3、そんな展開いらない
夕食も終えて、私は通された部屋で盛大な溜息をついた。
拍子抜けというか。超展開というか。非常事態というか。
そんな感じで謁見は終わった。
謁見というか、私は皇帝に会うことができなかった。
なぜならば、皇帝は4日ほど前から姿を消したからだ。
…姉も姉ならば、相手も相手だったのか。
痛む頭を押さえて考えた。
この国の宰相とやらが言うには、7日以内には必ず見つけるとのこと。
よく戯れで城を抜け出すらしいので、行きそうな場所の捜索に当たっているそうだ。
あぁ、もう、この国のやつらも全体的に爆発しろ!!どうして逃がすようなマネしてしまうのか。
好きで、愛おしい相手が自分を置いて居なくなってしまった。
そんなの姉には絶対に知られてはいけない。
好きすぎて泣いてしまうほどなのに、相手に逃げられたなんて知ったら死んでしまうかもしれない。
悪いけど、これ以上最悪な事態になるのならば、私はこの結婚を反対せざるを得ないだろう。
姉には早く結婚して欲しいとは思っていた。だけど、あくまで幸せな結婚だ。
こんなわけの分からないことを起こしてしまうような国で、姉が幸せになれるとは思えない。
あぁ、イライラする。
どうしてここまで馬鹿にされなければならないのだろう。
「消えろ、失せろ、爆発しろ」と呟きながらかつらをとって、寝ようとベットに座った。
そこでドアがノックされた。いつものように答えたところで、己のミスに気付く。
かつらぁああああああ!!
あ、と腰を浮かしたところで、ドアから覗いた相手も私を見てビクっと身をすくませた。
そりゃ、そうだろうよ。
辛うじて顔のつくりが似ているから、日中は化粧とかつらでなんとかごまかせた。
しかし、今の私では、あまりにも雰囲気が違いすぎる。
いきなり現れた謎の女。明らかな不審者。
ここで騒がれてはマズイと、私は必死で頭を回らせる。
コイツを黙らせて、とりあえずこの場をおさめる最良の言葉!!
「あ、あの とりあえず、怪しい者でないのでドア閉めてください 」
残念な私の頭が導き出した不審者バリバリの発言。
にも関わらず、相手はコクリと頷いてドアを閉めた。
多分、今日の謁見での声と同じだと分かったのだろう。言葉など不要だったのか!!
さて、優男な感じのこいつは一体誰だろうか。
着ている服から見るに、騎士じゃない。きっと貴族。それも結構上。もしかしたら王族。
そんな分析をしていると、相手も私をまじまじと見ていた。きっと同じように考えてるんだろう。
さぁ、ここは先手を打ちたいところだ。
圧倒的不利な状況なのは、明らかに私。ならば、先制攻撃こそが必勝のカギだ。
でも、なんて言えばいいのだろう。変なことを言って不信感を上げることは避けたいし、藪蛇だけは勘弁したい。
あぁ、だめだ。考えがまとまらない。ハプニングに弱いな私!!
なんて私が悩んで口をパクパクしているうち、先に相手が口を開いた。
「貴方は、どこのどなたですか 」
…ありがとう。もっともな質問をしてくれて。そうだよね。不思議だよね。
貴方の疑問は酷く正しくて、そして私を追い詰めるのに一番適しているよ。
ダラダラと冷や汗をかきながら、私は考える。
この相手は白状しても許される相手なのだろうか。
姉の結婚を良く思っていない輩がいるのは分かっている。
だからこそ、私は考える。
コイツは、信用しても良い相手なのだろうか、と。
協力者は必要だった。
だから、この国に来て周囲を良く見てから、一人だけには本当のことを伝えようと思った。
そしてその一人は、今後、何があっても姉の味方でいられる人が良いと考えていた。
当初、その相手は姉の結婚相手である皇帝だったのだが、残念ながら行方不明。
さぁ、如何しようというところで、この遭遇だ。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。ぐるぐると回る頭の中。
今度こそ、最良の言葉を私に!!
「私のことはどうでもいいから、貴方は誰? 」
相手の質問をガン無視した言葉。悲しいかな、今の私にはこれしか出てこない。
少しむっとした相手。そりゃそうだ。私でも嫌な顔する。
でも、相手は私よりも少しだけ大人だったようで、すぐにその不機嫌を隠して名乗った。
「俺は、皇帝の弟で騎士団長をしているアレクシス・ジェザード。このたびは兄上が申し訳ないことをしたと思い、詫びを… 」
あぁ、なるほど。どうりで、姉から聞いていた皇帝の特徴とそっくりだと思った。
漆黒の髪に青い瞳。透き通るほど白い肌。それに長身。
なるほど、なるほど。じゃあ、皇帝と言われる人もこんな感じなのね。
ふむふむと一人ごちていると、相手は不審そうに私を見つめてきた。
仕方ない。弟ならば、良いか。
兄の王位を狙ってやるっていう野心ギラギラって感じでもないし。
それに王の弟であり、騎士団長っていう肩書は非常に使える。
その非常に素敵なスペックで、ぜひとも姉の手となり足となり頑張ってほしい。
「これは、失礼をしました。私は、リリア・ルイ・ソワール。ロゼッタの双子の妹です 」
そうして、にっこりとほほ笑んだ私は、これからのことに頭を回らせた。