16、超利己的援護
2年ぶりの更新とか…(大反省
ムカムカするときは、体を動かさなくてはならない。
そう決めた私は、今の状況を打破する方法はないかと寮内をあてもなくうろついた。
ムカつくアイツは、この腕輪をつけたことで安心したのか、私を部屋に押し込めておくことはしなくなった。
そのおかげで、私は自由に動き回ることができる。非常に不本意というものだが。
物理的に腕輪を破壊することは無理だということは分かった。
この腕輪の破壊を試みて逆に色々と壊しちゃったからね。本当にただの腕輪ではないようだ…。
まぁ、指輪とかじゃなくて良かったと思おう。うん、なんか気持ち的に、さ。
さて、この状況は、非常にマズイ。
何から何まで不味すぎて、現実から目を背けたくなるほどに。
この場合、我が国は平気だろうか。帝国に攻められたりしない、よね?
保身は大事だよね!!と、私が悶々と悩んでいると「あの…」控えめに声をかけられた。
振り返ると、メイドのような恰好の少女が不安そうに立っていた。
見たこともない、可愛らしい少女だ。こんな子いたかしら?
「どちら? ここのメイドの方ですか? 」
「…えぇ、あの、どうぞお部屋へお戻りください。主がお呼びです 」
ちっ、あの野郎。心が狭すぎるんだよ。
もうちょっと、外の空気を吸いたかったけど、仕方ない。
それに、もう八方ふさがりのようだ。どこにいたとしても、この場所に閉じ込められている限り私に勝機はみえない。
ならば、ここから移動する時。その時を狙うしかない。アイツから離れられないということは、アイツも私から離れることができない、ということだ。
なんとしても、説得を試みるしかない。大切な人がいるのに、他の者と婚約などありえない。
メイドに連れられて部屋に戻る。メイドがパタンと扉を閉める。その後にすぐガチャンという音。
え?と振り向くと、有無を言わさず腕を掴まれた。
「ちょっと、あなた 」
「黙ってください…。あぁ、束縛だけですね。盗聴や盗撮がないならば…いいか 」
にっこりとほほ笑んだ少女は、跪き頭を下げた。
「お初に目にかかります。私は…その…貴女を助ける者です 」
「助けるって…エリアスと結婚しなくても良いってこと? 」
「はい!そうです!貴女様にはウチのだんちょ…ちがう、その、お慕いする方と結婚してほしいのです」
目をキラキラさせて言い放つメイドにちょっと圧倒されつつ、味方の登場に私は思わずホッと息をついてしまった。あぁ、やっぱり私って弱いなぁ。
たった一人とはいえ、味方が現れると心強くなる。でも、この子本当に信じてもいいのかな?
「どうして? 貴女の主であるエリアスは私との結婚を望んでいるでしょう? 」
「それは…その…私の主は、王子でなくて…あ、姉上様の方なのです!! 」
「ん?エリーデ様のメイド…? だって、エリーデ様は城から出たのでしょう 」
私の言葉を聞いて、メイドは悲しげに瞳を伏せた。
「違うのです…エリーデ様は、謀られたのです 」
「それは、どういうことなの? 」
私の問いに、メイドさんは食い掛かる勢いで私に話しはじめる。
聞くと、エリーデ様はエリアスの結婚が今後の国の発展を左右しかねない大切なものだと臣下たちに言われたらしい。
国の為、国を愛するエリアスの為、エリーデ様は誰にも言わず城を出ていくことになったそうだ。
その身柄は、現在はこの近くの村に…って? え?
「実は、エリーデ様は今の王の子では無いのです…ですから、王も冷遇されるのです 」
「…そのこと、エリアスは知らないのね? 」
「はい、本来ならば知られずに終わることでした…ですが… 」
キッとメイドさんは覚悟を決めた瞳で私を見つめる。そこには並みならぬ強い意志。
「私は、幸せになってほしいのです! 」
―――――――――――――――――
時刻は、少し遡る。
帝国騎士団副団長ユーリは嫌な汗をかきながら屋根裏より、リリアとエリアスのやり取りを眺めていた。
やめてくれよ。此処でお姫様が諦めちゃったら、俺、アンタを抱えて帝国に戻って…んで、戦争だよ。
言ってやれーお姫様!アンタが結婚するのはウチの団長だけだ!それ以外は世界が地獄を見るんだよ。
と、強く念じたユーリの願いは虚しく、ガチャンという音が部屋に響く。
や ら れ た !
あのヤロー、魔道具なんて使いやがった!恐ろしい!ウチの団長と同じくらいに恐怖!
だって、なんか目が死んでるもん。世界を滅ぼしかねない勢いで目が濁ってるもんな。
やっぱ、傾国さまはすげぇ奴らを引き寄せるんだな。団長といい、王子といい。
なんて、考えながら、パラパラと報告書をめくっていくユーリ。
それはアレクシスが放った密偵たちによるエリアスの報告書だった。
狂った王子様の弱点を狙うべく、ユーリは必死で頭を巡らす。
重要なポイントは、やはり姉であるエリーデ。
エリアスの偏愛ぶりは国でも際立っていたらしく報告書にも細かく書かれている。
曰く、その様子は、まるで、
「まるで、恋するようだ、とねぇ… 」
恋とは、恐ろしいものだ、とユーリは知っている。
身近に、その恐ろしさに壊されてしまった上司がいるからだ。
しかし、今度はその恐ろしさを利用してみようではないか。
エリーデは王の実子でない。ということは、エリアスの結婚相手はリリアである必要はなくなる。
ユーリは覚悟を決めて、メイド服の調達に急いだ。
「団長には、幸せになってほしいからね 」




