15、本気地雷爆発
泣きそうな美形は、まじで破壊力がすごい。
そんなことを頭のどこかで冷静に考えながら、私は冷や汗をかいていた。
やばい、私は、自分で破滅を決定的にしてしまったの、かもしれない。
「だから、リリアは、俺の傍にいてくれ 」
切実な声は、いつものコイツとは全然違っていて私は非常に動揺してしまった。
なんだこれ、なんなんだ!!あ、さりげなく手とか握るな!!私の動揺が知られるだろう。
「なんで、いないって、どういう… 」
「お前の姉と一緒だ。…城を出たんだ。大切にしたい人とやらのため、らしいぞ 」
わお…それは、それは。こんな壮絶シスコンが居る人によく手をだしたものだ。
あの方の傍に近づくなんて、至難の業だっただろうに。ものすごい猛者が居たものだ。
まぁ、それでも、挑戦者のような勇者はきっとどこにでもいるものなのだろう。
でも、でも、私としては非常に迷惑だー!!
なんと言ったら良いのか分からなくて、私はただ握られた手をそっと握り返し顔を伏せた。
それは、本当はするべきことではないのかもしれないが、今の私にはそれくらいしかできなかった。
慰めにもならない。これはきっと同情に近いものだろう。
「でも、私は、あの方の代わりになんてなれない 」
「それで、いい 」
はっと顔をあげれば、ソイツはとても真剣な表情をしていた。
あ、これは、非情にマズイような気がする。
ヒューの時と同じように、聞いてはいけない気がする。
「リリアは、リリアのままでいてくれ。俺には、お前が必要なんだ。 たのむ 」
一般女性だったら、一瞬で陥落するであろう台詞。さらに、縋るような表情。
うわぁ、コイツ本気だ。本気すぎて怖いっ!!
今までの情熱の持っていく場所がなくなって、全部こっちにきてる。
ちょっと、かなり、私には重すぎるんだけど。だけど、なんか眩しすぎて、うぅ、負けそう。
そんな弱気な私の頭をよぎったのは、アレクの絶対零度の笑み。
その瞬間、私は自分の崖っぷちさに気づく。
そうだ、私、ここで諦めるわけにはいないのだ。
諦めたら、戦争になるっ!!帝国が攻めてきちゃううう。
「無理。頼まれても、無理。私だって大切にしたい人がいるの。それはアンタじゃないの 」
「…知っている 」
じゃあ、と返そうとしてぐいっと手を引っ張られて引きずられる。あ、あ、ちょっと、それは。
まずいと思っても、とっさのことに対応しきれず、ぽすっという音と共に私は抱きしめられてしまった。
恐ろしいことに、手は腰に回ってがっしりと掴んでいる。 逃 げ ら れ な い 。
「それでも、俺には、お前が必要だ。 俺が俺である為に… 」
泣きそうな声に私は何も言えなくなってしまった。
大切なものを失くした喪失感は、私にもわかる。
城中を見て感じた喪失感を私は今でも覚えている。
今まで居た人が居なくなる。あったはずの日常が消えている。
それは、酷く恐ろしくて悲しいことだ。
でも、それは、自分で乗り越えなければならない。
誰かに縋って、頼って、乗り越えるものではないはずだ。
「アンタの感傷で、私を使うな 」
自分にしては、酷く冷たい声だと思った。でも、これは大切なこと。
ぐいっと、相手の胸を押すもビクともしない。
それでも拒絶の意思は表したいから、何度も押してやった。
そう、私は負けない。
私は、私が本当に大切にしたい人の為に、コイツに勝つんだ!!
「私は、アンタと結婚はしない 」
きっぱりと言い切った。よし、と思ったところで突然、ガチャンという音が聞こえた。
それと同時に右手に何か冷たい感触。
「だろうな 」
どこか呆れたような声。ゆるり、と私を拘束していた腕が解かれて。
なんか、見慣れないものが私の右手首に、ついている、よ?
「呪術を込めた腕輪だ。俺からある一定距離以上を離れられなくなる 」
ベットにへたり込み呆然としている私を見下ろして、ソイツは勝ち誇ったように笑う。
「まぁ、お前の快諾など期待してない。しかしな、お前がどんなに拒否しても、拒絶しても、結婚は変わらないぞ 」
高らかに言い切るソイツを睨んでも、ソイツの余裕の表情は変わらない。
「なぜならば、俺が決めたことは絶対だからだ 」
ああ、やっぱり、コイツが大嫌いだ!!




