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白百合狂想曲  作者: シズカンナ
白百合狂想曲 ( 本編 )
7/39

7、密やかな決心




4日目の朝、決めたことがある。

一瞬だけ、怖くて泣きそうになった。


姉もきっとこんな気持ちだったのだろう。




とりあえず、部屋にこもりっきりでいることをやめよう。

1日1回は必ず外に出るようにしようと、今日は庭を散歩だ。


「ねぇ、騎士団長が私なんかについていて良いの? 」

「貴方は先日のことを忘れたのですか? 俺は誓ったはずです、守って見せると 」


ありがとう、まるで物語の騎士様みたいね。

ちょっとむず痒いけど、嬉しいよ。


だ け ど、 そんなに引っ付かれたら邪魔なのよね。


後ろにピッタリとついてくるアレクシスは非常に邪魔くさい。

私の一挙一動に対して敏感に反応するし、時には声もかけてくる。

ねぇ、騎士ってもっとスマートなものじゃなかったの?

離れて、といっても全く聞く耳を持たない。あー、イライラする!!


ならば、と私は逆手を打ってみた。

「…なにをするのですか 」

「離れてないんだから、いいでしょ? 」


ぎゅうっとアレクシスの左腕にひっついてやった。

長身の相手だから、本当にひっつくというのは正しいだろう。

まるで楯のようにくっついた私。ふふふ、どうだ邪魔くさいだろう。


「淑女として、たしなみに欠けます。それに誰かに見られたら… 」

「平気よ。人払いしてあるし、一応2人っきりだから 」


2人っきりと言ったところで、ビクっと腕が硬直した。

あれ?なんかまずいこと言ったかな。うっすら耳が赤いのは何故だろう。


うりゃうりゃと左腕に抱きつけば、じりじりとアレクシスは下がっていく。

よし、もうひと押しだ!!えい!!

留めとばかりに、頬もピトッとくっつければ「ぐ!」という声が聞こえた。

よく分からないが、とどめを刺したらしい。よし、私さすが!!


「お戯れは、ほどほどに、して、ください 」

「じゃあ、もうちょっと離れて。できるならば、私の視界に入らないで。入ったら、また抱きつくわよ 」

「承知、しました… 」


その言葉が聞ければ後は用無しとばかりに、さっと腕を離し先に進む。

思った通りにことは運んだのだ。だけど、内心ちょっと複雑だ。


そんなに、私が近づくことは嫌だったのかな。思ったよりも好かれてない?

でも、別に好かれなくてもいいんだ。だって、私はあと3日すれば帰るんだ。

別に、寂しくなんかない。全然平気だ。関係ない!!大丈夫!! …多分。

と、なんとも言えないモヤモヤを押しやって、私は目的の場所へと急ぐ。


アレクシスと一定の距離を置きながら薔薇園を抜ける。

その先の噴水広場からは王宮の北側が良く見えた。

それは裏を返せば、あちらからも良く見えるというわけだ。


一人であるという風を装って、噴水に腰を掛けた。

アレクシスには目で、こちらに来るなと訴える。

嫌ぁな顔をしたけれど、まぁいいだろう。


さぁ、私は1人でいますよ。なんて、さすがに今日はだめか。

噴水を眺めたり、花壇の花を見て、ある程度の時間を潰してから部屋に戻った。

アレクシスはなんとも不思議そうな顔をしていたが、気分転換だと言えばしぶしぶと承諾した。




次の日、5日目の朝。

さぁ、そろそろ時間が無くなってきたわよ。

どうするのかしらと、一人私は微笑む。


今日は庭に出る前に自分のスケジュールを、できる限り言いふらしてきた。

「昨日、素敵な噴水を見つけた 」

「今日もまた行くつもりだ 」


そして、極めつけは

「護衛は、つけないで行くつもりだ 」


さて、この私の言葉は一体どこまで伝わってくれるのかしら。

ふふふ、楽しみだわ。できるならば、今日には引っかかって欲しいものだ。

なかなか外へ出ない姫君が、一人で庭へ出るのだ。狙うならば今が絶好のチャンスなはず。


「リリア様、何を考えているのですか 」

怪訝そうな表情で私を見つめるアレクシス。

私はそれに対して、ただ曖昧に微笑むことしかできない。


「俺にくらいは、教えてくれても 」

「なんでもないの。 ただの気分転換 」


ごめんね、今はまだ何も言えない。そのうちに嫌でも知るだろうからさ。

心の中で何度も謝って私は彼に背を向けて歩き出す。

言葉のない謝罪なんて、無意味だってこと分かっているんだけどね。



昨日と同じように、アレクシスを遙か後ろに追いやって庭を歩く。

薔薇園を抜けて、噴水へ向かう。

あぁ、ほら私にだってわかる良くない気配。


後ろを歩くアレクシスは、その距離からほんの少しだけ気づくのが遅れた。


バサッと、布の袋をかぶせられた私が最後に見たのはこちらへ向かうアレクシス。

必死な表情を見て、嬉しいと思ってしまう私は暗闇の中で溜息を一つついた。


なんであんな奴が良いなんて思ったんだろう。

どうして、ドキドキしちゃうんだろう。


あぁ、こんな恋に気づかなきゃよかった。




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