14、壮絶私的説教
俺ではだめなのだと言う。俺ではないのだと、彼女が言う。
大切に思う者は傍にいてくれない。
俺を絶対に選んではくれない。
「ちょうくやしい」
目が覚めて一番に思ったことは、それだけ。
悔しくて、悔しくて、涙があふれてくる。なんで、思う様にいかないのよ。
わかってる。簡単にいかないことなんて、十分に理解していたはずだった。
でも、味方が一人もいないこの状況では、くじけそうにもなってしまう。
父も母も、私の願いを叶える気なんてない。
最愛にして最悪だけど、一番信頼できる姉は海の向こう側だ。
そして、大切なあの人も。
でも、その手を離して、わざわざ遠いところにきたのは私。
ならば、私はこんなところで愚痴っている暇なんてないはずだ。
少しでも、あの人を安心させてあげなきゃいけない。
…よし、泣いている暇なんてない!!
ごしごしと涙をぬぐえば、見慣れた天井が目に入った。
あぁ、私はあのまま寄宿舎に運び込まれたのか。ベットから体を起こせば、生徒用の一部屋に眠っていたようで懐かしい配置に思わず笑みがこぼれた。
変わらない。ここは何一つ変わらない。そして、私もあの頃の気持ちは何も変わっていないと思う。
守りたいものが、あるんだ。
「ちょっと、いいかしら? 」
声を上げればすぐに扉は開かれ、対峙すべき相手はすぐにやって来た。
「ようやく目が覚めたか。気分はどうだ? 」
「最悪に決まっているでしょう 」
不機嫌な私とは対照的に、シルバーグレイの瞳は余裕の笑みを浮かべている。
その瞳に、よくない何かを感じつつも、私はベットサイドのイスに座ったソイツをまっすぐに見つめる。
今、一番やっかいな相手。だけど、コイツを倒さなければ私とアレクの明るい未来はない。
「あんた、これからどうするつもり?」
私の質問に、ソイツはニコリと笑って諭すような声をだした。
「決まっているだろう。リリアを俺の妃にするだけだ 」
「ふっ… 」
ふざけんな!!と叫びそうになるのをなんとかこらえた。ここでわめき散らしてはさっきと同じだ。
また、同じように眠らされて、次に目をあけるときは花嫁衣裳でも着ているかもしれない。恐ろしい。
私のつけ入る隙…狙うべきところ。この完璧王子様の弱点。それは、
「エリーデ様は、この結婚を知っておられるの?」
私の問いに、相手が目を逸らしたのを見て私は内心ガッツポーズをする。
そうだ、コイツの狙うべきところはいつだってあの方だった。
あの方の前でだけ、コイツはただの人になるんだ。
機略も策略も謀略も、全ては彼女が幸せになるためにあったのだから。
それは、きっと、今もそうなのだ。
だから、コイツは迷わない。そのはずなのだけど、目を逸らしたということは何かが違うということだ。
ならば私はそのいつもと違うコイツの本気で弱い点を突くしかない。
それだけが、私に残された戦い方だ!!汚くないもん。
「何かあったのならば、私は力になるわ。だから、あんたはさっさと国に帰りなさい。あんたが居ない今、彼女に何かあったら 」
「もう、いない 」
え?っと返すと、どこか虚ろな瞳でアイツは笑っていた。
何かを失くしてしまったような、自暴自棄の一歩手前のような、そんな危うい笑み。
あぁ、私は、もしかして、
「エリーデ姉様は、もう俺の傍にはいない。俺には、もう何もないんだ 」
もしかして、地雷を踏んだ?




