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ミセカケ


 結局、あの日の居酒屋で酒盛りという事になった。お互いに知らなかったが、どうも何年も前からの行きつけであったらしいことで、話は盛り上がった。座敷に座っていた隣の魔ミキが足を崩した。これが始まると何だか危ない。顔は既に赤くなっていた。


「千鶴ちゃんは全然酔ってないって感じ?顔に出ないタイプなの?」

 そう言う永田の顔は少し色づいている。

「そう、顔にはあんまり出ないんだよね。で、トイレ行く時とかに立ち上がって初めて頭がふわっとしてて気づくって感じ」

「でもねえ、千鶴はねえ、うんとねえ、あんまり酔っ払ってないんだよね?結局ねえ?」

 しどともどろに魔ミキは言うと千鶴にもたれかかってきた。もたれかかって、千鶴の肩にさも愛おしげに頬ずりする。これが始まると、例のアレだ。そう、キスのおねだりを食らうんだ。特に最近は、座敷だとこれに太ももを撫でてきたりする。これをやられた男はたまらないだろう。実際千鶴もキスぐらいが範囲だったから応えていたまでだ。だが、素面の本人の話ではそれを止めて欲しいらしい。その為に今自分はこの席に居る。

「もう、バカ!しないんだよ、もう。魔ミキ」千鶴がそう言って顔を背けるようにしていると篠崎の声がした。

「ちょっと、千鶴ちゃんそこ変わってよ」

 随分とおのれの下心を隠さない男だなと呆れると、ピシャリとこう言った。

「ダメです!会って間もない人になんか預けられません!」

「ハハハ!カッコイイ!!やっぱりそう来ないとなあ、千鶴ちゃんは」

 冷やかし半分のように永田が言った。何だか千鶴はそれに反発を覚えてこう言った。

「カッコよくなんか無いです、結局誰の気持ちも解らずにこうして……ああ、何でもない、気にしないで」

 千鶴は我に返ると慌てて否定した。こうしているのも友達として意義のある行動かも知れないが、常にこういう注意をキノリはしていた事を思い出した。だからと言ってどうという事もないのだが、千鶴は何だかキノリが気になりだした。今、どうしているんだろう。

「え、どうしたの?」

「ちーずーるー?」寄った魔ミキは甘えた調子で名前を呼んでいる。

「ごめんごめん、本当に何でもないのホラ、私だって飲んでるんだしね」

 べったりともたれかかってくる魔ミキの頭をぽんぽんと優しく撫でるようにしてはみたものの、心の内には魔ミキはこんなことしてるけどあの篠崎を目当てにしているのであれば物事が進まないのではないか?と冷静に思った。

「すごく、むら……いや、二人はこうしてみると只ならぬ感じに見えるよ」

 当人の篠崎は言った。千鶴はムラムラと言いかけてやめたんだなあ、と思うとそう付け加えた。

「アハハ、まあ、何か私って前からそう思われるんだ」

「でも、そうなんでしょう?」

「えっ!」

 永田は千鶴を追い詰めるかのように言う。まるで、ソッチのほうが都合がいいというようでもある。確かに初めからその方がいいような事を言っていた。言動に矛盾は無いのかも知れない。


 その日はそのまま何とか、飲み会を終わらせ魔ミキを引きずりながら帰宅させる。途中までは来た時と同じように近くまで車で送って貰った。何とか自分の役目を果たした。そう思いながら魔ミキのアパートの鍵を回した。

「ほら、もう、着いたんだから……」

 千鶴は言った。

「……ねえ、ごめんね今日は……」

「は?別に」

「今日だけじゃないけどね、ねえ、あいつ篠崎とはどうなるかは解らないけどいつまでも千鶴にこうしている訳にも行かないよね」

「ああ……」

 何だろう、その言い方は別れ話に似ていた。私たちはいつの間にか極端な関係になってしまっていたのかも知れない。恋愛と友情が常に混濁した中にいてその区別が、ほんのお遊びのキスがその境界線を余計におかしくしていたのかも知れない。

「ねえ、最後にキスしてよ」

 魔ミキは今までより緊張を帯びた声で迫って来た。

「うん、いいよ」

 狭い玄関の壁に魔ミキを押し付けると、深く口付けた。いつもと変わらず舌が入って来た。ぬるぬると舌を合わせているとその時何か妙な感覚が千鶴を襲ってきた。

―― 私は、女なら抱けるかもしれない。

 同時にいつもこの行為をキノリが見ていたことも過ぎった。

 千鶴は少し怖くなって唇を離した。抱くのだとしたら魔ミキでは無い、これはお別れのキスなのだから。いや、別れは感傷的過ぎる。ともかく一つの区切りには違いなかった。

「じゃあ、もう行くね!また連絡して」

「……うん」

 慌ただしく、千鶴は部屋を出るとひんやりと夜の空気がいろいろなことから覚めさせた。一瞬、湧き上がった性欲も何だったのだろう。千鶴は、コンビニへ寄ると再度飲み直す為のビールを買おうと冷蔵ショウケースを開けて取り出した。そして会計を済ませる頃、携帯電話のメールが届いた音が聞こえた。それは永田秀明からだった。


 キミが送り狼になってないよね


 千鶴はそれに少し驚くと、小さく本音を入れて返した。同時に永田は不思議な男だとも思った。単なる百合萌えを自称する男それだけなんだろうか。小さく本音を入れれば何か解るような気がした。


 危ないところだった。


 そう送信した。魔ミキの男性遍歴がそのケが無いことを物語っているが、その全てを人に話してしまう訳にはいかない。もし、仮に関係を持ってしまったとしてもそれは今までと同じく遊びの域が出ないものとして事実だけが横たわるに違いない。

 魔ミキとはどこまででも平行線で当たり前なのだと思う。普通の友情それが互いにいい関係なんだと思う。

 自分の部屋についてとりあえずの一口のビールを喉に流しこむ。

 そして、千鶴は仮にとはいえ同性と関係を持つことを自然と発想している自分が不思議に思った。良く自分を見つめてみればそんな風な妄想めいたことをあまり思い浮かべたこともなかった。

 高校生の時出来た彼氏のことを思い出して見た。だけど、殆ど思い出せない。とにかく違和感があって、何だかんだ理由をつけて遠ざけてしまった。

思えば、なぜ付き合ったのかも良く思い出せない。学校も違ったのに……見せかけたかったのかも知れない。自分に、ごく当たり前の青春とかいう学校生活を過ごす自分を……周りに、自分に……

 千鶴は深い眠りに落ちていった。

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