6、分かりたくもなかった真実
暗殺者は辛うじて生きており、近衛兵に牢へ連れて行ってもらった。
私のケガの治療が終わると、メイドたちも下がらせた。
そうして、部屋に2人だけになったところで、アレクシスはまた私の足元に跪き、首を垂れた。
「ねぇ、もういいんだけど 」
「本当に申し訳ありません。 リリア様にケガなど… 」
やっぱりそれか。そんなことは、もうどうでも良いのだ。
私はこうして助かった。アレクシスも間に合って助けてくれたんだから、もういいじゃないか。
でも、そう言ってもコイツにはわからないのだろうなぁ。頭の固そうな騎士だし。
「…わかりました。次は、もっと早く助けに来て 」
「当たり前です。俺の命に代えてでも、貴方を守って見せます 」
「ありがとう、その言葉を信じているからね 」
そう言って、やっと立ち上げったアレクシスは、まぁ、良い笑顔だった。
良かった、立ち直ってくれたみたいだ。
やっぱり、そうやってワンコみたいに笑っている方が良いよ。
「それにしても、その恰好は初めて見たわ 」
「あ、申し訳ありません。お目汚しですね 」
「そんなことない。似合っているよ 」
「いえ、そんな… 」
恥ずかしげに顔をぬぐう姿が、なんだか可愛くて思わず笑ってしまう。
…あれ、なんで大の男が顔をぬぐって可愛いなんだろう? 私変だぞ。
えっと、ここは、ここは…
「お腹すいてない? 着替えたら、食事にしましょう 」
「ご一緒して良いんですか? 」
「助けてもらったんだから、当然でしょう…? 」
なんで、そこでまた嬉しそうに笑うのかな。
なんで、私それを見て胸がドキドキしてんのかな。
あれ? あれれ? 私、一体どうした?
…そう!
私はきっと、お腹が減っているからおかしなことを思ったんだ。
まさか、この犬っころみたいな騎士にときめくなんて無いだろう。
これは、あれだ。ピンチを助けてくれたから、シチュエーションにときめいたんだ。
だから、早いところ場面転換しなきゃ。
あぁ、だから、もう騎士様、その嬉しそうな顔やめろ!!
色々とバタバタしながらも遅い夕食を2人でとった。
あぁ、ほらお腹が満たされれば、全然ときめかないんだから。
よし、ばっちり。いつもの私だ。
食後のお茶を飲みながら、ようやくいつも通りの頭になった私は知りたいことを訪ねた。
「ねぇ、あの下手人の身元はわかった? 」
「はい、あれは多分エーデルハイド家のものかと。剣技にクセがありましたから 」
しれっとものすごいことを言ったアレクシスは、真面目な顔をして当たり前にしている。
…でも、それ、あんたじゃなきゃ分からないことだと思うわよ。
なるほど、エーデルハイド家か。
四大貴族の筆頭にして、貴族院の取りまとめ役。
ただの貴族にしては、過ぎた権力をもっているあの家柄ね。
「目的なんて一つよね。私が邪魔だから 」
「確か、エーデルハイド家には妙齢の姫君がいたかと… 」
そうだ。
だから、今回の襲撃は単に邪魔者を消すためのもの。
単純に考えるならば、それで婚約を壊すためだろう。
「ねぇ、他に王妃候補ってどこがあるの? 」
「王妃候補ですか…。エーデルハイド家くらいでしょうかね。それにエーデルハイド家も、王妃候補を立ててはいましたが、形だけのもののはずでしたが… 」
形だけのはずなのに、どうしてそれを実現しようなんて思ったのだろう。
それに、筆頭貴族といっても国交的な部分に関わるなんて大それたことするかしら?
あまりにもリスクが高すぎる計画のように思うんだけど…。
わからない、わからない。うーん、こんがらがるわ!!
私がうんうん唸っているのを横目に、アレクシスは悲しそうな顔でポツリと呟いた。
「なぜ殺そうなどと…あと4日で貴方は帰国してしまうのに 」
そうだ。皇帝が見つからなければ、私はあと4日で帰らなくてはならない。
結婚式を挙げなければ、この国では婚姻を結んだとはいえないのだ。
だから、私を殺す必要などない。黙っていれば、私は帰国して婚約は破棄される。
ん、 私の帰国?
「ねぇ、ロゼッタが王妃になるっていうのは何処まで信憑性のあることなの? 」
「絶対です 」
え?っという驚いた私の表情を見て、アレクシスは諭すようにしゃべりだす。
「絶対権力の皇帝が、そのように決めたのならばソレは絶対なのです。少なくとも、今のところはですが。周辺諸国にも知らせ、準備をしています。ですから、 」
「そう…。見つからないと、色々と困ったことになるの、ね 」
とある可能性にたどり着いてしまった私は、小さく溜息をついた。
そして、一緒に色んなことに気がついてしまった。
本当はそんなのものに、気がつきたくもなかった。
知らんふりをしていたかった。
あぁ、そんなのが真相であってほしくない。
だけど、今のところ一番真相に近い回答なような気がする。
あぁ、もう、本当に馬鹿ばっか!!
やっぱり爆発しろ!!