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ソシトミマモリ



 それから、数週間後だった。千鶴はあれからキノリのことも頭にはあったものの何もせず日々の雑事に追われていた。キノリが自分の事を好きかも知れないと言うことは一旦は忘れた。好きにも色々ある。―― キノリの心は高校生の時に一度壊されている。そのせいで、その時にナイトよろしく振舞ったことがそいう思い違いを認識させているのかも知れないような気がした。千鶴はあの日キノリが放った言葉を思い出していた。

 あんなふうに、自分の感情を呪っていたのかも知れないと思うと胸が痛むような気がした。その胸の痛みが随分と続いていた。

 魔ミキが実は気付いていたように、実は自分も気づいていながら無視していたような、罪悪感を伴っていた。

 久しぶりに魔ミキからメールが来た。仕事終わりに見てみると、「今度デートしたいだってさ」と書いてあった。

 相変わらず雑な女だ。全く、相手が誰とか経緯とか書かれていない。仕方なく千鶴は「誰が?」と返信した。すると返って来たメールには「永田」と書かれていた。


 ◇


 デートしたいと言われたのは千鶴じゃなく、魔ミキが永田繋がりの友達に言われたことらしかった。こういう紛らわしい物言いも魔ミキのおふざけのひとつでもある。残念ながら、それに慣れている事と特に今はキノリのことでの憂鬱が強かった事で特に浮ついた気分になりはしなかった。とにかく初デートから魔ミキの悪い癖が出るとマズイと言うことでのダブルデートの誘いだった。自分の貞操くらい自分で守るべきだし、どうせ最終的には二人きりの時間を求めるならダブルデートの意味はあまり無いのにと千鶴は思った。

 魔ミキにちょっかいを出してきた永田繋がりの男は、どうやら金払いのいい方の男だった。名前は篠崎誠人と言って、永田とは幼稚園の頃からの腐れ縁らしかった。

「あんた、永田は会社で会うからどうのこうのって言ってじゃないの」

 千鶴は魔ミキに微妙に腑に落ちない部分を確認の意味で文句を言った。おまけに、デートと言ってもまたあの日行った居酒屋での飲み会。二人は近くのコンビニエンスストアの前に立ちながら、車を待った。徒歩でも行ける距離だったが永田が車を出すらしかった。ガラスを鏡替わりにして身なりをチェックする魔ミキは言う。

「だってさ、アッチがヘタレなんだもん。永田も連れて行っていいですかー?とか言うしさ、なんか断りにくいじゃん」

「今の時点でヘタレとか言ってたら、デートなんかして気を持たせるような事したらダメじゃん」

「えーもう、相変わらず考えがガチガチなんだからさあ。今はヘタレに思えてるけど、可愛らしさに変わることもあるかも知れないじゃないの。一つの要素だけで全ての可能性を絶つのは勿体無い話じゃん。いつまでも若いわけじゃあないんだし」

「そこまで言うならいいけどさあ、後々妙な事になっても私は責任持てないからね」

 ガチガチと言われるといい気分はしない。責めてマトモって言って欲しいものだ。そう言い返そうしたが、何を持ってしてマトモとするかは個人的な問題かと真剣に思いなおした。

「ねえ、痩せてるように見えるかな?」

「……この間と大して変わらない気がするけどね」

 慌てたように、魔ミキの姿を見る。赤味の強い髪色にゆるい縦巻きがかかっている。コートの下からむっちりとした足に、ネイビーのタイツが貼りついている。足首から先はそうヒールの高くないブーティーに差し込まれている。この場面に置いて真剣な考えなんてどうでもいい気がした。魔ミキは目の前の出会いに夢中だからだ。千鶴にはその夢中な気持ちは理屈では解るような気はしていたが、自分の感覚にはそれと同じ感情を持ってこのことに挑んでいる訳では無かった。断れないでいたのに、人のことをヘタレと言って笑っている場合では無いのかも知れない。ただ、友達のの貞操の開放の阻止と見守りの役目だけだ。

 程なくすると、白の大型ミニバンが空いているコンビニの駐車場に頭から入って来た。

 そして、幼稚園からの腐れ縁がよく理解出来る騒がしさで登場した。正しくは窓から顔を出した。

「遅れてゴメンね、このバカが携帯が無くしたとか騒ぐから、探したらポケットにはいってたんだよ、ジジイかよって。……おいシノ、ちゃんとお二人に謝れよ」

「えーっと、俺、し、篠崎ね!多分コイツが俺の携帯を盗んでポケットに入れたんだと思うんですけど、遅れてスミマセン」

「俺が盗んだ!? 久しぶりに女子と合うから緊張したって正直に言えよ」

 永田秀明は初対面の時より随分砕けた雰囲気でテンポよく言い返す。

「バカ!何でそれ今言った!?それ俺カッコ悪いだけじゃん」

 千鶴と魔ミキは視線を合わせると同時に吹き出した。黙って居れば黒のセルフレームメガネの印象から少しは理知的にみえそうなのものの、さっき迄話しに上がっていたヘタレと言う先行イメージそのままだったからだ。

「心配しなくてもいつでもカッコ悪いよ、ほら笑われてるぞ」

「ねえ、コイツどう思う?サイテーだよね?永田ってサイテーだよね?」

「どうでもいいから、とにかく乗って!」

 ヘタレくんの言葉は、永田に遮られることで落ちが着いたようで二人は永田の車に乗り込んだ。車内は清潔で、千鶴の車と同じ芳香剤の匂いがした。思った通り缶タイプの同じものが置いてあった。




男性陣はフツメンですね。千鶴は「雰囲気イケメン」を蔑称として使っている感じですね

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