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白百合狂想曲  作者: シズカンナ
白百合と狂犬のワルツ (番外編 )
36/39

17、猛反撃開始


「村を、見に行きたい? 」

「…そうよ 」

酷く怪訝そうにエリアスは、私を見つめる。

そりゃそうだろう。さっきまで烈火のごとく怒っていた私が急にしおらしくなったのだ。

ちなみに、この態度は、もう諦め気味的な感じを醸し出している…つもりだ。


「さいごに…ちょっとくらい私の我儘、聞きなさいよね 」

悔しそうに私が言えば、仕方ないとでも言う風にエリアスは微笑んだ。

「そうだな。リリアの願いならば、いくらでも聞こう 」

今のうちに余裕ぶっていればいいわ!最後に笑うのは私なんだからな!と心に強く思いながら、私は歯を食いしばった。やっぱ、こいつ、ムカつく。


その村には騎士学校時代の知り合いがいて会う約束をしていたのだと言えば、自分も会うとエリアスは言ってきた。おそらく、私の逃走の協力者とでも思っているのだろう。

ふふふ、その言葉を待っていたのよ。これで、私の勝利は確実だ!


作戦は単純なもの。その村にいるであろう姉のエリーデ様に説得の協力をしてもらうのだ。

全体的に丸投げ感はあるけど、重度の崇拝的シスコンには、姉の言葉は絶対的な神の言葉。

ガツンと痛い目を見てもらおう。そして、泣けばいい。大泣きすればいい!

ちなみにこの作戦を考えたのはメイドの子だ。すごい!天才!!


…正直、この作戦が上手くいくかどうかは私にも分からない。

でも、メイドさんの言葉が本当ならば、少なくとも私の結婚は回避できるかもしれない。

私は絶対に諦めるわけにはいかないのだ。私が一生をかけて守りたいのはアレクだけ。

それだけは、絶対に叶えたい。



馬を走らせれば半日ほどで、その村には着いた。

閑散とした村で、とてもここにエリーデ様がいるとは思えない。

でも、今はただ信じるしかない。この村の唯一の教会に彼女はいるらしい。


私は教会を探しつつ、エリーデ様に会ったらなんて言おうかと考えていた。

優しいひだまりみたいな人。幸せになるべき聖女。お会いしたのは数回だけど、私の中のイメージはそんな感じだ。エリアスが溺愛するのもわかる気がする。

…私の姉とは全く方向性が違うけど、やはり人を引き付けてやまない人なのだ。

お会いするのが楽しみ~なんて思っていると、ヨロヨロと歩くシスターが目に入った。


薄汚れた修道服で、よろめきながら水の入った桶を抱えている。なんだが体調が悪そうだ。

顔色も悪いしとてもやせ細っている…あれ?なんか見覚えある?

うーん…え? でも、そんなはずは…と、私が馬を止めて考え込んでいるとエリアスが声をかけてきた。


「どうした?何を見ている? …っ!?」

その時、私は初めてエリアスが心底驚く表情を見た。ちゃんと人間らしくもできるのね!

そして、泣きそうになりながら馬を降りて駆け出したエリアスは迷うことなくそのシスターに近づいた。

やっぱり、そうか。


「どうして? どうして貴女がいるのですか?そんな姿で…どうして…」

悲鳴のように叫びながら、エリアスは彼女を抱きしめる勢いで近づく。

エリアスの声を聞いて、彼女もまた驚いたように身をすくめた。

顔をあげれば、間違いない。私の疑問は確信に変わった。


あのシスターは、エリーデ様だ。


でも、なんで? エリアスの話では好きな人ができて、城を出ていったと聞いた。

なのになんでシスターの恰好なの?その疑問はエリアスも同じだったようで

「姉上、なぜそのような恰好なのですか?どうして、そんな姿で…」


とりつくしまもない質問攻めに、エリーデ様は何も答えない。ただ青ざめた顔で口をつぐんでいる。

それが拒絶だと思ったのか、エリアスはさらに激昂して言葉を続ける。

なんだか見ていられなくて私も急いでエリーデ様の近くへ急ぐ。


近くにいくと、よりエリーデ様の顔色の悪さが分かる。

ゆったりとした修道服ごしでもわかる痩せすぎの身体。

どうして? 私もそんな疑問が頭いっぱいに広がった。


「…エリアス、なんで…」

悲しげに口を開いたエリーデ様。その表情は困惑と悲しみ、そして少しの嬉しさがあった。

しかし、次の言葉を発する前にふらっと座り込んでしまうエリーデ様。

そして、パタリと倒れてしまったのだ。

「エリーデ!!」


今にも泣きだしそうなエリアス。もう、そこには完全無欠の王子様はいない。

ただただ、目の前の大切な人を心配する、ただの男になっていた。

さて、どうしようかと私が考え始めた時だった。


「こちらにいらしたのですね!」

聞き覚えのある声と同時に駆け寄ってきたシスターは、この計画の発案者であるメイドの子。

互いに、目と目で合図を送りあう。


「倒れてしまったのですか?大変! 教会で介抱しましょう。 着いて来てください 」

その言葉に導かれるまま、エリーデ様を抱えたエリアスは歩き出す。

そして、私もその後を追うのだった。

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