9、新たな決意
俺のお姫様、リリア様へ
手紙の便箋選びに3日とは、ずいぶん思われているのですね。
素直に嬉しく思います。もらった手紙は大切に保管させていただきます。
隊長就任、よかったです。
貴方の心労が一つ消えて、とても嬉しく思います。
ただ、それを成し遂げるまでに何かなかったか、とても心配です。
俺の忠告を聞いて、危険なことにはならなかったのだと信じています。
何もなかったと思って良いのですよね。本当に、そう思って良いですよね?
…あぁ、いけませんね。この前、思いつめすぎだと部下から提言されました。
思いつめすぎてしまう癖は、貴方と離れてから強くなる一方です。
行き過ぎると、今すぐそちらへ貴方を攫いに行ってしまいそうなので、気をつけなくてはなりませんね。
婚約の報告の準備をすると聞いて、今すぐにでもそちらへ行きたい気持ちでいっぱいです。
しかし、恨めしいかな今の俺ではすぐにそちらへ向かうことができません。
貴方の傍らで一緒にご両親に報告をしたかったのに、残念でなりません。
帝国よりも、貴方を思っていますよ。本当です。
変わらぬ愛を。
アレクシス
追伸
次にお会いするときは、「アレク」と呼んでください。
ぜひ、忘れずに呼んでくださいね。
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どこからつっこんだら良いのか分からないが、とりあえず一番ヤバいところは大丈夫だったらしい。
「侵略」という恐怖の二文字が見られなかったから、バレなかったんだ!!
それが分かっただけで十分だろう。後の部分は見て見ぬふりだ。
アレクシスの愛が感じられただけで良い。うん、そう思うことにしよう。
「リリア、聞いていますか? 」
「あ、うん。大丈夫 」
だから、今はいっぱい練習をしなきゃね!!
そんなわけで、訓練場にて、私とヒューバートは向かい合っている。
これから特訓なのだ。
「それにしても貴方にはこれ以上、剣の訓練など必要ないでしょう 」
「いいの。私、決めたから 」
したり顔で言えば、ヒューバートは不思議そうな顔をした。
私が騎士になった理由は、姉だった。
他の全てを捨てて、新しい自分になった。それが私にとって、姉への親愛の証であったから。
じゃあ、アレクシスに対してはどうだろうと考えて、悩んでしまった。
アレクシスはずっと私を「お姫様」と呼ぶ。
彼は騎士で、私はお姫様。守る側と守られる側。それを明確にしている。
最初の頃にアレクシスが、私をお姫様扱いしてくれたことは、素直に嬉しいと思った。
でも、私はそのまま守られていたいとは思わなかった。ずっと守られる側にいるのは、私には無理。
私の愛情の表し方は、守ること。その人のために全てをささげて守ることだ。
私は、愛しい人のための騎士でありたいと思う。
彼を守れる存在として、隣に立ちたい。
この思いをアレクシスに認めてもらうには、一度しっかりと決着をつけなければならないだろう。
ただ守られるだけの存在でない、としっかりと示さなければならない。
そうでなければ、私はずっと「守られるだけのお姫様」のままだ。
私が私で居るために今よりもっと強くならなくてはならない。
だから、私はヒューバートにお願いしたのだ。
「結局、リリアはずっとそうなんですね 」
「そうよ。誰も、私から剣を奪えないの 」
あの後、ヒューバートにお願いしたことは、訓練を続けてほしいということだった。
隊長でなくなったけど、ヒューバートにはこのまま剣の師匠として私を鍛えてほしい。
再びアレクシスと剣を交える日までに、私はもっと強くならないといけない。
それこそ、20人斬の時以上にビシバシやってもらわないとならないだろう。
意気揚々と、私は新しい双剣を抜いた。すらりと美しい細見の双剣。
その剣には、百合の文様が刻まれている。
アレクシスを守り愛する為の、誓いの証。
「さぁ、はじめましょう!! アレクに、負けないように強くしてねっ!! 」
「…その呼び方はお願いされたんですね。 「ヒュー」に対して「アレク」って…本当に、大人げない人っているもんだ 」
やれやれという風に溜息をつきながら、ヒューバートも剣を抜く。
彼の嫌がる顔なんて滅多に見れないんだけど、本当にアレクシスが苦手な様子。
例の手紙には、一体何が書かれていたのやら…。
「僕の代わりに、その人を、完膚なきまでに叩き潰してきてくださいね 」
「もちろん!! 」
そうして、私は今日も剣の稽古に励む。
新しい決意を胸に、来たるべき決戦の日にそなえて。




