4、ワンコとの遭遇
アレクシスと名乗った、弟で騎士団長な男。
仲良くしてやるつもりはないのだけど、愛想だけは良くしておかないと。
彼の心緒が姉への印象にそのまま繋がるのだから、悪い印象などもってのほかだ。
姉の不在については適当に、病であり遅れて到着すると言っておいた。
殺しても絶対に死にそうもない姉だけど、こちらの国の人が分かるはずがないから大丈夫。
さぁ、これからどうしようか。とりあえず、情報収集は大切よね。
メイドたちは下がらせてしまったので自分で紅茶を入れて、適当にお茶請けを探して出す。
テーブルを挟んで向かい合って座れば、長身の弟君とも視線がやっと合った。
姉は私がいれた紅茶を好んだから、お茶を出すのも手慣れたもの。
でも、これからは姉にお茶をいれてあげることも、もうないのか…。
…いけない、無意味な感傷に浸っている場合ではない。
「殿下は、今回の結婚についてどのように思われますか? 」
バラしてしまってから聞くことではないとは思うが、知ってはおきたいことだ。
もしも、ここでネガティブな答えが返ってきたならば、彼への関わり方も変わってくる。
「…俺は、正直驚きました。陛下は、型にはまらない…愛国心が強い?…個性的のような方です。だけど国を大切に思う心は本物で、だから王妃が決まるのはもっと先だと皆が思っていました… 」
言葉を濁して濁しまくって真っ黒しにして、言わなくて良いことを言っているような表現。
それは、もしかして、たとえば、姉のような感じなのだろうか。
だとしたら、ある意味お似合いなのかもしれない。
ここでもしも、常識のある優しい人だなんて聞いたならば、私はちょっと考えた。
そんな人は姉の傍にいたら幸せになれないし、そんな人を好きになった姉はきっと幸せになれない。
非常識で、身勝手で、わがままで、そして国のことを一番に考えられる人でなければ姉の隣には立って欲しくない。
「殿下の言うことはわかりました。大変、素敵な方なのですね 」
「え? はぁ、まぁ、そうです、ね… 」
困惑した様子の相手に、私はまたにっこりと笑う。
きっとこの弟も、私と同じように苦労してきたのだろう。わかるよ、その苦労。
まぁ、貴方の場合は、さらに姉が投入されて、もう色々と取り返しのつかない感じになるだろうけど。
私には関係ないからね!!ご愁傷様!!と労りの目で見ていると、恐る恐るというように相手が口を開いた。
「…あの、殿下というのはやめてください。俺はただの騎士としてここにいるので 」
「ですが、陛下の弟であるということは、王族の一員ですよね 」
私の言葉に、非常に困った顔をする相手。なんだろう、私何かおかしいことを言った?
もしかして、こちらでは言い方が違うのだろうか。
「俺は、母の身分が低く王位継承権がありません。ですから、弟といっても王族とは言えない、中途半端なのです 」
なるほど。なんともまぁ、複雑な感じの身分なのね。
ということは、騎士団長というのも、もしかしたら与えられた地位なのかしら。
王位継承権がなくとも王の弟。それなりの地位を与えなければ体裁が悪いと考えるだろう。
でも、目の前の人の手は剣ダコがいっぱいあるし、袖から覗いた手の甲には傷跡が多く見える。
お飾りの騎士団長さまでは、到底ありえないわね。
だから、その地位は与えられたものでなく、本物なのだろう。
「それでも、あなたは騎士団長という地位を実力で得たのでしょう。そんなこと言ってはいけませんよ。では、アレクシス様とお呼びしますね 」
「いえ、アレクシスでかまいません。所詮、騎士ですので… 」
と、そこで言葉を切って難しい顔をしているのは、どうしてだろう。
もしかして、失礼なことを言ってしまったのだろうか。
やばい、ぴんち!!ここは、とりあえず笑顔だ。笑っとけ、私。
「…リリア様、あなたは、俺のこの地位を飾りだとは思わないのですか 」
「いいえ、あなたは努力をした人です。それが分からないほど、私は愚かではありませんの 」
ばぁーか。そんなことか。
私をそこらへんのお姫様だと思うな。
伊達に、天上天下唯我独尊、傲慢!尊大!超俺様!の姉の傍で生きてきたわけでないのだ。
正しいことと間違ったことの違いを見抜く目はある。
そうでなければ、最愛の姉を守れない。
どこまでも、自分と国のことしか考えられない人の傍に居たのだ。
それ以外の、面倒な周囲との関わりは全て私がしてきたに決まっている。
姉を騙そうとするやつ、利用しようとするやつ、物のように扱うやつ。
そんな奴らを見て採点してきた私には、まっとうに努力できる人の見分けくらいつけることができる。
まぁ、ただの姫君には過ぎた才能なんだけどね。
「あなたは、とても素晴らしい方ですね 」
そう言ってアレクシスは控えめに笑ったから、私も思わず笑い返してしまった。
こいつ、笑うと可愛いぞ。
あ、ワンコに似てる!!