、よろしく、おひきまわしのほどを」
地下迷宮の子分達が、シロさんの見送りに現れた。
茶色や灰色、三毛やブチといった、いろんな毛色のウサさんが、地下迷宮=(巣穴)から現れてシロさんに、群がる。
ネコ娘は、パメラさんの後ろで縮こまっていた。
おまえが絡まれた『地下迷宮の暴れん坊達』って、このウサさん達か? みんな、後ろ足で立ってもオレの膝ぐらいしかないんだけど……
「よろしければ、ちょいと森まで足を伸ばしていただけやすか? ほんの半日ほど回り道になりやすが、知己を紹介できやす」
パメラさんに抱っこされて運ばれながら、シロさんが言う。
「森の王者ワーベアー……そん中でも、とびっきり強い娘を紹介いたしやしょう」
かわいいだけじゃない。
頼りになるなあ、シロさん……
ジョゼもサラもニコニコしてる。オレと目が合うとツーンとするものの、ちょっと機嫌が直ったっぽい。
魔王が目覚めるのは、九十ニ日後だ。
シロさん、戦闘力はあんまなさそうだけど……
でも、いい!
かわいいから、許す!
ワーベアーに期待しよう!
* * * * *
『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き
●女性プロフィール(№014)
名前 シロ
所属世界 幻想世界
種族 ワーラビット
職業 侠客・女親分
特徴 どこからどー見ても白ウサギ!
なのに、伝説の『渡世人』スタイル!
姉御肌。仁義を通す、昔気質のヤクザ。
ご機嫌な時、プフプフと鼻を鳴らす。
戦闘方法 腰の刀?
年齢 苦労人っぽいから、わりとお姉さん?
容姿 白ウサギ……
背はオレの膝までしかない。
ちっこくて、ふわふわでかわいい……
もしかしたら、今までで一番、萌えた
かも……
口癖 『筋を通したいのでござんす』
好きなもの 義理・人情
嫌いなもの 仁義に反すること
勇者に一言 『よろしく、おひきまわしのほどを』




