12、絶対的戦略婚約
だから、私はエリアスが嫌いだ。
「どういうことですか!? 」
謁見の間、私は両親に詰め寄って声を荒げた。両親はそろって目が泳いでいる。これは、前兆だ。
この前兆は、大抵がよくない知らせを私にもたらすのだ。つまり、今回もそういうわけなのだ。
「俺から話そう 」
頬杖を突き、ニヤニヤしながら話すエリアス。その態度は非常に気に入らないが、この状況でまともに話せるのはこいつだけだろう。
「いいわ、聞いてあげる 」
ならば私も、と背もたれにふんぞり返り腕を組んだ。
そんな私の態度に、さらに面白そうに笑みを濃くしたエリアス。
「ロゼッタの結婚、いきなりだったな 」
「えぇ、そうね。ひと月ほどで決まってしまったわね。向こうも結構強引な手を使ったから 」
懐かしくもハチャメチャで混乱を極めたあの日々。すごく大変で疲れた。だけど、今までの中で一番ロゼッタが幸せそうな時間だった。
だって、本当にただの恋する女の子だったから。
「そうだな。だから、元々あった婚約は自然と破棄されてしまったというわけだ 」
「そうね。相手はどなただか知らないわ。でも、はっきり言って向こうにとっても幸いなことだったと思うわ。ロゼッタは確かに見た目は最高だけど、中身は最悪だから 」
「…お前は、最愛の姉に対してそこまで言うか 」
怪訝そうな顔をするエリアスに対して、これ見よがしに私は溜息を一つ。
私をお前と同じシスコンにするな。親愛的シスコンと崇拝的シスコンは全然違うのだ。
ちなみに私は健全な前者のシスコンです。
「まぁ、いい。そうだな。しかし、どれほど最悪な姫であろうとも王族の婚姻は国同士の取り決めだ。それをいきなりなかったことにすることなどできるはずがないだろう 」
「…つまり、私にロゼッタの代わりをしろと? 」
エリアスを睨みつけながら言い放てば、相手は満面の笑みで答える。
「よく分かったな。さすがリリア、俺の嫁だ 」
「ならないしー。ぜったいに、あんたと結婚なんてしないしー!! 」
縋るように両親を見つめれば、なぜかニコリとほほ笑んでいる。
なんで? すごく怖いんだけど!!
「二人は昔から仲が良いから、お似合いだと思っていたのよ 」
ふふふ、と笑うお母様はどこか遠くを見つめている。やばい、こっちの話を聞く気ない!!
お父様は、と見つめれば珍しく真面目な顔をして私を見つめていた。
「リリア… 」
「はい、お父様!! 」
よし、さすが国王様。よくわかっている。この状況を打開する素敵な提案を一つ!!
「幸せに、な 」
何言っちゃってんのーーーー!!
ちょっと、涙浮かべて嫁に出す気満々じゃないの!!
意味がわからないよ。わかりたくもないよ。ちょっと、これは酷すぎる。
「私、言いましたよね。結婚したい方がいる、と言いましたよね 」
睨みつけるように言えば、二人の表情が固まる。あ、忘れたことにしていたな。
仕方ないなと、エリアスを睨む。ここで負けては、私の一生が色々と大変なことになってしまう。
負けるわけにはいかないのだ。
「そういうことだから、悪いけど他をあたってくれない 」
「なぜだ? どうして俺が諦める必要がある? 」
心底わからないという表情のエリアス。そして、私はそれ以上の呆けた顔をした。
やっぱり、コイツに、話は通じないということなのかしら?
私の呆れ顔が気に入らなかったのか、少々むっとした表情でエリアスは口を開く。
「王族が、己の色恋で結婚などできると思っているのか? だとしたら、リリアそれは間違いだと俺が教えてやろう。したくないでは済まないのだ、しなくてはならないことだ 」
一転して、グサリと大変耳に痛い言葉。うぅ、コイツ私の弱いところを的確に突いてくる。
王族とか一般論とかに私は弱い。そして、コイツが今言ったことは密かに私が思っていたことだ。
姉の結婚が決まった(決めた)とき、周囲は大いに混乱した。
仮にも一国の姫君の結婚。政治的な思惑を一切ガン無視した突然のことに、上層部は相当もめたらしい。
王族に生まれた以上、好きな人と結婚なんて諦めるべきことだ。
必要なのは、国のためできるだけ有利な条件の相手を選ぶこと。国の繁栄に努めるべきだ。
まぁ、姉の場合は、中身にかなり難ありでお相手がなかなか見つからなかったりしていたから、最後は仕方ないってことになったんだっけ。
その点では、私も同じようなものだと思っていたんだけどね。
親衛隊長をやっていた姫なんて、それは、もう騎士に近い。
そんな姫とも騎士ともつかない娘を、大切な外交の駒になんて使えるはずがない。
だから、私もロゼッタみたいに行けると思ったんだけどなぁ…。
「確かに、そうでしょうね。王族としての義務を果たすべきと言うお言葉、そのとおりです 」
「そうだろう 」
エリアスの美しい声が高らかに勝ちを確信していた。
しかし、私はここで負けるわけにはいかないのだ。
我儘だろうが、自分勝手だろうが、私は諦めるわけにはいかない。
だって、私は幸せにしたい人がいるんだ。
「ですから、そのような自覚もないリリア・ルイ・ソワールには国外追放が相応しいと、提案させていただきます 」
そう言い切って礼をし、わき目も振らずに謁見の間を後にした。
見なくとも、ここに居る全員が驚いているなんて分かりきっている。
まぁ、あのエリアスを驚かせることができたのは僥倖だわ。
さぁ、これから忙しくなる!!
あけましておめでとうございます。
遅くなりまして申し訳ありません。
今年中には、完結を目指して頑張ります…。




